少年と神様   作:猫シャツ

4 / 5
取り敢えず出来る限りストックを消化しておこうと言うことで投稿


第2話「カードショップへ」

明導家。

 

朝。

 

柔らかな朝日が差し込む部屋の中で、ユウは鏡の前に立っていた。

 

今日の服装は、これまで学校で着ていた制服とは違う。

 

白を基調とした、軽快な私服。

 

青いラインの入った白いフード付きベスト。その下には黒いインナーを合わせ、腰にはいくつものベルトが巻かれている。

 

白と青を基調にしたショートパンツ。

 

手には黒いフィンガーレスグローブ。

 

足元には白と青のブーツ。

 

そして、頭の上には青いレンズのゴーグル。

 

白い髪。

 

その間から伸びるケモ耳。

 

背中側では、大きな白い尻尾がゆっくりと揺れている。

 

ユウは鏡の中の自分を眺め、少し首を傾げた。

 

「……これでいいかな。」

 

左右を確認する。

 

「……ちょっと派手かも。」

 

そう呟いた、その時。

 

コンコン。

 

扉がノックされた。

 

「ユウ、準備できたか?」

 

聞き慣れた声。

 

「アキナ?」

 

「そう。」

 

「うん、できたよ。」

 

ユウが扉を開ける。

 

そこにはアキナとヒカリが立っていた。

 

二人はユウの姿を見た瞬間、言葉を止める。

 

「……」

 

「……」

 

「……?」

 

ユウが不思議そうに二人を見る。

 

「どうしたの?」

 

先に口を開いたのはアキナだった。

 

「……似合ってるな。」

 

「本当?」

 

「ああ。動きやすそうだし。」

 

その隣で、ヒカリがぱっと笑顔になる。

 

「かわいい!」

 

「かわ……」

 

ユウのケモ耳が、ぴくっと動いた。

 

ヒカリの目が輝く。

 

「今、耳動いたよ!」

 

「……それはもういいから。」

 

ユウが少し恥ずかしそうに顔を逸らす。

 

アキナは思わず笑った。

 

「ははっ」

 

「もう……」

 

「でも、本当に似合ってるよ、ユウくん。」

 

「……ありがとう。、」

 

ユウは照れながら、頭の上のゴーグルを少し直した。

 

その表情は、以前よりずっと自然だった。

 

「それで、今日はどこに行くの?」

 

朝食を終え、家を出る準備をしながらユウが尋ねる。

 

アキナは答えた。

 

「カードショップ。」

 

「カードショップ?」

 

「うん。」

 

ヒカリも頷く。

 

「今日は街を案内してあげようって、お兄ちゃんが。」

 

「そういうこと。」

 

アキナはユウを見る。

 

「ユウ、まだこの世界のことをほとんど知らないだろ?」

 

「うん。」

 

「だから、まずは色々見て回ろうと思ってな。」

 

そして少し間を置く。

 

「それに――」

 

アキナが笑った。

 

「カードゲーム、やったことあるか?」

 

ユウは少し考え込む。

 

「……少しだけ。」

 

「なら、実際にカードを見てみるのもいいと思う。」

 

「分かった。」

 

ヒカリが楽しそうに尋ねる。

 

「お兄ちゃん、今日はファイトするつもり?」

 

「ユウがやりたいならな。」

 

ユウは少し考えた。

 

そして――

 

「……僕も、やってみたい。」

 

アキナは嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ決まりだな。」

 

「うん!」

 

三人は街へ向かった。

 

歩きながら、ユウは何度も周囲を見回していた。

 

高層ビル。

 

巨大なディスプレイ。

 

人々が行き交う大通り。

 

そして、街のあちこちに存在するカードショップ。

 

さらに、店の前や広場では、実際にカードファイトを楽しんでいる人たちの姿まで見える。

 

「……すごい。」

 

ユウが足を止める。

 

ヒカリが振り返った。

 

「初めて見る?」

 

「うん」

 

ユウは周囲を見渡す。

 

「カードゲームが、こんなに普通に街の中にあるんだ。」

 

「ヴァンガードは結構人気だからな。」

 

アキナが答える。

 

「ヴァンガード……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

ユウの視界が、一瞬だけ揺らいだ。

 

――巨大な竜。

 

――時計。

 

――無数のカード。

 

――時間。

 

そして。

 

『余は――』

 

「……っ」

 

ユウは思わず立ち止まった。

 

「ユウ?」

 

アキナの声で我に返る。

 

「……ううん。なんでもない。」

 

「そうか?」

 

「うん。」

 

ヒカリが心配そうにユウを見る。

 

「無理しないでね、ユウくん。」

 

「ありがとう。」

 

ユウは微笑んだ。

 

記憶は戻らない。

 

何を見たのかも分からない。

 

ただ――胸の奥に、何かが残っている。

 

やがて三人は目的のカードショップへ到着した。

 

扉を開ける。

 

店内には、様々なカードが並んでいた。

 

ブースターパック。

 

構築済みデッキ。

 

カードスリーブ。

 

デッキケース。

 

そしてショーケースの中には、数え切れないほどのカード。

 

ユウの目が大きく開く。

 

「……!」

 

その表情を見て、ヒカリが微笑んだ。

 

「ユウくん、カード見るの好き?」

 

「うん。」

 

ユウは素直に答える。

 

「……なんだか、見てるだけでも楽しい。」

 

「じゃあ、ゆっくり見ていいぞ。」

 

アキナが言う。

 

「ありがとう、アキナ。」

 

ユウは店内を歩き始めた。

 

ドラゴン。

 

騎士。

 

魔法。

 

様々なユニットたち。

 

一枚一枚を眺めながら、ユウは不思議な感覚を覚えていた。

 

「……ドラゴン、多いね。」

 

「そうだな。」

 

「……」

 

ユウの足が止まる。

 

ショーケースの中。

 

そこには、一枚の竜のカードが飾られていた。

 

「……」

 

ユウはじっとカードを見る。

 

「どうしたの?」

 

ヒカリが尋ねる。

 

「……なんだろう。」

 

ユウは自分の胸に手を当てた。

 

「このカードを見ると……少しだけ懐かしい気がする。」

 

アキナもカードを見る。

 

「……」

 

だが、ユウ自身には何が懐かしいのか分からない。

 

「でも、何を思い出しそうなのかは分からない。」

 

アキナは少しだけ考えた後、優しく言った。

 

「……焦らなくていい。」

 

ユウがアキナを見る。

 

「そのうち思い出すかもしれない。」

 

「……うん。」

 

ユウは小さく頷いた。

 

「ありがとう。」

 

その時だった。

 

店内の奥から声が聞こえてきた。

 

「スタンド!」

 

「ドライブチェック!」

 

カードファイトの音。

 

ユウが振り返る。

 

その瞬間――

 

胸の奥が、またざわめいた。

 

「……」

 

「ユウくん?」

 

ヒカリが呼びかける。

 

ユウはファイトをしている二人を見つめていた。

 

カードを手にする人。

 

相手の動きを読む人。

 

一枚のカードに託された可能性。

 

そして――

 

「……カードファイト。」

 

その言葉が、自然と口から漏れた。

 

アキナがユウを見る。

 

「?」

 

「僕……」

 

ユウはファイトの光景から目を離さない。

 

「僕、カードファイト……ちゃんとやってみたい。」

 

アキナは少し驚いた。

 

しかし、すぐに笑顔になる。

 

「いいじゃん。」

 

「……!」

 

「せっかくカードショップに来たんだ。」

 

アキナはユウの肩を軽く叩いた。

 

「一緒に見てみよう。」

 

「うん!」

 

ユウの尻尾が、嬉しそうに揺れた。

 

しばらくして。

 

店を出た三人の手には、それぞれ買ったものがあった。

 

ユウも小さなカードケースを大切そうに抱えている。

 

「嬉しそうだね。」

 

ヒカリが言う。

 

「うん。」

 

ユウはカードケースを見る。

 

「なんだか……これから何かが始まる気がする。」

 

白い尻尾が、左右に大きく揺れる。

 

それを見たアキナが笑う。

 

「……尻尾。」

 

「え?」

 

「さっきからずっと動いてるぞ。」

 

「……」

 

ユウは自分の尻尾を見る。

 

「……そんなに分かりやすい?」

 

「うん。」

 

「すごく分かりやすいよ。」

 

ヒカリも笑った。

 

「でも、楽しそうなのが分かっていいと思う。」

 

「……そっか。」

 

ユウも笑った。

 

「じゃあ……いいかな。」

 

その時。

 

少し離れた場所。

 

電柱の影から、小さな白い影がこちらを見ていた。

 

「……」

 

タイムルーラーである。

 

鞄の中に大人しく入っているはずだった彼は、いつの間にか外へ出てきていた。

 

アキナが気付く。

 

「……お前、またついてきたのか。」

 

「余はユウの行く先を見届けているだけだ。」

 

「それを『ついてきた』って言うんじゃないか?」

 

「違う。」

 

「はいはい。」

 

ヒカリがくすっと笑う。

 

「タイムルーラーもカードショップ興味あるの?」

 

「カード……」

 

タイムルーラーは腕を組む。

 

「時間を司る余とカードゲームか……」

 

そして、何かを思いついたように顔を上げた。

 

「……余の時を操る力をもってすれば――」

 

「不正は無しな。」

 

アキナが即座に遮った。

 

「…………」

 

タイムルーラーが沈黙する。

 

「……まだ何も言っておらぬ。」

 

「言おうとしただろ。」

 

「……」

 

ユウは二人のやり取りを見て、思わず吹き出した。

 

「ふふっ……」

 

ヒカリも笑う。

 

「お兄ちゃん、もう完全に仲間だね。」

 

アキナはタイムルーラーを見る。

 

「そうかもな。」

 

「余をその辺の仲間と一緒にするでない。」

 

「でもユウの鞄に入って学校まで来てるじゃん。」

 

「……」

 

タイムルーラーは何も言い返せなかった。

 

ユウはそんな二人を見ながら笑っている。

 

その白い尻尾が、また嬉しそうに揺れた。

 

まだ、ユウには分からない。

 

自分がどこから来たのか。

 

なぜ記憶を失ったのか。

 

なぜ時の力を宿す存在が、自分の前に現れたのか。

 

そして――

 

なぜ《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》というカードに、これほど強く惹かれるのか。

 

何も分からない。

 

けれど。

 

それでも――

 

今日、ユウは一つの「やってみたい」を見つけた。

 

カードファイト。

 

自分自身がまだ知らない世界。

 

そして、これから出会う誰かとの新しい時間。

 

ユウは手の中のカードケースを見つめる。

 

「……やってみよう。」

 

その声には、確かな期待があった。

 

鞄の中からタイムルーラーが静かにユウを見る。

 

「……うむ」

 

ユウが振り返る。

 

「タイムルーラー?」

 

「何でもない。」

 

小さな竜は、ほんの少しだけ笑った。

 

「ただ――新たな時が刻まれ始めたと思っただけだ。」

 

ユウも笑う。

 

「……うん。」

 

こうして。

 

記憶を失った少年――ユウと。

 

時を越えて現れた小さな竜――タイムルーラー。

 

二人の新しいカードファイトの物語が、少しずつ始まっていくのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。