冒険者ギルド本部・大宴会場。
今夜は年に一度の「ギルド設立記念晩餐会」が催されていた。会場にはギルド最高幹部やVIPであるSランク冒険者たちがズラリと顔を揃え、豪華な料理を前に歓談している。
「ところで最高幹部殿、本日のメインディッシュは一体何で?」「ふふふ、広報課が100万人チューバーのイツキ君に依頼して調達させた、あの伝説の『ゴッド・サーモン』だよ。体長10メートルはあるという超巨大魚だ」
ギルド長が満面の笑みで胸を張る。会場からは「おおおッ!」「なんと贅沢な!」とどよめきが上がった。
そして、運命の時間が訪れた。
「——皆様、お待たせいたしました! 本日の目玉『ゴッド・サーモンのお造りと炙りハラス焼き』でございます!」
ファンファーレとともに巨大な銀のワゴントレイが運ばれ、覆っていたドーム型の蓋(クロッシュ)がバッと開けられた。
「「「おおおおお——……ん??」」」
会場の空気がピキリと凍りついた。
運ばれてきた大皿の上に乗っていたのは、確かに神々しく黄金に輝く極上のサーモンの切り身……ただし、半身(片側)しかなかった。
しかも、一番脂が乗っているはずの腹身(ハラス)の部分が、大胆かつ豪快にザックリと抉り取られている。
「……ん? 広報課長……タナカ君?」
ギルド長がピクピクと頬を引きつらせながら、横でビシッと直立不動しているタナカ課長を振り返った。タナカ課長の胃は、すでに激痛で破裂寸前である。
「た、確かに体長10メートルの個体だったな? なぜ半分しかないのだ? 残りの半分と……このハラスはどこへ消えた?」
「はっ……! か、回収直後の『現場での検品・品質チェック(試食)』の段階で、予期せぬ欠損が発生いたしまして……!」
「試食で半分消えるかぁぁぁぁッ!!? どんだけ食ったんだよ!!」
ギルド長の怒声が響き渡る。
「ヒィィッ! 申し訳ございません! 現場があまりにも苛烈で……イツキ様が『ハラス焼き最高!』と炙り始め、Sランク2位のガルド様が『米を持ってこい!』と叫び、アリス様が魔法で白米を召喚し……気づいた時には……気づいた時にはっ!!」
タナカ課長は涙目で叫んだ。
「で、ですがギルド長! ひとくち……ひとくちだけお召し上がりください! 現場で私も命懸けで味見(強制)いたしましたが、飛ぶぞというレベルの美味さでございます!」
「ええい、誤魔化すな! たかが魚のハラス一口でワシの機嫌が直ると思うなよ——」
半信半疑のまま、ギルド長が残されたわずかなハラスの炙りをフォークで口へと運ぶ。
(じゅわぁぁぁぁぁ……っ)
その瞬間、大宴会場に静寂が訪れた。
ギルド長の目がカッと見開かれ、フォークが手から落ちて床に乾いた音を立てる。
「ギ、ギルド長……!?」
次の瞬間、ギルド長は雷に打たれたように身体を震わせ、涙をボロボロと流しながら叫んだ。
「な……なんじゃこの神の脂はぁぁぁぁぁぁッ!!!? 舌の上で解けた瞬間に旨味が脳髄を突き抜けるぞ!! 美味い! 美味すぎる!!」
「「「ええええええっ!?」」」
「美味い! 魚という概念を超えている! おい、残りの半分は誰が食べたと言った!? イツキ君とガルド達か!? くっそぉぉぉ! あんな美味い部分を現場で腹いっぱい食いやがってぇぇぇぇ!! 許せん、羨ましすぎるッ!!」
ギルド長は涙目になりながら、残りの半身をフォークで奪い合うように貪り食い始めた。
その光景を見た他の幹部たちも「私にも一口!」「ズルいぞギルド長!」と大皿へ雪崩れ込み、晩餐会は一瞬で最高級サーモンの奪い合いという大混乱の戦場と化したのだった。
宴が終わり、皿の上の脂の一滴まで綺麗に舐め尽くされた大宴会場で、ギルド長はタナカ課長の肩をガシッと掴んだ。
「タナカ君……!」
「は、はいっ! 減俸でも首でもお受けします!」
「次のイツキ君の配信……ワシもついて行って現地で食う。 広報予算は倍出す! すぐに次回の案件をセッティングしたまえ!!」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?(絶叫)」
こうして、タナカ課長の胃痛の種はさらに大きくなり、次回「ギルド長も参戦!? ダンジョン釣り配信」の開催が決定したのだった。