砂原を包む暗闇が、うっすらと白み始めていく。
まだ寒さの残る大地を踏みしめる人型。その背からは高い吸気音が響き、不規則な排気が足元の砂を巻き上げる。
装甲の内に広がる狭いコクピットにはノイズ混じりの陽気な歌が流れ、バイザーが幾重もの計器の光を反射していた。
年月を経て使い込まれた革貼りの手が手慣れた動作でスイッチを弾く、計器の横にはいくつもメモ書きがはられ、かつてレイダーから貰ったチャームに指先で触れると、小さく揺れる。
やがて、地平の影から眩い光が溢れ出した。
砂丘の頂で、まるで太陽を崇拝するように膝をつく継ぎ接ぎの鉄の巨人。
ハッチがゆっくりと開く。
肌を刺すような冷気と砂の匂い、そしてコクピットの生ぬるい放熱が混ざり合い、その内側から一人の人影が眩しそうに朝日に顔を晒した。
使い古されたパイロットスーツ。マスクは胸元の装置に繋がれ、小さな光が明滅を繰り返している。
朝日に照らし出された鉄の巨人——丸みを帯びた肩には鋳造の粗さが残り、バックパックを背負う胴体は下腹部が大きくせりだしている。
開いたハッチ─頭部と、風砂に削られて塗装の剥げた3連ターレットレンズが覗いていた。
ビープ音と共に振り返ったパイロットは、何事か呟くとシートへと身を納める。
ハッチが閉ざされ、途絶える視界。
一瞬の暗転を経て、走査線と共にバイザーへ切り替わった外の砂原が鮮明に映し出される。
鉄の身体を軋ませながら、太陽を背に巨人がゆっくりと立ち上がった。
砂丘を滑るように下っていく先には、砂漠に適応した住居が立ち並ぶ。
道行く人々は巨人をチラリと伺うと、何事もなかったかのようにそれぞれの作業へと戻っていく。
抜けた先には幌がはられ、トレーラーが並ぶなかに紫煙を燻らすアクアリッシュが一人。
顔全体を覆うバイザーからは機械音声が流れ、部下へ指示をだす。
導かれたトレーラーの後部に慣れた手付きで着けると、ゆっくりと金属音を響かせ座乗する。
熱を持ったバックパックから金属の収縮する音がなり、新しい冷却オイルが循環していく。
備えたブロワーが砂を吹き飛ばし、バイザーにうつる計器は正常圏へと移行したことを伝える。
『・・・手の掛かる玩具だ』
機械越しのくぐもった声がそう言いながらも、パイロットから送られてくる各種データを確認していく。
ハッチが開く、ヒューマン族風の男が顔を出すと頬を汗が伝い、金属へ落ちるとチッと音がなる。
焦げるオイルの匂いや鉄の熱、砂塵を感じながらパイロット:イラーは雇い主へ礼をとる。