ダンジョン釣り部   作:サンデン

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ゴット・エンペラー・タイ

「——どうも皆さん、こんばんは!『ダンジョン釣り部』のイツキです!」

 

画面に映し出されたのは、空間全体が巨大な魔導水晶で埋め尽くされた史上最悪の超難易度GODランクダンジョン「神々の饗宴・水晶の深淵」。

 

配信開始からわずか10秒で、同接数は驚異の120万人を軽々と突破していた。

 

『手取りマイナス組総出演キタアアアア!!』

 

『今日の役員陣、顔つきが違いすぎるwww』

 

『全員目が完全に「死」を通り越して「覚悟」になってて草』

 

『ギルド本部、ついに背水の陣ww』

 

「本日の配信ですが……冒険者ギルド本部から、幹部全員がお越しになっています!」

 

カメラが横にパンすると、そこには異様な光景が広がっていた。

 

作業着の鉢巻をしめ、涙目で腕を組むギルド長。

 

魔導電卓のボタンを爆速で叩きながら血走った目をするカレン課長。

 

魔導タブレットを握り締め、般若のような顔をしたミルカちゃん。

 

そして、壊れたメガネをテープで補修し、両手で巨大な『魔導油圧式・完全超密封バケツ』を抱える副ギルド長バリス。

 

「……本日、ここに集いし者は全員『手取りマイナス(減俸12割&労働奉仕)』の極限状態にある」

 

副ギルド長バリスが、かすれ声で重々しく宣言した。

 

「ギルド本部の金庫は底をつき、ワシらは全員、私財をすべて競りの穴埋めに差し出した。……これ以上の失敗は、ギルド本部の破産と全員の解雇を意味する。本日こそ……本日こそは1ミクロンの脂も舐めず、完全全量回収・初勝利を掴み取るッ!!」

 

「「「おおおぉぉぉぉぉッッ!!!」」」

 

幹部全員の血を吐くような雄叫びがダンジョン内にこだまする。

 

『覚悟の決まり方がエグいwwww』

 

『全員手取りマイナスは草wwww』

 

『「1ミクロンの脂も舐めず」でワロタ』

 

「よーし! 本日のターゲットを発表します! 100年に一度しか現れない伝説の神聖魚『ゴッド・エンペラー・タイ』です!」

 

イツキが提示したのは、虹色に輝く鱗を持ち、全身が極上の白身と出汁で満たされた「神の真鯛」の図面だ。

 

「このタイの身は『神々の祝宴の鯛』と呼ばれており、刺身にした瞬間に周囲の空気が極上の出汁の香りで満たされ、食べた者はあまりの美味さに涙が止まらなくなると言われています!」

 

「ふん……市場価値は50億円! ワシらの全手取りとギルド本部の存続がかかっておる! 全員、究極陣形を組むのだッ!」

 

本日のアンカー陣形:

 

重戦士ガルド、ギルド長(マイナス)、カレン(マイナス)、ミルカ(マイナス)、バリス(マイナス)、タナカ(マイナス)。

 

全員の生き残り(手取り)を賭けた、総重量推定300トン「背水の手取り奪還超絶アンカー」である。

 

「仕掛けはこれ! 神聖特製オキアミ!……キャストッ!!」

 

ズドォォォォォンッ!!

 

深淵へラインが投げ込まれた直後——

 

ドカァァァァァンッ!!!!!

 

ダンジョン全体が崩落しかけるほどの超巨大な地鳴り! 虹色の後光を背負い、体長50メートルを超える「ゴッド・エンペラー・タイ」が跳ね上がった!

 

「喰ったぁぁぁ! フィーーーーッシュ!!」

 

ギャギャギャギャギャギャギャッ!!!

 

「ぬおおおおおッ!? 空間の重力が狂うぞッ!」

 

「手取りぃぃぃぃ! ワシらの……ワシらの人権を取り戻せぇぇぇぇッ!」

 

「50億ぇぇぇん! 逃がしません! 絶対に渡しませんッ!!」

 

手取りマイナス全員の悲壮な叫びが爆発! 300トンアンカーが水晶の地盤を削り取り、血吐く思いで巨大タイを引き寄せる!

 

「引き抜くぞぉぉぉぉッ!! 120万人パワー&魂の引き揚げぇぇぇッ!! ぬんがあぁぁぁッ!!!」

 

ズドドドドオーーンッ!!

 

深淵から引き抜かれた神聖なる巨魚が、結晶の広場へどっさりと打ち上げられた!

 

「やった……! 捕獲完了!!」

 

「全軍ッ! イツキ君の『あーん』が来る前に動くのだッ!!」

 

バリス副ギルド長が絶叫するのと同時に、イツキの『太古の鉄塊剣』が光速で閃いた!

 

(シュパッ!!)

 

一瞬にして虹色に輝く最高の「タイの昆布締め刺身」が切り出され、イツキの右腕が過去最大の速度で繰り出される!

 

「さあ皆さん! 完食おめでとうございます! 最高級の『神々の祝宴の鯛』です! はい、あーん!」

 

神速の『不可避の一閃(あーん)』が幹部たちの口元へ迫る!

 

しかし——今日の幹部たちは違った。

 

「行くぞカレン! ミルカ! バリスッ!!」

 

「「「『超極限・手取りガード陣形』ッ!!!!」」」

 

ガキガキガキガキィィィィンッ!!!!!

 

なんと、ギルド長が盾になり、カレンとミルカが魔導障壁を二重に張り、バリス副ギルド長が『魔導油圧式・完全超密封バケツ』を開いて一瞬で受け止め、パチンと蓋をロックしたのだ!

 

「「「……え!?」」」

 

イツキも、視聴者も、ガルドも一瞬呆然とした。

 

「やった……? 刺身を……一口も食わずに……バケツに封印した……!?」

 

バケツの中からは、超密閉を通り抜けて微かに漏れ出る『神の鯛』の至高の香ばしい出汁の香りが漂ってくる。

 

(ジュワァァァ……ふわぁぁぁ……)

 

その香りを嗅いだ瞬間、ギルド長、カレン、ミルカ、バリス、タナカの5人は、ダラダラと大粒の涙を流し始めた。

 

「う、うぅ……美味そう……! バケツの隙間から香る出汁の匂いだけで……口の中に唾液が溢れ出て……今すぐ蓋を開けてかぶりつきたい……ッ!」

 

「食べたい……! 1切れでいいから……醤油をつけて口に放り込みたい……ッ!」

 

あまりの匂いと食欲の暴風に、全員が胃を抑えて悶絶し、ポロポロと涙を溢れさせている。

 

だが——彼らは蓋を開けなかった。

 

「だ……ダメだッ! 蓋を開けたら……開けたらまた全滅するッ! ワシらの手取りが……来月の飯が……完全に消えるのだぁぁぁぁッ!!」

 

バリス副ギルド長は涙と鼻水を垂らしながら、自分の体をバケツに覆いかぶせ、鍵を三重にロックした!

 

「よく耐えたバリス……ッ! 涙を拭け……ワシらの……ワシらの勝ちだぁぁぁぁぁっ!!」

 

ギルド長がバリスの肩を抱き、二人で号泣する。

 

カレン課長も、ミルカちゃんも、タナカ課長も、互いの健闘を称え合い、涙を流しながら抱き合った。

 

『えぇぇぇぇぇっ!? ガチで封印成功したwwww』

 

『涙流しながら耐えてて草wwwwww』

 

『ギルド本部、地獄の執念で初勝利wwwwww』

 

『食べたいのに耐えて号泣してるの最高にシュールwww』

 

「す、すごい……! 僕の『あーん』を完全に防御して、そのまま封印しちゃいました……!」

 

イツキが心底感心したように拍手を送る。

 

「フハハハ……! 見たかイツキ君! これが……これが手取りを失った人間の『執念』だッ! 本日の食材はすべて無傷でオークションへ出品する! ワシらの手取りは……手取りは戻ってくるのだぁぁぁぁっ!!」

 

[¥1,000,000 スパチャ:【冒険者ギルド本部・全会計課一同】初勝利おめでとうございます!! 減俸処分を取り消し、全員の手取りを本日付で全額戻します!!]

 

「「「うおおおおおおお最高だぁぁぁぁぁっ!!!(感涙)」」」

 

歓喜の叫びがダンジョン内に響き渡り、役員全員がバケツを抱えて踊り狂った。

 

同接は前人未到の150万人を達成。

 

「完敗です! ギルド本部の皆さん、本当におめでとうございます!」

 

イツキの笑顔と、涙と鼻水でグチャグチャになりながら勝利の勝ち鬨を上げるギルド幹部たちの姿が映し出され、全7回にわたる「ギルド本部VSイツキの胃袋」の死闘は、ギルド側の感動的(?)な完全初勝利という伝説の結末で幕を閉じたのだった。

 

 

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