暁美姉妹の日常 作:現在匿名
「へッぷち!!」
「ほら動かないで。ドライヤーで髪乾かすから」
犠牲は大きかった。
具体的には湯船のお湯が殆どなくなってしまった。
途中で停戦協定を結んだがもう遅い。
急いで髪と体を洗い私たちは居間へと戻っていた。
「・・・・」
「何ですかその目は?」
いやだってこの魔女、髪を洗う時シャンプーが目に入って泣きじゃくっていたのよね。
終いにはシャンプーハットをつけようやく泣き止んだ。
それだけではない。
石鹸をそのまま体にこすりつけ、顔まで石鹸で洗おうとしていたし。
これじゃまるで・・・・。
「介護じゃない」
「何をどう変換したらそうなるんですかッ!? あと歳のことは言うなと条約結んだでしょうッ!! 私はピチピチの中学三年生です!!」
ピチピチて、いつの時代の言葉よ。
「・・・・ワスおばあちゃん」
「姉とお呼びなさい!! ひゃッ」
ドライヤーを髪に当てるとワスが驚いた声を上げる。
これも初めてなのだろうか?
原初の魔女であるというのは本当のようね。
「な、何ですその温かい風が出る物体は!!」
「ドライヤーよ。髪を乾かしているから動かないで頂戴」
私に似た長い、少し癖のある髪を櫛で梳かす。
ーー何よ、これじゃ本当に姉妹じゃない・・・・
変な感覚がしてきた。というか私は何でワスの髪乾かしてあげてるの?
この世界侵略型住居不法侵入無銭飲食存在しない姉を名乗る魔女に。
何の・・・・何のため・・・・。
「そうです、そこそこ左の頭辺り。ちょっと強めに押していただけますと気持ちいいいたたたたたたたたたたたたたッ!!」
「調子に乗らないで」
ブラシとドライヤーを渡して後は自分でやってみろ、と促す。
私も髪を乾かさないといけないのだ。
予備のドライヤーを取り出し、私も髪を乾かし始める。
「名塚底根ではどう暮らしていたのよ、貴女達」
「まあ、基本寝ていましたね。魔女の記録を読んだりして時間を潰すこともありましたが、できるだけ力は温存したかったので」
「・・・・」
「今ババァくさいと思いましたか? 思いましたよね?」
「何も言っていないし、思ってもいないわ」
良かった文章に起こさなくて(何を言っているのかしら?)。
ドライヤーの音に混じって、テレビからキャラクターのセリフが聞こえてきた。
『だけど僕にも武器はある・・・・ラクスの愛だ!』
『ふざけるな!!』
「愛を馬鹿にするとは何と滑稽で愚かな存在なのでしょう」
いつの間にかまたガ〇ダムが始まってる。
そんなにハマっているのかしら?
「そんなに好きなのガ〇ダム?」
「ガ〇ダム、というよりは物語全般が好きなのです」
「ほら、私って舞台装置の魔女なので」と髪を乾かしながら嗤うワス。
「愚かでも、無能でも、間違っていても、断崖絶壁塗り壁の魔法少女でも「貴女もよ」大人の余裕がある最高の姉でも、どんな人物にもその者しか作れない物語があります。私は、それを見るのが大好きなのです」
ーー・・・・物語、か
例えば私にも物語はあるのだろうか?
仮に誰かが私の物語を見たとして何をどう思うのだろう。
「故に、早くサブスクを!! U〇NEXTを!! 私に沢山の物語を!!」
「図々しすぎるわ」
まあいい。兎にも角にも長かった一日・・・・本当に長かった一日が終わる。
何が起こったのか、これからどう行動していくのかは明日から考えよう・・・・。
今日は流石に・・・・疲れた・・・・。
「と思っていたのだけれど、何で同じベッドにいるのかしら?」
「?」
「不思議そうな顔をしないで頂戴。そしてそれは私のナイトキャップ!!」
「? 姉妹共用でしょう?」
「いつどこでそんなルールを作った?」
「三日前一緒に百均へ行った時です。もぉ、忘れんぼさんですね我が妹は」
「そのネタまだ続くの」
「事実ですから」
「明日もよろしく」と言いワスはこちらに背を向けて寝始めた。
・・・・。
眠れない。
それはそうである。今日一日で世界改変からまどかとの別れ・・・色々ありすぎた。
体は疲れていても、頭は起きている。
「・・・・」
ーーどうすれば、よかったのだろうか?
そして、
ーーどうしていけば、良いんだろうか?
まどかを、取り戻すには・・・・。
「大丈夫だよ~」
まずは、ワスに話を聞かないと。
夜はくだらないことで時間を使ってしまったし。
「ほむらちゃぁん。私はココにいるよぉん」
というか図々しすぎるのよあの魔女。
まあ映画のチョイスはいいとして・・・・結構面白かったし。
「別の次元でレアリティも違うかもだけどずっといるよぉん」
サブスク契約してみようかしら。
・・・・というか待って、何で一緒に暮らす前提なの、私?
「ピックアップを引き当てるなんて凄いよぉ。ほむらちゃんの思いがきっとマギアストーンやマギカストーンやらに還元されてガチャを引き当てたんだよぉん」
・・・・。
あれ? 枕元に何かいる?
「何かとは失礼だなぁ。ほむらちゃぁん」
え、え? えぇ!?
枕元にいたのは、なんかデフォルメされた私の親友だった。
もっと具体的に言うと等身が小さくなって、う〇先生の絵柄じゃなくなって、すごいだみ声で、中の人の闇がそのまま展開されているような何かだった。
「まどか先輩登場~皆見てるぅ? アルティメットじゃなくてごめんね。ソシャゲのやりすぎはダメだよぉん」
「まどかぁッ!?」
気が付くと、汗まみれで目覚めていた。
どうやら、いつの間にか私は寝ていたらしい。
ーーえ、何? 今の何? 本当に何?
ーー悪夢? 悪夢よね、そうだと言って、誰か!!
「星5・・・・実装・・・・早く・・・・」
足元から声が聞こえる。
顔に何か足が置かれている?
ワス・・・・。
「何で逆さで寝ているのよ・・・・」
ワスが逆さまになって寝ていた。
そして私の頬に的確にかかとを押し付ける形で寝ていた。
服はお腹までめくりあがり、ナイトキャップは外れ、ベッドから髪の毛が垂れていた。
奇しくも、初めて会ったあの時の噴水で寝ていた体勢になっていた。
ーー顔に蹴りは入れてきているけれど
「う・・・・ん、マルグリート」
寝言で何か言っている。
訳の分からない事をペラペラと。
コイツが来てから、どうも調子がおかしい。
というか、突っ込みの回数が増えたような気がする。
ーー変な夢は見るし、いい加減にしてほしいわ
「夢じゃないよおん?」
ーー嘘ぉんッ!?
いつの間にか足の間にいるまどか(?)。
「まどか先輩だよ?」
ーー心まで呼んできている!?
なにこれ新手の魔獣? 魔女? ナイトメア?
とっさに変身しようとするが。
「ミ〇ド・・・・高すぎ・・・・」
ワスが寝ているのを忘れていた(駄洒落じゃない)。
彼女の体に躓き、私はベッドから床に落ちてしまう。
「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「大丈夫? ほむらちゃぁん?」
「大丈夫・・・・てッ」
いつの間にか目の前に移動している。
ーー早い、私でも見逃してしまう!!
「アクセル二枚持ちだからねぇ」
「何を言っているの?」
ーー時代が違うような気がするッ
「星3故に凸も早いのが売りだからねぇ」
「ありがとうございます!!」
いけない、何を言っているのかしら?
というか、これまどかなの? まどかで良いのよね? 嫌だなぁ!!
さっきから暇なのかカニの腕出したり、剣出したりしてるし。
何より、まどかがしちゃいけない顔をいくつもしてるし。
「まどかであってまどかじゃない・・・」
「まどか先輩だよぉ!!」
何者!?
「ワス、起きて!! 起きなさい!!」
「ん・・・・もっ〇ゅりん」
「起きなさい!! この駄魔女!! 姉を名乗る不審者!!」
鬱憤も込めて体を思い切り揺すったり、頬を叩いたりするが全く起きる気配がない。
というか、さっきから何でミ〇ド!?
「無駄だよぉん?」
まどか先輩(?)が蟹バサミをチョキチョキ鳴らしながら近づいてくる。
「ここは今エ〇セトラ時空、大魔女も円環もキュゥべえも干渉できない・・・・というか関わりたくないギャグ時空」
「訳が分からないわ!?」
「ほむらちゃんも・・・・ギャグ時空へ、いらっしゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!」
待って、何をする気?
ねえその剣は何?
まって、待って!!
変身できない。
「お前も、環になるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
「助けてまどかああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あら、私をマルグリードと思ってくれるのですか?」
「ふぇ?」
気付けば目の前にいたのはワスだった。
彼女に思いきり抱きつき、そして荒い息を繰り返す私。
「ほむら、貴女も分かってきたのですね。私が貴女の味方で甘えても良い存在だと・・・・さあ、その調子でもっと姉に甘えるのです!!」
「・・・・ねえ」
「さあさあ、そのまま胸に顔を埋めながら『お姉ちゃん大好き』と!!」
「まどかが蟹の腕生やした改造人間になってデフォルメされた世界線って、あると思う?」
「ほむら? 大丈夫です? あの、ちょっとおちょくりすぎました?」
「まどカリバー・・・・まどか先輩・・・・」
「しっかりしなさいほむら、あなた疲れているんです!! ねえ、ほむらぁ!? 返事してぇ!!」
ワスに本気で心配された。
・・・・結局、朝の直前まで眠れなかった。
寝る時と起きた後ワスが妙に優しかったのが少しだけ嬉しかった。
「ほむらちゃぁん、また会おうねぇん」