1860年、夏
清水を出立して箱根の険しい道を超え、小田原、鎌倉、そして江戸に入る
世界有数の大都市の江戸、そのあまりの人の多さと規模に驚愕する土佐商団の面々
しかし以蔵は表情を変えず、いつも通りの護衛をするだけだった
武市や龍馬のいる江戸、しかも以蔵の記憶が確かなら土佐の前藩主の山内容堂も江戸に来ている
関ヶ原で大した武功を立てずに土佐藩を徳川家康から与えられた山内家は、旧土佐藩主である長宗我部に仕えていた郷士を家康への忠誠の証しと代々に渡って差別迫害してきた
なので間違っても郷士風情に山内容堂との目通りがある訳がない。更に江戸は広いので坂本龍馬や武市半平太と鉢合わせするのは少ないだろうが、それでも万が一があるので以蔵は目立つ気持ちは欠片もない
小政が江戸の道場を見る度に、以蔵に出稽古へ行こうとしつこく誘ったり
石松が禁酒に狂って酔っ払いと喧嘩騒ぎを起こしても、木刀を使わずに帯と鉄拳だけで制圧したり
慶次が八重と良い仲になった振りで以蔵の気を引こうとしても、以蔵の心は動かなかった
勝海舟・佐久間象山という開港派の重要人物とは、江戸在住の合間に親交を深めておきたかったが、勝海舟はサンフランシスコから帰還したばかりで後処理に忙しく江戸城に缶詰状態
佐久間象山はあまりの人気ぶりに以蔵を含め、彼の弟子から門前払いを喰らう。日を改めようとしても護衛対象の商団が江戸から離れる迄には会えそうもない
記憶が確かなら四年後の京で、佐久間象山は肥後の人斬り彦斎こと【河上彦斎】に殺される
影響力のある開港派に死なれては駄目だと、暗殺される場所や日付を記入した手紙を送っているが、その1回きりの警告が役に立つかは不明だ
吉田松陰の私塾は長州藩にあり、そもそも彼はとっくに罪人として首を刎ねられてるのを世論に疎い以蔵は忘れていた
彼の塾は倒幕派である長州藩の温床で、高杉晋作を筆頭にした連中が親愛なる先生の無念を晴らすと常に目をギラつかせてると、これに割り込むは面倒くさいなと以蔵は早々に諦めてる
以蔵は特に勝海舟と親睦を深めたいと思っている
もしも彼が再びアメリカに行くとしたら同船してみたい
日本を離れてみたいし、敵を見て、敵の本丸を見て、どう攻めるのかを研究してみたい
あと1年、江戸入りが早ければ今年の渡米に間に合ったかもしれないが、それは詮無きこと
意欲が湧いた以蔵は勝海舟宛に筆を取った
平民だろうと鉄砲を持つような物騒なアメリカに及ばないが、狂った倒幕派から守る為に腕の立つ用心棒は如何とか
他には誰かに聞いた話とかでなく以蔵個人の考えで、これから日本が何をするべきかを書き込んだ
駄目で元々である
死前の記憶が確かなら勝海舟はおおっぴらな人物だ。謹王党で暗躍してた敵側である自分を弟子である坂本龍馬の紹介だからと信用してくれた
薩摩だか長州だかの暗殺者に狙われた時も、勝海舟は以蔵の指示通りに動いてくれたので守りやすい
あの先生にならば、と以蔵も筆が乗る
完成した手紙を見ると凄く下手くそな字だが、熱意は伝わって欲しいのでそのまま送っている
手紙を送って暫くして団長から江戸での商いも終わったと聞き、土佐に帰る日取りが決まると漸く折り返しかと以蔵は一層身を引き締める
勝海舟からの返事は無い
帰りは同じ道を辿るようで、東海道から京に上り、大阪から土佐を目指す
これなら慶次が調べた土産を難なく買えるし、次郎長一家の後ろ盾も得やすい
新規開拓を望むなら八王子から甲州街道を通り、下諏訪から中山道で京を目指す道が望ましいが
それは以蔵が敵視する博徒【黒駒の勝蔵】が牛耳っている
奴の手下を斬った以蔵、勝蔵の大敵である次郎長一家を含めた商団が通れば、面目や出世欲に目が眩んだ連中からどんな嫌がらせを食らうか知れたものではない
そう言って商団長は無難な帰路を選択した
発表があったその夜、見張り番を交代しながら腹に食い物を入れるべく、たまにしか現れない幻の夜鳴き蕎麦を喰らってると聞き慣れた土佐弁を話す巨漢が闇から現れた
「以蔵…?以蔵か!おぉ懐かしいな!」
「坂本さん、お元気そうでなによりや」
千葉道場に住み込みで修行してる坂本龍馬が、大量の門下生を連れて現れたのである
正直なところ会いたくはなかったが、江戸に離れる頃に出会うのは以蔵としてもそこまで間は悪くない
しかし謹王党に巻き込まれるのは御免なので、以蔵は手短に別れようとしたが無駄な足掻きだった
「まぁまぁ、久しぶりに付き合いや
みんなぁ、紹介しよう。儂とおんなじ土佐藩の郷士で二つ年下の以蔵ぜよ」
そこから龍馬は以蔵の強さは自分以上で、自分に剣を教えた武市半平太をも以蔵は超えていると高らかに話す
「あの坂本さんや、武市さんよりも?」
「そいつぁスゲーや」
北辰一刀流の千葉道場で既に有名になっていた坂本龍馬を超える剣士。それに門下生が食いついて以蔵にあれこれと聞き込みを開始してくる
以蔵は特別な事はしてないと普段から考えてるので、人を守る事を念頭にひたすら基礎鍛錬をしてるだけだと返した
「ねぇ坂本さん。こちらの以蔵さんが果たしてどこまで強いのか見たくなってしまったから、直ぐに千葉定吉先生に頼んで出稽古に来て貰いましょうよ」
「おお、それは良い考えぜよ!ちっくと待っとき!」
「いやそれは…」
強引すぎる坂本龍馬は疾風の如く立ち去ると、そこから千葉道場と商団にまで話を素早く纏めてしまう
団長からはこの江戸で以蔵の土佐剣術がどこまで通用したのか大旦那への土産話にしたいと頼まれ、江戸の剣術を知れる好機だと意気込む慶次と小政からの援護は望めず、更に特別報酬も出すと言われたので以蔵は断れなくなった
しかし宣振館は常に人手不足、全員が同日に千葉道場に赴く訳がない
なので道場経験のある小政と慶次が先に出向き、後日に以蔵が石松を連れて行く流れとなった
石松の見張りである小政を対で送るのでは?と慶次に問われるが以蔵は
小政は女に飢えており、石松は酒に飢えている。飢餓状態の二人を送り出したら碌な結果になるはずも無いと返答している
宣振館の朝の鍛錬は地獄すら生温い程に苛烈なので、ある程度の欲は発散できているが難しい問題である
「慶次、小政。無理はしなさんなや
江戸から土佐に戻る前に怪我らぁ論外やき」
送り出したらの日の夕方、坂本龍馬と竹刀を交えたらしく、小政と慶次は悔しそうな顔で戻ってきた
大柄な龍馬に対し、小柄さを活かして臨んだ小政だったが北辰一刀流の免許皆伝の方が一枚も二枚も上手であったと言う
慶次は良く言えば実直、悪く言えば個性の無い剣術なので完全に上位互換の龍馬に敵うはずも無い
「また腕を磨いたらえい。その悔しさがあったら人は何処までも強うなれる」
諦めるなと言われた小政は女への邪念を捨てて居合いに磨きを掛け、慶次は基本的な技の先にあるモノを模索し始めるのであった
翌日、以蔵は石松と商団の野次馬を連れて千葉道場へ赴き、稽古に参加するつもりだ
試合ではなく、門下生と汗を流す程度にして変な押し売りを防ぐのが目的である
「坂本さんが言ってた凄腕剣士と言うのはは貴方ね、ふ~ん……よろしい。先に私と試合をして貰います」
立派な屋敷を構える千葉道場に入ると、やたらとぐいぐい絡んでくる美少女剣士がお出迎え。どうやら道場主の家族のようで相当に自信があるらしい
「はぁ、お手柔らかに」
清潔感・精悍さ・そして覇気が全く無い以蔵を見た女剣士、僅か14歳で北辰一刀流小太刀の免許皆伝を得た天才剣士【サナ】は闘う前から勝利を確信した
「酒が飲めん鬱憤は、ここで晴らさせてもらうだに!」
石松の滅茶苦茶で矢鱈滅多な竹刀捌きは喧嘩そのもので門下生を大いに困惑させる。遠くから見てた以蔵は、あの潔癖な武市が見たら卒倒ものだと思う程に酷いものだった
見かねた道場主・千葉定吉の一対一での稽古によって、石松は帰るまでには多少はマシになったとか
因みに強い奴しか話を聞かないと石松が吠えた後、道場主からそれはそれは凄いシゴキが行われている
「では以蔵さん、千葉サナがお相手仕る!」
「よろしゅう」
「胴ぉ、面んん!」
サナは隙だらけな以蔵の懐に入る前に竹刀を払い、胴を打った後の離れ際に面を跳躍して打ってしまった
儀礼的な意味で常に1本目は相手に譲るのが以蔵であるが、千葉サナの腕は確かなモノがあった
「ほぅ、娘。ちっくとは使えるんやね
てっきり儂は親の脛齧りのハナタレで、我が儘放題な剣士かぶれのメス餓鬼か思うたぜよ」
「ぶ、無礼な下賤の輩め!そこへ直れ!」
以蔵の素直すぎる物言いにサナの白い肌が高揚によって紅に染まるが、言った本人は淡々と続ける
「別に下賤の輩ながは間違うて無いが、そもそも殺し合いを前提とした稽古をしちゅ~なら身分も無礼も関係あるがかえ?
おんしは外を歩きゆ~時、後ろから多人数が迫って嬲り殺しに合うても卑怯云々とほざくがか?そりゃ自衛できんおんしの落ち度やろ?」
「な、にぃ?」
「あ、え~と…別に下賤である事に間違いは無いで御座いまするが、そもそも斬り合いの稽古をするのでしたら、そこに身分とか無礼とかは関係ありませんよね?
お前が外を歩いてる時、後ろから多人数が迫って嬲り殺しに合っても卑怯云々とほざくのですか?それは自衛できないお前の落ち度ですやろ?」
サナは別に以蔵の訛りがキツくて理解できなかった訳ではない。斬り合い稽古や他の問いに答えられなかっただけであった
以蔵は多人数が入り乱れる殺し合いの実戦どころか自分の首が落ちるまでを経験してる身の上なれば、眼前の生温い環境でチヤホヤされてきた小娘の発言には辟易もするというもの
最初の発言は素直に褒めたつもりだった。坂本龍馬の姉のような女傑が江戸にも居たのかと関心したは事実である
「千葉先生と坂本さんに確認したい。儂がこの娘を倒しても何か問題が御座るか?」
「ほほぅ、一向に構わんぞ」
言われた二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑うと了承してきた。やれるものなら是非とも見てみたいものだと言わんばかりだ
「では遠慮無く」
以蔵は目を細めてサナに視線を向けると、素早く彼女の小太刀を鞭のようにしならせた竹刀で弾き飛ばし、強靱な握力と腕力を持ってサナのがら空きの胴着を掴むと豪快に背負い投げ
「かはっ!」
道場内に響く程の威力で床に叩きつけても以蔵は止まらず、背後から目を白黒させてる女の細い首に自らの腕を回して裸絞め(チョークスリーパー)で締め落としてしまった
そしてゆっくりと気絶するサナの首筋に竹刀を当て、頸動脈を斬るような動きをした
「これで引き分けぜよ」
「うむ、誰ぞサナを介抱してやれ」
千葉定吉は侍女を呼んでサナを道場から下げさせた
女相手に何という無体を、などと腑抜けた言葉を使う者は千葉道場には一人もいないので以蔵は、ここは良い場所なのだなと関心した
できれば死前、この千葉道場に通いたかったと思う程に
「はははっ、やっぱり以蔵は強いねや!
サナさんがあそこまでやられるがを見るがは始めてや
武市先生が執着するがもしゃあないぜよ」
大嫌いな男の名前が出て以蔵の顔が曇り、まだ龍馬は武市の妄言に振り回されてるのかといい加減に怒りが湧いてきた
「坂本さん、どうか広い視野を持っと~せ
武市の謹王党らぁ黒船に比べたら、吹いたら飛ぶような小蝿ぜよ」
「うん?」
「武市は血と舌で土佐郷士を破滅に導く夢想家や
カチカチの異人嫌いが考えを邪魔して、マトモな決断が出来ん。奴はこれから自分の理想の為に郷士を私的に利用して暗殺に暗殺を重ねる…と思う
儂は守り屋をやる以上、稼ぎの邪魔をするならアンタじゃち斬るぜよ。やけんどそりゃ嫌や
ほんじゃあきにその、江戸には外の国を知る人物がおると聞く
知る限りだと勝麟太郎先生、佐久間象山先生、あとは吉田松陰先生らぁの弟子達やか
その人らぁに会うて話をしてみと~せ。アンタやアンタの仲間が拠り所にしちゅ~謹王党がいかにちっぽけなのかが分かる思うぜよ」
怒りに任せて、以蔵が普段から溜め込んでたモノが少しだけ口から出た
多くの門下生や千葉定吉、商団の野次馬が見守る中であったが以蔵は構わず自分の気持ちを続けてぶちまけた
攘夷攘夷と喚く前に先ずは敵を知り、その優れたモノを吸収して日本の力にしようと考えないのか?と
「以蔵は中々に物知りやったんやねや
昔からおんしは口数が多うない、嘘が言えん男ながはよう知っちゅ~。それがこれ程までに言わせるとは本心から来るものなんやろう?」
「なんや生意気ですいません
ですけんど、訂正はせんぜよ」
「やろうねや。だがその正直なとこが好きながや」
「はぁ」
以蔵は何故に坂本龍馬からここまで好かれるのか解らない。そこで話は終わりなので試合をそこまでにし、門下生の稽古に混じって汗を流した
小休止の後、興味本位で挑んできた門下生には儀礼的に勝ちを譲る
以蔵を刺激すればサナの二の舞になると解っているので、門下生は迂闊な発言と無礼は働いてこない
「どうな以蔵、久しぶりにやるか!」
「坂本さん、お手柔らかに」
幼少期以来に坂本龍馬と竹刀を交え終えると、今度は道場主である千葉定吉が出てきた時は流石に驚く
勿論、双方に勝ちは譲ったが一瞬だけ以蔵が本気を出すと、坂本龍馬と千葉定吉からは笑みが消えている
「以蔵、お前さえ良ければこの千葉道場から坂本と共に試合に出てみないか?」
「はい?」
何の事だと聞いてみれば、土佐の山内容堂が主催する剣術大会に千葉道場の代表として坂本龍馬と参加して欲しいとのこと
以蔵はまさかと思う
江戸では名君と呼ばれてるらしいが土佐では郷士嫌いで有名な容堂なので、以蔵が出れば良い顔はしないだろう
「千葉先生なら以蔵の分もちゃんと申し込んでくれるき
安心しぃや、な!」
坂本龍馬がにこやかに割り込んでくる。以蔵は非常に嫌な予感がしたので直ぐに拒否をした
「大の郷士嫌いで有名な容堂公の前に出ろと?
要らん御世話ですけんど?」
「そう言いなさんな。宣振館の名前を売るにはこがな場で活躍するがが1番の近道ぜよ」
「やけんど、そもそも宣振館は仕事の最中で」
「そがなんは想定の内や。既に商団長には前もって許しは得ちゅ~き大丈夫大丈夫!
へっへっへ、土佐の以蔵の強さを江戸中に知らしめちゃろう、その代わり儂は以蔵の言うた先生には必ず会うぜよ、約束や」
「ぐぬぅ…」
坂本龍馬の異次元の交渉術により以蔵は陥落
商団の野次馬に確認を取らせた所、坂本龍馬の言うとおりで許可が降りていた
後日、鍛冶橋の土佐藩上屋敷にて総数二十四人の剣士による試合が行われる
第一試合、いきなり北辰一刀流の塾頭である坂本龍馬が僅差で敗北する結果になった
相手は長州藩の桂小五郎。神道無念流「練兵館」の塾頭であり後年は交渉役として薩摩と同盟の橋渡しをする男であった
以蔵は結果は知ってたが、やはり龍馬が負けるのを見るのは辛い
地元の藩士が接戦したというのに主催者である山内容堂は不機嫌そのもので、配慮のなさが垣間見るとそれが次の試合に出る以蔵を苛立たせる材料となる
「次、千葉道場預かり、土佐藩郷士・岡田以蔵
対するは神道精武流、会津藩士・佐々木只三郎」
なんともいけ好かない男が相手だった
端の方から噂が聞こえるに佐々木は小太刀日本一だのと呼ばれており、兄が名主である松平容保の側仕えであるが故、常に自信満々で態度がデカくて図々しいと他所の道場でも有名らしい
以蔵は思い出した
目の前のコイツは新撰組の前身、浪士組と呼ばれてた連中を作った清河ナントカとその仲間だった奴だと
そして新撰組と同じく、京都見廻り組を自ら率いて落ち目の尊王攘夷派を見つけると集団で襲いかかり、安全圏から嬉々として斬殺を続けたので、倒幕派からは大いに恨まれていたなと
そうだ、自分も無宿人の頃にコイツには何度も追いかけ回されて怖い目に遭わされ続けた
あの恐怖を思い出すと同時に気付く。これはあの時の借りを返すまたとない好機だとも
「ふっ」
佐々木を睨んでいると頭から足先まで丹念に観察され、鼻で嗤われて終わった
自分が絶対の存在、負ける筈が無いのだと疑わない、そんな威丈高の態度に以蔵の反骨心が疼く
(よし、手足の骨を二十本だけ折るのみにしちゃろう
いやいや待て、顎を砕いて二度と戯れ言を喋れんようにしちゃるのも有りか)
頭に血が上った以蔵だが内心は冷徹で、ドス黒い感情を渦巻かせる
もしも目の前の男が後年、坂本龍馬を暗殺する張本人だと以蔵が知ってたら、間違いなく山内容堂の前であろうと【人斬り以蔵】が顔を出していただろう
以蔵が坂本龍馬暗殺の張本人を知らなかったので、その日の佐々木只三郎は九十九死に一生を得た
九死に一生などと呼べるような生易しい状態ではない
文字通り【死んだ方がマシ】にされた
「どうかな?」
「駄目だ、顎がグシャグシャで何を言ってるのか皆目わからんし、両方の金玉が潰されてる上に首を強打されてて立てもしない。これじゃあ生きてる内に小太刀どころか筆も満足に振れないだろうさ」
何やらうわ言を上げながら担架で運ばれる佐々木を、以蔵は博徒を斬った時のような絶対零度の眼光で見送るのであった
「勝者、千葉道場預かり土佐藩郷士・岡田以蔵」
勝利者宣言を受けて以蔵は下がると、あまりの凄惨な試合ぶりに周りから距離を取られる
対照的に坂本龍馬は自分に勝った桂小五郎や他の剣士を交えた雑談に夢中、これで上手くいけば彼は吉田松陰の関係者と会談に臨めるかもしれない
「ふむ…」
以蔵の試合を山内容堂の隣にいた貫禄のある上士が、誰よりも興味深く観察していた
その男こそ吉田東洋。数年後に謹王党の那須や安岡によって暗殺される予定の土佐開港派筆頭である
彼は藩政改革を断行し、藩の財政立て直しや軍備増強、飢饉への備えなどに積極的な近代化改革を進め
人材の育成面では私塾である鶴田塾を開き、のちの明治維新で活躍する後藤象二郎、板垣退助、福岡孝弟、岩崎弥太郎(のちの三菱財閥創業者)らを育て上げる
更に開国と実力主義を推進し、身分にとらわれない登用や開国路線を行っていたので目の前の以蔵に惹かれない筈がなかった
「どうした官兵衛(東洋の通称)、何やらご執心だな」
珍しく重鎮が夢中になってると気付いた山内容堂は、それを茶化し始める
「はっ、郷士風情にしては底々の腕でありました故」
「ん?それは初戦で負けた方の郷士か?それとも後の郷士か?」
「後の方にて御座いまする」
「あ~あれか、ふん…あれはまるで飢えた狼だな。見苦しい事この上ない」
心の底から以蔵を毛嫌いする山内容堂は、先祖代々続く郷士差別が自然と口に出る
「されど手元に置ければ熊をも食い殺す猟犬か、非常に優れた番犬にもなりましょう」
「ほぉ、お主ならアレを飼い慣らせると申すか
だが郷士であれば、あの攘夷攘夷と小煩い連中と結託しておるのでは?」
「何とも言えませぬな
今少し調査をし、それから諸々に動きまするが、もしもの際には某の一存で処分してもよろしゅう御座いますか?」
「ふっ、郷士風情に遠慮は不要である
煮るなり焼くなり好きにせい」
「ははっ、有難き幸せ」
試合の翌日、吉田東洋は郷士である弥太郎に以蔵の噂を尋ねてみれば、城下での宣振館での活躍や、幼少期からの奇人ぶり、そして武市半平太を含めた謹王党との確執を聞き。益々もって面白い奴だと興味を抱かせるのであった
感想を頂けますと筆にブーストが掛かります
吉田東洋を以蔵の上司にしてみようと思います
坂本龍馬と東洋を引き合わせて彼の脱藩を阻止し土佐に強固な海軍を作るか、それとも自由にさせるか
悩みどころです
佐々木只三郎、再起不能。後悔はない
浪士組は興します。新選組の為にも
千葉道場のサナ。坂本龍馬と婚約してた時期もあるらしいですが、はてさて
以蔵にストーカーする拗らせ女剣士とか面白そうです
ありがとうございました