暁美姉妹の日常 作:現在匿名
結局まどかはどこかへ行ってしまった。
見滝原を見渡せる公園。そのベンチの上で目覚めた私にあったのはまどかへの愛情と喪失感だけだった。
何時間経ったかは分からない。
どうすればよいかもわからない。
ーーさやかやマミさん達に連絡を取るべき
ーー改変された世界を知るべき
理屈は分かる。
けれども、何かをする気力は、起きてはくれなかった。
結局、家に帰ることにした。
足取りは、重い。
ーーあの子は、まどかはどうなったのか?
ーーひどい事を、してしまった
ーーけれども
一緒に、いたかった。
その感情が、痛かった。
住み慣れた家にたどり着く。
まどかによって改変される前から住んでいた家。
まどかから力を奪ってからはあまり帰れてはいなかったけれど、その佇まいは変わっていない。
「・・・・ただいま」
「おかえり、暁美ほむら」
誰もいないとはわかっているのに、今日だけは帰宅の挨拶を言ってしまう。
それだけ今日は疲れてしまっていた。
明日からどうすればいいのか? 何もできないダメな自分に戻ってしまった私は何をするべきなのか?
考えてもわからないのに考えることが止められない。
「まずは食事をするべきだと思うんだけどねえ。ところで冷蔵庫の中に何もなかったのですが、今日の晩御飯はどうすのですか?」
「そんなもの食べなくても魔力で……」
・・・・。
あれ? 何かいる?
「その前に手を洗ってうがいをしてきなさい。ついでにシャワーを浴びてくることをお勧めします」
何かいた。
具体的に言うとつい先ほどまで死闘繰り広げたり共闘していた奴が。
もっと具体的に言うとワルプルギスの夜がキッチンに立ってお湯を沸かしていた。
「貴女コーヒーしか飲まないのですか? しかもインスタント。それと栄養食?とかいうのしか棚に入っていませんでした。もっと味気のあるものを「待って待って待って待って待って」」
ーー待ちなさい
ーーいや本当に待って
「何やっているの貴女」
「映画見る時のお供にコーヒー入れているだけですよ?」
「さっき良い感じに円環の理に帰っていかなかった!?」
思わず大きい声を出してしまった。
いや、だってそうだろう。今まで生きてきた人生の中で何十回と殺し合いを演じ、ついさっきまで、まどか・・・・世界の理を書き換えるレベルの戦いを演じていた相手が自分の家に不法侵入して勝手に映画見て勝手にコーヒー飲もうとしている。
「この不法侵入魔女、何が目的!?」
「その言葉そっくりそのまま返します、ストーカー束縛監禁・・・・三点盛りの悪魔」
「いや、元悪魔ですか」とケラケラケラケラ嗤うワルプルギスの夜。
この笑い方は間違い、紛れもなくワルプルギスの夜だ。
ーーそして
「ストーカー束縛監禁なんて・・・・」
「自覚がないのですか?」
「まどかの安全を守るためよ!!」
「誰もマルグリートの事を言ってはいませんが?」
ーー・・・・・ほむぅ
いや、あの。本当に安全を守るためだったのだ。決してやましい・・・・
『貴女のためよ』
『行かないで!!』
『置いていかないでッ!!』
『ずっと一緒にいてッ!!』
・・・・やましいことは、ないはず
「主観的に見るのと、客観的に見るのは別ですよ? 暁美ほむら」
「・・・・黙りなさい」
「肯定と受け取りますが?」
ケラケラと、些細な違いはあれど・・・・私の顔で笑いながらソファに寝ころび足を組む。
「それ私の家のソファなのだけれど」
「固いこと言わないでください、元悪魔のくせに人間臭いですよ」
「コーヒー飲みます?」とカップを差し出してくる。
何度も思うが、それ私のコーヒー、それ私のカップ。
(無駄に)形のいい足を組みながらリモコンを操作している姿にかなりイラつきながら、取りあえず向かいのソファに座る。
「カ〇トリー〇ームでもお食べなさい」
「それ私がこの間買ったやつ!!」
「限定ホワイトクリーム味、中々良いチョイスしていますね」
ーード〇キで買った季節外れの売れ残り品!!
イライラしながらも、生物としての欲求には勝てない。
カ〇トリー〇ームを口に運ぶ。
「あ、始まった」
「何を見るつもり?」
「劇場版機動戦士ガンダムS〇〇D」
「ホントに何をしているの!?」
「安心して下さい、これはDVDショップでレンタルしてきたもの。あ、こんどU〇XT契約してもよろしいですか?」
「ホントのホントに何をしているのッ!?」
ワルプルギスの夜がコーヒー飲んでお菓子食べてガ〇ダム見ている。
これだけで情報量がいっぱいだというのに、今度はU〇XT。マジでほんとに何がどうなっているの?
さっきまでのシリアスは?
さっきまでの悲しみは?
「あ、忘れていました。私ガ〇ダム見ているからお風呂入ってきなさい」
「その前にどうして私の家にいるのか説明して!! それと何で家に勝手に入っているのか!?」
「その前にお風呂」
「いや、それよりも!!」
「あ、そういうことですか」
やっと、話ができる・・・・。
「お腹がすいているんでしたね、出前でも取りましょうか?」
頭を抱える。なんだ、完全に入りしたっているぞこの魔女。
「ピザでいいですか?」
「もう勝手しにして・・・・」
「ピザ見滝原ですか? ギガチーズイタリアーナと明太マヨシュリンプのLとコーラとシェイクとチーズタルトを大至急・・・・あとマルゲリータも」
「頼みすぎじゃないかしら?」
「貴女は食べなさすぎです。何ですそのごぼうみたいな体は? 不健康すぎて心配になってきます」
「同じ体でしょ。私の体を盗んだ癖に・・・・」
「それでも体はマルグリート・・・・核であったかつての私の影響を少しばかり受けているはず」
「ほらこことか」と色んなポーズを決めてくる。
絶妙に良いポーズだからムカつくわね。しかもカメラ目線。
「故に包容力は僅かながら私の方が上・・・・それ即ちこの胸部も・・・・」
気づけば拳が出ていた。きっと今日一日分のストレスが溜まっていたのだろうと思う。
決して胸のことにキレたわけではない。
ポカポカッ!!「あ、こら叩かない!!」
「うるさい黙りなさい」ドタドタッ!!
ペタペタッ!!「形勢が悪くなるといつもそう、コミュ力も磨いたらいかがかしら」
「ホントに矢をぶち込むわよ!?」ぱちぱちッ!!
ギシギシッ!!「あら、怖い」
深夜の民家で女二人の醜い争いが繰り広げられた。
「ゼェッゼェッゼェッ」
「ほら。ヒーヒーフー・・・・呼吸を整えるのです。この運動不足の悪魔」
「誰の、せいで、こうなったと」
戦いの結果は引き分けだった。
ーーならば、魔法少女の力でッ!!
悪魔の力はなくなったけれど、この魔女は倒してみせる!!
「あ、すみませーん。ピザ見滝原でーす」
・・・・。
お互い顔を見合わせる。
もうこの世界を好きなように改変できない。
目の前の彼女もどうやら同じのようだ。
お腹の鳴る音がお互いから鳴った。
きっと余計な運動をしたせいだ。
しばしの無言。そしてお互い息を吐く。
「「今でまーす」」
ピザを食べよう。
流石にお腹がすいたわ・・・・。