「——どうも、皆さんこんばんは!『ダンジョン釣り部』へようこそ!」
薄暗い洞窟の中、青白く光る浮遊カメラに向かって、俺——イツキは元気よく手を振った。背負ったリュックには折りたたみ式のタモ網、そして手には一本のグラスロッド(釣竿)が握られている。
画面上の同棲型コメント欄が、凄まじいスピードで流れ始めた。
『きたああああ!』
『また危険地帯で配信してるよこの人……』
『ここ、難易度Bランクの「奈落の翡翠洞」だろ?正気か?』
『今回の狙いは?』
「今日のターゲットはズバリ、この下層の地下湖に生息する『クリスタル・ガー』です! 噂によると、鱗が磨けば宝石になるらしくてね。まあ俺にとっては、あの強烈な引きを味わえればそれで十分なんですが!」
『安定の釣りバカ』
『周りのモンスターに気をつけてねww』
『後ろ!後ろ!!』
「ん?」
気配を感じて振り向くと、岩陰から体長2メートルはある巨大な岩トカゲ(ロックリザード)が、だらだらと唾液を垂らしながら身構えていた。鋭い爪が岩肌を削る。
「おっと、配信のお邪魔虫だ」
俺はロッドを持ち替え、腰のホルダーから無造作に引っこ抜いた『太古の鉄塊剣(ただの重い大剣)』を片手で一閃した。
ズドンッ!
衝撃波と共にロックリザードは壁に叩きつけられ、一瞬で魔石となって転がった。
『出たwwww』
『釣り竿持つより剣振る方が強い男』
『レベル99の釣り人は伊達じゃない』
『雑に処理されるBランクモンスターの哀しみ』
「ふぅ、邪魔が入りましたね。さて、仕掛けを準備しましょう。今日の餌は、さっき上層で捕まえた『発光ホタルイモ』の身です。これがクリスタル・ガーの大好物らしくて——」
俺は手際よくフックに餌をかけ、静かな地下湖の碧い水面へとキャストした。
ポチャン……
静寂が洞窟を包む。湖底から淡い青緑色の光が揺らめき、幻想的な光景が広がる。カメラを微調整し、映えそうなアングルを狙う。
『綺麗だなあ……』
『ダンジョンの中だって忘れるわ』
『投げ込み精度すっご』
「釣りの基本は忍耐です。ダンジョン釣りでもそれは同じ。モンスターの気配を探りつつ、糸の先にある微かな違和感に集中する……この瞬間がたまらんのですよ」
数分間の静寂。コメント欄もどこか落ち着いた雰囲気に包まれる。
その時——ウキが、コツンと揺れた。
「……来た」
俺の目の色が切り替わる。
ピシッ……ピシャッ!
湖面が激しく波立ち、ウキが一気に水中に引きずり込まれた!
「喰った! フィーーーッシュ!!」
ギャギャギャギャギャ!!
リールが悲鳴を上げ、極太のラインが凄まじい速度で引き出されていく。竿が満月のように美しいアーチを描いた。
『うおおおおお!?』
『竿の曲がりエグい!!』
『引きが重すぎるだろ!!』
「くっ……! 流石は地下湖の主クラス! 引きの強さが地上魚の比じゃない! だが、このロッドはドラゴンのヒゲで編んだ特注品だ……折れるもんか!」
足場を踏み締め、踏ん張る。湖からバシャァァン!と巨大な水柱が上がり、全身が透明な水晶で覆われたような、全長3メートルを超える巨大な魚が跳ね踊った。
日光を反射する代わりに、ダンジョンの発光苔を受けて七色に輝く魚体。
「美しい……! だが逃がさんよ!」
俺は相手が疲れた一瞬の隙を見逃さず、一気にリールを巻き上げる。竿の弾力をフルに使い、巨魚の頭をこちらに向けさせた。
「タモ網じゃ入らん! ぬんッ!!」
最後は腕力任せに竿を煽り、巨魚をそのまま陸へとぶち抜いた。
ドサァァァン!!
岩場に打ち上げられたクリスタル・ガーが、七色の光を放ちながらのたうつ。俺は素早くフィッシュグリップで口を掴み、カメラに向かって掲げた。
「獲ったぞ!!『クリスタル・ガー』、ゲットです!!」
『うわあああああマジで釣り上げた!!』
『綺麗すぎる……!』
『てか力技で抜くなwww』
『ナイスフィッシュ!!』
『投げ銭投げ銭!』[¥10,000 スパチャ:素晴らしい獲物だ!]
画面を埋め尽くす大量の祝福コメントとスパチャの嵐。俺は汗を拭いながら、最高のエガオをカメラに向けた。
「やあ、最高の引きでした! これだからダンジョン釣りはやめられない! さて、せっかくの新鮮な獲物です。次回は『ダンジョン水族館を作ってみた』か『クリスタル・ガーを刺身にして食べてみた』の二本立てでお送りしようと思います!」
『食うのかよ!!』
『絶対固いだろww』
『次回も絶対見るわ!』
こうして、俺の(命がけの)趣味配信は、今日も大盛況のうちに幕を閉じたのだった。