【地球降下猟兵第3中隊 ノエル・アンダーソン中尉 日記 / 補給記録メモ】
降下後 3日目――
「……まさか、ザクの装甲を研ぐために巨竜の骨を使う羽目になるとはな」
鬱蒼と茂る古代樹の森。巨大な大木の根元に築いた不完全な陣地で、ノエル・アンダーソン中尉は吐き捨てるように呟いた。
本機――MS-06F ザクIIは、依然として起動可能な状態を維持している。しかし、ジオン軍の補給線から完全に遮断された今、エネルギーと消耗品の枯渇は刻一刻と死を意味していた。手持ちの120mmマシンガン弾丸は残り240発。無駄打ちすれば、次にあの「赤い飛竜(リオレウス)」級の怪物が束になって現れた時に詰む。
生き残るためには、この未知の惑星の資源で「ジオンの現地補給線」を再構築するしかなかった。
第一段階:拠点の確保と隠蔽
ノエルが簡易キャンプの地に選んだのは、古代樹の太い根が天然の屋根を形成している巨大な空洞だった。
まず、ザクの左腕の油圧パワーを活かし、邪魔な巨岩と大木を撤去。地面を平らに整地すると、周囲の樹木をヒート・ホークで切り倒し、カモフラージュ用の偽装網(カモフラージュ・ネット)代わりに枝葉を機体に被せた。
「モノアイの赤熱光は目立つ……消灯(サイレント・モード)を徹底するぞ」
機体のパワーユニットをアイドリング状態に落とし、核融合炉の冷却スラスターから出る排熱を逃がすための換気坑を土掘削で確保。これで上空からの視界と熱源探知(あるいは生物の嗅覚)から巨躯を隠す「第1簡易野営拠点(ジオン・ポイントAlpha)」が完成した。
第二段階:現地素材(モンスター資源)の兵器・設備転用
問題は消耗品と整備資材だった。ノエルはコクピットを降り、パイロット用のノーマルスーツに身を包んでサバイバルナイフとパイロット用ピストルを携行し、森の探索を開始した。
先日の戦闘で撃破したリオレウスの残骸。それはノエルにとって、宝の山だった。
鱗と甲殻の防護材転用 リオレウスの火竜の甲殻は、軽量でありながら驚異的な耐熱性と硬度を誇っていた。ノエルはザクのヒート・ホークを最低出力で調整し、甲殻を丁寧に切り出し。ザクの右肩ブロックと関節のシーリング露出部に、ワイヤーと耐熱セメント代わりに錬成した現地土壌を混ぜて貼り付けた。 「現地改修型、ザクII・耐火甲殻増加装甲仕様……フン、技術士官が見たら泣いて喜ぶか、狂ったと笑うだろうな」 「ニトロダケ」と「発火袋」による簡易爆薬製造 森を探索する中で見つけた真っ赤なキノコ「ニトロダケ」と、リオレウスの喉奥から摘出した「発火袋」。これらを分析したパイロット用コンソールの簡易化学チェッカーは、驚くべき高エネルギー反応を示した。 ノエルは空の120mm弾莢にこの揮発性成分と可熱性油脂を充填。自作の「簡易設置型地雷(対大型生命体用)」を制作し、キャンプの周囲へ敷設した。 「研磨石」によるヒート・ホーク刃先のメンテナンス 森の川底で拾った高密度の砥石(現地ハンターが使う「研ぎ石」と思われる)は、ザクのヒート・ホークのチタン合金刃を研ぎ直すのに最適だった。出力をかけずとも鋭利な斬れ味を保てるようになり、ジェネレーターの無駄な電力消費を抑えることに成功する。 第三段階:未知の「狩人」との静かな接触
作業を始めて5日目の夕刻。
拠点付近の警戒センサーが小型の生命体反応を捉えた。
モニターをズームすると、そこにはあの戦闘の日に岩陰にいた「ハンター」の姿があった。
彼は巨大な大剣を背負い、恐る恐るザクの足元――正確には、ノエルが地面に設営したパイロット用のテントと焚き火の跡――を観察していた。ハンターの足元には、干し肉と、清らかな水が入った皮の水筒、そして何かの薬品(緑色の薬草を調合した粉末)が置かれた。
「……贈り物か?」
コクピットからスピーカー越しに音声を流すのは危険だ。ノエルはハッチを開け、パイロットスーツ姿でマニピュレーター(ザクの手の甲)の上に降り立った。
樹上から視線を送るノエルと、地上で見上げるハンター。
言葉は通じない。だが、ハンターはゆっくりと両手を広げて武器を置く意思を示し、水筒と干し肉を指さした。ノエルに対する「恐怖」は「敬意と警戒」へと変わっていた。この鉄の巨人が、森を荒らす悪魔ではなく、規律を持った「異国の戦士」であることを悟ったのだろう。
ノエルは胸ポケットから、ジオン軍の支給品である塩分補給用のタブレットと、予備の非常用アルミニウム製シート(保温ブランケット)を取り出し、ザクのマニピュレーターに乗せて地上へとゆっくり降ろした。
ハンターはその銀色のシートと見慣れぬ錠剤を物珍しそうに受け取り、深く頷くと、森の奥へと静かに消えていった。
「状況報告――」
夜、焚き火の爆ぜる音を聞きながら、ノエルは手帳にペンを走らせる。
「拠点Alphaの設営完了。現地資源による機体応急補給ラインの目処、概ね立ちたり。また、当地の先住人類(ハンター)との不戦協定および簡易物品交換ルートを確立。
……補給は無い。救援も来ないかもしれない。だが、ジオン公国軍将校ノエル・アンダーソン中尉と、MS-06F ザクIIは、この未知の『新大陸』にて依然として健在なり」
遠くで古龍の咆哮のような地鳴りが響いた。
ノエルは冷めた合成コーヒーを飲み干し、緑色に佇む相棒――ザクの装甲を愛おしそうに見上げると、静かにパイロットヘルメットのバイザーを下ろした。