ダンジョン釣り部   作:サンデン

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ゴット・スパ・ロブスター

「——どうも皆さん、こんばんは!『ダンジョン釣り部』のイツキです!」

 

画面が切り替わると、そこは足元から猛烈な蒸気が吹き出す超高難易度EX+ランクダンジョン「竜の胃袋・灼熱温泉地帯」。

 

配信開始と同時に、同接数は破竹の勢いで40万人を突破した。

 

『待ってました手取りゼロ同盟wwww』

 

『背景からすでにヤバい気配しかしない』

 

『役員集まりすぎてて草』

 

『今日のターゲットは何!?』

 

「本日の配信ですが……なんと冒険者ギルド本部から、『手取り奪還』に燃えるゲストの方々がお越しになっています!」

 

カメラが横にパンすると、そこにはすでに気合十分の猛者たちがズラリと並んでいた。

 

左から、完全防水・耐熱スーツを身にまとったタナカ課長。

 

中央には、今月の給料全額カットで死んだ目をしながらも覇気を撒き散らすギルド長(レベル99)。

 

そして右には、手取り5割カットの屈辱に震えつつ、右手に電魔導電卓、左手に極太のワイヤーを握りしめた会計課長カレン。

 

「……本日こそ、私どもの手取りを取り戻します。ターゲットは全量競りに出し、1グラムの私的試食も許しません」

 

カレン課長が眼鏡をクイッと押し上げ、氷のような声で宣言する。

 

「ワハハハ! ワシの手取りゼロを解除するためなら、龍でも神でも引き抜いてやるわい!」

 

『ギルド長目が血走ってて草www』

 

『カレン課長気合の入り方がプロのハンターなんよ』

 

『タナカ課長が一番腹括っててワロタ』

 

「では本日のターゲットを発表します! 温泉の源泉、水深2,000メートルに生息する伝説の甲殻類『ゴッド・スパ・ロブスター』です!」

 

イツキが画面に提示したのは、真っ赤な甲羅から黄金の蒸気を吐き出す巨大ロブスターの生態図だ。

 

「このロブスター、身が極上の天然温泉で茹で上がっており、味噌とプリプリの身は『食べる天然温泉』と呼ばれています!」

 

「ふん、美味しそうな説明ですが……競り落とせば8000万円! 一切の試食は厳禁! ガルドさん、ギルド長、いきますよ!」

 

カレン課長の仕切りで、かつてない布陣が組まれた。

 

重戦士ガルド、ギルド長、カレン課長、タナカ課長。

 

人類最高峰の脳筋とブチギレ会計士が連結した「推定150トン・手取り奪還アンカー」である。

 

「仕掛けはこれ! 特製薬膳温泉出汁に漬け込んだルアーです!……キャストッ!!」

 

ドバァァァァァンッ!!

 

源泉のマグマ温泉へルアーが投げ込まれた。

 

その直後——

 

ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

 

温泉地帯全体が爆発するかのような大激震! 黄金の湯煙を突き破り、体長25メートルを超える真っ赤な「ゴッド・スパ・ロブスター」が姿を現した!

 

「喰ったぁぁぁ! フィーーーーッシュ!!」

 

ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!

 

「ぬおおおおおッ!? なんだこの粘りとパワーは! 温泉の圧力がかかっとる!!」

 

「ワシの手取りぃぃぃぃ! 返せぇぇぇぇッ! 『覇王固定陣・超絶極』ッ!!」

 

「渡しません……8000万円は渡しませんッ! 『絶対零度固定(絶対回収)』ッ!!」

 

手取りを失った者たちの執念が爆発! 150トンアンカーが源泉の岩盤をメリメリと粉砕しながら踏み踏み留まる!

 

「引き抜くぞぉぉぉぉッ!! 100万人パワー&手取り奪還!! ぬんがあぁぁぁッ!!!」

 

ズドドドドオーーンッ!!

 

温泉の瀑布とともに、巨大なロブスターが空を描いて陸地へドッサリと打ち上げられた!

 

「や……やった……! 成功です! これで全量オークションに——」

 

カレン課長が歓喜の声を上げかけた、その瞬間。

 

イツキの『太古の鉄塊剣』が一閃。

 

(パカッ!!)

 

熟練の技で巨大なハサミと胴体が綺麗に真っ二つに叩き割られ、中から温泉で絶妙にボイルされた透明感のあるぷりっぷりの白身と、溢れんばかりの黄金の味噌が露わになった!

 

すかさずイツキが『火竜のバーナー』で味噌をサッと炙る!

 

(ジュワァァァァァ……煙ッ!!)

 

芳醇な甲殻類の香ばしさと、薬膳温泉出汁の甘い香りが、湯煙とともに一気に充満した。

 

「〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

全員の動きがピタリと止まった。

 

「カレンさん! 手取り奪還お疲れ様でした! はい、一番濃厚な炙り味噌&プリプリ身です! あーん!」

 

「なっ……ダメです! これを食したらまたミルカに……んむッ!?」

 

カレン課長の口へ、温泉で茹で上がった極上のロブスターの身と炙り味噌が強引に押し込まれた!

 

(ぷりっ……とろぉぉぉぉっ!!)

 

カレン課長の瞳孔がカッと見開き、掛けていた眼鏡が温泉の蒸気と熱気で一瞬で真っ白に吹き飛んだ。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!???」

 

そのまま、激熱の温泉床の上に膝から崩れ落ちるカレン。

 

「な……何ですかこれは……!? 噛んだ瞬間に、弾力のある身から甘い天然温泉の出汁が溢れ出し……炙られた味噌の濃厚なコクが……舌全体を包み込む……! 温泉に入ったかのように……体全体がポカポカして……思考が……経費の計算が溶けていく……ッ!!」

 

『カレン課長また落ちたアアアアアアwwwwww』

 

『「経費の計算が溶けていく」草wwww』

 

『眼鏡吹き飛んでてワロタwwww』

 

「カレンぇぇぇぇ! 自分だけズルいぞッ! ワシにも食わせろぉぉぉッ!」

 

ギルド長がダイブするようにロブスターのハサミへ飛びつき、大口で味噌をむさぼり食う!

 

「うまあああああいッ! 天国じゃ! ここが神の温泉じゃあああ!」

 

「ギルド長!? ああもう……どうにでもなれです! 私も……私もチェック(2食目)しますッ!」

 

「カレン課長まで吹っ切れたwwww」

 

タナカ課長も横で「う、美味い……胃痛に効く美味さです……」と涙目になりながらプリプリの身を頬張っていた。

 

『手取りゼロ同盟、現地で全員完食wwww』

 

『オークション用食材、また消滅www』

 

『ミルカちゃんの怒りの顔が浮かぶwww』

 

[¥300,000 スパチャ:【冒険者ギルド本部・会計課ミルカ】明朝、課長とギルド長の自腹(減俸10割)の手続きを完了させておきます]

 

「ミルカ様、30万スパチャと減俸10割のお手続きありがとうございます!」

 

「「えぇぇぇぇぇぇっ!???」」

 

悲鳴を上げるギルド長とカレン課長を横目に、イツキたちは特製温泉ロブスター丼を笑顔で堪能。

 

同接は驚異の70万人を突破し、カオスを極めた手取り奪還配信は大爆笑のうちに幕を閉じたのだった。

 

 

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