卍解のその先を追い求めて。   作:lalaland

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交わりし道に 袖は集い
背負いし名に 刃は応う




96. 逆風の白刃

 

 

 道の奥から三本の矢が来る。

 

 引くところまで見えていたので、先に榛名たちを左右へ分けた。真ん中へ残った俺が刀を振ると、払われた矢が塀へ刺さる。その音を合図にしたように、屋根の向こうでも白い弓が持ち上がった。

 

 随分と集まってくれたねぇ。

 

 門の前で戦っていた者が二人、奥へ下がる。こちらを見ながら退いているので、ただ逃げたいわけではない。俺たちを道へ入れ、その先で囲むつもりだろう。

 

「榛名。屋根を見てて。道の奥へは、俺が先に行くよ」

「承知しました。左の組、その塀より前へ出るな!」

 

 声を背に聞いて踏み込む。

 

 正面の男が弦を引き、隣の者が俺の足へ狙いを下げた。白縫を左へ張り、足元へ来た矢を外へ逃がす。正面の一本を刀で払い、そのまま弓の内側へ入った。

 

 刃が肩から胸へ抜ける。

 

 倒れる身体を避けて隣へ向かうと、男は矢を掛けたまま後ろへ跳んだ。その踵が地面へ着く前に白縫で引き止める。身体が傾いても右手は離れず、こちらへ矢を放ってきた。

 

 横へ払い、返す刀で斬る。

 

 その向こうにいた者は弓を消した。両手を上げて膝をつくので、刀を止めて榛名へ渡す。今度は屋根だ。顔を上げたところで、軒の向こうから別の声が飛んできた。

 

「そっち行くで! 頭下げとき!」

 

 白い矢が屋根を横切る。

 

 こちらを狙っていた男の弓へ当たり、光が散った。続いて塀を越えてきた死神が二人、その背後から斬り込む。俺も屋根へ上がり、もう一人が榛名たちへ撃つ前に腕を払った。

 

 男が足を滑らせる。

 

 引いた矢を離そうとしたところへ刃を通すと、身体が瓦へ倒れた。道へ落ちないよう襟を掴み、屋根の端から少し戻す。

 

「頭下げろって、俺に言った?」

 

 声のした方を見る。

 

 向こうの屋根へ、一人立っていた。刀を肩へ寄せ、こちらの顔を見ている。五番隊の平子だ。俺へ声を掛けるには、随分と大きな声を使ってくれる。

 

「ほかに誰がおんねん。屋根へ上がるなら先に言うてくださいよ。こっちは下におる思て狙い変えたんですから」

「上がるところ、見えてたんじゃないの?」

「見えた時にはもう上におるんですよ。こっちの目ぇにも都合があるんです」

 

 平子が屋根の下へ刀を向ける。

 

 その先で五番隊の子が頷き、門の脇へ回った。平子は俺との話を続けながら、別の者には裏を確かめるよう命じている。

 

 ちゃんと見てるねぇ。

 

「五番隊は、隣の道を受け持ってたんだろう。もう済んだの?」

「こっちへ抜けた連中がおったんです。追う組と残る組を分けて、先に知らせも出したんですけど」

 

 俺の後ろへ目が向く。

 

「届いてません?」

「佐伯が後ろをまとめてるから、そっちで受けたかな。俺も少し先へ来ちゃった」

「少し、で済む距離やないでしょう」

 

 言いながら屋根を降りる。

 

 俺も続こうとしたが、平子が先に振り返った。

 

「そこ、二人残しときます。下ばっかり見とったら、また上から来ますから」

「助かるよ。うちの子もつけるねぇ」

 

 榛名へ声を掛けると、見張りに回せる者をすぐに選んでくれた。平子の組と二人ずつ、屋根の左右へ立つ。刀を持つ位置を確かめてから、俺たちは道へ降りた。

 

 平子の袖に血がついている。

 

 本人の傷かと思って腕を見ると、こちらの視線に気づいて袖を引いた。

 

「俺のやないです」

「そっか。皆は?」

「一人、指を傷めました。刀は握れますけど、帰してます」

「うん。それならいいねぇ」

 

 平子が俺の手へ目を向ける。

 

「そっちは、よう斬ってはりますね」

「うちの子たちへ撃ってくるからね。待ってやる用事もないよ」

「それでええ思います。弓引いたまま話聞け言われても、下の連中が困りますから」

 

 後ろから呼ばれ、平子が顔を向ける。

 

 捕らえた者の引き渡しを尋ねられていた。十番隊へ回すか、自分たちで連れて帰るか。俺もそちらへ入り、合流地点でまとめると伝える。

 

 隊が違うだけで、同じ相手を二度縛り直すのも面倒だ。

 

 そこまで話した時、道の奥から三人が走ってきた。

 

 先頭は弓を持ち、残る二人は荷を抱えている。平子の組を見つけると脇の道へ曲がろうとしたが、そちらからも死神が出てきた。

 

 逃げる足が止まる。

 

「弓を下ろしてください。道は既に押さえております」

 

 穏やかな声だった。

 

 男が荷を持つ二人を背へ押しやる。そのまま弦を引くと、声を掛けた死神の隣から刀が入った。腕を斬られた男が身体を捻り、残った手を十字へ伸ばす。

 

 俺が間へ入った。

 

 刀を胸へ通し、手が止まるところまで見てから抜く。荷を持つ二人は後ろへ下がり、塀へ背をつけた。片方が包みを落とし、中から衣と小さな袋が転がる。

 

「そちらの方は動かずに。荷は後で確かめます」

 

 さっきの死神が近づいた。

 

 男へ斬り込んだ者を下がらせ、こちらへ頭を下げる。六番隊の朽木蒼純だった。襟も袖も崩れていないが、肩の上下は普段より少し速い。

 

「烏有隊長。援護ありがとうございます」

「蒼純も来てたんだねぇ。銀嶺は?」

「別の組と北を押さえております。こちらの道へ抜ける者がいたため、私たちが回りました」

「ちょうどよかった。こっちも隣へ知らせるところだったよ」

 

 蒼純が平子を見る。

 

「平子殿も、同じように?」

「似たようなもんや。皆こっちへ来るさかい、十番隊に押しつけるんも悪いやろ」

「お前さん、押しつけるつもりだったの?」

「任せられる相手が目の前におったら、一回は考えますよ」

 

 蒼純の口元が僅かに緩む。

 

 平子はそれを見て、笑い事ちゃうでと続けた。その間にも、荷を落とした者へ五番隊の子が近づきすぎると、手で下がらせる。

 

 蒼純も隣の者へ指示していた。

 

 包みは本人に開かせる。腕を上げさせたまま困るなら、一人ずつ動いてもらう。二人が何を持っているか分かるまで、刀を納める者と構える者を分けていた。

 

「六番隊の子、よく動くねぇ」

「父からも、烏有隊長の隊を見ておくよう言われております。負傷者を運ぶ際の分け方など、こちらでも使わせていただいておりますので」

「へえ。銀嶺、そんなこと言ってたの」

「はい。ただ、隊長御自身の動きまで真似るなとも」

 

 平子が横で笑った。

 

「そこは言うとかなあきませんね」

「お前さんまで言うのかい」

「今、屋根で何したか覚えてはります?」

 

 覚えてるよ。

 

 そう返すと、蒼純まで頷いている。二人して言わなくてもいいじゃないかと思いながら、俺は道の先へ目を向けた。

 

 まだ奥に白い光がある。

 

 こっちへ集まっているのは、逃げてきた者ばかりではないらしい。

 

        *

 

 合流した佐伯は、俺たち三人を順に見た。

 

 平子の顔で少し目が止まり、蒼純へ頭を下げる。それから俺へ紙を差し出した。五番隊と六番隊から届いた知らせも、その間に挟んである。

 

「先に会っちゃったよ」

「そのようですね。こちらへお越しになると聞き、合流地点を変えようとしておりました」

「ほら。副隊長はちゃんと聞いてくれてますやん」

 

 平子が紙を覗く。

 

 佐伯は返す言葉を探したようだったが、俺が頷くと地図を広げてくれた。今いる道は南から続き、奥で川沿いの別の集落へ繋がる。その途中に、大きな屋敷が一つあった。

 

「こちらへ人が集まっています。先に来た組が弓を確認しましたが、周囲の家が近く、迂回して挟むには人数が足りません」

「中へ逃げ込んだ者もおります」

 

 蒼純が指を添える。

 

「私たちが追った者のうち、二人が門へ入りました。六番隊は裏の道を押さえていますが、家々の間を抜けられる可能性があります」

「表はうちで見る。十番隊が奥まで走ったら、こっちが追いつかんようになるしな」

 

 平子が俺を見る。

 

 走るなってことかい。

 

 口へ出す前に佐伯もこちらを見たので、俺は紙へ指を置いた。

 

「じゃあ、俺は屋敷へ入る。榛名の組を門までつけて、そこからは外を見てもらうよ。平子は表、蒼純は裏。間の家を通るところには、うちと六番隊から二人ずつ出そう」

 

 蒼純が人数を確かめる。

 

 平子は後ろへいた子を呼び、道の入口へ戻す者を決めた。佐伯も搬送の組をここで増やし、これ以上先へ出せる人数を榛名と相談している。

 

 皆が喋るので、俺の出番が少し減る。

 

 助かるねぇ。

 

 紙を押さえているだけで話が進むのを眺めていたら、平子に指を退けるよう言われた。そこへ道が描いてあるらしい。

 

「隊長が一人で入るなら、先に中へ声を掛けてくださいね。いきなり霊圧上げられたら、外の連中まで構えてまいます」

「そんなに上げないよ」

「そんなに、の幅が分からんのです」

 

 佐伯が黙って頷く。

 

 蒼純は咳払いを一つしてから、こちらの道を受け持ちますと話を戻した。笑うのを隠したのかと思ったが、息を整えるためだったのかもしれない。

 

「蒼純。お前さんは裏の合流場所へいて。家の間へ入るのは、別の子へ任せようか」

「私も動けます」

「うん。だから、戻ってくる者を見てほしいんだよ。裏へ出た相手を追う子ばかりになると、誰が残ってるか分からなくなるからねぇ」

 

 蒼純が地図を見る。

 

 しばらくして頷き、傍の隊士へ名を呼んで役目を渡した。俺が言わなくても自分で決めたかもしれない。けれど、そこで頷いてもらえれば、こちらも門へ向かいやすい。

 

 佐伯が紙を畳む。

 

 平子は先に立ち、蒼純も六番隊の者を連れて別の道へ入った。別れる前に声を掛けると、二人ともこちらを向く。

 

「終わったら、合流地点で会おうねぇ」

「先に帰らんといてくださいよ。うちの報告も聞いてもらいますから」

「父への連絡はこちらでいたします。変更があれば、お知らせください」

 

 返事をして、俺も道へ入る。

 

 背後では平子が隊士を急かしていた。足元を見ろ、屋根も見ろ、両方いっぺんに見られへんなら隣へ頼め。声がよく通るので、榛名の組まで顔を上げている。

 

 あいつが来ると、随分と賑やかだねぇ。

 

『お前様も、ようお話しになっておいでで』

「そうかな」

『ええ。先ほどより、お顔が上がっておりんす』

 

 ゆめに言われ、前を見る。

 

 大きな門があった。

 

        *

 

 門の上へ、白い弓が並んでいる。

 

 左右の塀にも二人ずつ。真ん中へ立った男が俺の羽織を見て、傍の者へ何か伝えた。奥で足音が増え、屋敷の障子が開く。

 

 俺は門の手前へ止まった。

 

「十番隊隊長、烏有玄十郎。弓を下ろして出てきてほしい。抵抗しない者は拘束する」

 

 門の上の男が、こちらへ弓を向ける。

 

「捕らえて、後で殺すのだろう」

「そういう命令は受けてないよ。けれど、そのまま撃つなら今ここで斬る」

 

 男の後ろで誰かが声を上げた。

 

 下りようとした者を別の男が引き止める。俺はそこを見て、降りるつもりならそのまま来てと声を掛けた。

 

 弦が鳴る。

 

 正面の男が放ち、左右も続いた。後ろには榛名たちがいる。刀を横へ振って正面を払い、両側の矢へ白縫を張る。逸らされた光が門の柱を削る間に、俺は上へ入った。

 

 男の弓を斬り、そのまま刃を返す。

 

 塀の右で次を引いた者にも踏み込んだ。下へ逃げる者は追わず、こちらへ向いた弓だけを見て斬る。門から降りようとしていた一人が、両手を上げたまま固まっていた。

 

「そっちへ降りて。うちの子が見てるから」

 

 男が頷く。

 

 その足が地面へ着くまで見てから、俺は庭へ降りた。屋敷の前に四人。奥からも二人出てくる。こちらへ弓を向ける者の隣で、刀を持った男が声を張った。

 

「裏へ回れ! ここは俺たちが止める!」

 

 庭の脇から三人が走る。

 

 そちらには蒼純たちがいる。俺は追わず、正面へ足を進めた。刀を持つ男が先に斬り込む。受けた刃を外へ流し、空いた胸へ返す。

 

 男が倒れる前に、奥の弦が鳴った。

 

 刀を抜いて横へ払う。庭の石が割れ、その欠片を踏んで次の男へ入った。弓を掴む左手が血で滑るので、手首へ白縫を掛ける。身体を引き寄せたところへ刃を通し、残る者へ向き直った。

 

「まだ続ける?」

 

 一人が弓を消した。

 

 隣の男は下ろさない。その顔を見たまま踏み込むと、矢を放つ手が僅かに遅れた。肩へ刀が入り、弓が外へ向く。二本目を掛ける前に斬り伏せた。

 

 門の外から榛名の声がする。

 

 捕らえた者を下がらせ、空いたところへ見張りを入れている。庭の脇でも声が上がった。平子の声だ。裏へ回った者を、六番隊と挟んだのだろう。

 

 先へ行かんでええ、そこ押さえとけ。

 

 よく聞こえるねぇ。

 

 俺は屋敷へ顔を向けた。

 

 障子の向こうから、一人出てくる。弓はない。両手を前へ見せ、倒れた者へ近づく前に俺を見た。

 

「もう撃たせない。中の者にも、弓を下ろさせる」

「そう。じゃあ、一人ずつ出してもらえるかな。怪我した者がいるなら、そいつからでいいよ」

 

 男が後ろへ呼び掛ける。

 

 俺は刀を下げ、門へ来た榛名に中を確かめてもらう。抵抗を続ける者がいないと分かるまで、庭からは動かずにいた。

 

 やがて佐伯が門を通る。

 

 庭を見渡してから俺の隣へ来て、裏の道も押さえられたと伝えてくれた。平子と蒼純の組に大きな怪我はないという。

 

「皆、よく動いてくれたねぇ」

「はい。引き渡しも三隊で分けられます。こちらだけで運ぶより早く済むかと」

 

 頷いて、刀を納める。

 

 門の外でまた平子が何か言っていた。今度は蒼純が答えている。話しながら近づいてくる足音を聞き、俺もそちらへ顔を向けた。

 

「お前さんたち、助かったよ」

「助かった、やのうて、終わったか先に教えてください。門まで来る間、どこから矢が飛ぶか思てましたわ」

「今、確かめてる。中から出てくる者を、うちの子たちが見てくれてるよ」

「ほな、表に残した連中も呼びます」

 

 平子が隊士へ手を上げる。

 

 蒼純は捕らえた者の数を佐伯と確かめ、裏へ残した組をどう戻すか話していた。俺が口を挟む前に、道を空ける順番まで決まっていく。

 

 門へ背を預け、少しだけ待つ。

 

 ここに来るまで、俺の後ろから聞こえていたのは十番隊の声ばかりだった。今は五番隊と六番隊の声もある。誰かが呼べば別の隊の者も振り返り、空いた手で荷を受け取ってくれる。

 

 俺も呼ばれた。

 

 振り返ると、平子が紙を持っている。

 

「隊長、ここの話も聞いてもらいますよ。先へ行くんは、その後です」

「分かってるよ。お前さん、さっきから俺を見張ってない?」

「見張っといた方が早いんです」

 

 佐伯まで頷く。

 

 蒼純は今度こそ、声を漏らして笑った。

 

 俺は三人のところへ戻り、広げられた地図を覗く。まだ受け持つ道は残っている。次は誰が先へ出るか、その話を皆で始めた。

 

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