【新大陸調査団拠点:アステラ――港湾区】
「……おい、あれを見ろ! 何だあいつは!?」
「山が動いているのか……!? 防衛班、武器を構えろ!」
巨大な船の廃材を組み合わせて築かれた流通エリアが、かつてない混乱に包まれていた。
アステラの巨大な門をくぐり抜けて現れたのは、全高18メートルを超える緑の鉄巨人――MS-06F ザクII。
その重厚な足音が響くたび、木造の足場が揺れ、捕獲用ネットや大砲の砲弾がガラガラと音を立てる。ハンターや調査員、物資班の面々は得物を構え、青ざめた顔で巨大な「鉄の怪物」を見上げていた。
だが、その巨人の足元には、調査団でも屈指の腕を持つ5期団のハンターが静かに歩いていた。
ハンターは怯える防衛班を手で制すと、船首を模した大本部のバルコニーを見上げ、大きく合図を送った。
ザクIIが脚部の油圧音と共に膝を折り、巨大な巨躯を静かに地に下ろす。
ハッチが音を立てて開放され、中から緑色の特異な服(ノーマルスーツ)を着た男――ノエル・アンダーソン中尉が降り立った。
ノエルを待ち受けていたのは、白髪を蓄えた威厳ある男――総司令と、分厚い眼鏡をかけた技術班リーダー、そして興奮で目を輝かせる3期団の期団長(学者)たちだった。
「ようこそ、新大陸の拠点『アステラ』へ」
総司令が重厚な声で言った。言葉は通じないはずだったが、総司令の眼光と、側に立つハンターの頷きで、ノエルは彼らがこのコミュニティの指導者層であることを理解した。
ノエルは胸を張り、ジオン公国軍の敬礼を捧げた。
「ジオン公国軍地球降下猟兵第3中隊、ノエル・アンダーソン中尉だ。……貴殿らがこの地の指揮官とお見受けする」
【技術班の驚愕と学者の興奮】
ノエルが招かれたのは、巨大な加工屋と研究所が隣接するエリアだった。
ザクの巨躯を取り囲むように、技術班の職人たちや学者たちが群がっている。
「信じられん……!」
技術班リーダーは、ザクの足首の関節部や油圧シリンダーを食い入るように見つめ、思わず声を張り上げた。
「龍骨も鉱石も使われていない……いや、見たこともない密度の金属で出来ている! 関節の駆動、内部の油圧機構、そしてこの滑らかな装甲の鋳造技術……どんな加工屋の槌でも、こんな金属は叩き出せんぞ!」
加工屋の頑固親父も、ヒート・ホークの刃先に触れようとして熱気で手を引っ込めた。
「熱エネルギーを刃全体に均一に循環させて溶断力を生み出しているのか……! 竜の『発火袋』を使ったカラクリ武器とは根本的に理屈が違う。おい兄ちゃん、この動力源はどうなってんだ!?」
ノエルは困惑しながらも、簡易図面(耐熱紙に描いた概略図)を地面に広げ、指差しで説明を試みた。
「核融合炉(コンパクト・フュージョン・リアクター)だ。超高圧の熱エネルギーでタービンを回し、各部の超油圧ポンプとジェネレーターを駆動させている」
言葉は理解できずとも、図面を見た技術班リーダーと学者たちは息を呑んだ。
「……なるほど、『極小の太陽』を腹の中に宿して動いているというのか。恐ろしい技術だ」
一方、3期団の期団長は、ノエルが応急処置としてザクの右肩に貼り付けていた「火竜の甲殻(リオレウスの素材)」に注目していた。
「見てごらんなさい! この鉄の巨人は、私たちの世界の法則――モンスターの素材を受け入れ、融合させているわ。機械でありながら、この新大陸の生態系に『適応』しようとしているのよ!」
【総司令との対峙と「契約」】
夕刻、総司令の執務室。
テーブルには、アステラ特製の豪快な肉料理と、ノエルが持参したジオン軍の缶詰(合成高タンパク食料)が並べられていた。
言葉の壁を越えるため、アイルー(猫の獣人族)の手振りや、学者が用意した絵と記号を用いた「意思疎通マニュアル」が介された。
総司令は酒杯を傾けながら、ノエルの顔をじっと見つめた。
(ノエル……お前の身に起きた『大気圏突入事故』という災難、そして帰るべき故郷(星)が遙か上空にあることは理解した)
総司令は地図を広げた。そこには「地脈回廊」や「古龍渡り」といった、新大陸の過酷な調査対象が描かれている。
(この新大陸は厳しい。古龍と呼ばれる脅威が、いつこの拠点を壊滅させるかも分からん。……ノエル、お前の『鉄の巨人』の力と知識を、我々調査団に貸してくれないか?)
総司令は力強い手を差し出した。
(代わりに、我々はお前に『食料』と『素材』、そして機体を維持するための『技術協力』を惜しまない。お前がいつかその空の向こうへ帰る方法を見つけるまで、ここは貴様の家だ)
ノエルはその手を見つめ、静かにクスリと笑った。
(連邦との戦争、補給の途絶、異世界への不時着……散々なミリタリーライフだと思っていたが……)
ノエルは差し出された無骨な大きな手を、しっかりと握り返した。
「交渉成立だ、総司令。ジオン公国軍MS-06F ザクII、およびノエル・アンダーソン中尉――これより『新大陸調査団・特別機甲戦力』として貴団の調査を支援する!」
その夜、アステラの酒場には、異世界の兵士と調査団のハンターたちが杯を交わす賑やかな声がいつまでも響き渡っていた。
港に佇む緑のザクIIのモノアイが、夕闇の中で温かく、静かに赤く点灯していた。