私が超お姉ちゃんだ! 作:超かぐや姫!に脳を焼かれし者の左足
-Side彩葉-
「では、また後ほど。十五分くらいで着きますので」
「はい。お願いします」
引っ越し作業員の人に挨拶をして、トラックを見送る。お兄ちゃんに保証人になってもらえたから、ついに引っ越し。
タワマンの最上階っていうのもあって、荷物を運ぶのに時間がかかった。私とみことの荷物はあんまりなかったけど、かぐやが買った物が多すぎて段ボールの数がすごいことに…。
部屋に到着して荷解きを始めようとすると、かぐやが走り回っているのが視界に入る。いや、遊んでないで早く片付けてよ。
「あれ?みことは?」
「お姉ちゃんなら先に上行って荷物片付けてるよ」
「みことってそんなに急いでやるほど私物あったっけ?」
「あー、違うよ。かぐやの分やってくれてる」
なんて妹だ、姉に任せて自分は遊ぶだけなんて。確かに、引っ越し業者の人に重い物を運んで貰ってたさっきまでは沢山あった箱が目に見えて少なくなっている。
「そんなことより私も自分の分やらないと」
段ボールを開いて勉強道具を見つめる。…今はいいか。
「かぐやのシャンプー切れてたから買ってくるね」
「さみしーから一緒行く!」
「あんたお姉ちゃんに全部押し付ける気?自分でもやりなよ?」
かぐやを置いて一人地上に降りる。少ないとはいえ荷解きを放りだしてすぐやる必要のない買い物に行くあたり、私は地上のほうが落ち着くのかもしれない。そもそも家賃が高すぎて落ち着かないっていうのはあるんだけど。
少し早足でスーパーに向かう。こんな物はあぶく銭、こんな物はあぶく銭。強く意志を持って入店し、必要な物をかごに入れていく。かぐやのシャンプー、コンディショナー、化粧水…。かぐやとみことが二人で使っているから減りが早い。
必要な物をすべてかごに入れ、少しぶらぶらしていると粉ものコーナーの前を通りかかった。そこに置いてあるホットケーキミックスが目について離れない。
「買っていってやるか。…いやいや、何考えてんだ」
かぐやは喜ぶかな、なんて想像してホットケーキミックスをかごに入れたところで我に返る。何を想像してんだ、私は。…でも、一度かごに入れたものを戻すのもアレだし。
「いーろはっ!」
「うおっ!どっから出てきた?」
噂をすればなんとやら、かぐやが背後から抱きついてきた。あんまり驚かせないでほしい。
「彩葉いないと、つまんないよー♪」
「どういうポーズ?てか、みことは?」
今日だけで何回聞くんだコレ…。
「お姉ちゃんが残りやっとくから行ってきていいよ、彩葉と楽しんできなって」
「ふーん…」
最近みことの自己主張が控えめっていうか、一歩引いたところから私とかぐやを見ているって感じがする。大方、私が体調崩したから負担にならないようになんて思ってるんだろうけど、ここまで露骨だと調子が狂う。
「ねぇかぐや、最近みことの様子おかしくない?」
「んー?」
この後作る予定のパスタの材料をキラキラした目で選んでいたかぐやに問うと、聞こえていなかったのか首をこてんとかしげる。かわいいなこいつ…、ってそうじゃなくて。
「みこと。あんたの姉。ずっと何か考え込んでるし、元気ないじゃん。今丁度二人だけだし、話しておこうと思って」
そう伝えると、かぐやが真面目な顔になる。
「やっぱ彩葉もそう思う?」
「"も"って事は気付いてたんかい。みことがずっとあんな感じだと調子狂うんだよね。なんとかできない?私も手伝うからさ」
「よっしゃ。かぐやにまかしとき!」
「ん。じゃあ帰るよ」
買い物を済ませてマンションに戻り、慣れる気がしないクソ長いエレベーターに乗る。部屋に着くまではお互いに無言だった。
「「ただいま」」
「おかえりなさい」
「うわっ…荷物全部片付いてるじゃん。全部みことがやってくれたの?ありがと」
部屋に入ると、あれだけ積み重なってた段ボール箱が全てリビングの隅に畳まれて積んであった。みことはというと、ソファに体育座りしてどこか遠くを見つめていた。
「うん、私にできることはあんまりないから。恩返しになればいいなと思って」
「そんなに自分を卑下しないで。みことは今まで掃除とか、片付けとか頑張ってくれてたじゃん。十分助けになってるって」
前に私が体調を崩した時に言ったはずなんだけど。
「料理も下手だし、音楽も作れない。彩葉に負担をかけてることを知らずに生活してて、彩葉が病気になっちゃうまで気づけなかった。それにこの前のKASSENだって、ヤチヨに手伝ってもらえたから雷と乃依に勝てたけど、私一人じゃ何もできなかった」
「そんな私ができることなんて限られてる。だから、少しでも二人の生活の負担にならないようにって…」
いや暗っ。…自分が苦手なことと相手の得意なことを比べたら勝負にならないのは当たり前でしょ。みことは掃除が得意だけど、かぐやは全くもってできないし。私は…、まぁ最低限のことは何でもできるけど。できるようにならざるを得なかったというか。それはそれとして
「人には向き不向きがあるんだから、気にしちゃ駄目。今までみことのことを負担だって思ったことないよ。自分にやれることをやろうって行動できるのはすごいことだし」
「そうだよお姉ちゃん!その言い方だとハッピーエンドにお姉ちゃん自身がいないじゃん!かぐやが連れてくハッピーエンドはお姉ちゃんもいないと駄目なの!」
私とかぐやがこんなに言っても、みことの表情は晴れない。
「あーもうめんどくさい!みことはあの時自分のせいで私が死んじゃったらって考えてたのを引きずってるんでしょ!」
「…何で知って」
「倒れてからずっとそんな表情で心配されてたらバカでも分かるよ!私はあれくらいじゃ死なないって分かったでしょ?」
みことの頭を胸元に抱き寄せる。慣れないことをしている恥ずかしさからか、少し心臓が早く打つ。小さい子は心臓の音を聞かせると安心するって聞くけど、宇宙人にも効くのか?
「ほら、聞こえるでしょ?私はちゃんと生きてるから。みことがそんな感じじゃ、こっちだって調子狂うんだしさっさと元気出して」
「かぐやもやる〜!」
かぐやがみことの後ろから抱きつき、二人で挟み込むかたちになる。かぐやの顔が近い。
「お姉ちゃん、どう?あったかい?……寝てる」
「家のセキュリティがどうのってずっと気を張ってたっぽいし、丁度いいんじゃない?」
引っ越し初日にこれって…。先が思いやられるな。
「ふんふ〜ん。美味しいパスタ作っちゃうよ〜」
いつの間にか、一緒にみことを抱きしめていたはずのかぐやが台所に立って生地をこね始めている。切替早いな。仮にもあんたの姉だろうよ。
お昼まではまだ少し時間があるから、私もなにか手伝おうかな。と言っても、かぐやの方が料理は上手なのでやることがない。一旦みことをソファに横にしてかぐやのところへ行く。
「彩葉はコレで麺作って!」
「コレは…製麺機?」
「生地を三十分くらい休ませたらコレに突っ込んでぐりぐり回すの」
「へえ」
かぐやが作った麺の生地を三十分休ませたら、平たくして製麺機に端を入れる。そしてかき氷機みたいにぐるぐるハンドルを回していると、反対側から細く切られた生地がでてくる。これがなかなか楽しい。ので、
「やっぱかぐやもやる〜」
「ちょっと危ないよ!」
「お姉ちゃんもやりた〜い!」
こうなるわけだ。かぐやが横から製麺機のハンドルを奪い取ろうと飛びついてくる。…声が一人分多いな?
「あ、お姉ちゃん起きた?」
「心配かけてごめんね。吹っ切れたからもう大丈夫。これからは皆でハッピーエンドに行けるように頑張るよ!」
「はいはい。んじゃ、交代交代でハンドル係ね」
順番に回していき、無事に三人分の麺が完成した。後はかぐやが茹でているのを眺めながら待つだけ。この時点でもう美味しい。
皿に盛り付けられたパスタにかぐやがチーズを振りかける。最高じゃん。
「「「いただきます」」」
三人で食卓を囲んで手を合わせ、同時に口へ運ぶ。
「う〜ま〜〜♡」
「はいっ!一番、かぐや!ここ十年でさいこ〜!」
「二番、みこと!同じくここ十年でさいこ〜!」
二人してパスタ美味すぎダンスを始めた。ここは流石に突っ込まざるを得ないか。
「あんたら生まれて一ヶ月でしょ!」
・・・・
夜。自分の部屋の布団に潜り、ゲームで小遣い稼ぎをしているときのこと。バタバタと走る音が聞こえ、すぐにドアが蹴り開けられた。
「いーろーはっ!」
「ちょっと待って!まだ仕上げの歯磨きやってないでしょ!」
私のノートPCを持ったかぐやと歯磨き粉のついた歯ブラシを持ったみことがほぼ同時に部屋に飛び込んできた。
「これ何?」
「私のノートPC勝手に見ないでよ。あと、歯磨き粉布団につけないでね」
かぐやが開いた画面には彩葉と共作と書いてあるmp4ファイルが。
「なんか途中までなんだ〜。続きは?」
「ない。…もう作れないんだ」
お父さんと一緒に作っていた頃の記憶を思い起こす。
─彩葉、次はどうする?
─ええな、ワクワクするやろ
「聞いてみる?」
「いいよ。もうどんな曲だったかも忘れちゃったし」
「だからそんな深い所に置いてあるファイルなんだから大事なもののはずって言ったじゃん。ほらかぐや、仰向けになって口開けて」
「歯、磨いたら早く寝よ。明日は本番なんだし」
「ライブの曲、すっごく難しいよね」
ノートPCを閉じて横になると、膝枕をしながらかぐやの歯を磨いているみことがそう話しかけてくる。
「ふがふがふがふが(ヤチヨのやつAIだからってさ)」
「ふふっ。なんて言ってるか分かんないよ」
「彩葉、明日の予定大丈夫なの?」
「まあ、一回くらいならね」
歯磨きが終わって口を濯ぎに行った二人を見送り、ようやく部屋に静けさが戻る。
「二人が来てから毎日が新しいことの連続で目、回しそう」
早く寝て明日に備えないと。一人になった部屋でうとうとしていると、私の両脇に自分のものではない温かさを感じた。
「まったく…。部屋分けた意味ないっつーの」
そもそも布団自体がシングルサイズなので三人が入るには狭すぎる。みことは半身が布団の外に出てるし。
両側からシャンプーのいい香りがほんのりと漂ってくる。二人とも同じシャンプーを使ってるから同じ香りなのは当たり前なんだけど、お気に入りが一緒っていうのはやっぱり姉妹なんだなぁって思ったりする。
二人の高めの体温に包まれているとすぐに深い眠りがやってきた。
プロット無しのその場その場で話を書いてるので続きません。