JAPANの民の血を引いているので日本人の顔立ち。村で評判の美男美女だったので自然な流れで結婚した。人間として普通の幸せを与えてやれたことに安心していたが、
ジルの強い知識欲はそれだけでは縛れずに、ある日生まれて間もない娘と夫を捨てて村を出てしまい、いずれ自身を裏切る知識人達の集まりに参加してしまった。
幼い娘を育てながら年単位でジルを探し続け、次に彼がジルと再会した時は全てが手遅れだった。四肢を切り落とされ、達磨にされていた彼女はナイチサから魔王の座を継承した直後だった。
凌辱の日々の中で夫のことを後悔と共に思い返していた彼女は、即座にその父娘を魔人にした。
だが人間への激しい憎悪と怨恨、夫のことは忘れなかった彼女だが、娘との思い出がほぼ皆無だったため、娘のことは忘れてしまっていた。
その時から、人類の暗黒期と魔物の黄金期が始まり、最悪の魔王の尖兵である最強の魔人も誕生した。この時代彼は心を殺して黙々と職務に励んでいた。人類にとっては地獄の時代だったが。
娘を忘れていたジルに娘を見せた時どんな反応をするか分からなかったから、彼はジルから娘を隠し続けた、自分のことは覚えていても壊れたままだった彼女に娘を見せても碌なことにならない、と見越していたからだ。
魔人になってから十数年で彼は筆頭の座に抜擢された。魔物の世界は力が全てだったから。修行に打ち込めば憂鬱な気分も紛れる、と。
彼の古参の使徒達はこの頃に作られた。娘の世話係が必要になったからだ。ジルのお気に入りということを除いても実際に魔王の次に強い彼に絡む者はほぼ皆無だった。絡んできたノスやレイも一蹴された。
ジルとの
だが、完全に自暴自棄になるわけにはいかなかった。自分が居なくなれば娘は独りになってしまうし、最悪の魔王になっても未だジルを想う気持ちは残っていたから。
ジルを救う方法を模索しながら、クロノはガイの世話も焼くようになった。打算と下心有りきだったが。ガイがいずれジルを刺して魔王になることも知っていたから。
ジルはガイとも交わるようになりその様子を夫だった男に見せつけるようになった。クロノの憂鬱は深まったが、汚れきってしまった自覚があるジルにとって僅かでも嫉妬のような感情を見せてくれる、クロノの感情は極上で芳醇だった。
ジルに仕えながら、裏では自身と娘やガイを鍛え続け、ガイが叛旗を翻した際も裏から支援していた。結局ガイは魔剣カオスごとジルを封印してみせた…ように見えたが…?
ガイが魔王になり、かつての後輩は一転して上司になってしまった。ジルが倒れて
ジルにそっくりなのは誤魔化しようもなかったからだ。結局ガイは最後までジルにそっくりなその娘への苦手意識は拭えなかったが。
二重人格のガイの相手は若干面倒だった。悪、というか不真面目な方の人格はほぼランスみたいなものだったのだ。「女を拐ってこい」とかやりたくもない仕事を押し付けられたし。
人類も結果的に解放されたとはいえ、決してどちらの人格も善人とは言い難かった。この頃にJAPANに渡り、自身に合った剣術と忍術を身に着けた。魔法は散々魔王時代のジルと共同研究していたし。
やがてホーネットが生まれ、教育係にクロノが抜擢されたがことあるごとに「ガイや自分達は元々人間」ということをアピールしまくった。お陰で正史より大分人間を見下す意識を緩和できた。教育成功。光源氏。
その後ホーネットへの魔王継承が失敗し、慰めていたら、未だ完全には立ち直っていなかったクロノとの傷の舐め合いのように関係を持つようになるが、やがて本気で想い合うようになり正式に結ばれる。
「娘さんを俺に下さい」イベントもやった。魔王の絶対命令権抜きのガチンコ勝負で引き分けに持ち込んでなんとか認めさせた。これにより魔人達には魔王級の実力者と見做されている。
魔人が二派に別れた際も「自身が先頭に立つのは柄じゃない」とホーネットに任せて補佐の道を選んだ。だが「本当は最強なのに今は理由をつけて前線に出たがらない腑抜け」とサテラには思われている。ルリとホーネットとサテラは3人娘で幼馴染。
ホーネットとの間にも子供が居る。
「君達が居てくれて良かったよ。それにしてもロキの奴めよくもボクの可愛いベル君を~」
豊穣の女主人を後にした魔人一派はベルをダンジョンへ迎えに行き、帰路に着いた後、ヘスティアに事情を話した。ベルは別室で寝ている。
「いや、ロキ様は何もしてないですけどね、それに普通悪口の当事者がその場に居るとも思わないし、一応リヴェリアさんとかは止めようとしていたし、あのわんわん以外はまあ無罪じゃないですかね?
いくら酒場とはいえ、他の一般客も居る場であそこまで品のない振る舞いを許してしまっている時点であのファミリアは少し見損ないましたが」
「今からでも
「はぁ~」と溜め息を吐く面々。
「『ギリギリまではこの世界の冒険者に任せる』というのがザルドさん含めた貴方達との約束でしょう?主力になるであろう、
「ママすっごい我儘だよね、見た目と強さしか良いとこないじゃん…
「そもそもアイズは既に私達ともアリス様やルリ様とも友人だし、一番の狙いには手出しさせませんよ。本当はあのわんわんよりアイズですよね?
「というかクロノ様が『アルフィアだけでも魔人になって欲しい』って言ってましたが、ホーネット様達と上手くやっていけるか心配なんですが…アルフィアさんがこのまま私達の上司になられても…理不尽に振り回される未来しか見えないです」
「せっかくノスのような不穏分子筆頭も消えたのに、もし内ゲバが原因で負けたら恥晒しもいいところですね」
当初は「別の世界のことに巻き込みたくはない」と思っていたクロノだが、ザルドを筆頭に皆結構ノリノリなのであんまりそのへんは気にしなくなった。
いくつか
「それよりそろそろお2人が帰られますよ、特にルリ様は『祭り』までに帰りたいって言ってましたし」
「じゃあご主人様に『縛って』もらうのが早いですわね」
「輝夜の言う通りですわね。私の呪術じゃ【
セピアが輝夜の提案に乗る。セピアは呪術Lv.2の技能も持つ優秀なカラーだ。それを利用すれば相手の特定の行動を封じることが出来るが、アルフィアに実験したら後から解除も可能だった。この世界の
『縛る』とは魔王の魔人に対する『絶対命令権』と同じような魔人の使徒に対する
「ヘスティア様赤面しないでください。『縛る』というのは別にHな内容ではないですからね?」
「むっつり処女神()」
「アリスくぅん!」
アリスィアはヘスティア眷属としては登録していないが、今後を考えそれに近い振る舞いはしている。なのでヘスティアにも最低限の敬意は持っているがあくまで
「それよりアリス、ヘスティア、教会の改修がそろそろ終わりそうだからな、明後日にでもお前達とベルと私は出ていくぞ」
「えーっここも良い家なのに…広すぎるけど」
ホーネット派の魔人と使徒を受け入れる予定があるので、魔人館はかなり広く造られている。アポロン屋敷と同程度には。
「黙れヘスティア、そもそもお前たちは結成したての駆け出しファミリアだろう、そんな時代から贅沢しすぎなんだ、それに地下の住居の区画は拡張もしてあるから住むだけなら不便はない、金はアリスが荒稼ぎしている上に私の貯蓄も有る」
「それに【
アルフィアもアリーゼも輝夜もベルのレアスキル発現にそれなりに驚いていたが【異世界】の
「ああ、それに今の私達はサボるとレベルが下がるらしいからな、60階層以下が禁止にされている以上お前らと地上で鍛え続けるほうが良いから昼間は結局私はこちらの世話になりそうだな」
「それとヘスティア様近々【宴】があるそうですが、私達がドレスと最低限のアクセサリを用意しといたんで、出席なさる前には必ずこちらに寄ってくださいね」
「セピアくんっ!なんて良い子達なんだっ君達はっ!ボクの眷属にっ…は無理だったねあはは」
それからヘスティアとベル達は
地上の教会も装飾過多にならず、贅沢も貧相さも感じさせないが気品を感じさせる、ヘスティアとアルフィア好みの良い出来上がりだった。食事はヘスティア以外の3人が当番になって作った。
更にその数日後───魔人館でヘスティアは使徒達にドレスアップされていた。
「はー女神様はやっぱり凄い美人ですよねえ、単純な顔の造形では美神達にも劣っていない…というかこのレベルまでいくと好み次第ですよね、もう」
「美神の話は止めてくれセレス…あいつらは、キライだ」
「フレイヤはカーラを見る目怪しかったですもんねえ…イシュタルは本当下品で不快でしたよね、『男なら誰でも自分に堕ちる』って意志が透けて見えましたわ、ご主人様や私らを見る目が完全にモノを見る目でしたわ、自分の眷属含めて。
フレイヤが嫌いらしいから私達を手に入れてフレイヤを潰す駒にしたいんでしょうね。会った中で一番マシな美神が最も怖がられているヘラ様なのってどうなんでしょうかね?」
「ああ…カーラ君はまあ、『
「その沸点が低いから恐れられていたんだろう奴は…」
「アルフィアさんも、アリス様もヘスティア様もフレイヤには気を付けてくださいね、多分ベル君目つけられてますから」
「??なんでそんなこと分かるんだい?」
「ベル君がここに移り住んでからやたらと【鏡】で覗こうとしていましたから。何回も干渉を弾くの確認しています。」
「
「そのあたりのシステムの構築をしたのはルリ様ですけどね、あの方の本分は魔法使いでも格闘家でもなく、研究者で技術者ですから」
「研究者…ジル様にもそんなところあったな、血は争えんよな」
セレスティアとセピアの顔からサッと血の気が引く。カーラは
様子がおかしいことにすぐ気付く、アルフィア達。「ホーネット」の名前は散々聞いたが、「ジル」はアルフィアですら数回しか聞いたことがない。いずれ魔人達を問い詰めようと思い、違う話題に変える。
「そうだ、ヘスティア。ヘファイストスにベルの武器の製作を頼むならこの依頼書を渡せ。ベル向きである形状とサイズまで記した、費用なら私持ちだ、間違っても借金しようとするなよ?」
「私達はアルフィアさん含めてご主人様の配下扱いですからね、ヘファイストス様とご主人様の『契約』は対等ですから。私達からの依頼なら優先的に受けざるを得ませんから。気にしなくて大丈夫ですよ。」
「そうそう費用に関してもアルフィアさんの親心だし、アルフィアさん超金持ちですからね。それに私達の今の武装大体がヘファイストス様製でお得意様ですし、割引はされているけど」
「そういえばヘファイストス様とは結局
「ちょちょちょアストレア様とご主人様がってどういうことなの皆ァ!?」
「そうだな流石に聞き捨てにならんぞお前ら…」
当然、元眷属のアリーゼと輝夜が真っ先に反応する。
「いやお前らが使徒に成り立ての時元々が死にかけのこともあって消耗して寝ていただろう、その間にだ、あの感じとあの匂いは間違いなかったなうん」
「当時のアストレア様は眷属があのリューちゃんを除いて全滅したと思い込んでいて傷心でした。最後まで残った貴女達も使徒化の上書きで
そんな時にどんな手段であれ『貴女達を救った』という男が現れたらどう感じると思います?」
「そら英雄にしか見えないでしょうね、もうトゥンクですね」
「多分今回もアストレア様が居るというゾーリンゲンとやらにも寄っているんじゃないでしょうか?一度懐に入れるとメチャクチャ優しいですからねあの方」
「アストレア様も『女』だからな、そりゃ人肌が恋しくなる時もあるだろうよ」
「うーご主人様相手なら許せるような逆に許せないような…確かに物凄く上手かったと思うし、他の
かつてなら「アストレア様に男など有り得ない」と否定していたであろう
「例えアストレア様相手であろうと合意の上でなら構わないだろう、だが
「
「『猥談』ではなく『恋バナ』と仰ってくださいまし、前に
「ああ、アレってそーいう!?」
一応これでもヘスティアとアリスィアを気にして自重している方なのだ。ちなみに使徒だけになったら「どんなプレイを~」みたいな話にまで発展する。「娘」というポジションで、完全に別枠のアリスィアはそんな様子を冷ややかに見ていた。
(やっぱハーレムって管理大変よねえ、自分の知らない所でのこうしたやり取りの方向次第では次に会った時何言われるか分かったもんじゃないしお兄ちゃんには絶対無理よねえママは…)
黙り込んだまま余裕淡々な風を装っているが、しっかりと会話は聞いている。というか普通に楽しんでいるっぽい。ヘラ・ファミリアは結構な蛮族集団だったらしいし、こういうガールズトーク?みたいなの少なそうだし無理もないか。
父も最初からハーレムを作る気ではなかったらしい。最も荒んでいた時期に今の使徒3人に迫られてコロッと落ちてしまったらしいのだ。あの3人以外に関係を持った女性もそこまで多くはない、とのこと。
オラリオで「ハーレム野郎」みたいな風に言われているのもあの3人の存在に加え母をオとしたからだろう。それと一部の女神との怪しい噂か。古参の一部の冒険者や神々からは、母とのことで尊敬されているらしいが。
「
そんな姉でも
自分の生まれはあの両親の時点で元々普通じゃない、ならこれだけの才能を与えてくれた両親のためにも溺愛してくれている姉のためにも、もっと強くなり、恩返しをするのだ。そんな思考を打ち切り、ヘスティアを着飾らせるのに参加する。
そうしてガネーシャ主催の【宴】に参加するヘスティアだったが、その後のヘファイストスへの頼みはあっさり通った。
「ええっいいのかいっヘファイストスッ!?ベル君に武器を君自ら作ってくれるなんて…」
「構わないわよ、アルフィアも、もう知らない仲じゃないし…この10年は結構濃かったからね…
「確かに結構バベルのテナント手伝っていたもんねえ」
「まあ
「それって
「いえ良くないこととは分かっているんだけど、駆け出しの子達は多少でも『切っ掛け』がないと腐り易くなっちゃうからねえ」
それから少しして【
ヘスティアが向かったメインストリートにある喫茶店で、フレイヤとロキの二柱が、アイズ・ヴァレンシュタインを混じえて駄弁っていた。
いや駄弁るというより本質はロキからの一方的な尋問だった。
「率直に聞く。何やらかす気や」
「はあ…とても綺麗で、今までにも見たことない色をしていたのだけど…よりによってアルフィアが大切にしている子なのよねえ」
「ってオイまさか…」
「いえ、
「なんやじゃあファイたんのとこか?」
「いいえ、ヘファイストスの子ではないわよ、無関係ではないのでしょうけど…出来ればアルフィアが大切にしている子を奪うようなことはしたくないのよねえ7年前は消えかけで淀んでいた魂が今は凄く輝いてるし…」
【恋】を知って【子供】が出来て【親の愛】も知ったのだろう。いや似たような「無償の愛」という意味では
そういう意味でも彼女を変えた
「貴女を抱いてしまえば、俺の大切にしている者達が無価値のように思えてしまう可能性がどうしても頭を
アレは確かに良い男だろう。間違いなくアルフィアをも虜にするほどの極上だ。礼儀も正しかったし、嘘はなかった。自分の子達は信じられないモノを見る目で彼を見ていたが。だが自分の伴侶には成り得ない。
他の女を侍らせることはあっても間違いなく心に決めた【本命】が居るから。「本命以外」も真摯に愛してくれるだろうが、その熱量には決定的な差が出来るだろう。自分はそれには耐えられそうもない。
そもそも明らかに子供達の魂と規格が違いすぎるし…近付きすぎればその眩さで眼が灼かれてしまうような───最近は「彼ら」のことを考えるのが一番の楽しみだったのが…ここにきて永年追い求めてきた伴侶にしたい男が現れたのだ。
彼の色を僅かに持つ仲間達は1人、2人なら手段次第ではギリギリなんとかなりそうだが、あの「魔人」の2人はどうにも出来そうもない。文字通り「規格」が違うのだ。まるで天界の神々がそのまま地上で力を振るっているような───
「アルフィアが───まさかアリスたんか?」
「いえ、
「せやなあ、やられてんのがウチのベートじゃなきゃアレは痛快だったんやがなあ」
「くすくす貴女の所の【
「はぁ相手の見た目があんな可愛い幼女じゃなきゃなあ 素直に応援出来たんやが…」
フレイヤの視線がカフェの外で走っているベルに釘付けになる。
「ごめんなさい、急用が出来たわ、また今度会いましょう」
そうして店を出ていってしまうフレイヤだった。