少年と神様   作:猫シャツ

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今回の話はバディファイト側からあるモンスターが出てきます。クロスオーバー要素は基本カード関係です


第1話 時の迷い子

夕方。

 

運命大戦を終え、妹・ヒカリに元気になって欲しいと言う願いを叶えた明導アキナは、ヒカリと一緒に帰路についていた。

 

以前とは違う。

 

ヒカリの身体は、もう以前ほど病弱ではない。

 

それでもアキナにとって、妹を気にかけることは変わらない。

 

「お兄ちゃん。」

「ん?」

 

「今日、ちょっと寄り道して帰らない?」

 

「いいけど……疲れてないか?」

 

「大丈夫だよ。」

 

「そっか。」

 

ヒカリの笑顔を見て、アキナも微笑む。

 

その時だった。

 

空間が、一瞬だけ歪んだ。

 

「……?」

 

「お兄ちゃん?」

 

「今……何か聞こえなかった?」

 

「ううん……」

 

アキナは周囲を見る。

 

しかし、何もない。

 

「……気のせいか。」

 

二人が歩き出した、その直後。

 

少し離れた場所。

 

草むらの向こうに――

 

誰かが倒れていた。

 

白い髪。

 

頭から伸びた獣の耳。

 

そして――

 

尻尾。

 

「……お兄ちゃん。」

 

「どうした?」

 

ヒカリが指差す。

 

「あそこ……誰かいる。」

 

「……!」

 

アキナはすぐに駆け寄った。

 

そこに倒れていたのは、見知らぬ少年だった。

 

「大丈夫か!?」

 

少年は答えない。

 

アキナがしゃがみ込み、呼吸を確認する。

 

「……息はある。」

 

ヒカリもそばへ来る。

 

「男の子……だよね?」

 

「ああ」

 

そして二人は、少年の姿を改めて見る。

 

白い髪。

 

獣の耳。

 

尻尾。

 

「……お兄ちゃん。」

 

「うん。」

 

 

「耳……」

 

「……耳だな。」

 

「尻尾も……」

 

「……あるな。」

 

二人とも、しばらく黙る。

 

だが――

 

「……今はそれより、この子をどうするかだ。」

 

「うん。」

 

アキナは迷わなかった。

 

「家に連れて帰ろう。」

 

「いいの?」

 

「倒れてる人を置いていくわけにはいかないだろ。」

 

「……うん。お兄ちゃんらしいね。」

 

「そういう言い方するなよ。」

 

そう言いながら、アキナは少年を抱き起こす。

 

明導家

 

その後。

 

少年は明導家へ運ばれた。

 

しばらくして――

 

少年の瞼が動く。

 

「…………」

 

ゆっくり目を開ける。

 

知らない天井。

 

「……ここ……」

 

身体を起こそうとする。

 

だが――

 

「……っ」

 

まだ身体が重い。

 

そこへ声がした。

 

「あ、起きた!」

 

「……!」

 

振り向く。

 

そこには、見知らぬ少女。

 

「大丈夫?」

 

 

「……君は……?」

 

「私は明導ヒカリ。」

 

少し笑ってヒカリが自分の名前を答える。

 

「あなたは?」

 

「……僕は……ユウ。」

 

「ユウくん?」

「うん。」

「名字は?」

「……ないよ。」

 

「え?」

 

「僕には、名字はない。」

 

ヒカリは少し驚いたが、深く聞かなかった。

 

「そっか。」

 

そこへアキナが入ってくる。

 

「起きたか。」

 

「……!」

 

ユウは警戒する。

 

アキナはそれに気づき、少し距離を取った。

 

「怖がらなくていい。俺は明導アキナ。」

 

「……明導……アキナ。」

 

「ああ。こっちは妹のヒカリ。」

 

「よろしくね、ユウくん。」

 

「……よろしく。」

 

「俺たちは、倒れてる君を見つけたんだ。」

 

「倒れて……?」

 

「ああ。怪我は大きくないみたいだけど、しばらく休んだ方がいい。」

 

「……ありがとう。」

 

「礼はいいって。」

 

ユウは二人を見る。

 

知らない人。

 

知らない場所。

 

だが――

 

不思議と嫌な感じはしなかった。

 

「……僕は、どうしてここにいるんだろう。」

 

「……分からないのか?」

 

「うん。」

 

ユウは自分の胸元を見る。

 

「気がついたら、あそこにいた。」

 

「そうか……」

 

「じゃあ、記憶がないの?」

 

「全部じゃない。でも……どうやってここへ来たのかは分からない。」

 

「……」

 

アキナは少し考える。

 

そして――

 

「分かった」

 

「?」

 

「しばらくここにいていい。」

 

「……え?」

 

「帰る場所が分からないなら、探せばいい。それまではここにいればいい。」

 

「でも……」

 

「気にするなって。」

 

「そうだよ。お兄ちゃん、こういう時は絶対放っておけないから。」

 

「ヒカリ……」

 

「ふふっ」

 

ユウは二人を見つめる。

 

そして小さく笑った。

 

「……ありがとう。」

 

夜

 

家の中が静かになった。

 

ヒカリも眠りにつき、アキナも自室へ戻っている。

 

ユウだけが、まだ眠れずにいた。

 

窓の外を見る。

 

「…………」

 

月。

 

知らない街。

 

知らない世界。

 

「僕は……どこから来たんだろう。」

 

その時――

 

「……」

 

部屋の隅で何かが動いた。

 

「……?」

 

ぬいぐるみ。

 

……のようなもの。

 

丸っこい身体。

 

小さな翼。

 

小さな角。

 

そして――

 

タイムルーラー・ドラゴン。

 

ただし今の姿は、本来の巨大な神竜とはかけ離れた、ぬいぐるみのようなSD姿だった。

 

「…………」

 

「……?」

 

タイムルーラーは、こっそり部屋へ入ってくる。

 

「余がこのような姿になるとは……」

 

小さく息を吐く。

 

「……しかし、今はこれでよい。」

 

「……君。」

 

「!」

 

「誰?」

 

「……」

 

少し間を置いて。

 

「余は――」

 

タイムルーラーはユウを見る。

 

「時の神。タイムルーラー・ドラゴン。」

 

「……時の神?」

 

「そうだ。」

 

「……」

 

ユウは驚くよりも、妙に納得していた。

 

「君も……僕と同じなの?」

 

「……?」

 

「ここじゃない場所から来たような感じがする。」

 

「…………」

 

タイムルーラーは黙った。

 

その言葉が、胸に刺さる。

 

――あの時。

 

――神宮時 計と共に進めた計画。

 

――あれは、本当に正しかったのか。

 

「……余は、考えていた。」

 

「何を?」

 

「余と……余のバディであった神宮時計(男)が進めた計画についてだ。」

 

「……」

 

「余たちは、世界を変えようとした。」

 

「それが正しいと信じていた。」

 

「だが――」

 

タイムルーラーの声が、少しだけ沈む。

 

「……果たして、あれは本当に正しかったのか。」

 

「……」

 

「余は敗れた」

 

「友牙とガルガ(少年と闘いの神)に。」

 

「そして――」

 

タイムルーラーは自分の小さな手を見る。

 

「余だけが、この世界に取り残されたようなものだ。」

 

「……」

 

ユウはしばらく黙っていた。

 

そして――

 

「僕には、計画が正しかったかどうかは分からない。」

 

「……」

 

「でも」

 

ユウはタイムルーラーを見る。

 

「後悔してるなら……これからどうするかを考えてもいいんじゃないかな。」

 

「……これから、か」

 

「うん」

 

その時。

 

扉が開く。

 

「……ユウ?」

 

「!」

 

「!」

 

「起きてたのか?」

 

そしてアキナの視線が――

 

ユウの横にいる小さな存在へ向く。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……何?」

 

「…………」

 

「それ、ぬいぐるみ?」

 

「余はぬいぐるみではない!」

 

「喋った!?」

「……やっぱり驚くよね。」

 

「いや、そりゃ驚くだろ!」

 

「……」

 

「ガブみたいなのがいると思ったら……」

 

アキナは頭を抱える。

 

「なんで俺の家には、こういうのが次々来るんだ……」

 

「……ガブ?」

 

「いや、こっちの話。」

 

タイムルーラーは少し気まずそうに視線を逸らす。

 

「……見つかってしまったか。」

 

「最初から隠れてる意味あったのか?」

 

「大いにある。」

 

「そうか……」

 

そしてアキナはユウを見る。

 

「ユウ。」

 

「うん?」

 

「こいつ、知り合いなのか?」

 

「今日、初めて会った。」

 

「……今日初めて?」

 

「そうだ。」

 

「じゃあ、なんでここに?」

 

「それは――」

 

タイムルーラーはユウを見る。

 

「余にも分からぬ。」

 

「……そっか。」

 

アキナは少し考える。

 

そして――

 

「まあ……」

 

「ユウを傷つけるつもりがないなら、今はいい。」

 

「……」

 

「ただし、何か分かったらちゃんと話してくれ。」

 

「……承知した。」

 

「お兄ちゃん?」

 

廊下から声。

 

「ヒカリ?」

 

ヒカリが眠そうに顔を出す。

 

「どうしたの……?」

 

そしてタイムルーラーを見る。

「…………」

 

「…………」

 

「……かわいい。」

 

「…………」

 

「……だってさ。」

 

「余は神であるぞ……」

 

「うん。でもかわいい。」

 

「……ふふっ」

 

「ユウまで笑うでない!」

 

明導家の夜に、小さな笑い声が響いた。

 

その頃。

 

誰も知らない場所で――

 

タイムルーラーは再び窓の外を見る。

 

「……神宮時計。」

 

「余の選択は……」

 

「本当に間違っていたのか」

 

そして隣を見る。

 

そこには、眠そうな顔をしながらも穏やかに笑うユウがいる。

 

「……あるいは。」

 

「別の時を歩むことで、答えが見つかるのかもしれぬな。」

 

月明かりが、二人を静かに照らしていた。

 

――第1話・終。

 

 

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