臆病者だから鉄を着ます   作:三世

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#4

 

「まず前提を決めよう」

 

『はい』

 

「目的はエーテリアスを倒すことじゃない」

 

 ホログラムに浮かぶ人型の設計図を指で回転させる。

 

「戦争するわけでもない、ホロウを攻略するわけでもない、俺がここから生きて脱出する。それだけのための装備だ」

 

『最優先目標として設定します』

 

「だから機動性、防御力、対エーテル性能を優先。武装は邪魔にならない範囲で最低限、飛行能力は……」

 

 そこでふと、言葉が止まった。

 

「…………」

 

『飛行能力は?』

 

「……欲しい」

 

『先ほど、生きて脱出することが最優先と』

 

「欲しいものは欲しい」

 

『……了解しました』

 

「何だその言い方」

 

 椅子に座り直し、設計図を見る。

 

 現在のMark 1は、まだ人間の輪郭に板を貼り付けただけのような代物だった。ここから実際に動く機械へ落とし込まなければならない。

 

「Brownie、俺の身体データを反映」

 

『反映します』

 

 身長、肩幅、腕の長さ、脚の長さ、関節可動域。以前衣服を注文した際に計測したデータが設計図へ流し込まれ、人型モデルが俺とほぼ同じ体格へ変化する。

 

「装甲込みで全高は?」

 

『現時点で百八十七センチ』

 

「……デカいな」

 

『装甲厚を確保する場合、これ以上の小型化は推奨できません』

 

「重量」

 

『推定二百六十三キログラム』

 

「…………」

 

 重い。人間が着る重量じゃない……だが。

 

「外骨格の最大出力は?」

 

『施設内に保管されている試験型軍用外骨格を流用した場合、最大補助出力は人間の筋力換算で約十一倍です』

 

「まあ十分だな」

 

『ただし、既存バッテリーでは最大出力を二分四十秒しか維持できません』

 

「電源は気にするな」

 

 胸を指差す。

 

 そこでは今もアークリアクターが青白い光を放っていた。

 

『アークリアクターから直接給電する場合、電力供給能力には十分な余裕があります』

 

「なら決まり」

 

 電力だけなら腐るほどある。というかありすぎる。

 

 最大出力二ギガジュール毎秒──二ギガワット。普通なら巨大施設で扱うような電力源を、俺は胸に付けて歩いている。

 

 ……改めて考えると、体に埋め込んでるの怖いな、これ。

 

「……これ爆発しないよな?」

 

『現時点では安定しています』

 

「現時点では、って付けるのやめてくれる?」

 

『将来的な安全性を保証できるだけの稼働データが存在しません』

 

「知ってるよ。こんなことしてんの俺が世界初なんだから」

 

 ……体に核融合炉を埋め込んだ世界初の人間って、別に名誉ではないよな。

 

「次、装甲」

 

 防衛軍の資材一覧を表示する。

 

 チタン合金、高硬度鋼、セラミック複合材、エーテル環境用の特殊コーティング材。

 

「外側はチタン合金主体。胸と頭は厚くする。関節部分には細かく分割した装甲を重ねる」

 

『重量が増加します』

 

「外骨格で補う」

 

『脚部への負荷が増大します』

 

「脚を太くする」

 

『機動性が低下します』

 

「アクチュエータ増やす」

 

『消費電力が増大します』

 

「リアクター」

 

『…………』

 

「何だよ」

 

『力技ですね』

 

「電力問題がないって素晴らしいな」

 

 今まで機械を設計する時は、常に消費電力との戦いだった。

 

 軽くしろ、省電力化しろ、バッテリーを長持ちさせろ、発熱を減らせ。

 

 それが今はどうだ。

 

 電力が足りない?じゃあ増やせ。

 

 モーターが弱い?なら増やせ。

 

 冷却装置の消費電力が大きい?知るか、動かせ。

 

「……アークリアクター、便利すぎる」

 

『ハレ様』

 

「何?」

 

『その思考を続けると、今後の設計思想に悪影響を及ぼす可能性があります』

 

「帰ったらちゃんと省エネするよ」

 

 まあ、帰れたら帰れたで、即アークリアクターの改良に取り掛かると思うが。

 

     

◇

 

 設計開始から七時間。案外早くにMark 1の基本構造が完成した。

 

 骨格となるのは、防衛軍が研究していた強化外骨格。それを俺の体格に合わせて切断、再溶接し、関節部へ追加のアクチュエータと人工筋肉を取り付ける。

 

 その上から対エーテル防護服、そしてさらに装甲。これだけなら、少し大袈裟なパワードスーツで済む。

 

 で、次。

 

「武器」

 

 これが問題だった。

 

 俺は人と喧嘩なんてしたことない、当然エーテリアスと戦ったことだってない。

 

 武器を作れても、戦い方なんて知識でしか知らない。

 

 だから複雑な武器を積んでも、絶対に使いこなせない自信がある。

 

「銃は?」

 

『施設内に軍用小銃があります』

 

「スーツ着たまま撃てる?」

 

『指部の精密動作性能を考慮すると、命中精度の著しい低下が予想されます』

 

「却下」

 

 俺が素手で銃を撃っても当たるか微妙なのに、それを鉄の手で引き金を引くなんて絶対無理だ。

 

 ウォーマシンみたくスーツと一体化させる形で積み込めば不可能でもないかもしれないが、スペースやリロードの手間を考えたら現実的ではない。

 

 そもそも、ここの設備でスーツにそこまでの機能を積み込めるかが微妙だ。

 

「ミサイルでしたら搭載可能です』

 

「……スーツに?」

 

『小型化すれば』

 

「爆発物背負って歩くの嫌だな」

 

 合計十二発の誘導ミサイルを解体した人間が言うことではない気もする。

 

 なんなら胸元に核融合炉付けといて今更という感じもするが……やっぱり嫌なものは嫌だ。リスクが増えることには変わりないし。

 

「これ以上リスクを背負いたく無い、もっと単純なの無いか?」

 

『近接武装であれば──』

 

「それも付けたいけど、あの破壊力持つやつらに近づきたくないんだよな……」

 

 ここに逃げ込んだ時にひしゃげた扉を思い出す。

 

 衝撃吸収は十分以上に力を尽くしたが、俺の装甲もああならない保証は無い。

 

 なら最初っから近付かないに越したことはない。

 

「中遠距離で比較的攻撃力があって命中性の高い武器、となると……」

 

 しばらく考えて、視線が胸元へ落ちた。

 

 アークリアクター。

 

 大量の電力。

 

「…………」

 

 電力。

 

「Brownie」

 

『はい』

 

「電気をそのまま撃てない?」

 

『詳細を』

 

「荷電粒子を加速して射出する」

 

『粒子加速器ですか?』

 

「もっと雑でいい、殺傷力より吹き飛ばす力が欲しいから」

 

 倒す必要はない、逃げる時間を稼げればいい。

 

「高密度の荷電粒子を電磁場で加速、手のひらから指向性を持たせて放出する」

 

『理論モデルを構築します』

 

 右腕の設計図が拡大されて、手のひら中央に、円形の機構が追加された。

 

『短距離であれば、実用的な衝撃を発生させられる可能性があります』

 

「反動は?」

 

『相応に発生します』

 

「……なら、飛行機能を追加した時の姿勢制御に使える?」

 

『…………』

 

「Brownie?」

 

『計算しています』

 

 数秒。

 

『可能です』

 

「お」

 

『両手および両脚へ配置すれば、推進器として使用できる可能性もあります』

 

「…………」

 

 俺は黙った。Brownieも黙った。

 

 もう一度、ホログラムを見る。

 

 手のひらに円形の発射口、両脚には同じ原理を利用した推進器、そして胸にはアークリアクター。

 

 ……これって。

 

「…………」

 

『名称を設定しますか?』

 

「やめろ」

 

『必要です』

 

「絶対分かって言ってるだろ」

 

『私は該当する名称を知りません』

 

「……リパルサー」

 

『Repulsor』

 

「そう」

 

『登録します』

 

 MARK Iの設計図に、新たな文字が追加された。

 

 REPULSOR UNIT。

 

「…………」

 

 アークリアクター、パワードスーツ、リパルサー。

 

「もうそろそろ言い逃れできなくなってきたな」

 

『何からですか?』

 

「こっちの話」

 

     

◇

 

 製作を始めてからの時間は、ひたすら作業の繰り返しだった。

 

 切って、削って、溶接して、組み立てる。プログラムを書く。

 

 そして試す。

 

 壊れる。

 

 直す。

 

 また試す。

 

「右肘動かない!」

 

『第三アクチュエータに異常』

 

「交換!」

 

『予備部品を搬送します』

 

「左脚の反応遅い!」

 

『制御信号に0.18秒の遅延』

 

「致命的だろ! 補正!」

 

『実行します』

 

 ひたすら時間だけが過ぎていく。

 

 眠い、腹が減る、胸の手術跡が痛む。それでも手を止めない。

 

 Mark 1が少しずつ形になっていく。

 

 最初に骨格、次に筋肉、その次に皮膚、そして最後に鎧。

 

 それはまるで、一体の生物を作っているようだった。

 

     

◇

 

『右脚駆動正常』

 

「左」

 

『正常』

 

「右腕」

 

『正常』

 

「左腕」

 

『正常』

 

「生命維持」

 

『正常』

 

「気密」

 

『正常』

 

「エーテル遮蔽」

 

『規定値をクリア』

 

「リパルサー」

 

『待機状態』

 

「推進器」

 

『待機状態』

 

「Brownie」

 

『はい』

 

「起動」

 

 低い機械音が狭い部屋に響くと共に、目の前の固定用ラックに吊られた鉄の鎧がゆっくりと起き上がる。

 

「…………」

 

 完成した。

 

 全高百八十九センチ、最終重量二百八十一キログラム。

 

 分厚い装甲に剥き出しの配線、全体に残る溶接跡、左右非対称の装甲。当然塗装なんてしていないから、金属そのものの鈍い銀色。

 

 ……ぶっちゃけ映画で見たMark 1より、さらに無骨かもしれない。

 

 でも。

 

「……格好いいな」

 

『外観評価ですか?』

 

「うん」

 

『左右の装甲形状には最大四・七センチの差があります』

 

「それがいいんだよ」

 

『胸部装甲には加工時の傷が残っています』

 

「それもいい」

 

『溶接跡も──』

 

「Brownie」

 

『はい』

 

「男のロマンに合理性を持ち込むな」

 

『理解不能です』

 

「いつか分かるよ」

 

 たぶんだけど。まあ、芸術関連の理解ならAIの自己進化の範疇だろ。

 

「じゃあ」

 

 鎧の前に立つ。

 

「着るか」

 

     

◇

 

 装着には十数分かかった。

 

 まず防護服、次に脚部外骨格。

 

 腰部、胸部、腕部。

 

 背部ユニットを取り付けて、最後にヘルメット。

 

『胸部接続を確認』

 

「リアクター出力は?」

 

『通常運転。0.8%』

 

「そんなもんで動くの?」

 

『動くだけでしたら十分です』

 

「リアクターやばいな」

 

 胸部装甲が閉じ、アークリアクターとMark 1が接続された、その瞬間。

 

 全身から駆動音が響いた。

 

「おお……」

 

 腕を上げる。

 

 重くない……というか、むしろ。

 

「軽っ」

 

『外骨格による動作補助を開始しています』

 

 一歩。

 

 ガンッ!!

 

「うわっ!」

 

 踏み込んだだけで床が凹んだ。

 

『出力過剰』

 

「先に言って!」

 

『通常歩行時出力を12%へ制限します』

 

 もう一歩、今度はゆっくりと。

 

「……よし」

 

 今度は床が凹むことなく歩くことができた。

 

「……動いてみるか」

 

 歩く、走る、腕を振る。

 

 関節の可動域が限られているとはいえ、二百八十キロ以上あるはずなのに自分の身体より軽く感じる。

 

「これ……」

 

 拳を握る。

 

 機械音と共に、巨大な鉄の指が動く。

 

「パンチしたらどうなる?」

 

『現在の出力制限下でも、人体へ使用した場合は致命傷となる可能性があります』

 

「うん、絶対人には使わない」

 

 というか当たり前だよな。二百八十キロの金属塊に殴られて平気でいられる人なんてそうそう居ない。

 

 そして次、情報系統。

 

「ヘルメット閉じる」

 

『閉鎖』

 

 ガシャンと音が鳴ると共に、視界が暗転する。

 

 目元に開けた視界確保用のスリットから、かろうじてヘルメットの中に光が差し込む。

 

「うわ、これ何も見え──」

 

 次の瞬間、目の前に情報が浮かび上がった。

 

 外部カメラ映像、温度、酸素残量、エーテル濃度、リアクター出力、機体損傷率。

 

 様々な情報が、取り付けたホログラム照射器によって青い光となって視界に現れる。

 

「……HUD」

 

 ヘッドアップディスプレイ(HUD)。アイアンマンがマスクの中で周囲の情報を処理するために使っているアレだ。

 

 トニー・スタークの作ったMark 1にHUDは存在しなかったが、俺の場合はエーテル濃度やエーテリアスの数など、周囲の情報を確認しなければならない場面が多い。だから無理やりにでもコイツを捩じ込んだ。

 

『表示に問題がありますか?』

 

「いや」

 

 自分で捩じ込んだとはいえ、ここまで来ると普通に笑ってしまう。

 

「最っ高」

 

 首を動かすと、ホログラムが視界を追従する。

 

 Brownieの音声もヘルメット内部から聞こえる。

 

「Brownie」

 

『はい、ハレ様』

 

「俺、今どんな感じ?」

 

『非常に不格好です』

 

「そこは格好いいって言えよ!」

 

     

◇

 

 問題はここからだった。

 

 施設の格納庫──天井の高い実験区画へ移動する。

 

「リパルサー試験」

 

『出力3%』

 

「低くない?」

 

『初回試験です』

 

「それもそうだ、了解」

 

 右手を前へ向ける。

 

 掌中央、円形の発射口が青白く光る。

 

「…………」

 

 ちょっと待って、これすっごい怖い。

 

『発射可能』

 

「…………」

 

『ハレ様?』

 

「心の準備」

 

『三秒経過』

 

「急かすな」

 

 深呼吸。

 

「よし」

 

 標的を見る。

 

「撃て!」

 

 ドンッ!!

 

「うわぁっ!?」

 

 右腕が後ろへ弾かれたと同時に、十メートル先の鉄板が凄まじい音を立てて吹き飛ぶ。

 

「…………」

 

『命中』

 

「…………」

 

 鉄板を見ると、中央部が大きく凹んでいた。

 

「3%?」

 

『3%です』

 

「……最大出力は?」

 

『現在の設計では35%まで耐えられます』

 

「……それを使わなきゃいけない相手がいないことを祈るしかないな」

 

 そもそも、これを最大出力で撃たなきゃいけない……それこそ精鋭個体のエーテリアスなんかに遭遇したら、その時点で死だしな。

 

「でも、ティルヴィングやアルペカみたいな普通のエーテリアスなら……」

 

 使える。

 

 倒せなくとも、少なくとも吹き飛ばすことはできる。

 

「次」

 

 両手を下へ向ける。

 

「姿勢制御試験」

 

『推奨出力1.2%』

 

「了解」

 

 足裏の推進用リパルサーが起動すると同時に、身体が浮いた。

 

「おっ」

 

 十センチ。

 

 二十。

 

 三十。

 

「浮いてる!」

 

『姿勢を維持してください』

 

「分かって──うおっ!?」

 

 身体が傾いた。

 

「待っ、待て待て!」

 

『右腕出力を下げてください』

 

「どっち!?」

 

『右です』

 

「こっち!?」

 

『そちらは左です』

 

「ヘルメット被ってると分かんねぇ!」

 

『通常、左右はヘルメットの有無によって変化しません』

 

「うるさ──うわぁぁぁ!!」

 

 身体が回転し、そのまま──

 

 ドガン!!

 

 壁へ突っ込んだ。

 

「…………」

 

『…………』

 

「…………痛い」

 

『装甲に軽微な損傷』

 

「俺は?」

 

『生命反応正常』

 

「ならいい……」

 

 壁にめり込んだまま、ため息をつく。

 

「飛ぶの難しすぎだろ……」

 

『当然です』

 

「トニー、最初からよく飛べたな……」

 

『例の架空の人物ですか?』

 

「そう」

 

『ハレ様とは別人です』

 

「知ってるよ」

 

 壁から身体を引き抜く。

 

 ……そうだ。俺はトニー・スタークじゃない。

 

 映画みたいに、作った瞬間から格好よく飛び回れるわけじゃない。

 

「……練習するか」

 

 ……いや、あの人も最初は壁に突っ込んでたか?

 

     

◇

 

 五時間後。

 

「よし……!」

 

 浮上、その場で姿勢を維持。

 

 前進、停止、旋回。

 

 そして着地。

 

「……よし」

 

『床面損傷、軽微』

 

「成功扱いで」

 

『了解』

 

 完璧とは程遠いが、それでも使える。

 

 Brownieに姿勢制御の大半を任せれば、このスーツでも短時間なら飛べる。

 

「残りは実戦で慣れるしかないか」

 

『実戦経験ゼロの人間が発言する言葉としては推奨できません』

 

「俺だって実戦したくないよ」

 

 ヘルメットを開く。

 

 自分でも気づかなかったが、全身が汗だくだった。

 

「……よし」

 

 遂に、準備ができた。

 

     

◇

 

 ゲート前、俺は一人で立っていた。

 

 正確にはBrownieがいる。でも、生身の人間は俺一人。

 

 巨大な隔壁の向こうから、時折何かが擦れるような音が聞こえてくる。

 

「…………」

 

 怖い。

 

 Mark 1を着ても、アークリアクターがあっても、リパルサーがあっても。

 

 怖いものは怖い。

 

「Brownie」

 

『はい』

 

「外部状況」

 

『正面ゲート周辺にエーテリアス反応三。約百八十メートル先に四。その他、センサー範囲内に十一体』

 

「……逃げ込んだ時より増えてるじゃん」

 

『はい』

 

「帰っていい?」

 

『今から帰るのでは?』

 

「そうだった」

 

 帰りたい。

 

 自分のベッドで寝たい、まともな飯が食いたい、風呂にも入りたい、レイ長官にも文句を言いたい。

 

 そして何より、生きたい。

 

「…………」

 

 拳を握る。

 

 鉄の指が、ぎし、と音を立てる。

 

 怖い、それでいい。

 

 怖いから、死にたくないから、ここまで作った。

 

「Brownie」

 

『はい、ハレ様』

 

「Mark 1、最終チェック」

 

『生命維持正常、気密正常、エーテル遮蔽正常、外骨格正常、リパルサー正常、推進器正常、アークリアクター正常稼働』

 

「武装」

 

『左右リパルサー、使用可能』

 

「脱出経路」

 

『確定できません』

 

「……ま、そりゃそうだ」

 

 結局は外へ出て、自分で探すしかないか。

 

「…………」

 

 ヘルメットを閉じる。

 

 ガシャンという音と共に視界が暗転し、すぐにHUDが起動する。

 

 胸の奥で心臓が鳴っている。そのすぐ上で、アークリアクターが青白く輝いている。

 

「ゲート、開け」

 

『開放します』

 

 警報灯が回り、巨大な隔壁がゆっくりと上がっていく。

 

 十センチ。

 

 二十。

 

 五十。

 

 外の光が差し込み、エーテルに満ちた空気が流れ込む。

 

『外部エーテル濃度上昇』

 

「防護機能」

 

『正常』

 

 一メートル。

 

 二メートル。

 

 そして、外が見えた。

 

「…………」

 

 いた。

 

 エーテリアス。

 

 ゲートの向こうから異形の怪物が三体、こちらを見ている。

 

「…………戻っていい?」

 

『推奨しません』

 

「だよね」

 

 一体が動いた。

 

 こちらへ向かって走ってくる。

 

「っ……!」

 

 身体が硬直する。

 

 怖い。

 

 数日前に見た光景が蘇る。

 

 軍人が吹き飛んだ。

 

 赤いものが散った。

 

 そして、死んだ。

 

 俺も、ああなる。

 

「…………」

 

 ……違うだろ。

 

 拳を握る。

 

 あの時とは違う。

 

 俺自身は強くなってない。勇敢にもなってない。今だって、すぐに逃げたい。

 

 でも、あの時と違って──逃げるための力を、自分で作った。

 

『接敵まで十秒』

 

「Brownie」

 

『はい』

 

「リパルサー」

 

 右腕を上げ、掌を怪物へ向ける。

 

『出力設定』

 

「…………」

 

 三パーセントで鉄板が吹き飛んだ。

 

 そして今度の相手は、エーテリアス。

 

「10%」

 

『設定』

 

 掌が青白く輝くと共に、エーテリアスが迫る。

 

『五秒』

 

「…………」

 

 怖い。

 

『四』

 

 死にたくない。

 

『三』

 

 だから、生きる。

 

『二』

 

「……来いよ」

 

 自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「こっちは死ぬほど帰りたいんだ」

 

『一』

 

 俺は引き金の存在しない武器を、初めて怪物へ向けて撃った。

 

「ファイア!!」

 

 青白い閃光が、ホロウの闇を切り裂いた。

 

 

 

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