どうも、社畜から無職へです。

 例によって今回も無職とAIの妄想と自己満足と趣味嗜好の結晶体でごさいます。

 ヤマもオチも無いお話ですが、それでも良い方だけお読み下さい。

 山あり谷ありの感動的なお話を求めておられる方は、プラウザバック推奨です。


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世界滅亡による世界救済、或いは新生

 

 

 

 ──世界は、とっくに熟しきっていた。

 

 瑞々しい果実がやがて自らの重みと時の経過に耐えかね、内側から黒く濁った汁を滴らせて腐り落ちるように、その世界もまた、緩やかな終焉の腐臭を漂わせている。

 

 生者と死者の境界はすでに曖昧だ。昨日息絶えたはずの老人が、翌朝には虚ろな目で畑を耕し、産声を上げたばかりの赤子が、老残の知恵を持って言葉を紡ぐ。輪廻の歯車は錆びつき、無意味な崩壊が世界の端々からボロボロと剥がれ落ちていた。

 

 本来ならば、そうなる前に『刈り取り』が行われるはずだったのだ。

 

 育ちきった世界を収穫し、一度混沌の壺へと還し、新たなる命の種を蒔く。それが神々の定めた果てなき循環──。

 

 

 

 ◇    ◇    ◇    ◇

 

   

 

「うう、ううう……! なんという。なんということじゃ……!」

 

 白い霧がどこまでも立ち込める、生と死の境界、三途の川のほとり。

 

 そこに、およそ厳かさとは程遠い、少女の泣き喚く声が響き渡っていた。

 

 声の主は、輝く金髪を二つの団子に結い、あまりに丈の短い神衣に身を包んだ幼い少女。しかしその身から放たれる神気は、紛れもなく万物を無から生み出す『創造神』のそれであった。もっとも、今の彼女に世界を統べる威厳など微塵もない。

 

 薄紅色の瞳に涙をなみなみと溜め、短い手足をバタつかせて地団駄を踏んでいる。経験の浅い若い神である彼女は、今、人生(神生と言うべきか)最大の危機に直面し、完全にパニックに陥っていた。

 

「姫様、どうかお心を静められますよう。老骨の身には、そのお嘆きは少々耳に痛とうございますな」

 

 その傍らで、衣服の乱れを完璧に整えた老紳士が、恭しく頭を下げた。漆黒の執事服を纏い、片目にモノクルを嵌めたその老人は、創造神の執事でありお目付け役、そして世界の解体を生業とする『混沌神』である。彼はやれやれと首を振った。

 

「静めていられるか、爺や! 世界が、妾の創った愛しき世界が、このままでは腐り果ててしまうのじゃぞ! そうなれば新たな混沌をリソースとして回収できぬ! これでは次の世界を創ることも叶わぬではないか!」

 

「お仰る通りにございます。世界の狩人であり漁師たる『破壊神』が、まさか収穫対象たる『人間』ごときに弑されるとは、完全に想定外にございましたな。狩り時を誤った、我らの失策にございます」

 

「失策などと他人事のように言うな! あやつ、あやつが……! 『勇者』などと名乗る大罪人が、世界の滅びを受け入れられぬと抜かして、わらわ達の仲間を! 破壊神を逆恨みで殺してしまったのじゃ! ああ、神殺しの咎人め、なんという大罪を! このまま捨て置く事なとあり得ぬ! 憎っくきアヤツを討ち滅ぼし破壊神の無念を晴らすのじゃ!」

 

 創造神──その一人称を『妾(わらわ)』とする幼き神は、わっと再び泣き出した。

 

 そこへ、優雅に長い裾を引きずりながら、豊かな大地の実りを象徴する豊満な肢体を揺らした美女が歩み寄ってくる。大麦の穂を模した髪飾りをつけ、慈愛に満ちた目をしながらも、その声音には隠しきれない焦燥が混じっていた。彼女は世界を育てる農家であり畜産家、創造神の姉代わりを務める『調和神』だ。

 

「おひいさま、泣き喚いてばかりでは何も始まりませんわ。すでに世界の理は狂い始めています。早く手を打たねば、本当に手遅れになります」

 

「調和の姉様よ、そうは言っても、破壊神の席は空席じゃ! 破壊神で無い妾達の権能では世界の無意味に潰してしまうやも知れぬ。 新たな神の座を埋めるには、それ相応の魂が必要じゃが、そんな都合の良いものが……」

 

 言いかけた創造神が、「うきゃっ!」とお猿さんの様な短い悲鳴を上げて飛び上がった。

 

 ピョンと跳ねた彼女は、自分の小さな足の裏を押さえて涙目で、そこにある「何か」を睨みつける。

 

「うっぎゃ~~!! 痛いっ!? な、なんじゃ、この凶悪な石コロは! 妾の麗しき足の裏を穿とうとするとは不敬極まりない!」

 

 そこにあったのは、一つの『魂』だった。

 

 通常、死者の魂というものは、天に昇った後に三途の川の激しい流れに揉まれるうちに、過去の記憶を洗い流され、生前の業(カルマ)という名の角を削られ、やがて全てを磨り減らして生命の流れに溶け込んで彼岸へと還る。それが浄化であり、輪廻への準備だ。

 

 しかし、その魂は違った。

 

 三途の川のただ中にありながら、激流をものともせず、それどころか川の流れを逆に削り取るかのように、ギザギザと、尖りまくった形を維持していた。まるで世界そのものに反逆を翻しているかのような、禍々しいまでの、圧倒的な『頑固さ』。

 

「ほう……」

 

 混沌神がモノクルの奥の目を細めた。

 

「これは驚きですな。三途の川の浄化の力に何百年、いや何千年も抗い続け、角が取れて丸くなることもなかった。これほどまでに頑固で、我の強い魂は見たことがございませぬ。まさに、不純物の一切ない『我が儘(まま)』の結晶」

 

「……これじゃ」

 

 創造神が、足の裏の痛みを忘れたように、その尖った魂を凝視した。

 

「この魂、凄まじい執念を感じるぞ。過去の記憶など一片も残っておらぬというのに、己という存在の輪郭だけは絶対に崩さぬという、異常なまでの頑迷さ。……秩序神よ、爺やよ。こやつを、新たな『破壊神』の器とする!」

 

 その瞬間、私の意識は、冷たく暗い川の底から引きずり上げられた。

 

 

 

     *

 

 

 

「──目を覚ますのじゃ、頑固者め」

 

 甲高い、しかしどこか傲慢な響きを持つ声が耳に届いた。

 

 私が意識を覚醒させると、そこは現実の空間ではなかった。光と闇がぐちゃぐちゃに混ざり合った、万物の始まる前の領域。そこに、三人の圧倒的な存在が私を見下ろしていた。貧乳幼児体型の金髪ロリ、おっとりとしたおっぱい美人、そして隙のない老紳士。

 

(私は……?)

 

 声を出そうとしたが、私には肉体がなかった。ただの尖った精神の塊だ。

 

 過去の記憶は、一切ない。自分が何者であったのか、男だったのか女だったのか、どんな人生を歩み、なぜ死んだのか。何も思い出せない。だが、不思議と焦りはなかった。ただ、魂の芯の部分にある「私は私であり、他の何者にも私を曲げさせない」という、アダマンタイトよりも硬い傲慢な自負だけが、そこに厳然と存在していた。

 

 私は、間違いない。生前も、とんでもなく頑固な人間だったのだろう。

 

「ふむ、記憶は綺麗さっぱり消えておるな。良きかな。我の強さだけが残っておる。これならば神の力に呑まれることもあるまい」

 

 貧乳神──創造神が、満足げに頷いて私に人差し指を向けた。

 

「お前に、世界を滅ぼす使命を与える」

 

(世界を、滅ぼす?)

 

「そうじゃ。今、地上の世界は育ちきって腐りかけておる。本来なら我が眷属たる破壊神がすべてを刈り取るはずじゃったが、愚かな『勇者』なる人間に殺されてしもうた。お前の役目は、地上に降り、その勇者を殺して、奴が奪った破壊神の力を奪い返すこと。そして新たな『破壊神』へと昇神することじゃ!」

 

 創造神の背後から、調和神が優しく、しかし有無を言わせぬ圧を持って微笑みかける。

 

「おひいさまの言う通りですわ。私たちが育てた世界(家畜)が、屠殺されずに病気で腐っていくのを、私は見ていられません。あなたには、残された私たち三神の力を分け与えます。まずはその力で、人間の肉体を得て地上へ行きなさい」

 

 混沌神が、一歩前に出て、慇懃に一礼した。

 

「プロの解体者として、有益なリソースが失われるのは耐え難い損失にございます。お前様には、我が『混沌の牙』の一部を授けましょう。神殺しの勇者とやらの、身の程知らずな魂を、綺麗にバラバラにして差し上げるのです」

 

 三人の神々が、私を覗き込む。

 

 普通なら、世界の命運を懸けた大役に恐れ戦くか、あるいは神々の威光にひれ伏す場面だろう。

 

 だが、私の頑固な魂は、ただ冷ややかに彼らの言葉を反芻していた。

 

(ふん……。神の都合で世界を滅ぼせ、か。勝手な言い分だ。だが──)

 

 私の魂の角が、ギラリと輝いた。

 

 記憶はなくとも、本能が告げている。私は、誰かに従うのが大嫌いだ。しかし、それ以上に「世界を終わらせる収穫者」という絶対的な役割、そして自分を殺しにくるであろう「勇者」という存在を叩き潰す行為──それは、私のこの尖りきった魂を、ひどく刺激した。

 

 面白そうだ。私のこの頑固さが、世界という巨大な理と、それを守ろうとする勇者をどこまで蹂躙出来るのか、試してみたい。

 

(いいだろう。その役目、私が引き受ける。一人称は『私』だ。それ以外は受け付けない)

 

「くくっ、どこまでも不遜な奴じゃ! だが、その我の強さこそが破壊神に相応しい! では、力を授ける! 昇神後の姿は……ふふん、妾の完全なる趣味じゃ! 期待するが良いぞ!」

 

 創造神が両手を掲げると、三神から圧倒的な神気の奔流が、私の尖った魂へと注ぎ込まれた。

 

 創造神の「無から有を生む」創造の種。

 

 調和神の「命の形を固定する」管理の楔。

 

 混沌神の「あらゆる繋がりを断ち切る」解体の刃。

 

 それらが、私の魂の中で激しく衝突し、融和し、そして一つの「形」へと編み上げられていく。

 

「さあ、行くのじゃ! 我が眷属よ! 世界を腐らせる大罪人、勇者を弑し、新たなる破壊の神として、妾の元へ還ってこい!」

 

 爆発的な光と共に、私の意識は地上へと叩き落とされた。

 

 

 

     *

 

 

 

 ──ドォン!!!

 

 世界の中心に位置する、かつて『神聖都市』と呼ばれた場所。今や生者と死者が入り乱れ、不気味な紫色の霧が立ち込める滅びの街に、一筋の黒い流星が激突した。

 

 猛烈な煙と土砂が巻き上がる中、私はゆっくりと、その場に立ち上がった。

 

(これが、私の肉体……)

 

 見下ろすと、そこには創造神の歪んだ、否、偏ったこだわりが凝縮された肉体があった。

 

 年齢は10代半ばほど。まだ少し幼さを残す、恐ろしいまでに整った顔立ち。しかし、その体躯は不釣り合いなほどに発育が良く、胸元や腰回りは豊満──いわゆる、トランジスタグラマー(死語)な美少女の姿であった。

 

 絹のように滑らかな白い肌。闇をそのまま紡いだかのような、夜色の黒髪。そして、その奥で妖しく、しかし毅然と輝くのは、燃えるような紅い眼(まなこ)はツリ目でキツい印象を与える。

 

 流水の様な不思議な光沢のノースリーブのぴっちりとした漆黒のロングドレスに入った深いスリットからは健康的な太股が目を引き、ドレスと同素材の長手袋、ガーターに吊られるストッキングには真っ赤なショートブーツを合わせて履き、おろせば足元迄届きそうな髪は高い位置で深紅のリボンにポニーテールに纏められて居た。

 

 創造神の趣味嗜好の塊、どストライクな「好みの姿」にされたのは少々癪だが、この肉体に宿るパワーは本物だった。体内で、三つの異なる神の力が、私の頑固な魂を核として、完璧に調和している。

 

「おい……今のは、なんだ?」

 

「空から、何かが落ちてきたぞ……」

 

 霧の向こうから、複数の足音が近づいてきた。

 

 現れたのは、武装した兵士たちだ。だが、彼らの様子はおかしい。皮膚は土気色に変色し、剥がれ落ち、眼球は濁りきっている。完全に死んでいるはずなのに、その肉体は不自然に動き、武器を握り締めている。生者と死者の境界が曖昧になった、この世界の成れの果て──『歩く死体(リビングデッド)』とすら呼べない、世界のバグだ。

 

「女……? いや、なんだ、あの不吉な眼は……!」

 

「侵入者だ! 勇者様に報告を──」

 

 私は、ふっと息を漏らした。

 

 彼らの言葉の中に、目的の男の名があったからだ。

 

「勇者、か。彼はどこにいる?」

 

 私の声は、鈴を転がすように美しかったが、同時に凍りつくような冷徹さを孕んでいた。

 

「うるさい! 曲者め、出会い頭に首を撥ねてくれる!」

 

 三人の兵士が、一斉に槍や剣を突き出してきた。

 

 私は一歩も動かない。ただ、右手を軽く前に突き出し、混沌神から授かった力を、指先に込めた。

 

「『解体(バラせ)』」

 

 パチン、と指を鳴らす。

 

 それだけで、迫り来る兵士たちの肉体、衣服、武器、そして彼らをこの世に繋ぎ止めていた不自然な因果の糸が、一瞬ですべて「情報レベル」へと解体された。血が一滴も流れることすらなく、彼らはただの灰のような塵となり、夜風に吹かれて消え去った。

 

 これが、混沌神の力。あらゆる繋がりを断ち切り、リソースへと還元するプロの技だ。

 

「なるほど、悪くない。……さて、世界を腐らせている元凶に、挨拶に行くとしよう」

 

 私は、紅い眼を妖しく光らせ、世界の中心にそびえ立つ、巨大な黒い城──『勇者城』へと歩みを進めた。かつて魔王を倒した勇者が、今や世界を滅びから「不自然に守る」ために引きこもる、独裁の砦へ。

 

 

 

     *

 

 

 

 城への道中、世界はどこまでも醜悪だった。

 

 空はどんよりとした鉛色で、太陽はその輝きを失い、ドロドロとした油のような光を放っている。植物は枯れ果てているのに腐らず、動物たちは内臓を露出させたまま歩き回っている。

 

 この世界の人々は、滅びを恐れるあまり、勇者を称え、この「永遠に続く停滞」を受け入れているのだろうか。

 

 だが、私には関係のないことだ。私の魂は、この歪んだ光景を見て、ただ「美しくない」と判断した。収穫されぬ果実は、取り除かれねばならない。それが、私の頑固な美意識だ。

 

 城の門を叩き壊し、押し寄せる数千の「死に損ないの軍勢」を、秩序神の力(命の形を強制的に静止させる)と、混沌神の力(静止したものを解体する)の合わせ技で、文字通りチリ一つ残さず消滅させながら、私は最上階の玉座の間へと辿り着いた。

 

 バァン!! と両開きの重厚な扉が吹き飛ぶ。

 

 広い玉座の間の奥。そこに、一人の男が座っていた。

 

 黄金の髪、かつては正義に燃えていたであろう、しかし今は狂気と執念に濁りきった青い瞳。彼の傍らには、禍々しい紫色のオーラを放つ、巨大な大剣が突き立てられていた。

 

 あれが、前破壊神を弑した際、その身から奪い取った『破壊の権能』を引きずり出している神殺しの武器。

 

「…………、神の刺客か」

 

 勇者は、低く、地を這うような声で呟いた。彼はゆっくりと立ち上がり、大剣を引き抜く。

 

「創造神め、諦めずに、今度はそんな小娘の器を送り込んできたか。何人来ようと同じだ。私は、この世界を終わらせない。人々の営みを、私が守り続ける。神々の勝手な『収穫』など、断じて認めん……!」

 

 勇者の放つプレッシャーは凄まじかった。人間の身でありながら、神を殺した男だ。その肉体には、奪い取った破壊神の力が限界まで凝縮されており、彼の周囲の空間自体が、ピキピキとひび割れている。

 

 だが、私はその圧倒的な威圧感を前にして、思わずクスリと笑ってしまった。

 

 グラマラスな身体を少し揺らし、豊かな黒髪をかき上げながら、私は玉座を見据える。

 

「守る、か。笑わせないで。あなたのしていることは、皿の上の腐った肉を、腐らないように毒液に浸して保存しているだけ。それを『営み』と呼ぶなんて、独りよがりも甚だしいわ」

 

「黙れ! 神の操り人形が!」

 

 勇者が地を蹴った。

 

 速い。視認すら不可能な速度で私の目の前に現れた彼は、破壊の権能を乗せた大剣を、容赦なく私の脳めがけて振り下ろした。

 

 空間そのものが割れる。世界を滅ぼすための破壊の力が、私を消し去ろうと襲いかかる。

 

 ──だが。

 

 キィィィィィン!!!

 

 激しい金属音が、玉座の間に響き渡った。

 

 勇者の目が見開かれる。彼の放った絶対の神殺しの一撃は、私の顔面の手前わずか数センチのところで、完全に停止していた。

 

「な……!? 私の『破壊』を、受け止めた……!?」

 

「勘違いしないで」

 

 私は、片手を突き出し、勇者の大剣の刃を、素手で、指先だけで完全に受け止めていた。

 

「私は誰の操り人形でもないわ。創造神の願いなんて、本当はどうでもいい。ただね──私は、私を曲げようとするものが、何よりも大嫌いなの」

 

 私の魂の角が、激しく脈動する。

 

 私の中に在る創造神の力──『無から有を生む』力。それを私は、自らの魂の頑固さと融合させ、私の周囲に「絶対の拒絶の領域」を瞬時に創造していた。どんな破壊の力であれ、私の「私はここに存在する」という頑強な意志を打ち破ることはできない。

 

「あなたが世界を守りたいという執念が固いなら、私の『頑固さ』は、その何百倍も硬いわよ」

 

「ぐ、おおおおお!」

 

 勇者は叫び、さらに力を込めて大剣を押し込もうとする。しかし、私の指先は微動だにしない。

 

 私は紅い眼を冷酷に見開き、もう片方の手を勇者の胸元へと突き出した。

 

「さあ、前任者の力を返してもらうわ。……『解体』、そして『固定』」

 

 混沌神の解体の力が、勇者の肉体と、彼が取り込んでいた破壊神の力の「結びつき」を強制的に切断する。同時に、調和神の固定の力が、剥離した破壊神の権能を、私の肉体へと手繰り寄せ、完璧に融和させていく。

 

「が、はっ……!? 力が、私の、世界を守る力が……抜けていく……!?」

 

 勇者の身体から、ドロリとした漆黒の神気が溢れ出し、私の白い肌へと吸い込まれていった。

 

 その力が肉体に馴染むたび、私の内側で、何かがパチパチと音を立てて弾ける。

 

 三神から授かった力と、回収された本来の破壊の力。それらが、私の「尖った魂」を触媒にして、完全に一つへと昇華していく。

 

 背中から、黒い光で形成された、禍々しくも美しい六枚の翼が広がった。

 

 頭上には、血のように紅い光輪が浮かび上がる。

 

 十代半ばのグラマラスな美少女の姿のまま、私は圧倒的な、真なる世界の終焉を司る神──世界を狩るモノたる『破壊神』へと、その存在を昇神させた。

 

「あ……ああ……」

 

 力を失い、ただの脆弱な人間に戻った勇者が、床に膝を突いた。彼の黄金の髪は白髪へと変わり、肌は一気に老け込んでいく。彼が世界を守るために維持していた「偽りの不死」が、神の力を失ったことで崩壊したのだ。

 

「これで、終わりよ。勇者。あなたの執念は、私の頑固さの前に敗北した」

 

 私は、手元に具現化した漆黒の大鎌──真なる破壊神の獲物を、静かに振り上げた。

 

「待て……! 頼む、世界を……人間たちを、殺さないでくれ……!」

 

 涙を流し、懇願する勇者。

 

 しかし、私の心は1ミリも動かない。私は、誰の意見も聞かない。私の意志こそが、この世界の新たなルールだ。

 

「死すべき時に死ねないことほど、残酷なことはないわ。……おやすみなさい、哀れな大罪人」

 

 ザシュッ、と、静かな音が響いた。

 

 鎌が一閃され、勇者の首が落ちる。と同時に、彼の魂は混沌神の力によって、二度と輪廻の列に並ぶこともできないほど、粉々に解体され、完全な無へと還された。

 

 

 

     *

 

 

 

 勇者が消滅した瞬間、城が、そして世界が、大きな地鳴りを上げて震え始めた。

 

 勇者の執念によって不自然に繋ぎ止められていた世界の命脈が、完全に断たれたのだ。空の鉛色の雲が裂け、そこから世界のすべてを無に帰す、漆黒の雨が降り注ぎ始める。

 

 地面は次々とひび割れ、崩壊し、混沌のスープへと溶けていく。

 

 私は、崩壊していく世界を見下ろしながら、ゆっくりと宙へ浮かび上がった。

 

 肉体も、大地も、空も、すべてが本来の姿──リソースへと還っていく。その光景は、腐り果てた果実が土に還り、次の命の栄養となるような、どこか厳かで、圧倒的に美しい「収穫」の光景だった。

 

「おーい! 新たなる破壊神よー!」

 

 崩壊する世界の次元の隙間から、ひょっこりと、あのロリ創造神が顔を出した。その背後には、満足げに微笑む調和神と、完璧な仕事に深く一礼する混沌神の姿もある。

 

「見事じゃ! 見事じゃ頑固者よ! 先の破壊神を甘い言の葉で惑わし、騙し討ちした不実な勇者を良くぞ討伐した。 更に破壊神の力を初陣で完璧に使いこなすとは、流石妾の眷属ぞ! あやうく妾の可愛い世界が完全に腐るところじゃったが、これで見事にリソースが回収できたぞ!」

 

 創造神は、小さな手を叩いて大喜びしている。

 

「さあ、爺や! 調和の姉様よ! 回収した世界を混沌に帰し、こねくり回して、次はもっと素晴らしい世界を創るぞ! 今度は、もっともっと、妾の好みの美少女がたくさん住むような世界にな! それとも両方付けて生産性を2倍にするか?」

 

「おひいさま、あまりふざけた世界を創られては、育てる私の心が持ちませんわ」

 

「姫様、次の解体時には、もう少し計画的なスケジュールをお願いしたく存じます」

 

「お前達は考えが古い。 これからはあらゆる性は平等であるべきじゃ」

 

 姦しく騒ぎながら、次の世界の構想を練り始める神々。

 

 私は思わず股間に手をやり確認する。

 

「うん、付いてない」

 

これからは、創造神の眷属──いや、新たなる破壊神として、その傍らに寄り添う……………大丈夫だろうか? 一抹の不安がよぎる。

 

(しかしまあ、過去の記憶なんて、やっぱり必要ないわね)

 

 私は、気を取り直して自分の手を見つめ、不敵に微笑んだ。

 

 私は私だ。これから何度、世界が創られ、そして滅びようとも、私のこの尖りきった頑固な魂が丸くなることは、決してない。

 

 次の世界が育ちきったその時、また私が、その美しく熟した果実を、この鎌で綺麗に刈り取ってあげるだけだ。

 

「……ふん。次の世界も、せいぜい私を楽しませて頂戴ね、創造神様(変態ロリ様)」

 

「ん? 破壊神よそちは今、とんでもないルビで妾を呼ばなかったか?」

 

「何の事でしょう?」

 

 私は素知らぬ顔でとぼけると、黒い翼を羽ばたかせ、始まりと終わりが交差する、神々が住まう天上の彼方へと飛んで行った。

 

 

 

 

 END

 

 

 

 





 どうも、社畜から無職へです。

 「うん、付いてない」or「うっ!…………………」が今作一番の悩み所でした。



 今回のお話の元はかなり昔になります。

 とある魔法戦士が仲間と協力し、邪精霊を討伐して世界を滅びから救ったお話だったのですが、ひねくれ者の無職は思ったんです。

 自然の摂理である寿命を迎え、無に還る事で新たな世界の苗床になるはずの世界を無理矢理に延命すれば、如何なる様相を呈するのか?

 創造・調和・破壊・混沌、くるくる回る世界の理・循環を人の都合で歪めたり、遅延させたら世界はどうなるのか?と。

 世界を救う勇者の功績や勲しは素晴らしい物ですが、もっとメタに、上位の視点で見たらとんでもない悪行なのではないか?

 これがこのお話の出発点です。



 なお、作中での新たな破壊神の衣装はメタリッククリアブラックのノースリーブ・チャイナドレス及びガーターベルト&ストッキング&ショートブーツです。

 はい、創造神の好みです。

 なので無職の趣味・願望は全く入っておりません。

 創造神と調和神は白い布を身体に巻き付けて、帯で止めた衣装です。

 ではまた、機会があれば。

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