サナは雑木林の中を必死に逃げていた
下りものが近いのか休み休みで江戸を目指したが無理だと感じ取り、仕方なく途中で籠を使って江戸に帰ろうとしたら、人相の悪い二人の籠持ちが人通りの少ない小高い丘に差し掛かるとサナが入った籠ごと丘の下に落とした
訳も分からず激しく転落する籠にしがみ付き、転倒が終わった時には視界はグチャグチャで体中が痛かった
それでも這い出て意識をハッキリさせてると、好色下卑た顔の籠持ちが丘を下って近付いてくるのが解る
物盗りなどと生温い相手じゃない、自分を犯す気だと直ぐに察したサナは立ち上がるも、未だ満足に闘える状態ではないのでまずは回復の時間を稼ごうと走り出した
人通りのある方角は犯人がいるので無理、しかたなく雑木林を突っ切る
懐には護身用に本身の小太刀が入ってる。回復したらあんな相手は敵じゃ無い
そして現在、後ろから怒号を上げて追走する犯人は痩せていたので女性といえど、常日頃から剣術に勤しんでたサナと体力面は互角。中々に追い付けない
人通りのある道には未だ出ないが、視界は良好となった
しかしこの様な事態を想定してなかったサナは、どうしても考えが纏まらない
誰も居ない状況、誰にも出会えないこの状況、誰にも頼れない状況
他人を頼るしか考えられない程に追い詰められたサナが、焦れて最悪の手に出た
足を止めて懐から小太刀を抜き、犯人を迎え討とうとした
切っ先を向けるサナにこれは上手いと思った犯人二人は抜刀し、サナの正面と背後を周りながら声を上げたり地面や手を鳴らしたりと撹乱を初めた
犯人の一人が奇声を上げて刀を振り上げた。サナより体が大きい犯人が大上段を構えた事で、彼女の気が其方に逸れた
「おい!こっちだ!」
残った一人が地面の砂を掴んでサナの顔に投げつけた。目に砂が入って体制が崩れた彼女は、易々と犯人達に地面に押し倒されてしまった
舌を噛まれる前に猿轡を嵌められ、小太刀は蹴り飛ばされ、両手首は頭上で抑えられた
衣類が次々と脱がされ、肌が外気に触れる
サナも自由な脚で抵抗を繰り返すが、目に砂が入ったままでは有効打が少ない
下半身が完全に露わになったのを感じて最後の抵抗をするが、強烈な拳が顔に落ちてきた
「クソガキが、じたばたするんじゃねぇ!」
顔を殴られるのは人生で初、竹刀で面越しに打たれる事は多々あれど温室育ちの娘には思考を止めるには有効打となった
「へへへ、大人しくなりやがった
では初物、いただきまぁーす」
犯人の生暖かい矛先が秘部に接触した
あまりの気持ち悪さに意識が戻ったので脚で迎撃したいが、既に懐に入られては虚しく空を蹴るのみ
なんとか腰を捻り、ソレを挿って来るのを防ぐのが精一杯であった
「おい!速くしろよ下手くそ!」
「うるせぇな!」
手持ち無沙汰な犯人の片割れが、仲間の不甲斐なさに焦れて両者は激しく言い争いを初めた
そもそも濡れてない女性の秘部に、同じく濡れてない逸物を挿入するのは不可能である
しかし運の悪い事にサナはその時、その瞬間、生理が来てしまった
「うぉ!?
へっ、これはこれはありがてぇ」
挿入を試みていた犯人は、いきなりドス黒い血が溢れ出た事に驚くも、その滑りで挿入が出来ると察した
「じゃあ今度こそ、いただきまぁーす」
血を逸物にこれでもかと塗りたくり、滑りを纏った剛直をサナの未開通の秘部に押し付けた。腰は両手で抑えられサナは解体前の虫の様な状態で、嫁入り前の体は浮浪者同然の輩に蹂躙される
事は無かった
直前で言い争った音を聞き付け、現れたのだ
完全に人斬りに戻った岡田以蔵が
「ぎょおおおお!!!」
怪鳥の様な咆哮に犯人が驚いて其方に振り向くと、眼をバッキバキに見開いた筋骨隆々の大柄の侍が抜刀し、此方に猛進して来ていた
慌ててサナから離れきる前に、圧倒的な脚力で以蔵はその場に到達
まずサナの両手を抑えてた犯人の両目に、すれ違い様に横一閃。これで永遠に光を奪う
次に下半身を露出した犯人の胸を蹴りつけてサナから引き離すと仰向けに転がった犯人の喉へ、上から足裏を押し付けて動きを封じ、剥き出しになってた汚物を無慈悲に切り落とした
逸物を斬られた犯人は絶叫をしたいが、喉を潰される程に抑えられてるので蚊の鳴くような声しか出なかった
「止血したら死ぬることは無い
だが貴様等は、これから他人を頼らんでは生きていけん体と、おなごを抱けん体となった
おなごを舐め腐って生きちょった代償ぜよ
有難う受け取りや」
底冷えする程に冷淡な以蔵が、とどめだと足下の犯人の光を奪った
犯人の叫び声が木霊す雑木林、以蔵はサナが身を起こさないので不思議と思って近付くと彼女は気絶していた
どこから気絶してたのか以蔵は知らないがふと気付く、彼女の股から血が出てる事を
これは、やってしまった
嫁入り前の純潔が奪われた
女の顔を殴られて、慎ましい双丘も晒された
そしてその原因は間違い無く自分にあると
相手は江戸三指の剣術道場主の娘。これは殺されても文句は言えないと以蔵は天を仰いだ
ただ起きた事は仕方ない。アッサリと気持ちを切り替えた以蔵はサナの衣類の乱れを直して場所を変えると、静かな木陰で彼女の意識が回復を待った
中々に意識が戻らないサナ、中々に追い付いて来ない井上や門下生達。以蔵は果たして処罰が切腹なのかそれともまた斬首なのかを考えていた
「う、ぅ」
サナの意識が戻ってきた
瞼を開き、頭を回し、以蔵を見て、状況を理解したら飛び起きた
荒い呼吸で以蔵から離れた彼女は、以蔵にその場から動くな近づくなと視線で訴えると自分の体を隠れて確認しだす
「犯人はどちらも生きちゅ~。少のうとも今だけは
アンタの判断で奉行所に突き出いても良し、この場で口封じしても良し。アンタの好きにしぃや」
確認が終わったらしく、サナが張り詰めた表情で以蔵に近付いてきた
痛々しく痣になったその顔を布で隠して
「今回は儂に責任がある。アンタの純潔を間接的に奪うた儂に
ほんじゃき江戸の千葉先生に判断を任すか?
それともこの場で儂を討ち取るか?
儂はどちらでも構わんぜよ」
死ぬのも二回目なら恐怖は無い
絶体絶命の状況は死前でも、現世でも多々あった
元より以蔵は常に自分が死ぬ気だから敵を斬れてきた。怯えて腰を引かなれば敵の間合いに入れるのだ
「全て私の判断に。今回の件はあの二人を含めて口外無用。奴等には私と同様に生き恥を晒して頂きます」
「はい」
「次に貴方ですが、江戸に戻る迄に保留とします」
「はい」
「以蔵、付いて来なさい
何故と聞く権利はありません。ただ言われた内容に従うのです」
「はい」
淡々と言葉を交わした二人は元来た道を戻り、付近を彷徨っていた井上佐市郎や門下生達と合流すると江戸を目指す
彼等はサナと以蔵の雰囲気が明らかに違う事には気付くも、あまりに両者の空気が張り詰めているので口出しは出来なかった
「手紙で父上に詳細と私の考えは伝えました
覚悟をしておくのですね」
「はい」
強行を続け、辿り着いた先の宿であった一度だけの会話
次の日、そして次の日も以蔵達に会話は無く、ただ脚を動かすと江戸には割と速く到着した
井上佐市郎と門下生達は宿に残し、以蔵とサナは千葉道場に向かう
待ち構えていた千葉定吉と実兄に迎えられたサナは屋敷内へ、以蔵は離れに案内される
暫く待った後、千葉定吉がやって来た
「手紙は受け取った
殆ど暴走したサナの落ち度で有るが、この一件は以蔵が引き金となったのは間違いない」
「はい。どんな命令や処罰も受け入れます所存です」
訛りを極力抑えて真摯な姿勢を見せる以蔵
少し言葉の高低(イントネーション)が違うが、やろうと思えば吉田東洋の時のように標準語で会話が可能である
「そうか、ならばサナを頼む」
「は…?」
「責任を取って、アレを嫁にせよと申している」
「んんん?」
「なんじゃ、案外そっちには疎いのだな
切腹などは不要。代わりにこの千葉定吉の娘、サナと婚姻せよと申している」
「話が飛びすぎて、理解が追い付きません
まっこと申し訳ないですが、理由ば聞かせて貰えんでしょうか?」
思わず素の訛りが出てくる以蔵に、これは相当に慌ててるなと察した定吉は内心してやったりと上機嫌である
「簡単な話だ
サナの純潔は無事だ。心利きたる侍女に確認させたから間違いない
しかし嫁入り前の体を白昼に晒され、女剣士が顔に痣を作ったとあってはサナの貰い手は今後無くなる。これは武家の娘としては死ぬより辛い
ならば以蔵が間接的にキズ物にしたのであれば、以蔵本人がサナを娶ってしまえば解決するのだよ」
「成る程。やけんど儂の家は貧乏郷士ですぞ?
まして郷士の妻となったら上士の嫌がらせに耐えんとならん、絹らぁを纏う事は贅沢だと禁止で、雨でも高下駄を履けずに馬にも乗れませんが?」
「構わん。そこもサナは了承済みだ
そして、その辺の鬱憤は宣振館の仕事で晴らすとも言ってたわい」
「分かりました。サナ殿を頂戴します」
肝が据わり過ぎる余りにすんなりと受け入れた以蔵と、手に負えないジャジャ馬娘をすんなりと差し出した千葉定吉であった
「ところで…あ~、サナ殿の具合は如何ですか?」
「いま義父と呼ぼうとして諦めたな?」
「いきなりな事だらけで、どうにも…」
「ふふふっ……体の方は問題ないが、顔の傷が治らぬ内は外出禁止である
残りの面子は商団に預けてあるそうだな?
速く合流してやれ。サナは坂本が土佐に帰る時に同行させるとしよう」
「痛み入ります
ところで龍馬さんは何処に?サナ殿をお頼みするなら挨拶をしておきたいのですが」
「坂本は道場だ。サナは顔の傷が治らぬ内は会いたくないそうだから、挨拶が済んだらそのまま行って良いぞ」
「はい」
以蔵は定吉に何度も頭を下げて出て行くと、坂本龍馬を探しに道場に向かった
「以蔵、聞いたがじゃ!サナさんを嫁にしたそうやねや!
きりょーよしを嫁にしやがって、どいてくれようか!」
「痛い、痛い」
以蔵を見つけた坂本龍馬が満面の笑みで突撃し、美人さんを嫁にした以蔵の首に腕を巻いて、残る手で頭を小突きまくる
「あ~あ、以蔵に先を越されてしまうとは。儂もそろそろ乙女姉さんのように婚姻をせんといかんかなぁ」
「乙女さんの相手、詳しゅう知らんけんど大丈夫やかね?」
坂本家の娘は武家の女らしく淑やか。しかし末娘の乙女は例外で身の丈170㎝超え、体重100キロ超え
文武両道で薙刀、弓、刀、水練、馬術などの武芸全般から琴、三味線、和歌、書画に至るまで幅広く秀でていた土佐で最強の女性である
「おろ?言うちょらざったか?
土佐の医者様と婚姻したがじゃ。しかも義兄の実家は代々藩主の御典医を務めてな、前藩主の容堂公の寵愛を受けちゅ~き姉上も安心や
そうや土佐に戻ったら儂からだとこの手紙を渡いて欲しい。そこで二人の身長差を楽しみにしちょけ」
懐から差し出された手紙を受け止る以蔵は乙女のこれから先、彼女が旦那からの暴力と浮気が原因で出戻り後家にされたのを知らない
乙女が離婚したのは1868年。以蔵が死んだのは1865年なので無理もない
しかしあの乙女に暴力を振るえる男が土佐に居るのかと知ったら、以蔵は首をかしげるだろう
死前も今でも世間は、女性は背が低く色白で少しぽっちゃりとした、しおらしい女性が美人とされてたが以蔵はそんな気は今は無い
寧ろ泣き虫と評判だった龍馬を立派に鍛え、自分の身は自分で守れる乙女のような真に強い女性が好ましいとすら思っていた
乙女が大丈夫と聞かされて不思議と心に引っ掛かりを覚えたが、何故か分からない以蔵は坂本龍馬に向き直る
「頂戴しました。では龍馬さん、サナ殿を頼みます」
「任せぃ!以蔵の可愛い嫁さんだ、この北辰一刀流免許皆伝、坂本龍馬が引き受けたぜよ!
あ…、それと勝先生に会うたがじゃ」
「おぉそうですか。如何でしたか?」
「以蔵の言うとおり、儂はこんまかった
ほんじゃき、儂はもっともっと広い世界を知りたい
あ、佐久間象山先生には、勝先生の紹介で会わしてくれる事になったき実に楽しみにゃ
それに土佐の河田小竜先生は、あの単身でアメリカに渡った中浜万次郎先生(ジョン万次郎)を知っちゅ~き、土佐に帰ってからも忙しゅうなるな
以蔵は長州藩の桂さんは知っちゅ~ねや?彼の同志の高杉さんも以蔵に興味があると聞くで」
坂本龍馬は自分が小さい事を自覚した様子で、矢継ぎ早に喋る
しかし以蔵は聞いた一部分にまさかと思う
あの高杉晋作は近代化思考だが過激派で、異人館に火を放つのに躊躇いが無い程に狂ってる
そもそも彼は尊王かどうかは知らないが、カチカチの攘夷・倒幕派なので自分とは馬が合わないとも
「やけんど長州藩の方々は攘夷派で、倒幕派や
会うなら慎重にやりましょう
ところで龍馬さんは、土佐開港派の吉田東洋様には会わんがかえ?」
「う~ん、流石に土佐の上士は敷居が高いねや」
興味が有ればとことんな坂本龍馬と言えど、上士への苦手意識は健在であった
「儂から話しちょくぜよ。東洋様は器が大きい人や、龍馬さん程の熱意のある人物やったら必ず応じてくれる」
「成る程、以蔵が信じる人ならば儂も信じてみようか」
では、と二人は別れた
以蔵は井上達が待つ宿に戻ってると不意に、坂本龍馬に聞きそびれた内容を思い出す
武市の土佐勤王党から抜けるのか、否か
随分と前に勝海舟に出した手紙のその後を
(どっちにせんかて開港派に染まった龍馬さんを、石頭の武市は置いちょくまい)
武市が龍馬に制裁を加えるかもしれないが、もしそうなった場合、以蔵は武市すらも斬る覚悟だ
手紙は坂本龍馬から勝海舟へ経由した方が確実だと、手が空いた時に書き直すことにした
宿に戻ると井上や門下生達にサナと婚姻したと伝えれば、門下生達は揃って驚愕するばかり、井上には吉田東洋や土佐の両親に直ぐに手紙を出せと、勝海舟宛てのよりも急かされたのであった
感想いつもありがとうございます。
大変励みになります
以蔵と言う受け皿でジャジャ馬娘が拾ってくれるならと、千葉サナを嫁にしました
特に何もなければ坂本乙女とくっ付けても良いかと思ってましたが…。但し、この時代は重婚が許されてたんですよね
相変わらずの斬り合いの描写は少なく、亀更新ですが、暖かく見守ってくださいませ
ありがとうございました。