——22 BBY。
銀河共和国の政治腐敗と、伯爵率いる独立星系連合の台頭。銀河全体を覆い始める不穏な空気や「冷たい戦争」の気配など、タトゥイーンの末端で働く一介の商人にしてみれば遠い世界の事件に過ぎない。そんな大事よりも、今日の仕入れと目の前のジャンクだ。
『おいイラー! モタモタしてると骨になっちまうぞ!』
前方のトレーラーの運転席から、上司の豪快なダミ声が通信越しに響く。
地元の無法者やタスケン・レイダーの襲撃を考えれば最低限すぎる護衛体制
「気でも狂ったかって話題ですよ」
『ハハハ! 面白いオモチャで遊ばせてやるんだ、それなりに働いてもらうぜ"タスケン・スカル"!』
「・・・わかりましたよ」
トレーラーの後方を追うのは、フレーム剥き出しながらも最低限の装甲板が溶接されたATM-01x(スコープドッグ試作型)。
足裏に装着された砂漠用ワイドホイールがタトゥイーンの細かい砂を豪快に巻き上げ、接地圧を分散させながら地表を滑るように疾走していた。
AT(アーマードトルーパー)には砂漠の過酷な環境に馴染む武骨なロービジ塗装が施され、
背部に集中させた過剰な冷却系とAH-50エンジン、エアフィルター群は、ひとつの巨大な「バックパック」として機能的に統合され、図らずもイラーの記憶にある本来のスコープドッグのシルエットへと近づいていた。
コックピットの中で、イラーは照り返す砂の熱気と戦いながら、ヘルメットのバイザーに表示される各種メーターをチェックする。
(よし……トレーラーとのデータリンクは良好。油圧系の圧力降下も許容範囲内だ)
この試作ATには、イラーがジャンク屋のコネと技術を総動員して掻き集めた各種センサー群がこれでもかと詰め込まれていた。
タトゥイーンの過酷な熱と砂嵐、微細な磁気異常をリアルタイムで検知し、前方を走るトレーラーの大型通信解析装置へデータを送る。
前方をひた走る商会の大型トレーラーのメインモニターには、スコープドッグからリアルタイムで転送される「広域地磁気マッピング」と「遠方動体データ」が克明に描かれているはずだ。ただの護衛どころか、砂漠を行く商隊にとっては『動く高性能早期警戒レーダー』そのものだった。
持ち込んだ当初は
「二足歩行の棺桶」
「無駄な鉄くず」
と、鼻で笑われていた。
ニヤけそうになる頬をパンッと叩き、イラーは操縦桿を握り直した。
「さて……今日のジャンク船には、どんな掘り出し物が眠ってるかね」
銀河が大きな歴史の転換点を迎えようとする直前、タトゥイーンの砂漠を滑走する一機の「異形」は、商談と生き残りをかけて力強くエンジン音を響かせていた。