【新大陸調査団・アステラ拠点――大工廠】
ネルギガンテとの激闘から数か月。
アステラの造船区は、連日連夜の打撃音と蒸気音、そして活気に包まれていた。
ドックに鎮座しているのは、全面的な大規模改修(オーバーホール)を受けたMS-06F ザクII――『新大陸守護仕様(ガーディアン・カスタム)』。
破損した左肩には、ネルギガンテの超硬質角とウラガンキンの重甲殻を複合した「黒龍鱗重装甲ブロック」が新たに増設され、右肩のウェポンラックには3,500℃の溶断威力を誇る大斧『ヒート・グレートホーク【龍骨造】』が神々しく鎮座している。
だが、最大の変貌は機体背部だった。
3期団の最高技術を結集した「飛行船用・超高圧熱気浮揚スラスター」と、ザクの核融合炉から吐き出される熱エネルギーを直結させた大型熱核フライト・ユニットが新たにドッキングされていたのだ。
「完成したぞ、ノエル兄ちゃん!」
加工屋の頑固親父が、汗を拭いながら誇らしげに胸を張った。
「これでこの鉄の巨人は、重力に縛られることなく、新大陸のいかなる高峰にも、最果ての龍結晶の地へも一跳びだ!」
【総司令の執務室――夕刻】
夕日に赤く染まる港を見下ろしながら、ノエル・アンダーソン中尉は緑のノーマルスーツに袖を通し、ヘルメットを小脇に抱えて立っていた。
テーブルの上には、技術班と学者たちが総力を挙げて解析した「空の通信記録」の用紙が置かれていた。
「……解読が完了したそうだ」
総司令が静かに語りかける。
「お前が降下してきたあの大気圏のひずみ……『時空の亀裂』は完全に閉じられた。お前のいた世界(宇宙)への通信も、帰還するためのゲートも、もうどこにも存在しない」
ノエルは静かに目を閉じ、深く息を吐き出した。
ジオン公国、地球連邦、一年戦争……。
遙か天空の彼方にあるはずの郷愁と戦火。自分が生きるはずだった世界は、もう永遠に届かない過去となったのだ。
「……そうか」
ノエルは呟き、自らの胸元からジオン軍のドッグタグ(認識票)を取り出した。
冷たい金属の感触。故郷の記憶。
総司令は静かに言葉を続けた。
「ノエル。お前はもう、誰かの戦争のために戦う兵士ではない。だが、この新大陸には……お前の『力』と『心』を必要としている仲間たちがいる」
総司令は大きな手で、アステラの全全図と、未開の地が記された広大な地図を広げた。
「我が調査団の『守護者』として、共にこの新世界の未来を切り開いてくれないか」
【大空へ――決意の旅立ち】
大工廠のゲートが大きく開かれ、ザクIIがその重厚な巨躯を日光の下へと踏み出した。
集まった大勢のハンター、学者、物資班、そしてアイルーたちが一斉に歓声をあげる。
足元には、あの過酷なサバイバルを共に生き抜き、ネルギガンテ戦で背中を預け合った相棒のハンターが立っていた。
ハンターは胸の前で強く拳を握り締め、笑顔で深く首を振った。
『行こうぜ、相棒』――言葉はなくとも、その瞳がそう語っていた。
ノエルはコクピットハッチを閉め、シートに深く身体を沈めた。
メインモニターが起動し、赤く輝くモノアイが全システム「オールグリーン」を示す。
「認識票(ドッグタグ)は……ここに置いていく」
ノエルはジオン軍の認識票を、コクピットのコンソール脇に静かに括り付けた。ジオンの兵士としての過去に別れを告げ、この新大陸の開拓者として生きる誓いとして。
「システム起動……熱核フライト・ユニット、ポテンシャル全開!」
ドォォォォォォン!!!
背部フライト・ユニットから蒼白い熱気が爆発的に噴出し、70トンを超える鉄の巨躯がふわりと宙へ浮かび上がった。
アステラの街全体を揺らすほどの爽快な上昇風。
「行くぞ、新大陸調査団・ザクII、出撃する!!」
スラスターの重低音と共に、緑の巨人は遥かなる古代樹の森を越え、雲を突き抜け、無限に広がる新世界の大空へと飛翔した。
眼下に広がる壮大な大自然、見たこともない未知の生態系、そして共に歩む温かい仲間たち。
もうノエルは孤立無援の落人ではない。
モンスターと人が織りなす命の環を守るため、そして新たな時代の礎となるため――
「鉄の守護者」となったザクIIとノエルの物語は、この新世界でどこまでも続いていくのだった。
【―― MONSTER HUNTER : GUNDAM - FIN ――】