「——どうも皆さん、こんばんは!『ダンジョン釣り部』のイツキです!」
画面に映し出されたのは、激しい雷鳴と紫色の電撃が絶え間なく走り抜ける超高難易度EX+++ランクダンジョン「雷神の怒り・紫電の絶壁」。
配信開始と同時に、同接数は前人未到の70万人を即座に突破した。
『ついにラスボス参戦キタアアアア!!』
『画面端の威圧感が過去最高で草』
『副ギルド長マジで堅物そうwww』
『イツキの飯テロ(物理)を止められるのか!?』
「本日の案件配信ですが……なんと冒険者ギルド本部から、最後の砦にして『規律の鬼』と呼ばれる副ギルド長バリスさんが現場監督として参戦されています!」
カメラが横にパンすると、そこには腕を組み、軍人のような鋭い眼光で画面を睨みつける初老の男性——副ギルド長バリスが立っていた。
「……冒険者ギルド副ギルド長のバリスだ。ギルド長、カレン、ミルカ、タナカ……情けない部下たちが次々とイツキ君の『食の罠』に落ち、ギルドの財政と威信を失墜させた。だが、ワシは違う」
バリス副ギルド長は胸ポケットから1枚の魔導メモ帳を取り出し、メガネの奥の目を光らせた。
「ワシは過去すべての配信アーカイブを100回熟読し、イツキ君の解体動作パターン、間合い、そして一口目を口に放り込む『不可避の一閃(あーん)』の軌道をすべて分析・予習してきた。本日は全量回収・オークション出品を絶対に達成してみせる!」
『予習してきて草wwwww』
『ガチ対策されててワロタ』
『「不可避の一閃(あーん)」って命名すなwww』
その背後では、手取りゼロ&減俸10割の「手取り全滅組」(ギルド長、カレン、ミルカ、タナカ)が、作業着姿で正座させられていた。
「バリス……無駄だ……あの脂の香りを嗅いだ瞬間、理性が弾け飛ぶのだ……」
「そうです副ギルド長……あの『あーん』は音速を超えてきます……」
「黙りなさい! お前たちが不甲斐ないからワシが出張る羽目になったのだ!」
「では本日のターゲットです! 雷雲の渦の中に潜む伝説の電撃魚『サンダー・ゴールデン・ブリ』です!」
イツキが提示したのは、黄金の鱗から数万ボルトの電流を撒き散らす怪魚の図面だ。
「このブリは体内に蓄えた高圧電流で身が常に低温度加圧調理されており、脂が黄金色に輝く『神の電気たたき』と呼ばれています!」
「ふん、市場価値は金貨2000枚! ガルド殿、および減俸組の諸君、アンカーの配置につきなさい!」
本日のアンカー陣形:
重戦士ガルド、ギルド長、カレン、ミルカ、タナカ。
副ギルド長の完璧な指揮のもと組み上げられた、総重量推定250トンの「規律と執念の超極限アンカー」である。
「仕掛けはこれ! 耐電磁特殊ワイヤーです!……キャストッ!!」
ドバババババババッ!!!!!
紫電の渦へ仕掛けが投入されたその直後、雷鳴とともに体長35メートルの「サンダー・ゴールデン・ブリ」が飛び出した!
「喰ったぁぁぁ! フィーーーーッシュ!!」
ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!
数万ボルトの電撃がワイヤーを伝ってアンカー陣へ襲いかかる!
「ぬおおおおおッ!? 痺れる! 全身が痺れるぞッ!」
「耐えろぉぉぉ! ワシらの手取りぃぃぃぃッ!」
「放電現象を魔法陣で相殺! 引いてください、引き抜くのですッ!!」
副ギルド長バリスの的確な魔法障壁と、ガルドたちの超重量が噛み合い、ついに——!
「引っこ抜くぞぉぉぉぉッ!! サンダー・ブリ引き揚げぇぇぇッ!! ぬんがあぁぁぁッ!!!」
ズドドドドオーーンッ!!
雷雲から引き抜かれた巨魚が、岩場へどっさりと打ち上げられた!
「よし! 捕獲完了! イツキ君、解体に入るな! すぐに——」
(シュパッ!!)
バリス副ギルド長が言い終わるより早く、イツキの『太古の鉄塊剣』が光速で閃いた!
一瞬にして黄金色に輝く至高のハラスが切り出され、イツキの『火竜のバーナー』でサッと表面が炙られる! 瞬間、香ばしい脂と微かな電撃の甘い香りが爆風となって吹き荒れた!
「さあバリスさん! 案件成功おめでとうございます! 出来立ての『神の電気たたき』です! はい、あーん!」
イツキの右腕が、過去すべての役員を撃沈させてきた神速の軌道——『不可避の一閃(あーん)』を描いてバリスの口元へ肉を突き出す!
「……来たな、イツキ君ッ!!」
バリス副ギルド長の目がカッと見開かれた!
「予習通り……肘の引きから手首のスナップまでのタイム、わずか0.08秒! だが——ワシには見えているッ!!」
ガキィィィィィンッ!!!!!
甲高い金属音がダンジョン内に響き渡った。
「「「な……なにぃぃぃぃぃぃッ!?!?」」」
ギルド長、カレン、ミルカ、タナカが同時に目を剥いた。
なんと、バリス副ギルド長は懐から取り出した『極厚の魔導封印トング』を間一髪で交差させ、イツキの箸(肉)をミリ単位で完璧にブロックしていたのだ!
『防いだアアアアアアアアアwwwwww』
『マジで防いだwwwwww』
『あーんをガードした男キタアアアア!!』
『ギルド側初勝利wwwwwwww』
「な、なにっ!? 僕の『あーん』が防がれた!?」
イツキが驚愕の声を上げる。バリス副ギルド長は冷や汗をダラダラと流しながらも、トングで肉を挟んだままニヤリと勝利の笑みを浮かべた。
「ふ……ふははは! 見たかイツキ君! ワシの動体視力と予習の成果を! この肉はいただく前に……速やかにこの『耐魔真空アタッシュケース』へ……封印するッ!!」
パタンッ!!
炙り立てのサンダー・ゴールデン・ブリのハラスが、厳重にロックされたアタッシュケースの中へと格納された。
『うおおおおおお! 封印成功!!』
『ギルド本部、ついに悲願の全量回収www』
『副ギルド長かっこよすぎるだろww』
「や……やった……! やりましたぞ! ギルドの勝利だぁぁぁぁッ!!」
バリス副ギルド長がケースを高く掲げて歓喜の声を上げる。
……しかし。
「……あれ? 副ギルド長……トングの先端、指についてませんか?」
タナカ課長がぽつりと呟いた。
「ぬ? 何を……」
バリス副ギルド長が自分の右手の指先を見た。
ブロックした際、トングの持ち手を通じて、炙り立てのハラスから溢れ出た黄金の脂が、ほんのわずか——ほんの一滴だけ、バリスの親指に付着していたのだ。
そして、その指先から立ち上る微かな熱気と、焦がし醤油の至高の香り。
(じゅわぁぁぁ……)
「あ……」
バリスの動きが止まった。
「あ、ダメです副ギルド長! 指を見ちゃダメです!!」カレンが叫ぶ。
「指を舐めたら終わるぞバリス!!」ギルド長が叫ぶ。
「無念……ワシは……ワシは勝ったのだ……勝ったのだから……この付着した脂を拭き取るために……無駄にしないために……ほんの……ほんの舐める程度なら……ッ!」
バリス副ギルド長は、吸い寄せられるように自分の親指をペロッと舐めた。
(ビリビリッ……トロォォォォっ!!)
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!???」
次の瞬間、バリス副ギルド長の瞳孔がカッと見開き、バシッと掛けていたメガネのレンズが両方とも粉々に弾け飛んだ。
「な……なんじゃこの旨味はぁぁぁぁぁぁッ!? 舌の上で微かな電撃がパチパチと弾けた瞬間、黄金の脂が爆発して脳髄を直接加熱してくるぞぉぉぉぉッ!! 脂一滴で……指先の一滴だけで……ワシの規律が破滅していくぅぅぅぅっ!!」
『指舐めて全滅したアアアアアアwwwwww』
『メガネ粉砕演出きちゃー!!wwww』
『初勝利わずか5秒で崩壊wwww』
『結局全滅で草wwwwww』
バリス副ギルド長は膝から崩れ落ちると、狂ったようにアタッシュケースのダイヤルを解除し始めた。
「開けろ! 開けるのだッ! 中の本体を……本体をワシの口に叩き込めぇぇぇぇッ!! イツキ君、バーナーだ! バーナーで追い炙りを頼むぅぅぅっ!!」
「はい! 追い炙り入ります!」
「「「副ギルド長も駄目だったぁぁぁぁッ!!」」」
こうして、「初勝利」を挙げたはずの副ギルド長も秒で完落ち。
最後は役員全員でアタッシュケースを囲み、極上の『神の電気たたき丼』を涙目になりながら完食する大宴会となった。
同接は前代未聞の100万人を突破。
ギルド本部が完全に崩壊した伝説の第6回配信は、歴史的な大爆笑のうちに幕を閉じたのだった。