迷宮都市の魔人   作:イルイル

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第5話 豊穣の女主人で

「だああああああああああああああああああああああっ」

 

ベル・クラネルはダンジョンでミノタウロスに追われアイズ・ヴァレンシュタインと運命とも言える出逢いを果たし、ミノタウロスの血まみれになった挙句、尻尾を撒いて逃げ出していた。

アルフィアの訓練は主にサバイバル関連ばかりだったので、逃走時間が少し延びただけで、体力の差でミノタウロスには結局追いつかれてしまった。

正史(ほんらい)はエイナ・チュールを質問攻めするはずだったベルだが、今世の家族達は無茶苦茶頼りがいある上にオラリオもそこそこ長い。自然な流れとしてベルは魔人館の面々に質問したが…

 

「アハハそれで【剣姫】ちゃんから逃げ出しちゃったんだぁ?ベルってば、それでなんであの娘のこと私らに聞く流れになるのかなあ?」

 

「見目(みめ)はたしかに極上であったな。ルリやアルフィアで眼が肥えているかと思ったが、それでもか」

 

アリーゼが笑いながら僅かに呆れの感情を見せ、輝夜が意外そうに言う。情報ならギルドなぞよりは多いだろうがベルへクソ重感情を抱えているのが2人も居ることに全く気付いていない。

この察しの悪さでハーレムなんて作ろうとしていたら間違いなく刃傷沙汰になるだろう。

 

「…お兄ちゃんまさか、アイズに惚れたの?」

 

アリスィアの眼がスッと細くなる。この6歳の従妹は当然のように異性としてベルを狙っている。母(アルフィア)が止める気がないので、基本ブレーキがない。

 

「この前久々に会ったけど確かにすっごく綺麗になっていたよね【剣姫】ちゃん」

 

「最近私がちょくちょく稽古つけてあげてますしベルも参加しますか?アルフィアさんも一時期ザルドさんと面倒見てあげていましたよね?」

 

「戦闘の才能がそれなりにあるのは認めてやるが女としては落第だがな。感性も独特で子供っぽいし、マトモに色恋が出来るとも思えんなあの娘は」

 

「◯◯(ピー)歳まで処女だった分際でよく『女としては』なんて偉そうなことが言えるのです。アルフィアさんこそ自身の美貌に胡座を掻いて女磨きなんてしているようには思えないのです」

 

バトルノートのセレスティアが突っ込んで「ブフォッ」とヘスティア、アリーゼや輝夜達が吹き出す。流石は参謀。口撃もなかなか鋭く的確だ。ちなみにベルは「しょじょ?」と首を傾げている。君はそのままでいてくれ。

力がとにかく重視される魔物界の感性でも、既に使徒最強の座に居るアルフィアは若輩ながらも古参使徒達からも敬意を持たれているが、古参の使徒達は千歳を超えている。

そんな彼女らからすれば強さと堂々とした態度で威厳があるように見せているアルフィアも「無理して肩肘を張っている小娘」に過ぎないのだ。

山小屋の時の自身が絶対権力者だった時のノリならとっくに福音(ゴスペ)っているところだが、今は自身が絶対ではない。強い方ではあっても、この面々との絶対的なほどの力の差はない。それなりに高価な調度品を破壊すればしっかり弁償させられる。

ギリと歯軋りをするだけで耐えるアルフィア。この光景を昔の仲間達(ゼウス・ヘラファミリア)が見れば驚天動地モノだ。命知らずのバカなら指をさして笑っていただろうが。

 

「まあアルフィアさんの言う通り感性が独特だし、強いだけで惚れてくれるほど単純な娘でもないですけど、自身が強くなることに執着しているから強くなれば気が引けるのは間違いないから頑張るのですね、ベル」

 

現在進行系でアイズに関わっているカーラが纏める。自身の憧憬も日常会話のようにする乙女たち。こんな女傑達を従えている義父はやはり偉大だ、と実感するベルだった。

 

 

その翌日ベルはシル・フローヴァに誘われて店内で家族達と夕食を摂っていた。シルは同行者の面々を見て顔が引き攣っていたが…

バイトの打ち上げに向かったヘスティアは居ない。ザルドの店は開店からそんなに経っていないこともあって、絶賛売り出し中だ。

アリーゼや輝夜達は変装して、こっそりリューの仕事ぶりを様子見していたこともある。だが、まだ堂々と姿を晒したくはないので、今日はザルドの店の個室の方だ。

アルフィアは病気が完治したことにより、昔よりは「音」に対して寛容になってはいるが、それでも気難しいのは変わらない。彼女が店に入った瞬間に客達は声を潜めるようになった。

 

「おい【魔人一派】だぜ、【静寂】戻ってきてたのか」

 

「あのちっこい女の子誰だ?まさか娘か!?」

 

「アレだろ最近噂のソロで中層まで潜っているらしい子だ、実子らしいぜ」

 

「ハ?あいつらが会ったの『7年前』じゃないのか?10歳くらいだろアレ?」

 

「知らねえよ、だが【剣姫】もそれくらいから潜っていたらしいから有り得るんじゃねえのか?」

 

自己申告では「10歳」だが、神に年齢を聞かれると当然嘘はバレる。「真実(アリスィア)」なんて名前の割に平気で嘘を吐く。やがてロキ・ファミリアが入店し注目を二分にしたが、遠征帰りの彼らは打ち上げを始める。

やがて酔っ払った狼人(ベート・ローガ)がトマト野郎(ベル・クラネル)に言及して決定的な言葉を吐く。

 

「雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

歯を食いしばりながらベル・クラネルは店をとび出してしまった。

 

「セピア」

 

「大丈夫です、ベル君には探知魔法をかけといたんで、後で追えばいいでしょう、行き先はダンジョンでしょうが…」

 

「強い分には越したことはないでしょうが、それしかアピールポイントが無い男って悲しいですわよねえ『カカカのケイブリス』を思い出しましたわ…」

 

「マスターが昔『女をマトモに口説くことが出来ないから強姦(レイプ)でしか女とヤれない悲しき性欲モンスター』って煽ってましたわね」

 

「本命のカミーラには蛇蝎の如く嫌われているのに気付いてないのは見ていて哀れになったな」

 

「あの犬はアイズが目に見えて沈んでいるのにまるで気付かないあのザマで口説いているつもりだったんですかね、まさか本当に?」

 

「アァ!?んだてめェら!」

 

聞こえるように言った使徒達の言葉に反応するベート。

 

「バッ」

 

「止めろベート!そいつらは───」

 

フィンとリヴェリアが止めようとするが───

 

ふわりと跳躍した少女がベートの頭を上から踏みつけテーブルに叩きつける。料理に顔面を突っ込むベート。

 

「じゃあアンタもアイズに相応しくないわね、ざぁこ♪この駄犬♡」

 

その少女(アリスィア)の噂は当然知っていたが、実際にその実力の片鱗を眼にすると、その幼さと併せて驚愕するフィン。ロキだけは「メスガキや…」と驚愕していたが。

 

「表に出なさい、駄犬。『トマト野郎の妹分』がきっちり躾けてあげるから」

 

ロキ・ファミリアの面々にたちまち冷水が浴びせられる。自分達は───というかべートは喧嘩を売ってしまったのだ。階層主をソロ討伐するような使い手が何人も所属しており【猛者(おうじゃ)】すら歯牙にもかけないあの魔人一派と。

ロキ・ファミリアとトラブルになったことは殆ど無いがフレイヤ・ファミリアは【猛者(おうじゃ)】以外の連中も何度も絡んでは一蹴されている。

 

「上等だ!ぶっ殺す!」

 

2人で店を後にするがその背中にセレスティアが声をかける。

 

「アリス様、殺(ヤ)っちゃめっですよ?」

 

「分かってるわよセレス、そ(・)う(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)私が買った喧嘩だし。パパに迷惑かかるし。こんなことで死人が出たら、お兄ちゃんも傷つくしね」

 

ベートを殺(ヤ)るように指示するつもりだったアルフィアは抑えた。娘の気遣いにちょっと感動していた。違うそうじゃない。ベートと対峙するというのに誰も心配をしないその様子に想定していた実力を上方修正するフィン。

 

「お前らは誰もあの子の心配をしないのか!?」

 

思わずリヴェリアが声を上げる。

 

「いや心配するだけ無駄ですし」

 

「あの犬じゃ勝ち目は無いですね、寧ろ犬の身を心配するところ、タイマンじゃあの方に勝てる人貴方達の中には居ませんよ」

 

「というか貴方達誰も気付かなかったんですか?私達3人がアルフィアさんと牽制し合っているの…ああして前に出たのはあの方の優しさなんですよ?」

 

セレスティアが先程までのやり取りを明かす。フィンだけは少しだけ察していたが酒の席で気が緩んでいた他の面々は全く気付かなかった。

そう、アルフィア以外の3人はキレかけていた、というかキレていたアルフィアを抑えようとしていた。アルフィアはそんな仲間達の牽制を掻い潜ってなんとかベートを殺す手段を模索していた。

酒の席での罵詈雑言程度でいちいち殺していたらキリがない。評判の悪い自分達の主はその程度のことは笑い飛ばしているのだから。

自分以外のこと、仲間に関することだとその限りではないがそれでも「余程のことがない限り人死(ひとじに)は出すな」と厳命されている。アリスは自ら汚れ役を引き受け、ベートを多少痛めつけることで手打ち、としたのだ。

というかアルフィアとベルだけだったらロキ・ファミリアをアルフィアが皆殺しにしていてもおかしくはなかった、継戦能力に不安の無い今の彼女なら容易いことでもある。

 

外の2人は───

 

「さ、得物でも魔法でもなんでも使ってかかってきなさいな、どうせ何やっても無駄だし」

 

「上等だァ、ガキィ!」

 

ベートが正面から蹴ろうとするが、ふわりとベート蹴りをベートの足に手を置きながら跳躍で躱し、ベートの腹を蹴り返す。

 

「おごっ…がはっ…!?」

 

「ほらほらこんなモノじゃないですよ、もっとかかって来なさい」

 

指をクイクイ動かして挑発する。

 

「舐めるなァ!」

 

至近距離でベートの高速の連撃を躱し、受け止め捌き続けるアリスィア。ロキ・ファミリアの幹部勢は見物に来ていた。他もちらほら居るが。レフィーヤとか。

あの魔人と【静寂】の娘だ。気になるのも当然だ。

 

「うっわ、凄いねあの子、強いし何より───」

 

「「「巧い」」」

 

「武術の教本を読んでいるみたいだな、あれだけの腕があると至近距離でも安全地帯になるわけだ」

 

「速さそのものはそこまでじゃないのに」

 

「やっばいねあの娘、アタシじゃベート相手にあの距離は殴り合うしか出来ないよ」

 

「合間に単発で反撃はしているが明らかに手加減はしているな、それでも───」

 

「ベートの動きが速いからそれだけでカウンターになって見るからにダメージが深刻だ」

 

 

 

「うん、アリスは物凄く強い、私も何度か相手にさせてもらっているけど一度も勝ったことない」

 

「え、アイズさんが?あの子に?」

 

レフィーヤが呆然とした様子で聞き返す。

 

「うん、アレで剣の方がもっと得意だし、本領は魔導士だって」

 

「才禍の娘も才禍、か。いや流石にアルフィアでもあの歳であそこまでじゃなかったはずだが…と言うかアイズ、お前…」

 

リヴェリアの眼が細まる。確かにファミリアの方針として「敵に回すな」と厳命はしているが、「関わるな」とまでは言っていない。それはリヴェリア個人の感情だ。

フィンとしては関われるものなら関わりたいくらいだった。確かに得体が知れなく恐い部分は多々有るが、メリットの方が大きいからだ。

実際に取引相手となっているファミリアは普通にいるし、それで大きな利益を上げていることが多い。神ヘファイストスの方針にある程度従っているが、そもそも彼女は善神だからマトモなファミリアなら敵に回す可能性は少ない。

 

「いや、間違いなく同じ年齢の時のアルフィア以上だね、アレは、いや病気がなければあ(・)あ(・)なっていたのか、彼女も或いは、だが才能だけじゃああはならないはずだよ、一体どんな鍛え方しているんだ、ちなみにアイズ、彼女の魔法は見たことあるのかい?」

 

「ううん、『大体なんでも出来る』としか…」

 

「俄然興味が湧いてきたな」

 

リヴェリアが眼を輝かせる。

 

「こらこらあくまで向こうから来た場合だけだよ、こちらから無理に行って機嫌を損ねたら大変だ」

 

「あ、ベートやられた」

 

終わらせにかかった、アリスィアの蹴りが顔面に入って、ベートの意識が落ちる。アルフィアとアリスィアの溜飲も下がったので結局その夜はそのままお開きになった。

 

 

 




ちなみにここでのリューにとってのシルは「他の同僚よりはマトモそうだから」という理由で少し仲が良い友達程度。ベル君はアイズの美貌のみに純粋に惹かれて強さは、そこまででもない感じ。今の身内の方がヤベーの察しているから。
昔のダンまちSSって主人公がベート君ボコる展開無茶苦茶多かったよね、その後彼のキャラが掘り下げられてそこそこ人気になったら収まったけど。
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