雷鳴に刻まれし運命を背負う少女の深い闇―The Black Lightning Destiny―   作:管理局事案編纂室

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紅月が照らす黒き過去

 仕事を終え、夜風を浴びに外に出たフェイトは夜空を見上げる。

 

「月が……紅い……」

 

 夜空に浮かんだ紅く染まった月。その禍々しい存在に、憂いを帯びた表情を浮かべた。

 

「きっと、良くないことが起こる……」

 

 踵を返し、隊舎へと足を向ける。胸の奥がざわつく。今夜は寝られそうになかった。

 

 そして、予感が当たっていることをすぐに知ることになる。

 

 隊舎に戻ると、壁に背中を預けて腕を組み、目を閉じている上司(はやて)を発見した。

 

 直感が警鐘を鳴らす。これは、マズい。

 

 即座に気配を殺し、ゆっくり、ゆっくりと後退する。気分は潜入任務中のそれだった。彼女は今、執務官としての能力をフルに発揮し、状況からの離脱を試みているのだ。

 

(外泊申請してないからって戻ってくるんじゃなかった……!)

 

 後悔先に立たず。とはいえ、未だにこちらに気づいた様子はない。このまま行けば、離脱も可能だろう。

 

「人様の顔を見た瞬間、離れようとするなんて傷つくやん。そうは思わへんか?」

 

 はやてが口を開いた。その瞳は違わずフェイトを射抜いていた。

 

 気づかれていた。そう判断したフェイトの行動は早かった。即座に全力で逃走をはかる。身体強化まで使ったマジダッシュだった。

 

 遠くなる背中をはやては冷静に見ていた。フェイトが逃げることなど想定済み。だからこそ、既に伏兵を配置していた。

 

 フェイトの目の前にネットが展開される。ただのネットではない。魔力で編まれたネットだ。避けられない。そう判断した時には頭から突っ込んでいた。

 

 フェイトが反応できないギリギリに魔法を構築し配置する。何より魔力の色。こんな芸当ができる人物は1人しか知らない。

 

「くっ、なのは!?なんのつもり!!!?」

 

「なんのつもり?それはこっちのセリフだよ、フェイトちゃん」

 

 ご丁寧にバインドで拘束されたフェイトにできる抵抗は、もはやほとんど残っていなかった。それでも、必死に睨みつける。

 

 それに対するなのはの反応は冷ややかなものだった。ゾッとするほど冷たい瞳。教導隊の優秀な訓練生に『魔王』と呼び恐れられる者の瞳。

 

「そうや。なのはちゃんは仕事をしただけ。隊舎内で無許可で魔法を使った局員の対処っちゅうな」

 

「はやて……一体私を、どうするつもりなの?」

 

 フェイトの言葉を聞いたはやてはニヤリと笑った。

 

「わかっとるんやろ?だから逃げた。違うか?なあ、『漆黒の雷姫(ダークサンダー・プリンセス)』さん?」

 

「いやぁぁぁぁっ!!!やめてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!その名前で私を呼ばないでっ!!!?」

 

 フェイトが髪を振り乱し暴れる。その様子を愉快そうに眺めながら容赦なく追い打ちをかけていく。

 

「ふふ、月が紅かったから、ついフェイトの昔を思い出してなぁ。なのはちゃんと話しとったんや。懐かしいやろ?『漆黒の雷姫(ダークサンダー・プリンセス)』」

 

「あ、ああ、あああ……!!!」

 

 フェイトの頬は赤く染まり、瞳には涙が浮かんでいる。

 そこに、救いの手が差し伸べられた。

 

「はやてちゃん、さすがに可哀想だよ」

 

「なのは……!」

 

「ちゃんと2つ名だけじゃなくて本名まで言ってあげないと、可哀想だよ」

 

「なのは……?」

 

 救いの手だと思っていたものは悪魔の手だった。

 

「本名ってフェイト・T・ハラオウンうんたらかんたらってやつか?あれ最終的にピカソくらい長くなってたやん。あんなん覚えられへんわ」

 

「そんなんじゃフェイトちゃん検定取れないよ?」

 

「なんやそれ」

 

「なにそれ!?」

 

「フェイトちゃん黒歴史検定。私は1級だよ!」

 

「ほお。なら1級の実力を見せてもらおうやないの」

 

「じゃあ、再現するからよく見ててね」

 

 その瞬間フェイトを拘束していたバインドの強度が数段上がった。明らかに暴れることを見越した対処だった。

 

「なのは!?なのはと私は親友だよね!?親友の恥ずかしい過去を掘り返すような真似はしないよねっ!!!?」

 

 なのはは親友(フェイト)の言葉を華麗に無視した。友情とは時に、脆くも儚いものである。

 

「私は、今は滅びた王国の王女。かつては『漆黒の雷姫(ダークサンダー・プリンセス)』と呼ばれていた。でも、今はもうその名で呼ぶものはいない」

 

 胸元に両手を置き瞳を閉じる。そして、目を開くと同時にバッと左腕を掲げ、目線は上へ。

 

「ちょっとまって、ホントに待って!!!?なのは!?ねえ!!!?」

 

「ちょっとだまってよか」

 

「ちょ、むぐっ!?ンーッ!ンーーーッッッ!!!」

 

 はやてがフェイトの口を押えるのを尻目に、なのはは再現を続けている。腕を下ろし、ゆっくりと後ろへ歩いていく。

 

「今の私はフェイト・T・ハラオウン・ザ・ダークナイト 〜 中略 〜 シューティングスター・ディスティニー。前世の使命を果たす必要はない。わかっている。それでも私は、民たちのために戦いに身を投じる。勝ち目のない戦い……」

 

 2人の方を振り返り、両手を広げ、天を仰ぐ。涙が一筋流れ落ちた。

 

「闇に葬られし封印が解かれた時、この世に地獄(ゲヘナ)が―――」

 

 正面を睨みつけ、腕をクロスし、無駄に凛々しいキメ顔で、最後の一節を、重々しく紡ぐ。

 

「―――顕現する……!!!」

 

「アハハハハハッ!!!なのはちゃんサイコーや!!!!!女優なれるで!!!!!」

 

「いっそ殺してえぇぇっ!!!!!!!!!!」

 

 腹を抱えて笑い転げるはやての手から解放されたフェイトの悲痛な叫びが隊舎に木霊した。

 

 地獄の顕現(ゲヘナ)はまだ、始まったばかりだった。

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