日本のトップパーティ、Sランク冒険者チーム『暁の旅団』のクランハウス。
重厚な革張りソファに深々と腰掛け、大型モニターを眺めていた男——Sランク冒険者ランキング2位の重戦士ガルドは、手にしていたプロテインシェイカーを思わず取り落としそうになっていた。
「おい、アリス……俺の目が狂ったのか? 画面の中でグラインダーを振り回してるあの男、元『深淵の死神』のイツキだよな……?」
「間違いなくイツキさんですね」
隣でタブレットを操作していたSランク魔法使いの少女アリスが、冷めた紅茶をすすりながら淡々と答える。
画面の中では、かつて一人で最難関ダンジョンの階層主(ボス)を爆速で屠り、「人類最強の前衛」とまで恐れられた伝説の男が、爽やかな笑顔で火花を散らしていた。
チュイーン! バリバリッ!!
『よし、皮が剥けました! 見てください皆さん、この身を!』
「『よし』じゃねえよ! なんだあの手慣れた解体作業は!?」
ガルドは頭を抱えた。
「クリスタル・ガーだぞ!? Aランクパーティが5人がかりで重魔法と爆薬を使って、ようやく皮膚にヒビを入れるレベルの超硬質モンスターだぞ! それを……グラインダーで筋を入れて、ただの鉄塊剣でメキメキ引っぺがすだと!?」
「あの大剣、イツキさんが現役時代にオリハルコン・ゴーレムを一撃で粉砕するのに使っていた『太古の鉄塊剣』ですね。重量300キロ超です。それを刃物代わりに使う精密な筋力コントロール……相変わらず頭がおかしい(褒め言葉)です」
「筋力コントロールの使い方を盛大に間違えてんだよ!!」
ガルドの叫び声がリビングに響き渡る。
その時、クランハウスの扉がガチャリと開き、背中に巨大な弓を背負ったSランク弓術士の女性ルナが入ってきた。彼女はモニターを一瞥するなり、フッと呆れたような笑みを漏らした。
「相変わらずね、あの釣りバカは」
「ルナ、お前知ってたのか!?」
「知るも何も、この前『ドラゴンの髭』を譲ってくれって頼まれたからあげたのよ。『いい極太ラインが作れそう』って言ってたわ」
「お前があの狂気の一端を担ってたのかよ! ドラゴンの髭って国宝級の弓弦素材だぞ!?」
「いいじゃない、本人が楽しそうなんだから。それより見てみなさいよ、あの身」
ルナがモニターを指さす。
グラインダーと鉄塊剣によって強引に剥ぎ取られた外皮の下から現れたのは、半透明で七色に揺らめく、奇跡のように美しい白身だった。
イツキがそれを手際よく薄切りにし、醤油をつけて口に運ぶ。
『食感はフグ以上! 噛んだ瞬間、旨味が爆発します!』
「……」
リビングに一瞬の静寂が訪れた。
ガルドがゴクリと唾を飲み込む。
「……美味そうだな」
「ええ、すごく美味しそう」
「ギルドの鑑定でも無毒で超高濃度の魔力包蔵体だって出てますね。疲労回復と魔力上限の恒久上昇効果が期待できるかと」
アリスが真顔でデータを補足する。
三人のSランク冒険者は顔を見合わせた。自分たちが日々命をかけて潜るダンジョンの最深部。そこには「討伐対象のバケモノ」ではなく、「極上の食材」が泳いでいるのだ。
「……ねえ、ガルド」
ルナが引き締まった笑みを浮かべた。
「次の遠征、翡翠洞の地下湖に変更しない?」
「決定だな。俺がクリスタル・ガーを押さえつける。ルナが射抜いて、アリスが氷結魔法で絞めるぞ」
「了解です。……あ、でも待ってください」
アリスが画面を指さした。
配信内のイツキが、画面に向かって朗らかに注意喚起をしている。
『皆さんは真似しないでくださいね、Aランク相当の怪力がないと返り討ちに遭いますから!』
「「「誰に向かって言ってんだ」」」
Sランク三人衆のハモりが、夜のクランハウスに虚しく響き渡った。