投稿頻度低いと思います。多分きっと
竹林が生い茂る中、二人の鬼が激しくぶつかり合っていた。
黒い角を持つ鬼と、まだ幼さの残る鬼の少女。
これは『SETSUNA』と呼ばれる、ツクヨミ内の対戦型格闘ゲーム。
そして私は今、兄である黒鬼――プロゲーマーチーム『オニキス』に所属するプレイヤー、帝アキラと戦っていた。
目にも止まらぬほど速く、力強い攻撃が次々と繰り出される。
けれど、私はそのすべてを紙一重でかわし、隙を見つけては反撃を叩き込んでいく。
一つ。
二つ。
三つ。
次に来る攻撃も、その次も。
もう何度繰り返したか分からない。
今となっては、ほとんど作業と変わらへん。
お兄の攻撃は速い。力も強い。普通のプレイヤーなら、その速度についていくことすらできず、一瞬で倒されてしまうやろう。
けれど、私は違う。
何年もお兄と戦ってきた。
お兄がどんな状況で、どんな攻撃を選ぶのか。
どのタイミングで踏み込んでくるのか。
どこを狙ってくるのか。
誰よりも知っている。
だから――。
お兄が一瞬、動きを止めた。
「……っ」
次の瞬間、得物である棍棒型の鞘から刀を抜き放ち、一気に距離を詰めてくる。
最後の一撃。
これまでとは比べものにならない速度。
けれど――。
「そこ」
刀が届く、その寸前。
私は身体をわずかに逸らし、攻撃をかわす。
そして、そのまま懐へ潜り込んだ。
カウンター。
私の攻撃が、お兄を捉えた。
勝敗を告げる表示が浮かび上がる。
――WIN。
戦いは終わった。
お兄は悔しそうな顔すら見せず、むしろ楽しそうに笑いながら私を見る。
「彼方、強うなりすぎやなぁ。もうお兄ちゃん、一回も勝てへんわ」
冗談めかした言葉に、私も思わず笑ってしまう。
「お兄には昔いっぱいボコボコにされてるさかい、こんなんやったらまだ足りひんよ。それに、お兄としか戦ってへんから、対策も簡単やし」
「そらそうやろなぁ」
お兄はニヤニヤしながら、昔を懐かしむように笑った。
「昔は俺に一回も勝てへんくて、泣いとったのになぁ。『もう一回、もう一回』言うて、全然終われへんかったもんな」
「……やめてぇな」
昔のことを言われると、反論できへん。
本当に昔は、お兄に一度も勝てなかった。
何回やっても負けて、悔しくて泣いて、それでも「もう一回」と言い続けていた。
「負けた腹いせに私のこといじめんといて。そもそも、お兄が大会前の練習や言うて、やろうって誘ってきたんやろ?」
「せやけど?」
「お兄の対策ばっちりの私に勝てへんの、分かってたやろ?」
拗ねたように言うと、お兄は悪びれもせず笑った。
「そやから練習になるんやろ」
「……」
「大会やったら、俺らのチームはメタ貼られまくるし、個人個人でも対策組まれる。つまり、俺のことを一番よう分かってて、容赦なく勝ちに来る彼方が一番ええ相手っちゅうわけや」
「それは……分かってるけど」
確かに、お兄の言っていることは正しい。
プロの大会ともなれば、相手チームは当然『オニキス』の研究をしてくる。
その中でも、お兄自身の癖や戦い方を知り尽くしている私と戦うことは、確かに大きな練習になるんやろう。
でも。
「対策のためだけに妹呼びつけるんは嫌や」
気がつけば、そんな言葉が口から出ていた。
「私は……お兄と、そういうの抜きで遊びたいんよ」
自分でも、少し寂しい声になったのが分かった。
大会の練習要員。
そんなつもりやないのかもしれへん。
それでも、そう扱われたように感じてしまった。
ほんま、お兄は乙女心分かってへん。
そう思っていると――。
「……あ」
お兄の顔から、さっきまでの笑みが消えた。
「ごめんごめん。そないなつもりやなかったんや」
珍しく慌てたような声。
「ほんまは俺も、彼方と遊びたかっただけや」
「……お兄」
「許してくれ。何でもするさかい、お兄ちゃんのこと嫌いにならんといて」
そんなことを言われてしまえば、怒ってなんていられへん。
私は思わず笑ってしまった。
「お兄のこと嫌いにならへんよ」
少しだけ照れながら、お兄の顔を見る。
「私、お兄のこと大好きやもん」
その瞬間。
お兄が固まった。
「……?」
さっきまで普通に喋っていたのに、突然上を向き、片手で顔を覆ってしまった。
そして、そのまま動かない。
「お兄?」
返事がない。
「……お兄?」
やっぱり返事がない。
長いこと『SETSUNA』してたし、もしかして頭でも痛いんやろか。
私は心配になって、お兄の顔を覗き込んだ。
side帝アキラ(酒寄朝日)
――俺の妹、可愛すぎやろ!!
酒寄朝日こと帝アキラは、必死に込み上げてくる何かを抑え込んでいた。
妹である酒寄彩葉と酒寄彼方。
二人とも、俺にとっては大切な妹や。
彩葉のほうは、最近ほとんど連絡がない。
心配で仕方がない。
けれど、末の妹である彼方は昔から俺によく懐いてくれている。
オンラインで一緒に遊ぶことも多いし、今住んでいる東京まで会いに来てくれることもある。
もう、可愛くて仕方がない。
そんな妹が。
父親譲りのタレ目で、少し上目遣いになりながら、照れたように、
『お兄のこと大好きやもん』
なんて言うてきた。
耐えられるわけがない。
本当なら叫びたい。
今すぐ抱きしめたい。
可愛すぎると叫びたい。
でも、妹の前でそんなことをするわけにはいかへん。
だから必死に耐えているだけや。
「お兄、大丈夫? 頭痛いん?」
彼方の声が聞こえた。
あかん。
心配そうな顔まで可愛いやん。
俺は何とか平静を取り戻し、顔を上げた。
「……大丈夫や」
「ほんま?」
「ほんまほんま」
怪訝そうに俺を見る彼方。
これ以上見られたら、また限界が来そうや。
俺は誤魔化すように話題を変えた。
「そういや、なんかお願いあるんやなかったか?」
「お願い?」
「ほら。戦う前に言うてたやろ? 彼方が勝ったら、お兄ちゃんにお願い一つ聞いてほしいって」
「あ……」
彼方が小さく声を漏らした。
そうや。
この戦いが始まる前、彼方は俺に条件を出していた。
『私が勝ったら、お願い一つ聞いてほしい』
別に、そんな条件がなくても妹のお願いなら聞くつもりやった。
けれど、彼方は妙に律儀なところがある。
何かを頼むのに、理由もなく甘えるのが苦手なんやろう。
「お兄ちゃん、今やったら何でも聞いたるぞ」
そう言うと、彼方は少しだけ迷った。
そして、意を決したように顔を上げる。
「うん。あのね……」
一呼吸。
「夏休みの間、お兄の家に泊めてほしい」
「……え?」
思わず聞き返してしまった。
彼方が、俺の家に泊まりたい?
何かあったんか?
「まさか、母さんと喧嘩でもしたんか?」
「してへん」
即答だった。
「お兄、私とお母さん仲ええの知ってるやろ」
「そら知ってるけど……」
俺が首を傾げると、彼方は少しムスッとした。
そして、しばらく黙ったあと、ぽつりと呟く。
「久しぶりに、お姉に会いたいの」
「……」
その言葉に、俺は何も言えなくなった。
「ちゃんと話したい」
彼方は俯いた。
「去年は一回も帰ってきてくれへんかったのもあるし……」
小さな声。
「それに、多分……時間かかると思うから」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
――彩葉。
俺には、二人の間に何があったのか、そのすべてを知ることはできへん。
ただ、彼方が彩葉のことを大切に思っていることだけは知っている。
それと同時に。
彩葉に会うことを、ずっと怖がっていたことも。
去年、彼方は俯きながら泣きそうな顔で言うていた。
『お姉に私は必要ない』
『それに、お姉は私のこと嫌いやろうし』
あの時の彼方は、本当は会いたくて仕方なかったはずや。
気になって。
会いたくて。
話したくて。
それでも、また拒絶されることが怖かった。
だから「会わへん」と言うたんやろう。
けれど――。
今回は違う。
彼方は、自分から会うと決めた。
きっと、ものすごく悩んだはずや。
それでも覚悟を決めた。
なら、兄としてやることは一つしかない。
「……そうかぁ」
俺はできるだけいつも通りの声で笑った。
「分かった。いつまででもおり」
彼方が顔を上げる。
「お兄ちゃんが面倒見たるわ」
「……ほんま?」
「ああ」
俺は彼方の頭に手を置き、優しく撫でる。
「彩葉と仲直りできたらええな」
「……うん」
彼方は恥ずかしそうに目を逸らしながら、それでも嬉しそうに頷いた。
――可愛すぎる。
もっと撫でていたい。
けれど、時計を見るともう遅い時間になっていた。
「もうええ時間や。ええ子は寝なあかんで」
「うん」
「泊まりの細かいことはまた連絡する。母さんにもちゃんと言うんやで」
「分かった。ちゃんと言うよ」
彼方は少し笑った。
「ありがとぉ、お兄」
「おう。お休み」
「お休み、お兄」
そう言うと、彼方の身体が青い花弁へと変わっていく。
そして、ふわりと舞い散るように消えた。
俺は彼方が完全にログアウトしたことを確認してから、自分もログアウトする。
現実へ戻った俺は、ベッドに身体を預けながら天井を見上げた。
「……ほんま、仲直りできたらええな」
呟きながら、昔の二人を思い出す。
あの頃は、いつも一緒におった。
笑って。
楽しそうで。
そんな二人に戻れたらええのにな。
俺はしばらく天井を見つめていたが、ふとスマホを手に取った。
これからは、彼方を迎える準備をせなあかん。
「せっかく彼方がやる気あるようやし……たまにはええやろ」
そう呟きながら、ネットショップを開く。
妹が泊まる部屋。
せっかくやし、快適にしてやりたい。
そう思って家具を探しているうちに、高級マットレス、高級布団、枕、その他諸々が次々とカートへ入っていく。
気づけば、合計金額は二十万円近くになっていた。
「……」
俺は画面を見つめる。
ふと、以前彼方に言われた言葉を思い出した。
『お兄、成金みたいなお金の使い方したらあかんで』
「……怒られるやろなぁ」
思わず苦笑する。
けれど――。
「まぁ、ええか」
俺はそのまま購入ボタンを押した。
妹が久しぶりに泊まりに来るんや。
これくらいしてやっても、罰は当たらへんやろ。
「……ほんま、仲直りできたらええな」
もう一度そう呟いて。
俺は、昔仲が良かった二人の姿を思い浮かべながら、静かに眠りについた。
文才が欲しすぎるマジで、書きたいことが書けねぇ俺は弱い
初めの方は手探りでやらせていただきます駄文を読んでくださりありがとうごさいました