「——というわけで、本日はなんとお仕事……いわゆる『案件配信』でございます!」
「案件」という単語が出た瞬間、青く光る浮遊カメラの画面を埋め尽くすコメント欄が凄まじい速度で流れた。
『案件きたあああああ!!』
『ついに企業案件……と思ったらギルド公式!?』
『冒険者ギルド本部公認の配信者ワロタ』
『100万人パワーすげぇwww』
「そうなんです。冒険者ギルド本部からの公式依頼(案件)です! 本日のゲストは……案件の依頼人でもある、ギルド本部の特命担当者様です!」
カメラが横へパンすると、そこにはビシッと整えられたスーツに身を包んだ、いかにも真面目そうなギルド職員の男が立っていた。しかしその額には大量の冷や汗が浮かび、目は泳いでいる。
「ど、どうも……冒険者ギルド本部・広報戦略課のタナカです……」
『タナカさん胃が痛そうwww』
『スーツでダンジョン潜ってるの草』
『後ろにガルドニキいて安心(?)の絵面』
画面の端には、いつも通り「重り役」として準備万端の重戦士ガルド(Sランク2位)が、頑丈なチェーンを腰に巻いて腕組みをしていた。
「タナカさん、今日の依頼内容をリスナーの皆さんに説明していただけますか?」
イツキが笑顔でマイクを向けると、タナカ課長はブルブルと震えながら書類を開いた。
「は、はい……! 今回イツキ様にお願いしたいのは、指定難易度Sランク……最深階層『神霊の天海』に生息する幻の超巨大魚『ゴッド・サーモン』の調査および捕獲です。ギルド本部設立記念の晩餐会で出す目玉食材として……ぜひ、イツキ様の『一本釣り』で調達していただきたく……!」
『ゴッド・サーモンwww』
『晩餐会の食材を配信者に丸投げするギルド本部』
『名前からして絶対ヤバいやつ』
『神の鮭ってマ??』
「なるほど! ギルドの偉い人たちが食べる最高級のサーモンですね! 任せてください、バッチリ釣って美味しくいただきましょう!」
「あ、いや、晩餐会用なのでできればギルドに納品を——」
「さあ! 今日の仕掛けはこれ! 『竜脈の魔晶(超高濃度)』を塗った特製ルアーです! ガルドさん、足場(10トン)をお願いします!」
「おうよ! タナカのハゲ……じゃなかった課長、巻き込まれたくなきゃ俺の後ろに隠れてな! 『金剛十重陣・超重量固定』ッ!!」
「ひええええええっ!?」
タナカ課長が悲鳴を上げながらガルドの背中にしがみつく。
シュタァァァン……!
イツキが満開の笑顔で、雲海ならぬ『霊なる光の海』へ仕掛けをキャストした。
数分間の静寂。
そして——天天を揺るがすほどの凄まじい地鳴りが響き渡った。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
海面が割れ、体長10メートルを超える、全身が黄金の鱗と神聖な光に包まれた伝説の巨魚が姿を現した! そのあまりの威圧感に、画面越しでも息をのむほどだ。
「喰ったあああ! フィーーーーッシュ!!」
ギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!!
オリハルコンのラインから火花どころか聖なる光の粒子が爆散する! イツキの足元の岩盤がメリメリと砕け散った!
「ぬおおおおおっ! なんというパワー! これぞ神の引き!!」
「ぐがあああああっ! ガンガン引っ張られる! タナカァ! 俺の腰をしっかり持っとけ!!」
「うわあああああ死ぬ死ぬ死ぬ! ギルドの晩餐会のために死にたくないですうううううっ!!」
『タナカ課長の悲鳴助かるwwww』
『神の鮭引きがエグすぎるwww』
『公式案件でギルド職員が命の危機』
『ガルドアンカー耐えろおおお!』
アリスの重力魔法とルナの風バリア、そしてガルドの10トンアンカーがフル稼働する中、イツキが筋肉を最大限界まで膨らませて咆哮した。
「100万人突破記念・案件完遂!! ぬんがああああああッ!!!」
ズバァァァァンッ!!
10メートルの黄金の巨魚が空を描き、陸地へと打ち上げられた!
圧巻の光景に、タナカ課長は腰を抜かして開いた口が塞がらない。
「と、獲った……本当に一人(+Sランクパーティ)でSランクモンスターを釣り上げた……!?」
「やりましたねタナカさん! さあ、約束通りギルドの晩餐会用に……の前に! 『出来立てのハラス焼き』を一口味見してみましょう!」
「え!? 納品前に捌いちゃうんですか!?」
イツキは聞く耳を持たず、『太古の鉄塊剣』でゴッド・サーモンの腹から極上の脂が乗ったハラス(トロ)をザックリと切り出し、火竜のバーナーでサッと炙った。香ばしい脂の香りが充満する。
「さあタナカ課長、どうぞ!」
「あ、いや、これはギルド幹部用の……んぐっ!?」
無理やり口に押し込まれたタナカ課長。
次の瞬間、彼の目がカッと見開かれた。
「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!??」
『タナカ課長!?』
『落ちたwwwww』
『顔wwwwww』
「な……ななななんですかこの脂はぁぁぁぁ!! 舌に乗せた瞬間、甘みが爆発して溶けてなくなりましたよ!? 旨味が神の領域です!!」
涙を流しながら叫ぶタナカ課長。
横ではガルド、アリス、ルナの三人がすでにハラスをモグモグと頬張り、「うまっ!」「ごはん!」「ギルドに渡したくないわね」と大絶賛していた。
「ふふふ、大成功ですね! というわけでギルド公式案件『ゴッド・サーモン捕獲』、無事に達成です!」
『タナカ課長が一番味わってて草』
『ギルド幹部に届く頃には半分になってそうww』
『最高の案件配信だったわww』
[¥100,000 スパチャ:【冒険者ギルド本部】広報予算から出します。次回もよろしくお願いします(課長は無事です)]
「ギルド本部様、10万スパチャと公式案件ありがとうございました! 次回の案件もお待ちしております!」
腰を抜かしたタナカ課長と、ハラスを満喫するSランク冒険者たちに見守られながら、伝説の案件配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。