それは童話で知る丸鏡ような美しい楕円形の”ひずみ”であった。かつて少女が暴いてきた中では類を見ない大きさと安定性を備えていた。空間を捻じ曲げた存在であるにも拘らず、厳然と成立するその姿はあたかも社の本殿のようで、しかしそれが無造作に放られている点がまた少女に格別の”秘封”を感じさせた。
その”ひずみ”は藪を潜りいくつかの分かれ道を抜け、グルグルと回っている錯覚さえ引き起こすような道の先にあった。しかし複雑さがかえってこの道が”作られた道”であり、その先に”秘密の場所”があることを少女たちに確信させた。そうであれば数々の分かれ道の先に設けられているであろう罠がこの神隠しの怪奇の答えであるようにも思われた。しかし真相を暴いた彼女たちは、その”ひずみ”に見初められた彼女たちにはもう戻るという選択肢は残されていなかった。その”ひずみ”の魔力が彼女たちを捕えて離さない。彼女たちの好奇心が、探究心が秘密を欲して離れない。囚われた二人を待つのは怪奇の世界。哀れな少女達はまた一つの神隠しの被害者になってしまう…。
「蓮子。こっち。ここにあるわ。」メリーが指差す方向は何もなかった。少なくとも蓮子の目には何も映らなかった。
「どう何か分かるかしら」 蓮子はメリーに尋ねる。
「ええ”ひずみ”があるわ。特大のね。」メリーはそこにあると言う”ひずみ”から目を離すことなく答えた。
「これが神隠しの主犯ってわけね」
「おそらくね」
「…それで、聞くまでもないでしょうけどどうするの。」
「行きましょう、”ひずみ”の先に。…呼んでいるの。いや呼ばれているのよ。これで進まなかったら秘封倶楽部の名が泣くわ。」嬉々とした表情でメリーは語った。
「はぁー..。止めても聞かないだろうから構わないけど。」呆れてはいるが例えメリーを止められたとしても蓮子は止めないだろう。蓮子も冒険は大好きだ。
「行くわよ蓮子。.....絶対に手を離さないでね。」
そうして二人は”スキマ”の中に消えていった。
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木々の間から日の光が差し込んでいる。あちらこちらからセミの鳴き声が聞こえる。小鳥のさえずりが聞こえる。 ”スキマ”を抜けるとそこは森のなかだった。
「…蓮子、ここどこだか分かる?」メリーが尋ねる。
「…いや、さっぱり。見た感じ日本の山っぽいけど」蓮子の能力”星を見て時刻を知り、月を見て今居る場所を知る程度の能力”は夜間になるまで発揮されない。
「メリー、それよりも”ひずみ”はちゃんと残ってる?」蓮子が心配そうに尋ねる。
「…ないわ。消えてる。」メリーは当然といった風に答えた。
「ちょっと!どうすんのよこれ!」
「だっ大丈夫よ!何とかなるわ!…たぶん」メリーの答えに驚きつつもそれを予想していなかった訳ではない。そもそも”ひずみ”に入った時から覚悟はしていた。秘封倶楽部の活動の後には予定を入れていない。二人の旅はいつだって片道切符の列車なのだ。それも行先は決めていても行く付く先は不明だ。いつもどうりである。
「はぁ...仕方ないわ、そうと決まれば森を出るわよ。夜になる前に寝床と安全を確保しなくちゃ。」
「あとご飯もね。」
「そうね。お弁当はお昼の分しかないし…」
「蓮子、お腹が空いたわ。」
「のんきねぇ…まぁいいわ、腹が減っては戦は出来ぬ。探索はお昼の後にしましょう。」
蓮子ものんきなところはメリーに負けてはいなかった。
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「でどうするの、これから。」昼食を終えた二人は今後の予定について話し合っていた。
「さっきも言ったけどなにより寝床と安全の確保が最優先よ。ただでさえ得体の知れない場所なんだから。あと分かったことだけどここは森というよりも山よ。近くに川があるかもしれない。川を探しながら食べれそうなものを探しましょう。幸い自然が豊かだし季節はまだ初夏、探せばいくらでも食べれるものは有るでしょう。」辺りをぐるりと見渡しながら答える。
「はーい。」今後の方針が決まり、腹ごしらえを終えた蓮子とメリーは意気揚々と森をすすんでいった。
3時間の後。
「蓮子、私疲れたわ。」メリーが訴える、運動部でない女子大学生が”スキマ”通過前と合わせて6時間以上歩き続けたのだ。正直つらい。私もいい加減疲れてきたから休んでも別にいいのだけれど......。
「我慢して、って言っても、さすがに歩きっぱなしは辛いわね。休みましょうか。」
「ほんとに!やったぁさっすが蓮子!大好きよ。」先ほどまでの絶望的な表情はどこへやら。一転して満面の笑みになる。表情の変化が多く話しているとこちらまで楽しい気分になるのが彼女の魅力だなぁと感じつつも。そんな彼女を見ると意地悪したくなってしまう。
「あともうちょっと歩いたらね。」
「えぇー。」
「夜になると今よりもっと危険になるわ。それにまだ晩御飯の食材足りていないでしょう。」
「…はーい」
「大丈夫、もうすぐよ、きっと。」
「何でよ。」
「耳を澄ませてみて。」実際私も疲れていたので川が近いことに気づいていなかったら休んでいただろう。これで一先ず安心かな?
「……あっ!水の音!」再び満面の笑み。
「行きましょう。あぁ、あそこに木の実なってるわ。ちょっと待ってメリー。届くかしら。……」
少しして。
「あっ!川見えたわ。やったー!……んっ?ねぇ蓮子、あそこに見えるの人じゃない?」うーん遠目でははっきりとは見えないけれど大まかなシルエットを見る限り人のようだ。
「……えぇそうね、声を掛けてみましょうか。」
「いや!ちょっと待って、そうじゃなくてこんなところに一人で機械いじってるっておかしくない?しかも女の子みたいだし。」
「うーん、確かにそう考えるとおかしいけど…考えすぎじゃないかしら。それに川に用があるんだから、話さない訳にはいかないしね。」
「…そうね!分かったわ!すいませーん!こーんにーちはーーーー!!」メリーが大声で叫びながら走っていく。
「えっ!ちょっと待ってメリー!確かに話しかけるとは言ったけどそんなに走らなくても…」
「げげっ、人間!?」青い服を着た少女もどうやらこちらに気づいたようだ。…ん?人間?
「ちょっと待ってメリー!その子…」
「こんにちはーーー!!ってあれっ!?消えた?」メリーの目の前であろうことかその少女は消えてしまったように見えたが「…そこね!」メリーが石を投げると
「っ!痛いっ!」その瞬間に透明化が解かれ「つーかまえた。」「っひゅい!?」メリーはあっという間に捕まえてしまった。
「こんにちは」メリーがほほ笑む。
「へへっ…こんにちは…」少女もひきつった笑顔で返した。
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「私はマエリベリー・ハーンよメリーでいいわ。でこっちは蓮子。」
「宇佐美蓮子よ。よろしく。それであなたは?」
「私は河城にとり谷河童のにとりだよ。ところで君たち
どうして此処に?」
「あぁちょっと迷い込んじゃってっておい!」
「どうしたの蓮子?急に大声なんか出して。」
「何って河童よ河童!芥川龍之介の本に出てくるあの河童よ!」
「そんな、何言ってんのよどう見てもそんな、河童なわけないじゃないじゃない...」
「いや、あってるよ。」
「「えっ?」」
「河童だよ。私は河童、谷河童のにとり。」
「「えーーーーー!!!」」
少女幻想入り1日目