カードショップからの帰り道。
夕暮れの街を、ユウ、アキナ、ヒカリの三人が並んで歩いていた。
昼間まで青かった空は、いつの間にか茜色に染まっている。高層ビルの窓に夕日が反射し、街全体が柔らかな光に包まれていた。
ユウは今日買ったばかりのカードケースを、大切そうに両手で持っている。
時々、思い出したようにケースを開き、中に入っているカードを確認する。
まだ数枚しか入っていない。
それでも――ユウにとっては、初めて自分で選んだ大切なものだった。
「そんなに嬉しいんだ?」
隣を歩くヒカリが、微笑みながら尋ねる。
「うん」
ユウは素直に頷いた。
「カードを見ると……なんだか落ち着くんだ」
「そうか」
アキナも穏やかに笑う。
「うん」
ユウは再びカードケースへ視線を落とした。
その時だった。
ふわっ。
何か小さな影が、ユウの肩へ乗った。
「ならば、もっと知ればよい」
「……タイムルーラー」
そこにいたのは、ぬいぐるみのような小さな姿になった時の神だった。
ユウは少し笑う。
「君って、いつも僕の近くにいるよね」
「当然だ」
タイムルーラーは胸を張った。
「余とお前は、既に出会った」
「……」
「ならば、お前が何を感じ、何を望むのか。それを見届けるのも余の役目だ」
ユウは少し驚いたように目を瞬かせる。
そして、柔らかく笑った。
「ありがとう」
「礼など不要だ」
タイムルーラーはそっぽを向く。
それを見ていたアキナが苦笑した。
「……なんだかんだ、仲良くなってるな」
ヒカリも頷く。
「うん」
ユウはタイムルーラーを見る。
その小さな竜神は、相変わらず不愛想だった。
けれど――
その存在が、今のユウにとって大きな支えになっていることは間違いなかった。
公園
帰り道。
三人は途中にあった公園へ立ち寄った。
夕暮れの公園には、子供たちの声も少なくなっている。
ユウはベンチに座ると、もう一度カードケースを開いた。
「……」
カードを一枚ずつ眺める。
タイムルーラーもユウの肩からベンチへ移動し、カードを覗き込んだ。
「これがカードファイトというものか」
「うん」
「……」
タイムルーラーはカードをじっと見つめる。
「余がこの中に入るというのは、どういう感覚なのだろうな」
「……」
ユウはタイムルーラーを見る。
そして、ふと思いついた。
「試してみる?」
「何を?」
「カードを持ってみるとか」
「……余が?」
「うん」
ユウは一枚のカードを取り出した。
タイムルーラーへ差し出す。
「ほら」
タイムルーラーは少し躊躇した。
やがて、小さな手を伸ばす。
カードへ触れた。
――その瞬間。
ピカッ!
「……!」
ユウが目を見開く。
カードの表面から、淡い光が溢れ出した。
タイムルーラーも驚いたようにカードを見つめる。
「これは……」
光がゆっくりと広がっていく。
「時が……揺らいでいる?」
「え?」
光はカードからユウの手へ移った。
そして――
カラン。
何かが地面へ落ちた。
「……カード?」
ユウが拾い上げる。
そこにあったのは――
白銀の竜。
その背後には、時計を思わせる紋章。
そしてカードに刻まれた名前。
《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》
「……!」
ユウは息を呑んだ。
隣でタイムルーラーも、そのカードを見つめている。
「……」
アキナも驚きを隠せない。
「カードになった……?」
ヒカリも目を丸くする。
「タイムルーラーが……?」
タイムルーラーは、しばらく何も言わなかった。
やがて――
「……余自身が、カードとなったか」
ユウはカードを見つめる。
「これ……」
「お前と余の繋がりが、この世界の形に変換されたのだろう」
「僕と……君の?」
「ああ」
ユウがカードを拾い上げた。
その瞬間――
再び光が生まれる。
今度は一枚ではなかった。
シュンッ!
二枚。
三枚。
次々とカードが空中へ現れていく。
「わっ……!」
「ユウ!」
アキナが立ち上がる。
「大丈夫!?」
「うん!」
カードは夕暮れの空を舞う。
そして一枚ずつ、ユウの前へ落ちていった。
《時を見つめる幼竜 タイムルーラー》
《時を司る幼竜 タイムルーラー》
《時を刻む守護竜 タイムルーラー》
ユウは驚きながらカードを受け取る。
さらに――
《タイムジェネラル ツァイト・ベルグ》
《タイムジェネラル トゥボカス》
《タイムオブザーバー オクト》
《タイムソルジャー スピガ》
《タイムガーディアン マーロ》
《タイムスカウト ヴェガス》
《タイムスカウト ランゲ》
次々とカードが生まれていく。
ユウは一枚ずつ拾い上げた。
「……」
タイムルーラーの表情が変わる。
「これは……余がかつて従えていた者たち」
ユウが顔を上げる。
「君の仲間?」
「ああ」
タイムルーラーは、カードになった仲間たちを見つめる。
「時の流れを共に歩んだ者たちだ」
「……じゃあ」
ユウはカードを胸元へ抱える。
「このカードたちも、一緒に戦ってくれるんだね」
タイムルーラーは少しだけ目を細めた。
「……そうなるのだろうな」
新たなカードケース
その夜。
明導家。
ユウの部屋の机には、今日生まれたばかりのカードがずらりと並べられていた。
アキナが机の上を見る。
「……結構増えたな」
「うん」
ヒカリもカードを眺める。
「全部、今日生まれたの?」
「そうみたい」
タイムルーラーは机の上に座っている。
「余にも理由は分からぬ」
そう言ってカードを見る。
「だが、ユウの想いに応じて、時の力がこの世界のカードという形を取ったのだろう」
ユウは一枚のカードを手に取った。
《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》。
白銀の巨大な竜神が描かれている。
「……綺麗」
「そうか」
「うん」
ユウはカードを光にかざす。
その姿を見ていると、不思議と胸が温かくなった。
ユウのタイムルーラーデッキ
「じゃあ、これでファイトできるのか?」
アキナが尋ねる。
「……たぶん」
ヒカリがカードをまとめる。
「じゃあ、一緒に数えてみようよ」
「うん」
三人でカードを並べていく。
まずはライドデッキ。
五枚。
一枚目。
《時を見つめる幼竜 タイムルーラー》
グレード0。
二枚目。
《時を司る幼竜 タイムルーラー》
グレード1。
三枚目。
《時を刻む守護竜 タイムルーラー》
グレード2。
四枚目。
《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》
グレード3。
そして五枚目。
《エネルギージェネレーター》
「これでライドデッキは五枚だな」
アキナが確認する。
「うん」
ユウは頷いた。
続いて、メインデッキ。
グレード3。
八枚。
《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》×3
《タイムジェネラル セルペンティ》×3
《時を制する神 タイムルーラー・ドラゴン》×2
ユウが確認する。
「《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》は、ライドデッキにも一枚あるから、全部で四枚」
「同じカードは四枚までだな」
アキナが頷く。
「うん」
次はグレード2。
十二枚。
《タイムジェネラル ツァイト・ベルグ》×4
《タイムジェネラル トゥボカス》×4
《タイムオブザーバー オクト》×4
「グレード2は十二枚」
「ちょうど十二枚だね」
ヒカリが数え終える。
続いてグレード1。
十四枚。
《タイムソルジャー スピガ》×4
《タイムガーディアン マーロ》×4
《タイムスカウト ヴェガス》×3
《タイムスカウト ランゲ》×3
「グレード1は十四枚」
「これで十四」
アキナが確認する。
そして最後。
トリガーユニット。
クリティカルトリガー七枚。
ドロートリガー四枚。
ヒールトリガー四枚。
そして――
オーバートリガー一枚。
合計十六枚。
ユウは全てのカードを並べ終え、ゆっくりと数える。
「……八」
「十二」
「十四」
「十六……」
そして。
「……五十枚」
ヒカリが笑顔になる。
「完成!」
「ライドデッキ五枚を合わせて五十五枚だな」
アキナも頷く。
ユウは完成したデッキを見つめた。
「……五十枚」
その数字が、不思議なくらい嬉しかった。
自分の手で作ったわけではない。
それでも――
自分とタイムルーラーの繋がりから生まれた、自分だけのデッキ。
スリーブ
最後にユウは、一組のスリーブを取り出した。
白銀を基調としたスリーブ。
中央には時計を思わせる円環。
その中心に描かれているのは――
白い竜神。
青い光が細く走っている。
「これにする」
ヒカリが覗き込む。
「タイムルーラーの絵だね」
「うん」
アキナも頷く。
「メインデッキは全部同じスリーブにするんだな」
「うん」
そしてライドデッキには、メインデッキとは違うスリーブを使う。
白銀を基調とし、中央には青い時計の紋章だけ。
タイムルーラーがそれを眺める。
「……悪くない」
ユウが笑う。
「気に入った?」
「余の姿が描かれているからな」
「ふふっ」
ユウは嬉しそうに笑った。
新しいデッキ
全てのカードをデッキケースへ収める。
ユウは完成したデッキケースを両手で持った。
「……これが、僕のデッキ」
タイムルーラーが静かに答える。
「そして余の力でもある」
「うん」
少しの沈黙。
やがてタイムルーラーが尋ねる。
「ならば、ユウ」
「?」
「このカードたちと共に、何を望む?」
ユウは考えた。
すぐには答えが出なかった。
やがて――
「……まだ分からない」
タイムルーラーは黙ってユウを見る。
「でも」
ユウはデッキケースを胸に抱く。
「このデッキで、色んな人とファイトしてみたい」
「……」
「そうしたら……僕が何者なのかも、少しずつ分かる気がする」
タイムルーラーは静かに頷いた。
「……そうか」
そして、柔らかな声で続ける。
「ならば、余も共に歩もう」
「うん」
その時。
廊下からアキナの声が聞こえた。
「ユウ、明日ファイトするなら早く寝ろよ!」
「分かってる!」
続いてヒカリの声。
「おやすみ、ユウくん!」
「おやすみ、ヒカリ」
部屋が静かになる。
ユウはもう一度、デッキケースを見つめた。
「……明日、アキナとファイトできるかな」
「ならば、余も楽しみにしていよう」
「うん」
ユウは小さく笑った。
窓の外では、夜空に月が浮かんでいる。
月明かりが、机の上のデッキケースを静かに照らしていた。
その中に収められているのは――
時を越えてユウの手に生まれた、五十枚のカード。
そしてライドデッキには、一枚の白銀の竜神。
《時の神 タイムルーラー・ドラゴン》
まだユウは知らない。
このカードが、これから自分をどんなファイトへ導いていくのか。
そして――
この世界で出会う人々との時間が、自分にどんな新しい記憶を刻んでいくのか。
過去は、まだ何も思い出せない。
けれど。
未来なら――
これから自分で作っていける。
「……明日が楽しみだな」
ユウが呟く。
その言葉に応えるように、デッキケースの中で一枚のカードが淡く光った。
新しい時間が――
静かに、動き始めていた。