【掲示板・配信】そのラスボス、戦闘後の清掃員です 作:シラヌイ321
「お、帰ってきた。ちょっと見てくれよ、お前の紹介画像が決まんないってさ」
「使わなければいいだろ。俺は帰って着替えたい」
「まあ待てって。みんなちゃんと紹介したいらしいんだよ。真面目に選んで、この騒ぎ。画像作ってる身としては、放っておけないだろ」
講習配信から三日後の夜。アパートへ帰ってきたら、隣の灯也に呼び止められた。
ドアの隙間から、端末が出ている。
「清掃員です、って一行じゃだめなのか」
「俺も最初はそう思ったよ。でも絵が付くと話が変わるんだって。ほら、最初の投稿から」
俺は鞄を持ち替え、画面をのぞいた。
仕事の説明なら、昼に終えてきたつもりだった。
今朝行ったのは、桜通りの食堂だ。
講習を見た店主が、片づけの前に市へ確認を頼んでくれた。測定班と一緒に調べたが、危険な力は残っていなかった。
持っていった缶は、開けずに車へ戻した。
そのあと、救援隊の森下さんと板をどかした。
雨よけの布を持ち上げたところで、引っ掛かっていた小さな靴が落ちた。
「あ」
左足だ。
桜通りで助けた、星の靴下の男の子を思い出す。
森下さんも手を止め、靴を見た。
「あの子のかもしれません。窓口で確かめてもらえますか」
「特徴を確かめてもらいましょう。窓口につなぎますね。まずはトレーへ入れましょう」
靴は拾得品のトレーへ入れた。
昼には母親が特徴を確かめ、窓口で受け取ったと連絡が来た。あのとき届けられなかった左足が、やっとそろった。
店の奥から、だしのいい匂いがしていた。
建物を調べた専門の人が、厨房と奥の席は使っていいとしてくれたらしい。通り全体の営業再開はまだだが、今日は店主が試しに食事を出すという。
「さあ、座って。お昼まだでしょう? せっかく火を入れたんだから、食べていってください」
焼き魚に煮卵。湯気の立つ汁物まである。
ありがたく座り、曲がっていた箸入れを直そうとしたら、両手に湯飲みを持たされた。
「それはあとで私が直します。昼は、働かせませんからね」
「……はい。じゃあ、いただきます」
湯飲みが熱いので、素直に持っていた。
真白には、靴を返せたことと、食堂で昼を食べたことを送った。
『靴、そろったんですね。よかった。……それに、食堂まで。いいなあ。私も出かけられるようになったら、一緒に行きませんか?』
『行きましょう。煮卵もおいしかったです。俺も、今度は仕事抜きで食べに行きたいので』
まだ休んでいる真白が出かけられるようになったら、今度は客として来たい。
今日は九時のゲームにも間に合う。昼もちゃんと食べた。なかなかいい日だった。
だから、端末は返して部屋へ入るつもりだった。
灯也が、画面の下を指した。
「待て待て、まだ一行も読んでないだろ! 帰るのは、この人たちが何を選んだか見てからにしてくれ」
「清掃員なのは分かってるんだろ?」
「そうそう。そこは分かってる。だから清掃員に見える一枚を探してるんだよ。笑いに来たつもりが、途中から俺も探しちゃってさ」
俺は鞄を廊下へ置いた。
……そんなにないものなのか。
1:名無しの視聴者 ID:h3K8
友達に講習の動画送ったら
「この敵いつ出るの」って聞かれた
清掃の人だっつってんだろ
2:名無しの視聴者 ID:m6R2
どこ切り抜いた?
3:名無しの視聴者 ID:h3K8
銀の人が棒持って立ってるとこ
4:名無しの視聴者 ID:m6R2
>>3
お前が悪いw
5:名無しの視聴者 ID:h3K8
だから選び直したい
顔……は隠れてるけど本人と仕事が分かるやつ
ラスボス呼びも一回やめようぜ
6:名無しの視聴者 ID:c9B4
後ろの黄色と青は何
仲間?
7:名無しの視聴者 ID:n2T5
缶
8:名無しの視聴者 ID:c9B4
缶かよ
9:名無しの視聴者 ID:m6R2
>>6
見事に初見が引っかかってて草
10:名無しの視聴者 ID:v7Q1
講習で説明してたけど中身で分ける缶ね
黄色が熱いの、青が物を浮かせるの
混ぜたらだめだから二本ある
11:名無しの視聴者 ID:c9B4
なるほど
両方使えるんだなこの人
12:名無しの視聴者 ID:n2T5
>>11
使わねえよw
しまって持って帰るんだよ
13:名無しの視聴者 ID:f4J7
仕事は分かったよ
それはそれとして銀の面と長い棒は残してほしい
そこ好きなので
14:名無しの視聴者 ID:h3K8
いや、その好きなとこ残して怖くない画像を探してるんですけど
15:名無しの視聴者 ID:f4J7
本人消したら紹介にならんだろ!
16:名無しの視聴者 ID:v7Q1
缶も残そう
そこ切るから力を吸って強くなってるみたいに見える
講習だと計器とか作業台も映ってたぞ
17:名無しの視聴者 ID:h3K8
会社名も読めるとありがたい
毎回説明するより早い
18:名無しの視聴者 ID:s8D6
注文増えたな
19:名無しの視聴者 ID:m6R2
試しに寄ってみたんだが
缶を切ると幹部になる
会社名まで切るといよいよ誰だか分からん
切るとこないぞこれ
20:名無しの視聴者 ID:n2T5
戻せ戻せw
21:名無しの視聴者 ID:f4J7
いや分かるんだよ
敵じゃないし戦闘終わるまで待ってるし
じゃあ味方の追加戦士かっていうと戦わないし
会社員だから毎回ちゃんと帰るし
でも立ち姿だけは絶対に最終回で出るやつなんだって!!
22:名無しの視聴者 ID:s8D6
>>21
毎回ちゃんと帰らせてやれ
23:名無しの視聴者 ID:f4J7
決めた
講習の最後、カメラが引いたとこ
棒も面も切れてない
24:名無しの視聴者 ID:v7Q1
俺も見つけた
回収終わって測定の人が計器見てるところ
弁閉めた缶も台も入ってるから何してるか分かる
25:名無しの視聴者 ID:h3K8
こっちもこれにした
最後の引き。胸の会社名が読める
これならもう説明いらんだろ
26:名無しの視聴者 ID:m6R2
三つ開いた
27:名無しの視聴者 ID:m6R2
28:名無しの視聴者 ID:s8D6
仲よしかよ
29:名無しの視聴者 ID:h3K8
待って
画像を大きくしたら思ったより怖い
30:名無しの視聴者 ID:n2T5
銀の面が真ん中で棒持ってて
左右に缶があって
後ろの人が何か測ってる
ボス紹介の画面だこれ
31:名無しの視聴者 ID:f4J7
しかも会社名まで分かる
32:名無しの視聴者 ID:h3K8
>>31
そこを残した俺が言うのもあれだけど
所属が判明しただけなんだよな……
撮った人はもうちょい何とかならなかったのか
33:小野寺律(講習撮影担当)
その引き、怖くならないように俺が選んだ画です。
俺は最初まで戻し、もう一度ざっと読んだ。
誰も俺を敵だと思っていない。
それでも三人が選んだ画像と、撮った人の工夫が、同じ場所でぶつかっていた。
「俺、どこに立てばよかったんだろうな。これでも散々、撮る位置を変えたんだぞ」
「いやあ、そこまでやってこれなら、もう画面の外しかなくない?」
「それ、一度やった。普通の講習になったけど、紹介はできないだろ」
灯也が、今度はまとめ記事を開いた。
さっきの一枚が大きく載っている。その上には見出し。
「一致したのは画像だけだろ」
ドアの向こうで、灯也が吹いた。
「でもほら、道具も缶も残したいって言ってる。仕事はちゃんと見てくれてるじゃん。お前だって分かるし、そこはいい絵だと思うよ」
「そうだな。見出しを書いた人にも、そこを見てほしい」
灯也はその一枚を、全身、胸から上、防護面だけ、と順に拡大した。
「ちょっと、もう一つだけ。引くと清掃員だろ? でもこのへんまで寄ると、道具が消えて顔が残る。ほら、敵の幹部っぽくない?」
「やめろ」
「で、顔まで寄ると――はい、最終形態!」
画面いっぱいに銀色の顔が出た。
会社名も缶も、もうどこにもない。
「紹介するたびに昇進させるな」
俺は画面を指で縮めた。
元の位置へ戻ると、ちゃんと缶と計器が見える。
「これ。これだけ送ってくれ。せっかく仕事が分かるんだから」
「はいはい、一枚ね。で、ゲームは九時でいい?」
「うん。今日は俺が荷物を運ぶよ」
「今日は俺が運ぶって。お前、帰ってきたばっかだろ。道は頼むけど、荷物くらいこっちに持たせろよ」
灯也がゲームの画面を開き、自分の役を先に選んだ。
俺のところには、まだ何も入っていない。
「……じゃあ、頼む。先に道を見ておくよ」
支援役を選んで、端末を返した。
今夜は荷物を持たなくていいらしい。
部屋へ入り、鞄を机に置いたところで母さんから電話が来た。
「おかえり。明日の相談が二件来てるんだけど、空缶のほうが気になってね。朝、一緒に使える分を確かめてくれる?」
「浮かせる力を入れるやつ?」
「うん、片方はそう。もう片方は、何が残ってるか調べてもらってるところ」
「追加で頼んだ分、点検は終わった?」
「まだなんだよ。それを当てにして返事はできないしね。使った缶には中身が残ってるし、講習の分は市へ返したでしょ」
「うん。じゃあ、手元にある空の分だけだな。朝、俺も点検票を見るよ」
棚に並んでいても、全部が使えるわけじゃない。中身のある缶は処理に出すまで開けないし、空でも点検が済んでいない物は積めない。
明日の朝、空き具合と点検票、それに弁がちゃんと閉まるかを確かめる。何本持っていけるか分かってから、現場を見て、引き受けられる量を判断しよう。
「今夜の仕事はここまでにしよう。母さんも夕飯、まだでしょ」
「うん、私もちょうど食べたかった。続きは明日にしよう。湊も休んでね」
電話を切ると、灯也から画像が届いていた。
頼んだ引きの一枚だ。
ただし上には、清掃員、会社幹部、最終形態の三つが並んでいる。
俺は余計な文字を消して、同じ画像を送り返した。
『一枚でいい。俺まで増やすな』
仕事の説明は合っています。画面だけが言うことを聞きません。