ラブライブ〜街角の探偵とスクールアイドル〜 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
スクールアイドルを始める。
そう決めたからといって、すぐに何もかも上手くいくわけではなかった。
前日、意気揚々と生徒会室へ乗り込んだ穂乃果たちを待っていたのは、生徒会長からの厳しい言葉だった。
活動実績もなければ、具体的な計画もない。
ただ「スクールアイドルを始めます」と宣言しただけでは、学校側として認めることはできない。
「う~~~~ん……」
翌日の放課後。
穂乃果は教室の机に突っ伏し、盛大に唸っていた。
「生徒会長、厳しいよぉ……」
「当然です」
「海未ちゃん冷たい!」
「冷たいのではありません。昨日の私たちは、あまりにも準備不足だったと言っているのです」
海未の言葉に、穂乃果は何も言い返せない。
ことりも苦笑しながら二人を見ていた。
「でも、何か実績があればいいんだよね?」
「そうですね。少なくとも、私たちが本当に活動していると示せるものは必要でしょう」
「活動……」
穂乃果が顔を上げる。
スクールアイドル。
歌って、踊って、学校を盛り上げる。
なら――。
「ライブ!」
「え?」
「ライブやろうよ!」
突然立ち上がった穂乃果に、ことりと海未が目を丸くした。
「私たちが本当にスクールアイドルとして活動してるところを、みんなに見てもらうの!」
「待ってください。ライブと言っても、私たちはまだ何も――」
「これから準備すればいいんだよ!」
「また勢いだけで……」
呆れる海未とは対照的に、ことりは少し考えてから頷いた。
「でも、いいかもしれないね」
「ことりまで?」
「目標があった方が頑張れると思うの。いつかライブをする、じゃなくて、この日にライブをするって決めた方が」
「だよね!」
「しかし、どこでやるのですか?」
「…………」
穂乃果の動きが止まった。
「場所……」
「考えていなかったのですね」
「今から考える!」
海未は深いため息をついた。
◇
三人が目をつけたのは、新入生歓迎会の日だった。
これから音ノ木坂学院へ入ってくる新入生たちに、自分たちの活動を見てもらう。
そのために、学校の講堂で初めてのライブを開く。
目標が決まれば、穂乃果の行動は早かった。
必要な手続きを確認し、講堂を使うために再び生徒会室へ向かう。
「お願いします!」
穂乃果が勢いよく頭を下げた。
「新入生歓迎会の日に、講堂でライブをさせてください!」
その姿を、生徒会長はじっと見つめていた。
昨日とは違う。
少なくとも今回は、いつ、どこで、何をしたいのかが決まっている。
海未が補足し、ことりも自分たちの考えを伝える。
必要な手続きを行うこと。
学校の活動に支障を出さないこと。
施設の使用規則を守ること。
当然の条件を確認し――三人は、初めてのライブへ向けて動き出すことになった。
「やったぁ!」
生徒会室を出た途端、穂乃果が飛び跳ねた。
「ライブだよ! ことりちゃん、海未ちゃん!」
「まだ何も準備できていませんよ」
「分かってるって!」
「本当でしょうか……」
海未は疑わしそうだったが、ことりは嬉しそうに笑っていた。
「でも、これで目標が決まったね」
「うん!」
新入生歓迎会。
音ノ木坂学院の講堂。
そこで、自分たち三人の初ライブを行う。
まだ歌もない。
衣装もない。
ダンスも決まっていない。
それでも、目指す場所だけは決まった。
◇
まず必要なのは歌だった。
曲も必要だが、その前に歌詞がいる。
そして三人の中で、誰が歌詞を書くのか。
「海未ちゃん!」
「嫌です」
「まだ何も言ってないよ!?」
「どうせ私に歌詞を書けと言うのでしょう」
「なんで分かったの!?」
「その顔を見れば分かります!」
海未は警戒するように一歩下がる。
しかし穂乃果は逃がさない。
「だって海未ちゃん、中学生のときポエム書いてたじゃん!」
「なっ――!?」
海未の顔が一瞬で赤くなった。
「ほ、穂乃果! なぜ今その話をするのですか!」
「歌詞を書くのにぴったりだから!」
「まったく違います!」
「そうかなぁ?」
「そうです!」
「でも私も、海未ちゃんがいいと思うな」
「ことり!?」
まさかの援軍に、海未が愕然とする。
「海未ちゃん、昔から言葉を選ぶの上手だったし」
「昔のことは忘れてください!」
「えー、結構よかったよ?」
「穂乃果!」
顔を真っ赤にした海未が穂乃果を追いかけ、穂乃果が笑いながら逃げる。
ことりはそんな二人を見て楽しそうに笑っていた。
結局。
「……考えるだけですよ」
海未が折れた。
「やった!」
「まだ書くとは言っていません!」
「海未ちゃん大好き!」
「抱きつかないでください!」
こうして作詞担当は、ほぼ決まった。
◇
次は体力作り。
歌って踊る以上、体力は欠かせない。
それまで運動らしい運動をほとんどしていなかった穂乃果とことりに対し、普段から鍛錬を続けている海未は容赦がなかった。
「もう……無理……」
穂乃果が階段へ倒れ込む。
「まだです!」
「海未ちゃんの鬼ぃ……」
「誰のためにやっていると思っているのですか!」
「ことりちゃぁん……」
「わ、私も……ちょっと……」
ことりも余裕はない。
海未だけが比較的平然としている。
「二人とも、ライブでは歌いながら踊るのですよ? これくらいで音を上げてどうするのです!」
「海未ちゃんだけ元気なのずるい!」
「普段から身体を動かしているからです!」
「私だって動いてるよ!」
「何を?」
「パンを買いに行ったり!」
「それは運動とは言いません!」
階段に、三人の声が響いた。
◇
そして、もう一つ。
どうしても必要なものがある。
曲だ。
三人の中に作曲のできる人間はいない。
そこで穂乃果が思い出したのが、以前、音楽室で出会った一年生だった。
名前は知らない。
だが、ピアノを弾きながら歌っていた少女。
その歌声は、今でもはっきり覚えている。
穂乃果は一年生の教室を訪れ、ようやくその少女を見つけた。
「ねえ!」
「……何?」
突然声をかけられ、赤い髪の少女が怪訝そうな顔をする。
「あの、前に音楽室で歌ってたよね?」
「……それが何?」
「お願いがあるの!」
「お願い?」
「私たちの曲を作ってほしいの!」
「…………は?」
少女の表情が固まった。
穂乃果は、自分たちがスクールアイドルを始めること、初めてのライブを予定していること、しかし作曲のできる人がいないことを一気に説明した。
「あなた、ピアノすっごく上手だったし、歌もすっごくよかったから!」
「だからって、どうして私が……」
「お願い!」
「無理」
返事はあっさりしたものだった。
「ええっ!?」
「私、そういうの興味ないから」
「でも――」
「やらない」
取りつく島もない。
結局、穂乃果は作曲を引き受けてもらえないまま、その場を後にすることになった。
◇
「断られた……」
戻ってきた穂乃果が肩を落とす。
「当然と言えば当然でしょう」
「海未ちゃん!」
「ほとんど知らない相手から突然『曲を作ってください』と言われたのですよ?」
「うぅ……」
「でも、諦めるの?」
ことりに聞かれ、穂乃果は顔を上げた。
「……諦めない」
答えは早かった。
「あの子の歌、すごくよかったんだもん。あの子が作った曲で歌いたい」
「穂乃果ちゃん……」
「だから、もう一回お願いしてみる!」
「相手の迷惑にならない程度にしてくださいよ」
「分かってる!」
「その返事が一番不安です……」
海未はため息をついた。
◇
ライブの準備は、少しずつ進んでいった。
ことりは衣装を考え、海未は歌詞と向き合い、三人でトレーニングを続ける。
そして、自分たちのグループ名も必要になった。
三人だけではなかなか良い案が浮かばず、校内で名前を募集することになる。
まだ名もないスクールアイドル。
けれど、一つ一つ足りないものを埋めていくたびに、ただの思いつきだったものが少しずつ形になっていった。
◇
放課後。
穂乃果は再び一年生の教室を訪れていた。
「うーん……いないなぁ」
目当ての少女の姿が見つからない。
教室の前で困っていると、近くにいた二人の一年生がこちらを見ていた。
一人は短い髪の少女。
もう一人は眼鏡をかけた少女。
「あの……」
眼鏡の少女がおずおずと声をかけてくる。
「誰か、探してるんですか?」
「うん。赤い髪で、ピアノが上手な子なんだけど……」
「西木野さん、ですよね?」
「そうそう! 西木野さんっていうんだ!」
穂乃果の顔がぱっと明るくなる。
「西木野真姫さんです」
「西木野真姫さん……」
ようやく名前を知った。
「西木野さんなら、音楽室にいると思います」
「ほんと? ありがとう!」
穂乃果が走り出す。
だが数歩進んだところで、背後から声が聞こえた。
「あ、あの!」
「ん?」
振り返る。
眼鏡の少女が、少し緊張した様子でこちらを見ていた。
「アイドル……頑張ってください!」
「…………」
穂乃果は一瞬驚き――すぐに笑った。
「うん! ありがとう!」
そして今度こそ、音楽室へ向かって走っていった。
その背中を見送りながら、短い髪の少女が隣を見る。
「かよちん?」
「……ううん。なんでもない」
眼鏡の少女――小泉花陽は、小さく首を振った。
けれどその目は、穂乃果が走り去った方向をいつまでも見つめていた。
◇
音楽室。
西木野真姫は一人、ピアノの前に座っていた。
そこへ、再び穂乃果がやって来る。
「西木野さん!」
「……またあなた?」
「うん!」
「この前断ったでしょう?」
「でも、これだけ受け取って!」
穂乃果が差し出したのは、一枚の紙だった。
「何?」
「歌詞!」
「……歌詞?」
「海未ちゃんが書いてくれたの。私たち、この歌を歌いたいんだ」
「…………」
真姫は紙を見る。
「お願い。曲を作ってください!」
「だから私は――」
「無理なら無理でいいから!」
「え?」
「でも、読んでほしいの」
穂乃果は真姫に歌詞を託した。
「じゃあ!」
「ちょ、ちょっと!」
呼び止める間もなく、穂乃果は去っていく。
残された真姫は、手元の紙を見つめた。
「……勝手なんだから」
そう呟きながらも。
捨てることはしなかった。
◇
その日の夕方。
北川直人は買い物帰りに、見覚えのある三人を見つけた。
「……ん?」
穂乃果、ことり、海未。
三人ともジャージ姿で、走っている。
「何やってんだ、あいつら」
少し離れたところから見ていると、穂乃果が立ち止まった。
「もう無理ぃ……!」
「穂乃果! まだ終わっていません!」
「海未ちゃん厳しすぎるよぉ!」
「ライブをやると言い出したのは穂乃果でしょう!」
「そうだけど!」
どうやら遊んでいるわけではないらしい。
直人はしばらく眺め――。
「なるほどね」
ようやく理解した。
初ライブに向けたトレーニング。
前世で見た光景と同じだった。
ただし、画面越しで見ていたときより、ずっと泥臭い。
何度も走る。
休む。
また走る。
ことりも苦しそうだし、穂乃果に至っては今にも地面に転がりそうだ。
それでもやめない。
「……頑張ってんな」
思わず口元が緩む。
声をかけようかとも思ったが――やめた。
今は邪魔をするところではない。
これは三人が自分たちで積み上げるものだ。
直人は買い物袋を持ち直し、そのまま歩き出した。
その途中。
ふと、別の方向から三人を見ている少女の姿が目に入った。
赤い髪。
「…………」
直人は足を止めない。
知らないふりをして、その場を通り過ぎた。
あれが誰なのか。
なぜ三人を見ているのか。
直人には分かっている。
だからこそ――声はかけなかった。
◇
真姫は、三人の練習を見ていた。
ただの思いつき。
遊び半分。
最初は、そんなものだと思っていた。
けれど。
「もう一回!」
「穂乃果ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫! やろう!」
「では、もう一度最初からです!」
三人は何度も繰り返している。
上手くいかなくても。
疲れても。
それでもやめない。
「…………」
真姫は手元へ視線を落とす。
鞄の中には、穂乃果から押しつけられた歌詞が入っている。
「……本気なんだ」
小さな呟き。
そのまま真姫は、誰にも気づかれないようにその場を離れた。
◇
数日後。
三人は、校内に置いた募集箱を確認していた。
「何か入ってるかな?」
「穂乃果ちゃん、そんなに覗き込んだら取れないよ」
「だって気になるんだもん!」
「落ち着いてください」
箱の中から、何枚かの紙を取り出す。
そして――。
「あれ?」
穂乃果の手が止まった。
一枚の紙。
そこに書かれていたのは、短い名前だった。
「μ's……?」
三人で覗き込む。
「ミューズ……でしょうか」
海未が読む。
「μ's……」
ことりも繰り返す。
穂乃果はしばらくその文字を見つめ――笑った。
「いいね!」
「うん。素敵だと思う」
「私も悪くないと思います」
「じゃあ決まり!」
穂乃果が紙を掲げる。
「私たちは今日から、μ's!」
まだ三人。
まだ一度もステージに立っていない。
それでも、その日。
彼女たちには初めて、自分たちだけの名前ができた。
◇
そして――。
ある日。
三人のもとへ、一枚のディスクが届けられた。
「これ……」
「もしかして……」
再生する。
流れ始めた音に、三人の表情が変わった。
「曲だ……!」
穂乃果の目が輝く。
海未が驚き、ことりが嬉しそうに笑う。
自分たちの歌詞に、音がついている。
歌になる。
三人が初めてステージで歌うための曲。
「西木野さん……」
穂乃果は、すぐに誰が作ったのか分かった。
断られた。
それでも歌詞を渡した。
そして、三人が本気で練習している姿を、彼女は見ていた。
「ありがとう……!」
穂乃果は胸の前でディスクを握りしめる。
歌ができた。
名前も決まった。
ライブへ向けて、また一つ前へ進んだ。
μ's。
まだ誰にも知られていない、三人だけのスクールアイドル。
その最初のステージが、少しずつ近づいていた。
◇
夜。
北川探偵事務所。
直人は仕事を終え、ソファに深く腰を沈めていた。
テーブルには飲みかけのコーヒー。
その横には、使い込んだ黒いフェドラ。
「そろそろ、か……」
今日見かけた三人。
そして、少し離れた場所から彼女たちを見ていた赤髪の少女。
知っている光景だった。
けれど、画面の向こうで見ていたものとは違う。
実際にこの世界で見れば、数分で終わる話ではない。
走って。
悩んで。
失敗して。
それでもまた動く。
その積み重ねの先に、直人が知っている物語がある。
「…………」
手を出そうと思えば、いくらでも出せる。
真姫が作曲できることを最初から教えることだってできた。
これから仲間になる人間を教えることもできる。
ライブで何が起こるのかだって知っている。
だが。
「それじゃ意味ないよな」
直人はコーヒーを一口飲む。
彼女たちが自分で出会って、自分で悩んで、自分で選ぶ。
少なくとも、それを奪うつもりはない。
未来を知っているからといって、その未来を自分のものにしていいわけではない。
「俺は俺で、できることをやればいい」
探偵として。
この街に住む一人の人間として。
そして――少しだけ先を知っている者として。
直人はフェドラを手に取り、指先でつばを整えた。
「頑張れよ」
まだ、その名を本人たちの口から聞いてはいない。
だから直人は、続く言葉を胸の中だけに留めた。
――μ's。
彼女たちの最初のライブまで、あと少し。
では、また∠( ゚д゚)