もしも、サトノダイヤモンドの本格化があと一年早かったなら。
彼女のお披露目を兼ねた模擬レースが多くのトレーナー達の前で大々的に行われ、先にデビューしていたキタサンブラックと接戦を繰り広げる彼女の姿があったかもしれない。
華麗に、そして屈強にライバル達と戦う『名優』、メジロマックイーン。
彼女のようなウマ娘になりたいと願い、
願わくば、親友と共にデビューしたい。
それが叶わないならせめて、すぐ後に続きたいと。
けれど、現実は願いの通りにはいかなくて。
中央トレセン学園への入学前、トゥインクル・シリーズで戦うことを親友と誓い合ったのが、もはや遠い昔のことのように感じられるくらいの時間が過ぎ去って。
サトノダイヤモンドの身体が本格化の兆候をようやく迎えたのは、キタサンブラックより二年も遅れた。
だから今年ようやくデビューできるだろうかというサトノダイヤモンドと、菊花賞を制して世代の「最も強いウマ娘」となったキタサンブラックとの間には、覆しようがないほどの力の差が今はあって。
それでも「本気で戦ってほしい」と頼み込んで、少し戸惑った様子のキタサンブラックを何とか頷かせて。
あえて学園内でも人目につかない場所と時間を選んで二人で行った、このレースの結果は分かりきっていて。
本格化の時期の離れという、本人の意思や努力では埋めることができないすれ違い。
それが絶望的にも思える着差という形になって、サトノダイヤモンドの目の前に横たわっていた。
◇ ◇ ◇
「───ダイヤちゃん!」
大きく遅れてゴールしたサトノダイヤモンドのもとに、キタサンブラックがすぐに走り寄る。
戦いでのキタサンブラックはあらゆる障害をものともしない豪然たる走りをするが、本人は心優しき少女である。
まず間違いなく圧勝することが分かっていたこのレースに対して抱いていたのは、複雑な思いだ。
───本当は、
しかしデビュー前の彼女と、実戦を通じて著しく成長した自分との間にできてしまった差は、あまりにも大きくて。
だから親友がやがて追い付いてくれるのを信じて待つしかないんだと、キタサンブラックはいつも自分自身に言い聞かせていたのだ。
そして実際、今回のレースは戦いでこそあったが、もはや
「キタちゃん───ありがとう」
そんなキタサンブラックに向けて顔を上げたサトノダイヤモンドが、息を切らして感謝の言葉を伝えながら、瞳に宿していたもの。
それは───これほどの差を前にしてなお消えることのない、輝く炎のような闘志だった。
その輝きに一瞬、キタサンブラックは目を奪われる。
「無理なお願いをしちゃったのは分かってる。それでもキタちゃんなら、全力で来てくれるって分かってたよ」
「……うん、約束したもん。『本気でやる』って」
一切の嘘がない、ぶれない言葉と瞳でキタサンブラックがそれに応える。
キタサンブラックは優しい少女であると同時に、約束を必ず守る。
そして挑まれたのが併走ではなく「戦い」であった以上、決して手加減をする訳にはいかない。
だからこそゴールの瞬間まで一切手を抜かなかったし、こうして揺るぎなく親友と向かい合うことができている。
(……これは、翼…………?)
ゆえに、見逃さなかった。
サトノダイヤモンドの輝く闘志が彼女の背に集い、翼のようにまばゆく広がる瞬間を。
それが具現していたのは、ほんの一瞬のこと。
はっとしたキタサンブラックが改めて確認するよりも前に、あっという間に霧散して消え去っていた。
これが単なる錯覚だとは思わない。
けれど、今は目の前にいるサトノダイヤモンド自身に意識を集中させることにした。
「キタちゃんにこんなお願いをしたのはね、どうしても見たいものがあったからなんだ」
「見たいもの?」
「───キタちゃんが戦っている世界。『最も強いウマ娘』が本気で走るレースの世界を、誰よりも近くで目に焼き付けておきたかったから」
サトノダイヤモンドの夢。
それはサトノ家の悲願を成し遂げることと、キタサンブラックと同じ世界で共に戦うこと。
そしてこのレースは、これまで実戦の舞台に立つことが叶わなかった彼女が、目指すべき場所を改めて見定めるために必要な儀式だった。
サトノダイヤモンドの夢も、その道が長く険しいものになるであろうことも、キタサンブラックはよく知っている。
そして今───親友が強い意志を持ってその道を進み出した瞬間を、確かに見た。
「だからキタちゃん、どうか待っていてほしい。私も絶対、
「───うん!」
ダイヤモンドが輝くため必要なものは、切断と研磨。
誓いの言葉を受け取ったキタサンブラックが、サトノダイヤモンドの手をしっかりと取る。
彼女が輝くための助けとなれたことを、そして親友の進む道が幸あらんことを、祈りながら。
◇ ◇ ◇
「───クラちゃん、担当のトレーナーさんを見つけたって本当?」
「
今から一年ほど前。
まだ本格化の兆候がないサトノダイヤモンドが、この年にデビューするサトノクラウンに、彼女の担当トレーナーが決まったことについて聞き出していた。
ウマ娘の競技レースの発展に多大なる貢献をしているサトノ家と、その一族が経営するサトノグループ。
他家と比較して歴史こそ浅い部類に入るが、既に名家としての地位を確かなものにしている者たちである。
そんなサトノ家が現在に至るまで成し遂げられていない、レース界に対する最大の貢献がある。
それは、G1レースに勝利するほどの名ウマ娘を一族から世に送り出すことだった。
これまで多くのサトノ家のウマ娘が、トゥインクル・シリーズへと挑んできた。
一族の悲願を果たすべく最高の環境を作るため、サトノのウマ娘に特化した専門のチームも設立された。
それでもG1を獲る者は現れず、いつしかそれは「サトノ家のウマ娘はG1で勝てない」というジンクスとして確立されてしまっていた。
そして一族の願いを見放すかのように訪れた、競技ウマ娘としての才ある者が途切れた時期。
その影響でチームも止むなく休止することとなり、ジンクスが囁かれることさえも減ってきていた───
そんな中でついにサトノ家が恵まれた、二人のウマ娘。
一族を照らす希望となる才能、冠を戴くにふさわしい宝石の原石。
それがサトノクラウン、そしてサトノダイヤモンドである。
二人がトレセン学園へ入学するにあたり、サトノ家は最大限のサポート体制を整える。
その中にはサトノのチームを復活させる計画も含まれていたが、両名とも本格化が予想より遅れたために一旦は保留となる。
また、それぞれの両親の「やりたいようにやらせたい」という意向により、もし意中のトレーナーやチームがあればそちらを選ぶようにと二人は言い聞かされてきた。
サトノダイヤモンドよりも本格化が早かったサトノクラウンはそれに従い、自分の意思で学園の選抜レースに出場する。
レース後に数多く集まったトレーナー達に対してサトノクラウンが求めたのは、あまりにも重いサトノの悲願を共に背負うことができる覚悟。
それに加えて、父親の家業の手伝いでも並々ならぬ才覚を発揮していた彼女が目指したかったものとは、
そして、悩み抜いた果てに彼女が選び取ったのは───ある新人トレーナーとの契約であった。
極めて狭き門である中央のトレーナー試験には、別種の職に就きながら勉強を重ねて合格を志す者も数多い。
そしてその新人トレーナーは、前職では最前線で活躍するビジネスパーソンであったという。
そこで得た経験が大きな助けとなり、仕事とトレーニングの両方を並行して行うプランニングに長けていたのだ。
とはいえ、まさか前職で身につけたものが担当ウマ娘のスカウトにここまで貢献するとは、トレーナー本人も思わなかったことだろう。
そんなサトノクラウンたちに対し、すぐにサトノ家で面談が行われたという。
そこで彼女が問われたのは、サトノ家と彼女自身の願いを、このトレーナーと共に叶える覚悟はあるのか。
仕事を続ければどうあがいてもトレーニング時間の減少が避けられない中で、トゥインクル・シリーズを戦う決心ができているのか。
そして、この選択に後悔はないのかということ。
その問いに、サトノクラウンがどのように答えたのかは───
「諦めないって決めたの。サトノの栄光も、私がやりたいことも両方ね! あのトレーナーと一緒なら絶対できるって、確信しているもの!」
───サトノダイヤモンドにそう断言する、彼女の力強い姿が雄弁に物語っていた。
サトノクラウンが逆境に強いウマ娘であることを、妹分であるサトノダイヤモンドは知っている。
背負うことになった期待と重圧を、彼女なら力に変えることができると。
そして何よりも、羨ましかった。
運命を自分の意思で切り拓かんとする、サトノクラウンの姿が。
◇ ◇ ◇
夕暮れの空、キタサンブラックとレースしたあの日と同じ場所。
サトノダイヤモンドが自主トレを終え、汗の伝う頭部をタオルで拭う。
思い出していたのはキタサンブラックとの戦いと、そしてサトノクラウンのトレーナー契約のこと。
(私もいずれ、あの世界に加わってみせる。そして、あの背中を越えるんだ)
目を閉じればいつでも浮かべることができる、あのレースで垣間見ることができたキタサンブラックが戦う世界。
今はまだ置いていかれてしまったけれど、だからこそさらに強くなった思いがサトノダイヤモンドを突き動かしている。
サトノダイヤモンドの内に宿った炎は、あの日から衰えることを知らない。
そして、自分の身体もいよいよ本格化を迎えるのだという確かな感触がある。
だから、この熱量を真正面から受け止めて先導する人物───担当トレーナーが必要な時期になったということが、サトノダイヤモンドには分かっていた。
ただ、そのトレーナーを選ぶ方法についてはまだ決めかねていた。
サトノクラウンのように学園の選抜レースに出場するか、それともどこかのチームで選抜テストを受けるか。
またサトノ家の者からは、逆にサトノダイヤモンド自身がトレーナーを集めて選抜する、トレーナートライアルを行ってはどうかとも提案されている。
一人の学園生がこういった催しを行うことは通常ないが、サトノ家の強固なバックアップがある彼女になら可能だ。
あるいは、サトノ家が自分にふさわしいと見定めたトレーナーに全てを託すという手もあるが……
(私もクラちゃんのように、トレーナーさんは私自身の意思で選びたいな)
こう考えている現状、それは奥の手になるだろうか。
結局のところ問題は手段ではなく、サトノクラウンのように、心から納得できるトレーナーと契約できるかどうかだ。
でもどうすれば彼女みたいに心を強く持てる、運命を共にしたいと思えるトレーナーを見つけられるだろう───
そんな物思いに深くふけっていたサトノダイヤモンドか、顔を覆っていたタオルから顔を上げると。
「───サトノダイヤモンドさん」
いつの間にかそこに立っていた誰かと、ばっちり目が合った。
「は、はいっ!」
少しびっくりして、慌てて返事をする。
サトノダイヤモンドに声を掛けてきた人物は、落ち着いた雰囲気を纏った、スーツ姿のヒトの女性だった。
「驚かせてしまい申し訳ない。
名乗ったその人物から丁寧に差し出された名刺を、「頂戴いたしますね」とサトノダイヤモンドが両手で受け取る。
上質な紙に記されている肩書とスーツで光るバッジが、彼女が確かに中央トレセン学園所属のトレーナーであることを示していた。
そんな人物がこうして訪れたのだから、用件はおそらく───
「単刀直入に申し上げますと、私はあなたをぜひスカウトしたいと考えています。今日はそれに先駆けてご挨拶に伺いました」
「私をスカウト、ですか……」
やはりそうか、とサトノダイヤモンドは予想が当たっていたことを認識し、眼前のトレーナーを改めて見定めようとする。
選抜にまだ出ていないウマ娘に対してトレーナーがスカウトの声掛けを行うことは、ルールやマナーに反しているわけではない。
実際、レースに出ることなく直接トレーナーと契約を結ぶウマ娘もそこそこ存在する。
しかし選抜への出場は、『私はこういう者です。スカウトをお待ちしています』という一種の自己紹介と、明確な意思表示を意味する。
それに先んじてトレーナーがスカウトを試みても、契約を渋られがちなのが実情だ。
ウマ娘からしてみれば選択肢は少しでも多いほうが良いのだから、契約を急ぐ必要はないというのが定石であるし、学園の授業でもそのように指導されている。
またトレーナーにとっても、あまりにも早いスカウトは「手当たり次第にスカウトしているのでは」というマイナスの印象をウマ娘に抱かせかねない。
そして一番の問題はスカウトの成否ではなく、ウマ娘と同じようにトレーナーにも個性があり、担当する相手に向き不向きがあることだ。
勇み足で契約した結果、実はウマ娘とトレーナーの相性が悪かった……というのは最悪のパターンといえるだろう。
だから基本的に、実績があるトレーナーほどスカウトを急がない。
ウマ娘が選抜に出てくるまで待ち、レースを見たうえで吟味してスカウトを行うのが最も確実だからだ。
それでもなお早期に声を掛けるとすれば、そのウマ娘の育成を成功させられるという確信と、どうしてもスカウトしたいという思いがあるはず。
───特にサトノダイヤモンドの前にいるトレーナーのような、大きな実績を持つ者であれば。
「もしかして、カレンチャンさんとマヤノトップガンさんの担当トレーナーさんでしょうか?」
「はい、おっしゃる通りです。ご存知でしたとは、とても光栄です」
サトノダイヤモンドの確認を、トレーナーが頷いて肯定する。
そう、確かにサトノダイヤモンドは知っていた。
当初はウマスタグラマーとしての認知度が勝っていたカレンチャンと、かなりの気分屋で学園側も手を焼いていたというマヤノトップガン。
そんな彼女たちの指導を担当し、どちらもトゥインクル・シリーズを代表するウマ娘へと導いたトレーナーの存在を。
これまでの担当ウマ娘はその二人のみという、トレーナーとしてはまだ新鋭といえる立場でありながらも、大きな実績を残した人物がいることを。
「ええと、存じていたというのは、その通りなんですが……その、なんというか……」
……しかし、実際のところ。
サトノダイヤモンドの中にあるその情報は、トレーナーの顔と名前を見ただけで結びつけられるほど強固なものではなかった。
トレセン学園にいるトレーナーの膨大な人数を考えれば、無理もないことではある。
ではなぜサトノダイヤモンドが、眼前にいるトレーナーの担当ウマ娘が分かっちゃったのかというと。
「……せっかくなら、そちらのお二人もご一緒にお話を伺えたらな、と」
サトノダイヤモンドが気まずそうに少し逸らした視線の先にあるのは、トレーナーの後方にある倉庫の影。
一瞬目が点になった様子のトレーナーも、その言葉の意味をすぐに察したのか、そちらに振り返り───
「……わわっ、バレちゃった! ……って、おっととっと!」
「え、ええーっと…………ゴメンね? お姉ちゃん☆」
……そこに隠れていたのは、長い栗毛をツーサイドアップにした小柄なウマ娘と、白に近いベージュの髪を外ハネのセミショートにしたウマ娘。
見つかったことに相当びっくりした様子でバランスを崩しているのは、『変幻自在』マヤノトップガン。
そして少し気まずそうにした後、イタズラがバレた子供のように
「うそっ、カレン、マヤノ!!? ちょちょちょちょ、なんで二人ともここに…………って、あっ…………」
そしてこの状況を完全に予想していなかったのか、この場で誰よりも動転した様子を見せたのがトレーナーである。
先ほどまでのオトナな表情はどこへ消し飛んだのやら、あたふたとした慌てぶりを派手に披露してしまっていた。
……やがてトレーナーは今の状況を思い出したのか、何とか取り繕うとするものの、時すでに遅し。
サトノダイヤモンドは、その始終をばっちりと視界に収めていた。
(……さっきまでの硬い口調じゃなくて、きっとこっちが素なんだろうなあ…………)
こうしてサトノダイヤモンドとトレーナーのファーストコンタクトは、なんとも締まらない形となったのであった。
◇ ◇ ◇
「あの、なぜお二人は隠れて見ていらっしゃったのでしょう……?」
サトノダイヤモンドが一度寮部屋へと戻って身支度を整えてから、再び集まった四人。
目的地へと向かう間にできた時間で、サトノダイヤモンドはトレーナーの担当ウマ娘たちに、当然ともいえる疑問を尋ねることにした。
「それはお姉ちゃん───トレーナーが『どうしてもスカウトしたい子がいる』っていうから、カレンたちもつい気になっちゃって♪」
「そうそう! トレーナーちゃん、そんなこと言い出すのは初めてだからね? ちゃんとスカウトできるかマヤたちで見守ってあげようって思ったんだ!」
話を聞いてみるとこのトレーナー、これまで逆スカウト同然の形で担当ウマ娘が決まってきていたため、今回がトレーナーとして行う実質初のスカウトであったらしい。
となれば担当ウマ娘としてその様子をこっそり見たくなってしまうのは、実際にやるかどうかは別としてまあ理解はできる。
「……まったく、トレーナー想いのウマ娘たちで
スカウトにおいて特に大事なのは第一印象。
そこで完全にやらかしたと思っているのか、やや気落ちした様子でトレーナーがそんなセリフを言う。
嘘は言ってなさそうだが、少々皮肉が混じっているようだ。
そして、どうやらオトナな雰囲気で取り繕うことは諦めたらしい。
一人称も「わたくし」から「わたし」になってるし。
……まあ、初対面で蹴り飛ばされるという最悪な出会いを経てから、最終的に深い信頼を築くに至ったトレーナーとウマ娘もいる。
その例をサトノダイヤモンドは知っているので、この程度なら正直やらかされたと思っていないのだが。
そんな話をしているうちに、四人は目的地へと到着する。
チームを持たないトレーナーに、トレセン学園から与えられる個室は二種類。
一つは学園の校舎内にあるトレーナー室で、そしてもう一つが───
「それでは、お邪魔いたしますね!」
───今まさにやって来た、校舎からは少し離れた場所にある「トレーナー寮」と呼ばれる宿舎、その一室であった。
◇ ◇ ◇
仕事のために存在する校舎内のトレーナー室に対し、トレーナー寮は生活のために作られた空間である。
トレーナーがウマ娘の寮に立ち入るのはよほどの事情がない限り禁じられているが、その逆にウマ娘がトレーナー寮に入ることを禁じる明確な規定はない。
とはいえそんな必要が生じることは基本的にないし、年齢が離れた大人のパーソナルスペースなのだから遠慮するものだ。
実際、トレーナー寮には入ったことすらないというウマ娘が大多数である。
にも関わらず、なぜサトノダイヤモンドがトレーナーの部屋にやって来ることになったのか。
それは四人で落ち着いて話ができる場所について、マヤノトップガンが「どうせなら寮にあるトレーナーちゃんのお部屋でいーんじゃない?」と提案したのが切っ掛けである。
仕事で使うトレーナー室には機密情報を含む資料も多数あるため、担当外のウマ娘を簡単には入れられないという事情も一応ある。
だからといって、トレーナー寮も代替案として適切な場所ではないだろう。
これにはさすがに「いや、いきなりそこはちょっと……」とカレンチャンがやんわりと止めに入り、トレーナーも「担当じゃないどころか初対面のウマ娘を寮に入れようなんて前代未聞だからね!?」と、マヤノトップガンにツッコミを入れたのだが。
「───いえ、私行きます! よろしければ、ぜひお邪魔させてくださいっ!」
……サトノダイヤモンドは、「あり得ない」とか「前代未聞」といった類の言葉を聞くと、逆に燃え上がってしまうタイプのウマ娘であった。
これはサトノのジンクスを破りたいという長年の願いから生まれた気質でもあるが、彼女がウマ娘として元々生まれ持った性分でもある。
「……分かりました、もちろん大丈夫です。では、いらしてください」
スカウトしようとしているウマ娘本人にこう言われてしまっては、もはや断る選択肢はない。
観念したように、トレーナーはサトノダイヤモンドを部屋へと招き入れることを了承する。
こうして無事サトノダイヤモンドは「初対面のトレーナーの寮部屋に突撃する」という、某・芦毛の不沈艦ですら到底やらないことをやってのけた、前代未聞のウマ娘となったのであった。
───実際のところ。
サトノダイヤモンドは勢いだけで部屋に行く決断をしたのではないし、そこまで無鉄砲なウマ娘でもない。
ジンクスを破りたくなる性分はあくまで二の次であり、トレーナーに話をじっくり聞いてみたくなったのが本音であるのは間違いなかった。
「お恥ずかしながら、本当にものすごく散らかっておりますが……」
───そう言いながら玄関の扉を開ける、二人のウマ娘をトゥインクル・シリーズで輝かせた、このちょっぴり情けなさそうなトレーナーに。
文字数が多くなってしまったため、キリは悪いですがここで分割します。