「——どうも皆さんこんばんは!『ダンジョン釣り部』へようこそ!」
青空と白い雲が足下に広がる絶景。
高層階層の特殊ダンジョン「天空の空中庭園・外縁部」から、イツキの配信がスタートした。
画面の背景には、強風に吹き晒されながら必死に足を踏ん張る重戦士ガルドと、風よけのバリアを張っているアリスの姿が映り込んでいる。
コメント欄は配信開始直後から大荒れだった。
『出たwwww空中庭園www』
『足元スカスカで怖すぎるだろ』
『ガルドニキ、やっぱり重り(アンカー)として連れてこられてて草』
『今日のターゲットは??』
「今日のターゲットはズバリ! 空中庭園の雲海を泳ぐ伝説の魚『天空スカイサーモン』です! 体長4メートル、全身が極上の脂に包まれた『空飛ぶトロ』! ただし、この強風と無重力に近い環境で釣り上げるのは至難の業です!」
「イツキ……一応確認するが、俺の今日の役割はなんだ?」
ガルドが鎧をガタガタ言わせながら尋ねる。
「はい! 今日のガルドさんは『重り兼・風避けアンカー』です! 落ちたら10,000メートル下まで真っ逆さまなので、ガルドさんの足元に俺の体をワイヤーで固定します!」
「知ってた!!」
『知ってたwwwwww』
『期待を裏切らない重り担当』
『落ちたら即死の釣り場草』
「では、キャストします! 今日の餌は、上層で捕まえた『黄金フライ(巨大ハエ)』です!」
シューーーッ……ポチャン!(雲海に落ちる音)
雲海の中に浮きが沈む。強風が吹き荒れ、カメラが激しく揺れる中、静寂が訪れる。
数分後——
ドゴォォォォンッ!!!
雲海が爆発するように割れ、巨大な銀色の魚体が飛び出した!
背びれが翼のように広がり、雲を切り裂いて空を舞う!
「喰ったあああ! フィーーーーッシュ!!」
ギギギギギギギギッ!!
一瞬でドラグが悲鳴を上げ、イツキの体が浮き上がった!
しかし、イツキの腰とガルドの重鎧は頑丈なワイヤーで繋がれている!
「ぬおおおおおっ!?」
ガルドの巨体が『ズルッ』と崖の縁(ふち)まで滑った!
「重り役ぅぅぅ!! しっかり踏ん張ってください!!」
「無茶言うなバカ! 風圧と引きのダブルパンチで体が浮きそうなんだよ!! アリス! 重力魔法!!」
「了解です! 『超重力(メガ・グラビティ)』!!」
ドズゥゥゥン!!
アリスの魔法でガルドの体重が一時的に10トンに変化。岩盤に足がめり込み、なんとかギリギリで踏みとどまる!
『10トンのガルドニキ耐えたwww』
『絵面が完全に災害現場』
『空中サーモンの引きヤバすぎだろ』
「よし! 足場は完璧! 抜き上げますよッ……ぬんがああああっ!!」
イツキがドラゴンのヒゲのラインを両手で手繰り寄せ、腕力任せに竿を煽る!
雲海から一直線に飛び出したのは、輝く大トロの魚体を持つ『天空スカイサーモン』!
ドサァァァンッ!!
「獲ったぁぁぁ! スカイサーモン、ゲットです!!」
『うおおおおおマジで釣った!!』
『デカすぎwwww』
『スカイサーモンゲット!!』
「アリスさん! 雲海の湿気で表面がぬめってるので、風魔法で一気に水分を飛ばして表面を締めてください!」
「任せてください。『真空乾燥(ドライ・ブリーズ)』!」
アリスの風魔法によって水分が吹き飛び、締まった「天空トロ」の美しいオレンジの身が露わになった。
イツキは手際よく『太古の鉄塊剣』を振るい、巨大な大トロのブロックを切り出す。
「さあ! 醤油をつけて……いざ、天空の大トロ刺身です!」
イツキ、ガルド、アリス、ルナの四人が一斉に刺身を口に運ぶ。
もぐもぐ……。
「「「「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!??」」」」
全員の動きが止まった。
『どうだ!?』
『味は!?』
「な……なんだこれ……舌の上に乗せた瞬間、脂がサーッと溶けてなくなっちゃった……!?」
ガルドが呆然と呟く。
「生臭さが一切ない……まるで口の中で消える『最高級のバター』です……!」
アリスが目を丸くして感動の声を漏らし、ルナも「うそ……美味しすぎる……」と涙目になっている。
イツキが興奮気味にカメラに向かって叫んだ。
「皆さん! 空中庭園のサーモンは伊達じゃありません! 脂の質が軽すぎて、いくらでも食べられます! 白飯……誰か白飯を持ってきてくれぇぇぇ!!」
『白飯叫ぶ配信者草』
『溶ける大トロヤバすぎる』
『ガルドニキが完全に味わい尽くしててワロタ』
[¥100,000 スパチャ:【暁の旅団・ガルド】来週も重り役やるから絶対誘えよ!!!]
「ガルドさん、また10万スパチャありがとうございます(笑)!重り役の固定枠決定ですね!」
『重り役の固定枠wwww』
『Sランク2位の扱いじゃないww』
『神回だったわww』
こうして、高空10,000メートルでの命がけのサーモン釣り配信も、大爆笑と絶品の満足感のうちに幕を閉じたのだった。