最近嬉しいことにご感想をいただけるのですが、人の心は?という感想が多々寄せられてます。私にも人の心があるとこの話で証明いたしましょう。
ハッピーエンドなんだよ^^
私は、月へ行かなかった。
九月十二日。かぐやさんが月へ帰ってしまった、あの日のことだ。
夢の中で出会った不思議な少女から、私は一つの選択を与えられていた。かぐやさんを追いかけて月へ向かい、やがて八千年前の地球へと辿り着き、もう一度この時代へ戻ってくるまで、途方もない時間を共に過ごすのか。それとも、このまま地球に残り、酒寄彼方として生きていくのか。
最初は、行くつもりだった。お姉とかぐやさんを、もう一度会わせてあげたかったから。
かぐやさんと出会ってからのお姉は、よく笑うようになった。昔から何でも一人で抱え込んで、いつも何かに追い立てられているようだったお姉が、あの子の隣では年相応の女の子みたいに笑っていた。私はそんなお姉を見るのが好きだったし、できることなら、ずっとそうしていてほしかった。
だから、八千年くらい何とかなると思っていた。
けれど、いざその時間を想像してみると、私は怖くなってしまった。
八千年前の地球。私の知っている街も、学校も、友達も、まだ生まれてすらいない時代。そこから八千年という途方もない年月を過ごして、ようやく今の時代へ戻ってくる。言葉にすれば簡単だけれど、それがどれほど恐ろしいことなのか、私には想像もつかなかった。
たとえ無事に帰ってこられたとしても、そのときの私は、まだ私なのだろうか。
お母さんの顔を覚えていられるだろうか。お兄の声を忘れずにいられるだろうか。小さい頃、お姉の後ろを追いかけていたことも、いつか思い出せなくなってしまうのだろうか。
何千年もの間、家族に会えないまま過ごして、ようやく帰ってきたとき。目の前にいるお姉を見て、私はちゃんと「お姉」と呼べるのだろうか。
そんなことを考え始めると、足が動かなくなった。
私は、お姉のことが大好きだった。お姉のためなら何だってできると思っていた。でも、違った。私は、自分が思っていたほど強い人間ではなかったのだ。
まだ、お母さんに甘えていたかった。お兄とくだらない話をして笑っていたかった。学校へ行って、友達と遊んで、いつか自分の好きなことを見つけてみたかった。
そして何より、私はまだ、お姉の妹でいたかった。
嫌われているのかもしれない。もう必要とされていないのかもしれない。それでも、いつかもう一度、昔みたいに笑い合える日が来るのではないかと、心のどこかで期待していた。
八千年前へ行けば、いつかまた会えるかもしれない。でも、そのときのお姉が私を覚えていてくれても、私がお姉を覚えているとは限らない。
その可能性が、何より怖かった。
私は、お姉に忘れられたくなかった。
そして、私もお姉を忘れたくなかった。
「……ごめんなさい」
誰に謝ったのか、自分でも分からなかった。かぐやさんにだろうか。お姉にだろうか。それとも、最後の一歩を踏み出せなかった自分自身にだろうか。
答えてくれる人はいなかった。
私は、月へ行かないことを選んだ。お姉とかぐやさんが、もう二度と会えなくなるかもしれないと知りながら、それでも地球に残った。
ただの酒寄彼方として、自分の人生を生きることを選んだ。
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それからの日々は、驚くほど何も変わらなかった。
朝になればお母さんに起こされて、朝ご飯を食べて、学校へ行く。授業を受けて、友達と話して、帰り道に寄り道をして、家に帰ればまたお母さんに小言を言われる。京都の街は、昨日と同じようにそこにあった。八千年なんて途方もない時間を考えていたことが、何だか嘘みたいだった。
けれど、お姉のことだけは、どうしても気になっていた。かぐやさんがいなくなって、お姉は大丈夫なのだろうか。ちゃんとご飯を食べているだろうか。眠れているだろうか。
何度も連絡しようと思った。けれど、そのたびに、あの日の声が蘇った。
『なんで、いるの?』
『用事は済んだでしょ、帰って』
久しぶりにお姉の暮らしていたアパートを訪ねた日のことだった。
かぐやさんが出迎えてくれて、少しだけお話をした。お姉の昔のことを聞かれて、嬉しくなって、つい色々と話してしまった。あの子が、お姉のことを大好きだと言ってくれたのも覚えている。
だから、お姉が帰ってきたとき、私は少しだけ期待していた。久しぶり、と笑ってくれるのではないか。元気にしてた、と聞いてくれるのではないか。そんな、ささやかな期待だった。
けれど、お姉は私を追い返した。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。何度も考えた。
私は昔から、勉強も運動も得意だった。何かを教わればすぐに覚えられたし、頑張れば大抵のことはできるようになった。お母さんはそれを褒めてくれたし、お兄も喜んでくれた。でも、お姉だけは違った。私が何かをできるようになるたびに、少しだけ遠くなっていった。
最初は、もっと頑張ればいいのだと思っていた。お姉に褒めてほしかったから。すごいね、と笑ってほしかったから。でも、頑張れば頑張るほど、お姉は寂しそうな顔をするようになった。
どうしたらよかったのだろう。何もできない妹だったら、もっと可愛がってもらえたのだろうか。お姉より勉強ができなければ、もっと仲良くできたのだろうか。
そんなことを考えた自分が、嫌だった。お姉は、そんなことを望んでいないはずなのに。
私は、ただ仲良くしたかっただけなのだ。小さい頃みたいに、一緒に笑ってほしかった。それだけだった。
けれど、もう無理なのかもしれない。そんなふうに思うと、何もできなくなってしまった。
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お姉から連絡が届いたのは、それからしばらく経った頃だった。
『彼方、元気にしてる?』
画面に表示された名前を見て、私はしばらく動けなかった。
酒寄彩葉。間違いなく、お姉だった。
嬉しかった。けれど、それ以上に怖かった。どうして急に連絡してきたのだろう。何か用事があるのだろうか。それとも、私が何かしてしまったのだろうか。
そんなことばかり考えてしまう自分が嫌だった。昔は、お姉から連絡が来るだけで嬉しかったのに。
私は、しばらく迷ってから返事を送った。
『元気やで。お姉は?』
すぐに既読がついた。
『私も元気』
『ねえ、彼方。今度、電話できないかな』
胸が跳ねた。お姉が、私と話したいと言っている。それだけのことが、信じられなかった。
『今日の夜なら大丈夫やで』
送信してから、私はスマートフォンを胸に抱えた。
怖い。でも、話したい。もう一度、お姉の声が聞きたい。その気持ちだけは、どうしても抑えられなかった。
約束の時間になると、お姉から電話がかかってきた。
『……もしもし、彼方?』
「……うん。私やで」
『そっか。久しぶりだね』
「……うん。久しぶり」
それから、しばらく他愛のない話をした。学校のこと。最近の生活のこと。お兄が相変わらずゲームばかりしていること。お母さんがこの前、珍しく私の好きなお菓子を買ってきてくれたこと。
お姉は、私の話をちゃんと聞いてくれた。相槌を打って、時々笑って、私が言葉に詰まると急かさずに待ってくれた。そんな当たり前のことが、どうしようもなく嬉しかった。
けれど、私はどこか落ち着かなかった。いつ、お姉の声が変わるのだろう。いつ、もう電話を切ってと言われるのだろう。そんなことばかり考えてしまう。
『……ねえ、彼方』
お姉が、静かに口を開いた。
『実はね、かぐやに会えたんだ』
私は、言葉を失った。
「……え?」
『かぐや。月へ帰った、あの子』
「……うん」
『もう一度、会えたんだよ』
何を言われているのか、すぐには理解できなかった。かぐやさんに会えた。月へ帰ってしまったはずなのに。もう二度と会えないかもしれないと思っていたのに。
「……ほんまに?」
『うん』
「……かぐやさん、帰ってきたん?」
『帰ってきたよ。ちょっと、信じられないような形だけどね』
お姉は、少しだけ困ったように笑った。それから、ゆっくりと話してくれた。
月見ヤチヨのこと。八千年という時間のこと。もと光る竹のこと。そして、FUSHIさんに案内されて、ようやくかぐやさんと再会できたこと。
私は、何も言えなかった。
八千年。そんな時間を、一人で。想像することさえできなかった。
私にとっては、かぐやさんと別れてから、それほど長い時間が経ったわけではない。けれど、あの子にとっては違う。八千年もの間、お姉に会いたいという気持ちを抱え続けていたのだ。
寂しかっただろう。辛かっただろう。何度も諦めたくなったのではないだろうか。それでも、かぐやさんは帰ってきた。お姉に会うために、ただそれだけのために。
「……よかった」
気づけば、そう呟いていた。
『彼方?』
「……よかったな、お姉」
声が震えた。
「……ほんまに、よかった」
お姉は、しばらく何も言わなかった。それから、小さく笑った。
『……ありがとう』
その声を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。
よかった。本当に、よかった。
私は月へ行かなかった。最後の一歩を踏み出すことができなかった。それでも、かぐやさんは帰ってきた。お姉に会うために、八千年という時間を越えて。
その事実が、どうしようもなく嬉しかった。そして、少しだけ苦しかった。
私は、何もしていない。あの子が八千年もの間、どんな思いをしていたのかも知らない。ただ、地球に残って、自分の人生を生きていただけだった。それなのに、お姉は幸せそうに笑っている。かぐやさんも、きっと笑っている。
私は、そのことを心から喜んでいいのだろうか。そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎった。
『……ねえ、彼方』
お姉の声が、私を現実へ引き戻した。
「……うん?」
『もう一つ、話したいことがあるんだ』
私は、少しだけ身構えた。
『……前に、うちに来てくれたときのこと、覚えてる?』
胸の奥が、大きく揺れた。忘れたことなんてなかった。あの日のことは、ずっと心の中に残っていた。何度も思い出しては傷ついて、それでもお姉を嫌いになれなくて。だから、できるだけ考えないようにしていた。
「……うん」
『あのときは、ごめん』
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
『せっかく会いに来てくれたのに、私、ひどいこと言ったでしょ』
「……別に、ええよ」
反射的に、そう答えてしまった。
「お姉も忙しかったやろうし。私が急に行ったんが悪かったんやから」
そう言いながら、私は笑った。いつものように、何でもないことのように。そうすれば、お姉も安心してくれると思った。
でも。
『違うよ』
お姉は、はっきりと言った。
『彼方は悪くない。急に来たからって、あんな言い方していい理由にはならないし。せっかく会いに来てくれたのに、私、ちゃんと話も聞かなかった』
「……でも」
『それにね、私、ずっと勘違いしてたんだと思う』
お姉は少しだけ苦笑した。
『彼方は何でもできるから。私なんかいなくても大丈夫なんだって、勝手に思ってた』
その言葉に、胸が痛くなった。
そんなこと、ないのに。私は、ずっとお姉が必要だった。
勉強ができても、運動ができても、お姉に嫌われたら何の意味もなかった。お姉が笑ってくれるだけで嬉しかった。褒めてもらえた日は、一日中幸せだった。だから、もっと頑張ろうと思った。でも、頑張れば頑張るほど、お姉は遠くなっていった。
私は、どうすればよかったのだろう。何もできない妹だったら、もっと可愛がってもらえたのだろうか。お姉より勉強ができなければ、もっと仲良くできたのだろうか。そんなことを、何度も考えてきた。
「……私な」
気づけば、口を開いていた。
「ずっと、お姉に嫌われとるんやと思ってた」
電話の向こうで、お姉が息を呑む気配がした。
『……彼方?』
「何でもできるから、可愛げがないんかなって。お姉の邪魔ばっかりしとるんかなって、ずっと考えてた。でも、どうしたらええんか分からへんかった。お姉が何で怒っとるんかも、何で私と話してくれへんのかも、全然分からへんくて」
言葉にしてしまうと、止まらなくなった。視界が少しずつ滲んでいく。泣くつもりなんてなかった。今日は、ちゃんと笑って電話を切りたかったのに。
「……私、お姉のこと、大好きやったから。ずっと、仲良くしたかったんよ」
お姉は何も言わなかった。
私は、また困らせてしまったのだと思った。こんなことを言われても、お姉だってどうしたらいいか分からないだろう。せっかく謝ってくれたのに、私まで昔のことを持ち出してしまった。
「……ごめん。変なこと言うて」
慌てて笑おうとした。けれど、その前に。
『彼方』
お姉が、私の名前を呼んだ。
『……ごめんね』
その声は、震えていた。
『私、ほんとに馬鹿だった。彼方が何でもできるからって、勝手に羨ましがって。自分がうまくいかないことを、彼方のせいにしてたのかもしれない』
「……お姉」
『でも、違うよね。彼方は何も悪くなかった。ただ、私と仲良くしたかっただけなのに』
私は、何度も頷いた。電話だから、お姉には見えていない。それでも、何度も頷いた。
そうだった。ただ、それだけだった。昔みたいに、お姉と一緒に笑いたかった。それだけのことが、どうしてこんなにも難しかったのだろう。
『……ねえ、彼方』
「……うん」
『今さらかもしれないけど、もう一回、仲良くしてくれる?』
その瞬間、ずっと胸の奥に溜まっていた何かが、音を立てて崩れた気がした。
「……っ、うん。うん……もちろんやで、お姉……」
涙が止まらなかった。電話の向こうからも、かすかに鼻をすする音が聞こえた。お姉も泣いているのかもしれない。そう思うと、余計に涙が止まらなくなった。
『……彼方』
「……うん?」
『今度、会いに行ってもいい?』
私は、息を止めた。
『京都に。彼方に、ちゃんと会いたい』
お姉が、私に会いに来てくれる。わざわざ、京都まで。その事実が、信じられなかった。
「……ええの?」
『うん』
「……遠いやろ?」
『そうだね。でも、会いたいから』
私は、何も言えなくなった。
お姉が、私に会いたいと言っている。あの日、帰ってと言ったお姉が、もう必要ないのだと思っていた私に、会いたいと言ってくれている。
嬉しかった。ただ、どうしようもなく嬉しかった。
「……うん。私も、会いたい」
お姉は、優しく笑った。
『そっか。じゃあ、予定合わせようか』
私は、何度も頷いた。
今度こそ、ちゃんとお姉に会える。そう思うだけで、胸がいっぱいになった。
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お姉が京都へ帰ってきたのは、それから少し経った休日のことだった。
私は朝から落ち着かなかった。何を着ていくか悩んで、髪を何度も整えて、待ち合わせの時間よりずっと早く家を出た。お母さんには、そんなに慌てんでも彩葉は逃げへん、と呆れられた。それでも、じっとしていられなかったのだから仕方がない。
駅の近くで待っていると、聞き慣れた声がした。
「彼方!」
振り返ると、お姉が立っていた。
久しぶりに見るお姉は、少しだけ雰囲気が変わっていた。髪型も服装もそれほど違わないはずなのに、どこか柔らかくなったように見える。
私は、すぐに笑うことができなかった。あの日のことを思い出してしまったからだ。でも、お姉は私を見ると、嬉しそうに笑ってくれた。
「久しぶり」
「……うん。久しぶり、お姉」
「元気だった?」
「……元気やで」
「そっか。よかった」
お姉は、少しだけ安心したように笑った。それから、私の顔をじっと見つめた。
「……彼方」
「……ん?」
「ちょっと、こっち来て」
私は、不思議に思いながら一歩近づいた。すると、お姉が両腕を広げた。
「……え?」
「いいから」
次の瞬間、私はお姉に抱きしめられていた。
何が起きたのか分からなかった。久しぶりに感じる、お姉の腕。肩に触れる手。耳元で聞こえる、少しだけ緊張した呼吸。
「……お姉?」
「……ごめんね。ずっと、寂しい思いさせて」
私は、何も言えなかった。
「もう、彼方のこと避けたりしないから」
その言葉を聞いた瞬間、涙が零れた。私は、お姉の服をぎゅっと握った。
「……ほんまに?」
「うん」
「……もう、帰ってって言わへん?」
お姉の腕に、少しだけ力がこもった。
「……言わないよ」
「……ほんま?」
「ほんと」
私は、何度も頷いた。そして、子供みたいに泣いてしまった。
お姉は、何も言わなかった。ただ、私が落ち着くまで、ずっと抱きしめていてくれた。
その日、私たちはたくさん話をした。昔のこと。今のこと。これからのこと。
お姉は、私の知らなかったことを色々と教えてくれた。自分が何を考えていたのか、どうして家を出たのか、かぐやさんと出会って何が変わったのか。
私も、今まで言えなかったことを話した。お姉に褒めてほしかったこと。嫌われるのが怖かったこと。何度も会いに行こうとして、そのたびに諦めていたこと。
お姉は、最後まで聞いてくれた。そして、何度も謝ってくれた。
私は、そのたびに泣きそうになった。でも、不思議と嫌ではなかった。今まで胸の奥に溜め込んでいたものが、少しずつ溶けていくような気がした。
帰り際、お姉が言った。
「……ねえ、彼方」
「……ん?」
「また、会おうね」
私は、笑った。
「……うん」
お姉も笑った。
「今度は、私から連絡するから」
その言葉が、嬉しかった。
「……待っとるね」
お姉は、少しだけ照れくさそうに笑った。
「うん。待ってて」
そして、私の頭を撫でてくれた。昔みたいに、優しく。
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それから、私たちは少しずつ仲良くなっていった。
もちろん、すぐに昔のように戻れたわけではない。京都にいる私と、離れた街で暮らすお姉。会いたいと思った日に、すぐ会えるわけではなかった。
だから、私たちは電話をした。メッセージを送り合った。時には、ツクヨミの中で一緒に遊んだ。
最初は、まだ少し緊張していた。何を話せばいいのか分からなくなることもあったし、長く話して迷惑ではないかと考えてしまうこともあった。でも、お姉はいつも笑ってくれた。
『彼方、今日どうだった?』
「……普通やで。ちょっと疲れたけど」
『そっか。お疲れさま』
そんな、何でもない会話。私は、それが何より好きだった。特別なことなんて、何もいらなかった。ただ、お姉が私の話を聞いてくれるだけでよかった。
ある日、学校で少し嫌なことがあった。大したことではなかった。友達とちょっとしたすれ違いがあって、何となく気まずくなってしまった。それだけのことだった。けれど、その日はどうしても気持ちが落ち着かなかった。
私は、迷った末にお姉へメッセージを送った。
『お姉、今ちょっと話せる?』
すぐに返事が届いた。
『うん。どうしたの?』
私は、少しだけ迷ってから電話をかけた。お姉は、すぐに出てくれた。
『もしもし、彼方?』
「……うん」
『どうしたの?』
その声を聞いた瞬間、少しだけ泣きそうになった。私は、ゆっくりと今日の出来事を話した。お姉は、途中で遮ることもなく、最後まで聞いてくれた。
『……そっか。それは、ちょっと辛かったね』
「……うん」
『でも、彼方が悪いって決まったわけじゃないでしょ?』
「……そうやけど」
『だったら、あんまり自分を責めなくていいと思うよ』
私は、少しだけ黙った。
昔のお姉なら、きっとそんなことは言わなかったと思う。もっとしっかりしなよ、とか。そんなことで落ち込んでどうするの、とか。そう言われるのではないかと思っていた。
けれど、今のお姉は違った。私の話を聞いてくれている。私が何を感じたのか、分かろうとしてくれている。それが、どうしようもなく嬉しかった。
「……お姉」
『ん?』
「……ありがとう」
お姉は、少しだけ笑った。
『どういたしまして。また何かあったら、いつでも話してね』
私は、何度も頷いた。電話だから、お姉には見えていない。それでも、何度も頷いた。
「……うん。また、話すね」
『うん。待ってる』
その言葉が、嬉しかった。
待ってる。お姉が、私を待っていてくれる。
昔は、そんなことを考えるだけで胸が苦しくなったのに、今では当たり前のように話せる。私は、その幸せを大切にしたかった。
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そんなある日のこと。お姉が、少しだけ緊張した様子で話しかけてきた。
『……ねえ、彼方』
「……ん?」
『今度、かぐやに会ってくれない?』
私は、思わず顔を上げた。
「……かぐやさんに?」
『うん。かぐやも、彼方に会いたがってるんだ』
胸の奥が、じんわりと満たされていく。
あの日、お姉の部屋でかぐやさんと話したこと。あの子が、お姉のことを大好きだと言ってくれたこと。私も、あの子のことが好きだった。だから、また会えるのなら。
「……うん。私も、会いたい」
お姉は、嬉しそうに笑った。
『よかった。ただ、かぐやは今、現実の身体がないんだ。だから、会うならツクヨミの中になるんだけど』
「……うん。大丈夫やで」
『そっか。じゃあ、今度一緒に会いに行こう』
私は頷いた。そして、少しだけ考えてから口を開いた。
「……お姉」
『ん?』
「……かぐやさん、ほんまに八千年も一人でおったん?」
お姉は、少しだけ表情を曇らせた。
『……うん』
「……寂しかったやろうな」
『……そうだね。でも、かぐやは頑張ってくれた。私に会うために、ずっと』
その声には、深い愛情が込められていた。
私は、少しだけ羨ましくなった。八千年も、誰かを想い続けること。そんなにも強く、誰かを愛すること。私には、まだ分からない。
でも、お姉とかぐやさんを見ていると、少しだけ分かる気がした。大切な人に会いたい。その気持ちが、どれほど人を強くするのか。
私は、お姉の横顔を見つめた。そして、心の中でそっと願った。
どうか、これからは二人が、ずっと一緒にいられますように。
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ヤチヨさんとの再会は、ツクヨミの中だった。
お姉と予定を合わせて、私はもう一度、京都から会いに行った。以前のように、何の連絡もせずに訪ねたわけではない。何時頃に着くのか、どこで待ち合わせるのか、何度もメッセージを送り合った。
お姉は、今はもう、かぐやさんと暮らしていたあの古いアパートには住んでいなかった。引っ越したのだという。だから、あの日と同じ場所へ行くことはなかった。
待ち合わせ場所でお姉と合流し、それからFUSHIさんの案内で、ヤチヨさんのいるマンションへ向かった。
部屋に入ると、そこには見たこともない機械が並んでいた。床には何本ものケーブルが這い、その中心には大きな水槽が置かれている。水槽の中には、タケノコのような形をしたものが浮かんでいた。
もと光る竹。
かつて、かぐやさんが乗っていたものだと、お姉は教えてくれた。そして、その中に今のヤチヨさんがいるのだという。
私は、しばらく水槽を見つめていた。不思議な気持ちだった。
かぐやさんは、確かにここにいる。でも、私たちのように外を歩くことも、一緒にご飯を食べることもできない。八千年もかけて帰ってきたのに、それでもまだ手の届かない場所にいる。
「……彼方?」
お姉が、心配そうに私を見た。
「大丈夫?」
「……うん。ちょっと、びっくりしただけやで」
お姉は、少しだけ寂しそうに笑った。
「そうだよね。私も最初は驚いた」
そして、水槽へ視線を向けた。
「でも、かぐやはここにいる。ちゃんと、帰ってきてくれたんだ」
その声を聞いて、私は少しだけ安心した。お姉は、もう迷っていない。目の前にいるかぐやさんを、ちゃんと受け入れている。それが嬉しかった。
FUSHIさんに案内されて、私たちはツクヨミへ接続した。
目を開けると、そこには懐かしい景色が広がっていた。お姉とかぐやさんが、かつて一緒に暮らしていた部屋。古い家具も、狭い台所も、見覚えのあるものばかりだった。
そして。
「ヤオヨロ〜! 彼方ちゃん、久しぶり〜!」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには月見ヤチヨが立っていた。何度も配信で見たことのある姿。けれど、その笑顔を見た瞬間、私は確信した。
ああ、かぐやさんだ。
「……お久しぶりです、かぐやさん」
「も〜! そんな他人行儀な言い方しなくてもいいのに!」
ヤチヨさんは頬を膨らませた。
「今はヤチヨなんだから、ヤチヨって呼んでよ!」
「……いいんですか?」
「もちろん!」
そう言って、ヤチヨさんは嬉しそうに笑った。私は少しだけ迷ってから、口を開いた。
「……ヤチヨさん」
「うんうん!」
「……また会えて、嬉しいです」
ヤチヨさんは、一瞬だけ目を丸くした。それから、ふわりと笑った。
「……ヤチヨもだよ」
その声は、さっきまでとは少し違っていた。とても優しくて、どこか懐かしい響きだった。
八千年。その長さが、私には分からない。でも、目の前のヤチヨさんが、どれだけ長い時間を過ごしてきたのかは、何となく伝わってきた。
笑顔の奥に、何かがある。昔のかぐやさんとは、少し違う。それでも、私はこの人と仲良くなりたいと思った。お姉が大切にしている人だから、というだけではない。私自身が、もう一度かぐやさんと話したかったから。
「……ねえ、かぐや」
お姉が、私の隣で口を開いた。
「ん?」
「改めて紹介するね」
お姉は、私の肩にそっと手を置いた。私は驚いて、お姉を見上げた。お姉は少しだけ照れくさそうに笑っていた。
「私の妹の、彼方」
そこで、一度言葉を切った。
「……私の、大事な妹なんだ」
時間が、止まったような気がした。
大事な妹。お姉が、そう言ってくれた。
私は何も言えなかった。嬉しくて、嬉しすぎて、どうしたらいいのか分からなかった。
昔は、そんなふうに思ってもらえているなんて、考えたこともなかった。お姉にとって、私は邪魔な存在なのだと思っていた。何でもできるくせに、何も分かっていない、可愛げのない妹。そう思われているのだと、ずっと信じていた。
でも、違った。
お姉は、私のことを大事だと言ってくれた。何ができるとか、できないとか、そんなことは関係なく。ただ、私が妹だから。それだけで、大切に思ってくれている。
その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
「……お姉」
「な、何よ。そんな顔して」
お姉は少しだけ慌てたように笑った。
「別に、変なこと言ってないでしょ?」
「……うん。……ありがとう」
声が震えてしまった。
お姉は困ったように笑って、私の頭を撫でてくれた。昔みたいに、優しく。
「……ほんと、泣き虫だね」
「……お姉のせいやもん」
「はいはい」
そんな私たちを見て、ヤチヨさんが楽しそうに笑った。
「いいなぁ、姉妹って!」
そして、私の方へ身を乗り出した。
「ねえねえ、彼方ちゃん!」
「……はい?」
「ヤチヨとも仲良くしてくれる?」
私は少しだけ驚いた。
「……もちろんです」
「ほんと!?」
「はい。私も、ヤチヨさんと仲良くなりたいです」
そう答えると、ヤチヨさんは本当に嬉しそうに笑った。
「やったぁ! じゃあ、今日からヤチヨたちも仲良しだね!」
私は笑った。お姉も笑っていた。ヤチヨさんも笑っていた。
それが、たまらなく幸せだった。
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それからの日々は、驚くほど賑やかだった。
もちろん、毎日のように直接会えるわけではなかった。私は京都にいて、お姉は離れた街で暮らしている。学校の予定もあるし、移動するには時間もかかる。
だから、私たちはツクヨミの中で会うことが増えた。
お姉が作業をしている間に、ヤチヨさんと二人でゲームをすることもあった。ヤチヨさんは、私の知らないことをたくさん教えてくれた。昔のツクヨミのこと。今では誰も知らないような遊びのこと。何百年も前に流行っていたという、変わったゲームのこと。
その話を聞くたびに、私は驚いた。八千年という時間は、私が想像していたよりもずっと長いのだろう。
けれど、ヤチヨさんは楽しそうだった。お姉と一緒にいられることが、本当に嬉しいのだと思った。私は、そんな二人を見るのが好きだった。
お姉が笑っている。ヤチヨさんも笑っている。それだけで、私まで嬉しくなる。
だから、何度でもログインした。何度でも、二人に会いに行った。もう、遠慮する必要なんてなかったから。
ある日、三人でツクヨミへログインしたことがあった。ヤチヨさんが案内してくれたのは、綺麗な花が咲き誇る庭園だった。
「どう? ここ、ヤチヨのお気に入りなんだ!」
「……綺麗ですね」
「でしょ〜!」
ヤチヨさんは嬉しそうに笑った。お姉も隣で景色を眺めていた。
「ほんと、すごいね。こんな場所もあったんだ」
「ふふん! ヤチヨ、長いことここにいるからね!」
そう言って胸を張るヤチヨさんを見て、私たちは笑った。
それから、三人でたくさん遊んだ。ゲームをしたり、写真を撮ったり、くだらないことで笑い合ったり。私は、その時間が何より好きだった。
お姉とヤチヨさんが笑っている。その隣で、私も笑っている。そんな当たり前のことが、どうしようもなく嬉しかった。
そして、少しずつ。私は、ヤチヨさんとも仲良くなっていった。
最初は、お姉の大切な人だから、という気持ちが強かった。でも、一緒に過ごすうちに、それだけではなくなった。
ヤチヨさんは、私の話をよく聞いてくれた。学校のこと。友達のこと。お兄のこと。お母さんのこと。そして、お姉のこと。
私が昔のお姉の話をすると、ヤチヨさんはいつも嬉しそうに笑った。
「へえ〜! 彩葉、そんなことしてたんだ!」
「……うん。小さい頃は、結構面倒見よかったんよ」
「今も面倒見いいよね!」
「……ふふ、そうやね」
そんな話をしていると、ヤチヨさんは少しだけ寂しそうな顔をすることがあった。ほんの一瞬だけで、すぐにいつもの笑顔に戻ってしまう。でも、私は気づいていた。
きっと、八千年という時間が関係しているのだろう。私には、想像することさえできない時間。その中で、ヤチヨさんは何を見て、何を感じてきたのだろう。
私は、少しだけ迷ってから口を開いた。
「……ヤチヨさん」
「ん?」
「……寂しかったですか? 八千年の間、ずっと、お姉に会いたかったんですよね」
ヤチヨさんは、少しだけ目を丸くした。それから、しばらく何も言わず、ふわりと笑った。
「……うん。会いたかったよ。ずっと」
その声は、とても静かだった。
私は、何も言えなかった。
「でもね、彼方ちゃん。ヤチヨ、ちゃんと帰ってこられたんだ」
ヤチヨさんは、少しだけ嬉しそうに笑った。
「彩葉に会えたし、こうして彼方ちゃんともお話できてる。だから、今はすっごく幸せ!」
その笑顔を見て、私は胸がいっぱいになった。
八千年。そんな時間を、一人で。それでも、この人は笑っている。
私は、少しだけ泣きそうになった。
「……ヤチヨさん」
「ん?」
「……これからは、いっぱい遊びましょうね」
ヤチヨさんは、少しだけ驚いたような顔をした。それから、満面の笑みを浮かべた。
「……うん!」
私は笑った。お姉も、隣で笑っていた。
その瞬間、私は心から思った。この人が、もう二度と寂しい思いをしませんように。これからは、たくさんの幸せな時間を過ごせますように。
そんな願いを、胸の奥にそっとしまった。
---
それから、さらに時間が過ぎた。
お姉は、ヤチヨさんが現実の世界でも自由に過ごせるように、色々と考えていた。ツクヨミの中でしか会えないヤチヨさんを、いつか現実の世界に連れ出してあげたい。もう一度、一緒にご飯を食べたい。街を歩きたい。くだらないことで笑い合いたい。お姉は、そう言っていた。
私は、そんなお姉を応援していた。
もちろん、私にできることは限られていた。お姉が取り組んでいることは、学校の勉強とはまるで違う。専門的な話になると、私には分からないことも多かった。
それでも、何か力になれたら嬉しかった。資料を調べたり、簡単な作業を手伝ったり。そんなことしかできなかったけれど、お姉はいつもありがとうと言ってくれた。
その言葉が、嬉しかった。
お姉が、私を必要としてくれている。昔は、そんなことを考えるだけで胸が苦しくなったのに、今では当たり前のように頼ってくれる。
私は、その幸せを大切にしたかった。
ある日、ツクヨミの中で三人で話していたときのことだった。
「ねえ、彼方ちゃん!」
ヤチヨさんが、突然声を上げた。
「……はい?」
「今度、三人で旅行しようよ!」
私は、少しだけ驚いた。
「……旅行、ですか?」
「そう! ヤチヨ、行ってみたいところいっぱいあるんだ!」
お姉は、少しだけ困ったように笑った。
「かぐや、今はまだ現実の身体がないでしょ」
「分かってるよ〜! だから、いつか!」
ヤチヨさんは、嬉しそうに笑った。
「いつか、三人で旅行しようって約束!」
私は、少しだけ考えた。
いつか。その言葉が、何だか嬉しかった。
昔の私は、未来のことを考えるのが怖かった。お姉と仲良くなれるかどうかも分からなかったし、これから先、何が起こるのかも分からなかった。
でも、今は違う。未来に、楽しみなことがある。お姉とヤチヨさんと一緒に、どこかへ行く。そんな、ささやかな約束。それだけで、胸がいっぱいになった。
「……うん。……約束やで」
ヤチヨさんは、満面の笑みを浮かべた。
「やったぁ!」
お姉も、少しだけ照れくさそうに笑った。
「……じゃあ、私も頑張らないとね」
その声には、確かな決意が込められていた。
私は、そんなお姉を見て笑った。そして、心の中でそっと願った。
どうか、この約束が叶いますように。
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それから、また少し時間が過ぎた。
お姉と会える日は、相変わらず限られていた。でも、寂しくはなかった。会えない日も、連絡を取れるから。声が聞きたくなったら、電話をかけられるから。そして、ツクヨミへ行けば、ヤチヨさんにも会えるから。
私は、そんな日々が好きだった。
何でもない毎日。学校へ行って、勉強して、友達と遊んで。家に帰れば、お母さんがいて。時々、お兄から電話がかかってきて。そして、お姉とヤチヨさんが、私を待っていてくれる。
それだけで、十分だった。
ある日、ツクヨミの中で三人で写真を撮った。お姉が真ん中に立って、私はその隣へ。ヤチヨさんは反対側から、お姉に抱きついた。
「ほらほら、彼方ちゃんももっと寄って!」
「……え、でも」
「いいからいいから!」
ヤチヨさんに促されて、私は少しだけお姉に近づいた。すると、お姉が私の肩を抱いてくれた。
「……お姉?」
「いいでしょ、これくらい」
そう言って、お姉は笑った。
私は、何も言えなくなった。嬉しかった。ただ、それだけだった。
「じゃあ、撮るよ〜!」
ヤチヨさんが声を上げる。
「三、二、一!」
シャッターの音が響いた。
画面に映っていたのは、三人の笑顔だった。
お姉が笑っている。ヤチヨさんが笑っている。そして、私も笑っている。
誰も泣いていなかった。誰も寂しそうな顔をしていなかった。ただ、幸せそうに笑っていた。
私は、その写真を何度も見返した。何度見ても、嬉しかった。
これからも、こんな日が続いていくのだろう。お姉と一緒に出かけて、ヤチヨさんと遊んで、お兄やお母さんとも笑い合って。
時には喧嘩することもあるかもしれない。嫌なことだって、きっとある。でも、もう大丈夫。私たちは、ちゃんと家族なのだから。
何かあったら、話し合えばいい。寂しくなったら、会いに行けばいい。辛くなったら、誰かに頼ればいい。
そんな当たり前のことを、私はようやく知ることができた。
私は、幸せだった。本当に、心の底から幸せだった。
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その日の夜。ツクヨミからログアウトしたあと、私はしばらくベッドに寝転がっていた。
スマートフォンには、さっき撮った写真が表示されている。三人で笑っている写真。何度見ても、嬉しかった。
私は、そっと画面を撫でた。
お姉が笑っている。ヤチヨさんも笑っている。そして、私も笑っている。
こんな日が来るなんて、昔は想像もできなかった。
私は、月へ行かなかった。あの日、最後の一歩を踏み出すことができなかった。お姉とかぐやさんを、もう一度会わせてあげたいと思っていたのに。それでも、私は地球に残った。
自分の人生を、生きることを選んだ。
その選択が、正しかったのかどうかは分からない。きっと、これから先も分からないのだと思う。
でも、私は今、幸せだった。
お姉がいて、ヤチヨさんがいて、お兄も、お母さんもいて。私のことを大切に思ってくれる人たちが、ちゃんといる。
それだけで、十分だった。
私は、スマートフォンを胸に抱え、そっと目を閉じた。
明日も、明後日も、その先も。きっと、こんな日々が続いていく。お姉と笑って、ヤチヨさんと遊んで、お兄やお母さんに甘えて。何でもない毎日を、大切にしながら。
私は、これからも生きていく。
酒寄彼方として。
大好きな家族と一緒に。
そして、いつか大人になって、好きなことを見つけて、誰かと笑い合いながら、自分の人生を歩いていく。
そんな未来を、私は信じていた。何の疑いもなく。
だって、私は幸せなのだから。
「……夢?……どんな夢見てたっけ?…………私なんで……泣いてるんだろ……」
^^
ちなみに月に行かなかったらガチでこのルート入ります。夢じゃあなくなるんだよな
まぁ月に行くのは彼方ちゃんが自分で決めたことだし仕方ないよね^^