ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「ついに来たわね王都! そしてパーティー!」
「ここが王都。ひ、人がたくさん……!」
数日後。あたし達はヴァニリウス領を離れて王都に来ていた。王都にはあたしとお姉様、そして。
「よ、よろしかったのでしょうか? 私みたいな若輩者がお付きで」
クレールの三人だ。この人選にしたのは当然意味がある。そう、ドブカス的な意味が。あたしは多くの人に怯えるお姉様と、未だに戸惑いを隠せていないクレールの方へ振り向く。
「いい? ヴァニリウス家にいるということは気品が求められるの。貴女達二人にはそれがまるで足りていないわ!」
シャルロッテのお付きといえば、あのお局メイド達とお母様だ。今日、あのおばさん達は屋敷に残してきた。あたしのお付きには相応しくないと理解したからだ。
「それにヴァニリウス家はどいつもこいつもダメダメだわ。あたしっていう全てに秀でた美少女がいるというのに、他はみんなパッとしなさすぎるの」
「で、でもそれじゃあ、なおのことさら、経験が豊富な方に来てもらった方がよかったのでは? わ、私はまだメイドとしての歴も浅いですし」
「それがダメなのよ! まるでなっていないわ! 貴女達は怠惰すぎるの! 日々の業務にもその表れが出ているわ! あの家で怠惰を享受するに相応しいのはあたしだけなの! 頭が高いわ!!」
ビシィッ! と強く指をさしながらそういう。怠惰。そういわれて何かを気が付いたのか、二人はハッと息をのんでいた。
まあそんなことはないのだけど。実際にこの二人は怠惰ではない。お姉様は環境が悪いだけだし、クレールは日々の業務に真剣に取り組んでいる。
けれど、あたしはドブカス。全てを悪く言わないといけない。これがドブカスフィルターってやつだ。
「いい!? あたしの顔に泥を塗るような人はヴァニリウス家に必要ないの! あたしに相応しい人間じゃないといけないわ! 二人には気品、礼儀、そしてあたしの格を上げるための行動、心情、その全てに至るまで、今日ここで手に入れてもらうの!!」
なんというドブカスだろうか。あたしのために精進しろ。年下の女に言われるのはさぞ屈辱的だろう。
「精々他と見比べて、自分たちが如何に不出来で怠惰な生活を送っていたのか理解することね!」
「シャルちゃん……!」
「シャルロッテお嬢様……!」
ふふん。こんな無理難題を言われているのだ。転生前の悪しき風習である『見て学べ』を言ってやったぞ! あれは教える側の怠惰だと思っているんだけど、いざ他人に言うとなるとめっちゃ気持ちいい~~。
あたしが精神的な上位に立っているという一種の優越感を覚えることができる。言われる方はさぞイラつくだろう。ふふ、人の嫌がることをやってこそのドブカスだ。
「シャルロッテお嬢様がこんなにも私達のことを思ってくださるなんて……! 私達はシャルロッテお嬢様の考えを理解できていなかったようです! シャルロッテお嬢様のために、精一杯精進していきます!」
「う、うん! クレールさんの言う通りだね! 私も聖女として恥ずかしくないように、シャルちゃんのお姉ちゃんとして頑張るから!」
てっきり苦虫を嚙み潰したような顔をすると思っていたんだけど。随分とやる気に満ち溢れているな。ま、まあいいか。本人たちがやる気ならそれでいいだろう。
ということであたし達はパーティー会場へと向かう。はえ~~これが王族の開くパーティーか。めちゃめちゃ豪華だ。
シャルロッテの記憶から王城の作りとかは何となく知っていたけど、実際に目にすると感動するくらいでっかい。田舎民あるあるの都心のビルを見上げてしまう感じ。あれが発動しそうになった。
っていかんいかん。二人にあれだけのことを言ったのだ。あたしが堂々と振舞わなくてはどうする。
「それではシャルロッテお嬢様、セレーネ様。私はここで」
「また後でねクレールさん」
「精々周りを見て勉強することね」
あたし達はクレールと離れる。
パーティー会場には色とりどりのドレスや、正装に身を包んだ貴族の令息、令嬢がいた。あたし達が会場に入ると視線が一斉にこちらを向く。
「シャルロッテ様、ごきげんよう。今日はいつもとは変わった様子のドレスですね」
「シャルロッテ様! 今日も愛くるしいですね」
「シャルロッテ様、どうぞこちらに。シャルロッテ様のために私が席を取っておきました」
パーティー会場に入るやいなや令嬢たちが駆け寄ってくる。こいつらはシャルロッテの取り巻き、金魚の糞だ。もっとも彼女らはシャルロッテと仲良くしたいのではなくて、ヴァニリウス家の娘と仲良くしたいのだ。
要するに胡麻を擦ってくる。私が一番シャルロッテの役に立ちますよとアピールしてくる。
「ちょっと! あの席を見つけたのは私よ!」
「はあ? あそこに誰も座らないように配慮したのは誰か、その足りない頭でよく考えることね」
「ささ、シャルロッテ様。こんな野蛮な方々は無視して、私と共にお席の方に」
「「私達を無視すんな!!!」」
ぎゃーぎゃーぎゃーと騒ぎだす取り巻き達。こうして見ると愉快な人物たちなんだけどな。下手に胡麻を擦ってくるよりかは、こういう態度で接してきてほしい。
「いつもお前が来ると騒々しくなるな。魔術の名門、ヴァニリウス家の跡取りとして、相応しい立ち振る舞いはできないのか?」
ふとあたし達に話かけてくる男がいた。身長は高く、金髪碧眼の美青年といった感じの男だ。生成AIとかに西洋風のイケメンを書いてと指示を出したら、出力されそうな感じの男だ。イケメンの教科書があるなら表紙を飾るだろう。
あたしはこの男を知っている。この男こそ。
「ごきげんようレオン王子。今日も美しいですわね」
「そういうお前はいつもとは随分と違う。何か心変わりでもあったのか?」
レオン・ネージュ・グラサージュ。このグラサージュ王国の第一王子で、別名は『氷の獅子』。獅子のような美しい金髪を持つのにも関わらず、常に無表情で冷酷そのものな人間だ。
このレオンとシャルロッテはちょっとした縁がある。こちらは魔術の名門。そしてかつてのシャルロッテは彼に媚びを売っていた。もっとも、常に空回りしていて、相手にされていなかったのだが。
「さあ? あたしの心の内を誰彼構わず話すわけにはいかないの。それよりも、あたしに声をかけるなんてどういう風の吹き回しかしら?」
「お前に用はない。用があるのは後ろにいる姉の方だ」
「え……? わ、私?」
お姉様は指名されて困惑している様子だ。なるほど。流石は王族。いち早くお姉様が聖女であることに気付いたか。
「はい。聖女の魔力を持つ貴女に……?」
「え……? しゃ、シャルちゃん?」
あたしは無言で二人の間に割り込む。あたしを無視して話を進めようとする? そんな都合のいいこと起きるはずがないだろう。元のシャルロッテでもここは大人しくしない。
あたしのドブカスが火ぃ噴くぜ!!
「あたしを無視して、お姉様と話そうなんて随分と都合がいいわね? 今まで、あたしのお姉様に興味も関心もなかった癖して、聖女になった途端、興味を持ち始めるのかしら?」
「……否定はしない。だが、聖女に覚醒した以上、王族としては丁重に扱わなくてはならない。勇者の意向でもあるからな」
「そう。そういうところは好きよあたし。でも残念。あんたはあたしのお姉様と釣り合わないわ」
「……なに?」
王子が眉をひそめる。無表情でも怒っていると結構分かるもんだな。意外と表情豊かかもしれない。
「王子は何もかもを持っていると思っているんでしょうけど、王子にも欠点はあるわ。その中で最大級、とびっきりのものを教えてあげる」
あたしは自分の顔に指を向ける。そして意地わるそうな表情で、レオンにこう告げた。
「