【掲示板・配信】そのラスボス、戦闘後の清掃員です   作:シラヌイ321

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清掃員だとは、もう分かってもらえました。


第6話 清掃員の紹介は、一枚でお願いします

「お、帰ってきた。ちょっと見てくれよ、お前の紹介画像が決まんないってさ」

「使わなければいいだろ。俺は帰って着替えたい」

「まあ待てって。みんなちゃんと紹介したいらしいんだよ。真面目に選んで、この騒ぎ。画像作ってる身としては、放っておけないだろ」

 

 講習配信から三日後の夜。アパートへ帰ってきたら、隣の灯也に呼び止められた。

 ドアの隙間から、端末が出ている。

 

「清掃員です、って一行じゃだめなのか」

「俺も最初はそう思ったよ。でも絵が付くと話が変わるんだって。ほら、最初の投稿から」

 

 俺は鞄を持ち替え、画面をのぞいた。

 仕事の説明なら、昼に終えてきたつもりだった。

 

 今朝行ったのは、桜通りの食堂だ。

 講習を見た店主が、片づけの前に市へ確認を頼んでくれた。測定班と一緒に調べたが、危険な力は残っていなかった。

 持っていった缶は、開けずに車へ戻した。

 

 そのあと、救援隊の森下さんと板をどかした。

 雨よけの布を持ち上げたところで、引っ掛かっていた小さな靴が落ちた。

 

「あ」

 

 左足だ。

 桜通りで助けた、星の靴下の男の子を思い出す。

 森下さんも手を止め、靴を見た。

 

「あの子のかもしれません。窓口で確かめてもらえますか」

「特徴を確かめてもらいましょう。窓口につなぎますね。まずはトレーへ入れましょう」

 

 靴は拾得品のトレーへ入れた。

 昼には母親が特徴を確かめ、窓口で受け取ったと連絡が来た。あのとき届けられなかった左足が、やっとそろった。

 

 店の奥から、だしのいい匂いがしていた。

 建物を調べた専門の人が、厨房と奥の席は使っていいとしてくれたらしい。通り全体の営業再開はまだだが、今日は店主が試しに食事を出すという。

 

「さあ、座って。お昼まだでしょう? せっかく火を入れたんだから、食べていってください」

 

 焼き魚に煮卵。湯気の立つ汁物まである。

 ありがたく座り、曲がっていた箸入れを直そうとしたら、両手に湯飲みを持たされた。

 

「それはあとで私が直します。昼は、働かせませんからね」

「……はい。じゃあ、いただきます」

 

 湯飲みが熱いので、素直に持っていた。

 

 真白には、靴を返せたことと、食堂で昼を食べたことを送った。

 

『靴、そろったんですね。よかった。……それに、食堂まで。いいなあ。私も出かけられるようになったら、一緒に行きませんか?』

『行きましょう。煮卵もおいしかったです。俺も、今度は仕事抜きで食べに行きたいので』

 

 まだ休んでいる真白が出かけられるようになったら、今度は客として来たい。

 今日は九時のゲームにも間に合う。昼もちゃんと食べた。なかなかいい日だった。

 

 だから、端末は返して部屋へ入るつもりだった。

 灯也が、画面の下を指した。

 

「待て待て、まだ一行も読んでないだろ! 帰るのは、この人たちが何を選んだか見てからにしてくれ」

「清掃員なのは分かってるんだろ?」

「そうそう。そこは分かってる。だから清掃員に見える一枚を探してるんだよ。笑いに来たつもりが、途中から俺も探しちゃってさ」

 

 俺は鞄を廊下へ置いた。

 ……そんなにないものなのか。

 


【講習】あの清掃員の紹介画像、どれがいい?

 

1:名無しの視聴者 ID:h3K8

友達に講習の動画送ったら

「この敵いつ出るの」って聞かれた

清掃の人だっつってんだろ

 

2:名無しの視聴者 ID:m6R2

どこ切り抜いた?

 

3:名無しの視聴者 ID:h3K8

銀の人が棒持って立ってるとこ

 

4:名無しの視聴者 ID:m6R2

>>3

お前が悪いw

 

5:名無しの視聴者 ID:h3K8

だから選び直したい

顔……は隠れてるけど本人と仕事が分かるやつ

ラスボス呼びも一回やめようぜ

 

6:名無しの視聴者 ID:c9B4

後ろの黄色と青は何

仲間?

 

7:名無しの視聴者 ID:n2T5

缶

 

8:名無しの視聴者 ID:c9B4

缶かよ

 

9:名無しの視聴者 ID:m6R2

>>6

見事に初見が引っかかってて草

 

10:名無しの視聴者 ID:v7Q1

講習で説明してたけど中身で分ける缶ね

黄色が熱いの、青が物を浮かせるの

混ぜたらだめだから二本ある

 

11:名無しの視聴者 ID:c9B4

なるほど

両方使えるんだなこの人

 

12:名無しの視聴者 ID:n2T5

>>11

使わねえよw

しまって持って帰るんだよ

 

13:名無しの視聴者 ID:f4J7

仕事は分かったよ

それはそれとして銀の面と長い棒は残してほしい

そこ好きなので

 

14:名無しの視聴者 ID:h3K8

いや、その好きなとこ残して怖くない画像を探してるんですけど

 

15:名無しの視聴者 ID:f4J7

本人消したら紹介にならんだろ!

 

16:名無しの視聴者 ID:v7Q1

缶も残そう

そこ切るから力を吸って強くなってるみたいに見える

講習だと計器とか作業台も映ってたぞ

 

17:名無しの視聴者 ID:h3K8

会社名も読めるとありがたい

毎回説明するより早い

 

18:名無しの視聴者 ID:s8D6

注文増えたな

 

19:名無しの視聴者 ID:m6R2

試しに寄ってみたんだが

缶を切ると幹部になる

会社名まで切るといよいよ誰だか分からん

切るとこないぞこれ

 

20:名無しの視聴者 ID:n2T5

戻せ戻せw

 

21:名無しの視聴者 ID:f4J7

いや分かるんだよ

敵じゃないし戦闘終わるまで待ってるし

じゃあ味方の追加戦士かっていうと戦わないし

会社員だから毎回ちゃんと帰るし

でも立ち姿だけは絶対に最終回で出るやつなんだって!!

 

22:名無しの視聴者 ID:s8D6

>>21

毎回ちゃんと帰らせてやれ

 

23:名無しの視聴者 ID:f4J7

決めた

講習の最後、カメラが引いたとこ

棒も面も切れてない

 

24:名無しの視聴者 ID:v7Q1

俺も見つけた

回収終わって測定の人が計器見てるところ

弁閉めた缶も台も入ってるから何してるか分かる

 

25:名無しの視聴者 ID:h3K8

こっちもこれにした

最後の引き。胸の会社名が読める

これならもう説明いらんだろ

 

26:名無しの視聴者 ID:m6R2

三つ開いた

 

27:名無しの視聴者 ID:m6R2

全部同じ画像じゃねーかww

 

28:名無しの視聴者 ID:s8D6

仲よしかよ

 

29:名無しの視聴者 ID:h3K8

待って

画像を大きくしたら思ったより怖い

 

30:名無しの視聴者 ID:n2T5

銀の面が真ん中で棒持ってて

左右に缶があって

後ろの人が何か測ってる

 

ボス紹介の画面だこれ

 

31:名無しの視聴者 ID:f4J7

しかも会社名まで分かる

 

32:名無しの視聴者 ID:h3K8

>>31

そこを残した俺が言うのもあれだけど

所属が判明しただけなんだよな……

撮った人はもうちょい何とかならなかったのか

 

33:小野寺律(講習撮影担当)

その引き、怖くならないように俺が選んだ画です。


 

 俺は最初まで戻し、もう一度ざっと読んだ。

 誰も俺を敵だと思っていない。

 それでも三人が選んだ画像と、撮った人の工夫が、同じ場所でぶつかっていた。

 

「俺、どこに立てばよかったんだろうな。これでも散々、撮る位置を変えたんだぞ」

「いやあ、そこまでやってこれなら、もう画面の外しかなくない?」

「それ、一度やった。普通の講習になったけど、紹介はできないだろ」

 

 灯也が、今度はまとめ記事を開いた。

 さっきの一枚が大きく載っている。その上には見出し。

 

清掃員の紹介画像、満場一致でラスボス。

 

「一致したのは画像だけだろ」

 

 ドアの向こうで、灯也が吹いた。

 

「でもほら、道具も缶も残したいって言ってる。仕事はちゃんと見てくれてるじゃん。お前だって分かるし、そこはいい絵だと思うよ」

「そうだな。見出しを書いた人にも、そこを見てほしい」

 

 灯也はその一枚を、全身、胸から上、防護面だけ、と順に拡大した。

 

「ちょっと、もう一つだけ。引くと清掃員だろ? でもこのへんまで寄ると、道具が消えて顔が残る。ほら、敵の幹部っぽくない?」

「やめろ」

「で、顔まで寄ると――はい、最終形態!」

 

 画面いっぱいに銀色の顔が出た。

 会社名も缶も、もうどこにもない。

 

「紹介するたびに昇進させるな」

 

 俺は画面を指で縮めた。

 元の位置へ戻ると、ちゃんと缶と計器が見える。

 

「これ。これだけ送ってくれ。せっかく仕事が分かるんだから」

「はいはい、一枚ね。で、ゲームは九時でいい?」

「うん。今日は俺が荷物を運ぶよ」

「今日は俺が運ぶって。お前、帰ってきたばっかだろ。道は頼むけど、荷物くらいこっちに持たせろよ」

 

 灯也がゲームの画面を開き、自分の役を先に選んだ。

 俺のところには、まだ何も入っていない。

 

「……じゃあ、頼む。先に道を見ておくよ」

 

 支援役を選んで、端末を返した。

 今夜は荷物を持たなくていいらしい。

 

 部屋へ入り、鞄を机に置いたところで母さんから電話が来た。

 

「おかえり。明日の相談が二件来てるんだけど、空缶のほうが気になってね。朝、一緒に使える分を確かめてくれる?」

「浮かせる力を入れるやつ?」

「うん、片方はそう。もう片方は、何が残ってるか調べてもらってるところ」

「追加で頼んだ分、点検は終わった?」

「まだなんだよ。それを当てにして返事はできないしね。使った缶には中身が残ってるし、講習の分は市へ返したでしょ」

「うん。じゃあ、手元にある空の分だけだな。朝、俺も点検票を見るよ」

 

 棚に並んでいても、全部が使えるわけじゃない。中身のある缶は処理に出すまで開けないし、空でも点検が済んでいない物は積めない。

 明日の朝、空き具合と点検票、それに弁がちゃんと閉まるかを確かめる。何本持っていけるか分かってから、現場を見て、引き受けられる量を判断しよう。

 

「今夜の仕事はここまでにしよう。母さんも夕飯、まだでしょ」

「うん、私もちょうど食べたかった。続きは明日にしよう。湊も休んでね」

 

 電話を切ると、灯也から画像が届いていた。

 頼んだ引きの一枚だ。

 ただし上には、清掃員、会社幹部、最終形態の三つが並んでいる。

 

 俺は余計な文字を消して、同じ画像を送り返した。

 

『一枚でいい。俺まで増やすな』




仕事の説明は合っています。画面だけが言うことを聞きません。
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