ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「パーティーといえばドレス! さあ、あたしはどんなのを持って」
と言いながらクローゼットを開けた時だ。そこにあったドレスを見て、あたしは唖然としてしまう。
どのドレスも、こう、おとぎ話のお姫様のような派手なものばかりだ。おいおいこれじゃあ主役を喰っちまうほど目立つじゃねえか。やはり、ドブカス。空気を読むということが致命的に出来ない。
しかし困ったぞ。ここまで目立つドレスしかないのは想定外だ。てっきりもう少し大人しいものもあって良かったのだけど。
数日後に王都で開催されるパーティー。これは王族が開催しているパーティーだ。どんな理由で開くとか、そういった趣旨は説明されていない。けれど、王族が開催する以上、主役は王族の誰かということだろう。
参加者はあたしやお姉様と同年代を想定している。あたしも十五歳。こんな子供趣味のドレスを着ることは流石に遠慮したい。
「今から新しくこさえると言っても、流石に無理ね」
一旦、クローゼットの中身からは目を背ける。もしかしたらここではないどこかに、別のドレスがあるかもしれない。そう思ったあたしは、屋敷の中でドレスを探す旅に出るのであった。
しかし、探し出して分かった。この屋敷がデカすぎてドレスが置いてありそうな場所がねえ。よしんばあったとしても、お母様の趣味が終わりすぎてて、さっきみたいなドレスしか置いてないのだ。
「あのクローゼットは、シャルロッテの一軍ということね」
正直、二軍と一軍の違いは分からなかった。どちらも可愛いよりのフリフリとした派手なドレスだ。けれど、元のシャルロッテには譲れないこだわりがあったのだろう。
困ったぞ。あんなドレスを着たら動きにくくて、調査とかそういうことを言ってられなくなる。あたしは貴族達の動向を観察するために、可能なら壁際の花になりたいのだ。会場を俯瞰することで、怪しい動きをしている貴族を探し出す。
後は鍛えに鍛えたドブカスセンサーの出番というわけよ。あたしの直感力で、あたしに喧嘩を売った愚か者をあぶり出す。正に完璧な作戦だ。
だから、あたしは変に目立ってはいけない。普通! 普通のドレスがいいのだ!
「確か外れに倉庫があったわよね。そうだ」
あたしは倉庫と共に思い浮かんだことがある。シャルロッテなら自ら、あんな倉庫でドレスを探すということはしないだろう。ここで倉庫に行くのは愚策。ならばどうするべきか!
「お姉様。どうせお姉様は暇なんでしょ? あたしの代わりに倉庫でドレスを探してくれない?」
そうですよね。ドブカスです。ドブカス悪役令嬢たるもの、人を顎で使ってなんぼ。しかも敷地内の隅の方にある倉庫で、あるか分からないドレスを探させる。これをドブカスと言わずしてなんというだろうか!
「倉庫? いいよ。お姉ちゃん頑張るからね!」
「嫌よね嫌よね。でも、あたしに……え? いいの?」
てっきり躊躇いとか、困惑とか、拒絶とか、そういった反応が返ってくると思っていた。けれど返ってきたのは、即答、それも食い気味のオッケーサインだ。
お姉様がなんて言ってもいいように、言いくるめる準備をしていたというのに、それが全て無駄になってしまった!! ま、まさか、ここで高度なドブカスの駆け引きが行なわれているということなのか!?
お姉様も随分と偉くなったようだ。確かに聖女に覚醒してからというものの、お母様から露骨に虐められることはなくなった。メイド達も今までより接するようになってきた。
聖女という肩書きだけで手のひらを返すなんて、なんと情けないことか。メイドの中でもお局メイドはお姉様に胡麻をすり始めたのを見かけた。あいつ、あたしにさんざんなことをされてから、もしや乗り換えようとか思っているんじゃないだろうな。
ここいらで格付けをしておく必要がある。この屋敷において、誰が力を持つに相応しいのかを。お姉様がこき使われている場面に遭遇すれば、みんな考えを改めるだろう。
「ここが倉庫。鍵が錆びている。どうしよう」
「ふん、お姉様って本当にダメダメね。聖女の魔力に覚醒したって言っても、魔術師としては半人前よ半人前!」
錆びている鍵を魔術で破壊する。破壊した鍵は後から魔術で直せばいい。これくらいできて魔術師というものだ。このドブカスムーブにより、魔術師としての格差を思い知らせていこう。
「さ、ドレスを探してきて。あたしはそこで優雅にお茶でも飲みながら待っているから」
「シャルちゃん。どんなドレスがいいの?」
「はあ? あたしの好みなんてわざわざ言わなくても分かるでしょ。ほらほら、早く行って!」
ここまで流れるようなドブカスムーブだ。我ながら美しすぎる。
「うん! じゃあ頑張って探してくるね!」
そう言ってお姉様は倉庫の中に入っていく。なんだか凄いやる気だな。まあいい。他人の調子で左右されるほど、あたしのドブカスメンタルはヤワではない。
あたしは魔術で椅子と机を出して、ついでにお菓子も作り出す。ふふふ。あたしにかかればお茶会の準備なんてちょちょいのちょいよ。これが優秀な魔術師というものね。
さあて、あたしは優雅にお茶でも飲んで待つと。
「見つけてきたよ! こんなのはどう!?」
はっっっっっや! お姉様、一瞬で見つけてきたぞ。お茶が喉を通る前で本当に良かったわ。危うく噴き出すところだった。
「お、お姉様にしては早いじゃない。いつもどんくさいのに、こういう時は早いのね」
「へへ。シャルちゃんに頼られていると思うとつい」
「はあ? あたしはお姉様を頼っているんじゃなくて、こき使っているの。いい? 勘違いしないで!」
妙に勘違いされているな。一々訂正する必要はないけど、ドブカス悪役令嬢としての面子がかかっている。ここは分からせておかないと。
さて、お姉様が持ってきたドレスは二着。
一着目が黒を基調とした質素な見た目のドレスだ。一見すると安物のように見えるけど、あたしのドブカスアイは騙せないぞ。これはなかなかにいいつくりをしている。
目立つような煌びやかなドレスではない。装飾も必要最低限だ。これの何がいいって、動きやすい。それと手触りで分かる。このドレス、魔力を通しやすい繊維で作られている。
これはドレスに見せかけた魔導具だ。よく調べたら魔導具と分かるだろうけど、このドレス自体に魔力は宿っていない。わざわざ魔力が宿っていないもの、それも令嬢のドレスを詳しく調べることはないだろう。
誰が、なんのためにこのドレスを作ったのかは定かではないけど、これは助かる。このドレスがあれば、パーティー内でもさりげなく魔術を使える。
このドレス自体が魔術師にとっての杖。これで怪しい奴を調べるということはグッとやりやすくなる。
二着目も中々いいデザインだ。少し飾りすぎな気もしなくはないが、あたしの私物に比べると控えめだ。白と金を基調としたデザインで、お姉様が着たら似合いそう。会場でさぞ目を惹くことだろう。
「お姉様が着たら、似合う。そうね。いいことを思いついたわ」
「どうしたのシャルちゃん? もしかしてドレスの趣味が合わなかった。わ、私は好きだけど、シャルちゃんの好みからは外れるよね。で、でも私はこの手のドレスとか似合うかなと思っていて」
ぶつぶつと早口で何かを言い出したお姉様へ白と金のドレスを突き出す。
「お姉様。こっちのドレスをあげるわ。その代わり、今度出るパーティーにあたしと一緒に出てほしいの」
「え……? こっちの方なの? シャルちゃん、そっちの黒のドレスは……」
「お姉様とあたし、何が違うのかいい機会だから教えてあげるわ」
あたしはその場で足を組む。目をぱちくりとさせているお姉様に向けて、あたしはこう言い放つ。
「いい? あたしとお姉様では生まれ持ったものが違うわ。あたしは着飾らずとも美しく、可憐なの。けど、お姉様は違うわ。お姉様はあたしと比べたら全然。まあ、高級品で身を包めばあたしと並ぶかもしれないってとこ」
あたしは何を着ても大体似合うけど、お姉様は高級品で背伸びしないとあたしと釣り合わない。これは屈辱的な罵倒だろう。
あたしは高級品はいいものと思っているが、それをじゃらじゃらと全身に身に着けて、自分高級品を身に纏っています! と自己主張の激しい人間は嫌いだ。むしろ恥ずかしくないのかと思ってしまう。
自分に自信がないから高級品で誤魔化すのだ。暗にお姉様には自信がないように見えるから、あたしが恵んであげるみたいな感じでことを進める。施し風の罵倒だ。
「で、でも私はシャルちゃんが行くようなパーティーとか行かないし。ドレスなんて必要……」
「何を言っているのかしら? お姉様も来るのよ。次のパーティーに」
「え……?」
お姉様がまるで石になったかのように固まる。お姉様が貴族同士のパーティーに出たことは一度もない。お母様が許すはずがないからだ。
けれど今回は違う。お姉様の聖女という力を存分に利用してやろう。聖女に目覚めたお姉様も置いておくことで会場からの視線を釘付けにできる。
それだけではない。もし、あたし達を狙った愚か者がその場にいれば、多少なりとも反応は見せるだろう。その隙を狩る。つまり、お姉様はあたしの道化ということだ。
「いい! 今のお姉様のままでは、みんなに笑われるのが関の山よ! あたしのお姉様である以上、あたしと同じくらい美しく、可憐でないといけないわ。可哀そうなお姉様にはあたしが施してあげる。ドレスも化粧品も、作法も全て! いい? あたしの顔に泥を塗ったらただじゃおかないんだから!!」
こう言うことで、お姉様にはあたしがいないと何もできない女という自認をさせていく。今日もあたしのドブカスがキレキレだな。お姉様にはさぞプレッシャーになっただろう。妹に憐憫の感情を抱かれて、ちょっとした脅しもされている。
「全部、全部、あたしがあげる。感謝することね。そして、その胸に刻み込みなさい。お姉様はあたしがいなくちゃ何もできないって」
「はえ……? ほ、本当にシャルちゃんが……? え……?」
「今更困惑しても、泣いても、もう遅いんだから。お姉様はあたしの意のままに動く奴隷よ奴隷! あたしに相応しい奴隷として躾けてあげる!!」
さあて、悪者をおびき寄せられるような魅力的な餌にしてやろう。覚悟するといいお姉様。