滅尽龍(めつじんりゅう)ネルギガンテ。
全身を無数の棘で覆い、自らの身を省みずに破壊を繰り広げる古龍。その凶暴な眼光が捕らえたのは、谷の入口に聳え立つ緑の巨人――ザクII(現地改修型)だった。
「……圧迫感が違いすぎるな。これがあの『古龍』か……!」
ザクのコクピット内。ノエル・アンダーソン中尉の額を冷や汗が伝う。
アラートの警告音が鳴り響き、メインモニターに映し出されるネルギガンテの生命反応は、これまで遭遇したどのモンスターをも凌駕していた。
ザクの背には、加工屋の技術班が総力を挙げて創り上げた決戦兵器――『ヒート・グレートホーク【龍骨造】』が鎮座している。
「頼むぞ、新大陸の鍛冶屋たち……!」
ノエルは操縦桿を引き絞り、ザクの右腕で背中の巨大な斧柄を掴んだ。
古龍骨の重厚な質感。サブ・ジェネレーターの出力をバイパスすると、ブレード部分に組み込まれた「火竜の煌腺」が一気に励起し、超高熱のエネルギーが刃全体へと爆発的に循環する。
「ジジジジジ……ッ!!」
白熱化する巨刃。周辺の空間が熱気で歪むほど高められた温度は、実に3,500℃。
ネルギガンテが翼を広げ、咆哮一発と共に牙を剥いて突進を開始した。
岩盤を粉砕しながら迫る黒き凶星。生体エネルギーの暴走による圧倒的な質量攻撃だ。
「来いッ!」
ノエルはペダルを踏み込み、右足のスラスターを噴射。自重70トンを超える鉄の巨躯を加速させ、正面から真っ向勝負を挑む。
ガギィィィィィンッ!!!
大結晶の谷全体を揺るがす凄まじい衝撃音。
ネルギガンテの巨大な右前脚と、ザクの掲げた『ハンマー・スパイク・シールド【爆槌】』が激突した。
ウラガンキンの顎甲殻を増設した重装甲が、古龍の爪を力任せに受け止める。シールド底面の油圧シリンダーが限界まで圧縮され、内部の加圧機構が爆発音と共に破砕打撃を叩き返した。
「グオオオッ!?」
脳揺らしの衝撃に一瞬怯むネルギガンテ。ノエルはその隙を見逃さなかった。
「合わせろ……ヒート・グレートホーク!!」
ザクの両腕が超油圧の限界駆動音をあげ、白熱する12.5メートルの大斧を上段から一気に振り下ろした。
ズババババァァァン!!
3,500℃の超高熱刃が、ネルギガンテの頭部に生えた巨大な角と衝突。
本来ならばいかなる刀剣をも弾き返す硬度を誇る角が、熱源溶断と質量の相乗効果により、まるで赤熱したナイフでバターを切り裂くように一刀両断された。
切り飛ばされた角が結晶の床へ転がり落ち、激しい蒸気が立ち込める。
「効いた……! 溶断できる!!」
だが、ネルギガンテの真の恐ろしさはここからだった。
角を失った怒りで全身の棘が瞬時に黒く硬化し、破壊された部位が超再生を始める。ダメージを負うほどに攻撃性を増す悪魔的な生態。
ネルギガンテは両翼を折りたたむと、空高く飛び上がり、全体重を乗せた死の急降下攻撃――「破天荒(ダイブ)」の態勢に入った。
「しまっ――!?」
あまりの速度に、マシンガンの牽制すら間に合わない。
上空から黒い破滅の塊がザクへと降り注ぐ。
ドォォォォォン!!!
衝撃波が谷を吹き荒れ、ザクの左肩シールドが砕け散った。
機体が横転し、コックピットに激しいアラートが鳴り響く。メインモニターの半分がノイズで塗りつぶされ、油圧パイプの破断を示す警告灯が赤く明滅した。
「くっ……あくびの出るような威力じゃねぇな……! だが、まだ動く!」
倒れたザクの眼前で、ネルギガンテが勝利を確信したように咆哮をあげ、留めを刺すべくのしかかってくる。
その時だった。
――シュバッ!!
上空から放たれた一筋の閃光玉が、ネルギガンテの視界を真っ白に染め上げた。
「……ハンター!?」
高台の岩場に立っていたのは、あの相棒のハンターだった。
ハンターは導蟲の光を放ちながら、大剣を掲げてザクへ合図を送る。自分たちが引きつけた一瞬の隙――そこに全てを賭けろと。
「感謝する……! ジオンの意地、見せてやる!!」
ノエルはサブ・ジェネレーターの全安全装置を解除(リミッターカット)。
ザクのモノアイが赤くギラリと光り輝き、右腕一本で横たわった状態から『ヒート・グレートホーク』を逆手に構え直した。
目くらましに悶えるネルギガンテの無防備な胸元――硬化する前の白い棘が群生する最大の下腹部へ向けて、ノエルはフルパワーのブースター噴射と共に一撃を突き立てた。
ズスゥゥゥゥンッ!!!
白熱の刃が古龍の胸甲を深く貫通。
「火竜の煌腺」から溢れ出た超高熱エネルギーがネルギガンテの体内へダイレクトに流れ込み、内側から細胞を焼き尽くす。
「破れぇぇぇぇつ!!!」
ノエルが操縦桿を捻り上げると、大斧の刃が内部で爆裂的な熱解放を起こした。
ネルギガンテは天を仰ぎ、悲痛な咆哮をあげたが、そのまま巨躯の勢いを失い、大結晶の床へと崩れ落ちた。やがて全身の棘から力が抜け、静寂が谷を包み込む。
蒸気が立ち込める中、ザクIIは膝をつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。
破損した左腕、焦げ付いた装甲。だが、その右手に握られた『ヒート・グレートホーク』の刃は、破滅の古龍を討ち果たした証として、今も静かに橙色の余熱を放っていた。
ハッチを開け、風に身を晒したノエルは、高台から駆け下りてくるハンターに向けて手を挙げた。
「見たか……これがジオンのMSと、お前たちの武具が起こした奇跡だ」
新大陸の厳しい風が、勝利した二人の戦士の髪を優しく揺らしていた。