ポケットモンスター ―頂への軌跡―   作:あああああ

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第28話 かくれざとのフシギダネ

ポケモンゼミを後にした翌日。

 

レンたちはクチバシティを目指し、森の中を歩いていた。

 

昨日は道に迷ったことで随分と時間を使ってしまったため、今日は朝からタケシとレンが何度も地図と方角を確認している。その甲斐もあって、今のところ大きく道を外れてはいない。

 

もっとも――。

 

「腹減ったぁ……」

 

先頭近くを歩いていたサトシが、力なく声を漏らした。

 

「さっき朝ご飯食べたばっかりでしょ」

 

カスミが呆れたように言う。

 

「さっきって言っても、もう結構歩いただろ?」

 

「まだそんなに経ってないわよ」

 

「ピカァ……」

 

サトシの肩に乗ったピカチュウまで似たような声を出したため、カスミは額を押さえた。

 

少し後ろを歩くレンは、そのやり取りを聞きながら小さく笑う。

 

隣ではヒトカゲとリオルが歩いていた。

 

昨日の夜に軽い訓練をしたものの、疲労を残すほどの量ではない。二匹とも足取りは軽く、ときおり森の奥へ視線を向けながら周囲の様子を確認している。

 

「カゲ」

 

ふいにヒトカゲが足を止めた。

 

少し遅れてリオルも顔を上げる。

 

「リオ」

 

「どうした?」

 

レンが二匹の視線を追う。

 

茂みの向こうから、小さな物音が聞こえた。

 

サトシも気づいたらしく、すぐに元気を取り戻す。

 

「野生のポケモンか!?」

 

「待って、いきなり飛び込まないでよ」

 

「分かってるって!」

 

そう言いながら、すでに半歩前へ出ている。

 

カスミが呆れていると、茂みが揺れた。

 

そこから現れたのは、小さなポケモンだった。

 

緑色の身体。

 

背中には大きな種。

 

「フシギダネ!」

 

サトシの顔が一気に輝いた。

 

「よーし!」

 

「だから待ちなさいって!」

 

カスミの制止も聞かず、サトシは前へ出る。

 

レンはフシギダネをじっと見た。

 

前世の記憶が正しければ、この先にあるのは傷ついた野生ポケモンたちが暮らす隠れ里。そして、このフシギダネはそこを守っている個体だ。

 

知っている。

 

けれど、レンは口に出さない。

 

今ここにいるフシギダネが、前世で見た物語とまったく同じ行動をする保証などないからだ。

 

それに何より、これはサトシとフシギダネの出会いだった。

 

「フシギダネ、オレと勝負だ!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネは逃げなかった。

 

むしろサトシを睨みつけ、背中の種の周囲から二本の蔓を伸ばす。

 

「来るぞ!」

 

タケシが声を上げた直後、『つるのムチ』が地面を叩いた。

 

「うわっ!」

 

サトシが慌てて飛び退く。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが前へ出ようとするが、フシギダネはもう一度『つるのムチ』を振るった。

 

今度は攻撃というより、近づくなと警告するような一撃だった。

 

地面に細い亀裂が走る。

 

レンはその様子を見て、僅かに目を細めた。

 

「……追い払おうとしてる」

 

「え?」

 

サトシが振り返る。

 

「本気で倒そうとしてるなら、今の攻撃はサトシを直接狙えたと思う」

 

タケシも頷いた。

 

「確かにな。何かを守っているのかもしれない」

 

「何かって?」

 

カスミが森の奥を見る。

 

その瞬間、フシギダネがレンたちと森の奥との間へ身体を入れた。

 

「ダネ!」

 

明確だった。

 

この先へ行くな。

 

そう言っている。

 

サトシもようやく気づいたらしく、構えを解いた。

 

「……分かったよ。今は戦わない」

 

「ダネ」

 

それでもフシギダネは警戒を解かない。

 

やがて少しずつ後退し、そのまま茂みの奥へ姿を消した。

 

サトシは残念そうに見送る。

 

「行っちゃった……」

 

「無理に追いかけるなよ」

 

タケシが言う。

 

「分かってるって」

 

そう答えた直後。

 

森の奥から、何かが落ちるような音が聞こえた。

 

「今度は何!?」

 

全員がそちらを見る。

 

「行ってみよう!」

 

「結局行くのね!」

 

サトシを先頭に、一行は森の奥へ進んでいった。

 

◇

 

しばらく歩いたところで、木々が途切れた。

 

その先に広がっていた光景を見て、レンたちは足を止める。

 

小さな川。

 

草花に囲まれた穏やかな場所。

 

そして、そこには何匹ものポケモンがいた。

 

足を傷めたポッポ。

 

身体に包帯を巻いたコラッタ。

 

羽を休めているオニスズメ。

 

ほかにも様々なポケモンたちが、人間を恐れる様子もなく静かに過ごしている。

 

「ここ……」

 

カスミが驚いたように周囲を見る。

 

「ポケモンがいっぱい」

 

タケシはすぐに、彼らの多くが傷ついていることに気づいた。

 

「治療されてるな」

 

そのとき。

 

「あなたたち、誰?」

 

声がした。

 

振り返ると、一人の少女が立っていた。

 

「私はミドリ。ここで傷ついたポケモンたちの世話をしてるの」

 

サトシたちも順番に名乗る。

 

ミドリはレンたちを警戒している様子だったが、ピカチュウやヒトカゲ、リオルの様子を見るうちに、少しずつ表情を和らげていった。

 

「ここにいるのは、みんな何かしらの理由で傷ついたポケモンたちなの」

 

「野生なのか?」

 

サトシが尋ねる。

 

「ほとんどはね。元気になったら森へ戻っていく子もいるし、そのままここに残る子もいるわ」

 

タケシは興味深そうに治療されたポケモンを見る。

 

「傷の手当ても君が?」

 

「ええ。でも私だけじゃないの」

 

その言葉と同時に、草むらが揺れた。

 

「ダネ!」

 

先ほどのフシギダネが現れる。

 

「さっきの!」

 

サトシが声を上げる。

 

フシギダネはサトシを一瞥すると、すぐに傷ついたポケモンたちの前へ立った。

 

まるで盾になるように。

 

「この子が、ここを守ってくれてるの」

 

ミドリが微笑む。

 

「フシギダネが?」

 

「ええ。新しいポケモンが来たときも、人間が近づいてきたときも、いつも一番最初に様子を見に行ってくれるわ」

 

レンはフシギダネを見る。

 

先ほどの行動にも納得がいった。

 

自分たちを襲いたかったわけではない。

 

この場所を守っていたのだ。

 

「ダネ」

 

フシギダネもレンを見返す。

 

視線が合う。

 

ヒトカゲが一歩前へ出た。

 

「カゲ」

 

フシギダネの目がヒトカゲへ移る。

 

互いにしばらく見つめ合ったあと、ヒトカゲは敵意がないことを示すように力を抜いた。

 

フシギダネもすぐには警戒を解かなかったものの、『つるのムチ』を出すことはなかった。

 

「強いな」

 

レンが呟く。

 

「分かるの?」

 

ミドリが尋ねる。

 

「少しだけ。さっきも動きに迷いがなかったし、それに……」

 

レンは傷ついたポケモンたちを見る。

 

「自分が守らないといけないって思ってる」

 

「……そうね」

 

ミドリの声が少し柔らかくなった。

 

「この子はずっとそうなの」

 

サトシもフシギダネを見つめていた。

 

最初は珍しいポケモンを見つけた喜びが強かった。

 

けれど今は。

 

少し違う。

 

「すごいな、お前」

 

「ダネ?」

 

「みんなを守ってるんだろ?」

 

「ダネ」

 

フシギダネは当然だと言うように顔を背けた。

 

「へへっ」

 

サトシが笑う。

 

レンはその横顔を見ていた。

 

ここから先は。

 

サトシ自身が築くものだ。

 

◇

 

一行はしばらく隠れ里に滞在することになった。

 

タケシは傷ついたポケモンの治療を手伝い、カスミも水を運ぶ。

 

サトシはというと、最初こそフシギダネに近づこうとして何度も警戒されていたが、やがてほかのポケモンの世話を手伝うようになった。

 

レンもミドリの許可を得て、何匹かのポケモンの状態を確認していた。

 

父から教わったことを思い出す。

 

呼吸。

 

食欲。

 

動き。

 

怪我をしている場所だけを見るのではなく、身体全体を見る。

 

「このコラッタ、さっきより動きがいい」

 

レンが言う。

 

「本当?」

 

ミドリが近づく。

 

「まだ無理に走らせない方がいいと思うけど、ご飯は少し増やしても大丈夫そう」

 

ミドリが感心したようにレンを見る。

 

「詳しいのね」

 

「父さんに教えてもらったんだ。ポケモンの身体を見る仕事に近いことをしてるから」

 

「そうなんだ」

 

少し離れたところでは、ヒトカゲとリオルも手伝っていた。

 

ヒトカゲは身体の小さなポケモンが危険な場所へ行かないよう見守り、リオルは重い荷物を運ぶタケシを手伝っている。

 

その様子をフシギダネがじっと見ていた。

 

「ダネ……」

 

やがて一匹の小さなポケモンが転びそうになると、ヒトカゲがすぐに身体を支えた。

 

「カゲ!」

 

「ダネ」

 

フシギダネの表情が、ほんの少し変わる。

 

レンはそれに気づいたが、何も言わなかった。

 

信頼は、言葉で作るものではない。

 

◇

 

穏やかな時間は、長くは続かなかった。

 

突然、空から巨大な網が降ってきた。

 

「何!?」

 

「危ない!」

 

レンが叫ぶ。

 

「ヒトカゲ、『きりさく』!」

 

「カゲ!」

 

ヒトカゲが跳び上がり、鋭い爪で網の一部を切り裂く。

 

だが、網は一つではなかった。

 

別方向からもう一枚が飛んでくる。

 

「リオル!」

 

「リオ!」

 

リオルが『でんこうせっか』で飛び出し、まだ動きの鈍いポケモンを抱えて網の範囲から離脱する。

 

「何なのよ!」

 

カスミが空を見上げる。

 

聞き慣れた笑い声。

 

「何って聞かれたら――」

 

「またお前らか!」

 

サトシが口上の途中で叫んだ。

 

「最後まで言わせなさいよ!」

 

ムサシが怒鳴る。

 

ロケット団だった。

 

「こんなにたくさんポケモンが集まってるなんて、まさに取り放題!」

 

「まとめていただくぜ!」

 

「大漁ニャ!」

 

巨大な機械が姿を現し、次々に網を発射する。

 

傷ついたポケモンたちが怯えた。

 

「ダネ!」

 

フシギダネが真っ先に前へ出る。

 

『つるのムチ』で網を叩き落とし、仲間たちを守る。

 

だが。

 

「一匹で全部は無理だ!」

 

サトシが駆け出す。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

レンもすぐに周囲を確認した。

 

傷ついたポケモンが多い。

 

ここで派手な攻撃を撃ち合えば、巻き込む危険がある。

 

「ヒトカゲ、炎はまだ使わない!」

 

「カゲ!」

 

「リオルはポケモンたちを安全な場所へ! ヒトカゲはフシギダネと一緒に網を止める!」

 

「リオ!」

 

「カゲ!」

 

二匹が同時に動く。

 

リオルは『でんこうせっか』で走り回り、逃げ遅れたポケモンを一匹ずつ安全な場所へ運んでいく。

 

ヒトカゲはフシギダネの横へ並んだ。

 

「ダネ?」

 

「カゲ!」

 

また網が飛ぶ。

 

「ヒトカゲ、右!」

 

『きりさく』。

 

同時に。

 

「ダネ!」

 

『つるのムチ』。

 

二匹の攻撃が左右から網を捉え、地面へ叩き落とした。

 

「いいぞ!」

 

レンが次を見る。

 

サトシとピカチュウも前へ出ていた。

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが機械の周囲を走り、ロケット団の狙いを乱す。

 

「ちょこまかと!」

 

ムサシが怒鳴る。

 

機械の射出口がピカチュウを追う。

 

レンはその動きを見た。

 

「ヒトカゲ!」

 

「カゲ!」

 

レンが指示を出すより先に、ヒトカゲが動いた。

 

地面を蹴り、射出口の死角へ回り込む。

 

「そこから『げんしのちから』!」

 

「カゲ!」

 

岩が浮かび上がり、機械の側面へ次々に叩きつけられる。

 

「な、何ニャ!?」

 

機械が大きく傾く。

 

「フシギダネ!」

 

サトシが叫んだ。

 

「今だ!」

 

フシギダネがサトシを見る。

 

ほんの一瞬。

 

迷うような間。

 

だが。

 

「ダネ!」

 

すぐに機械へ向き直る。

 

『つるのムチ』が伸び、傾いた機械の脚へ絡みついた。

 

「引っ張れ!」

 

「ダネェ!」

 

フシギダネが全身に力を込める。

 

「リオル!」

 

避難を終えたリオルも戻ってきた。

 

「『はっけい』!」

 

「リオ!」

 

機械の脚へ掌底が叩き込まれる。

 

大きく揺れた。

 

「今だ、ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

サトシが腕を振る。

 

「『10まんボルト』!」

 

「ピッカァァァ――チュウ!」

 

強烈な電撃が機械を包み込む。

 

爆発。

 

「せっかく大量ゲットのチャンスだったのにー!」

 

「また失敗かー!」

 

「やな感じニャー!」

 

ロケット団は空の彼方へ消えていった。

 

静けさが戻る。

 

レンはすぐに振り返った。

 

「みんな大丈夫!?」

 

タケシとミドリが傷ついたポケモンたちを確認する。

 

「こっちは大丈夫だ!」

 

「誰も大きな怪我はしてないわ!」

 

その言葉に、レンはようやく息を吐いた。

 

「よかった……」

 

「カゲ」

 

ヒトカゲが戻ってくる。

 

「ありがとう。よく周り見てたね」

 

「カゲ!」

 

頭を撫でると、ヒトカゲが嬉しそうに鳴いた。

 

その隣へフシギダネが来る。

 

「ダネ」

 

「カゲ!」

 

先ほどまで互いに警戒していた二匹が、今度は自然に顔を合わせる。

 

フシギダネが短く鳴くと、ヒトカゲも返した。

 

何を話したのか。

 

レンには分からない。

 

けれど、悪いやり取りではなさそうだった。

 

◇

 

ロケット団を追い払ったあと。

 

サトシは一人でフシギダネの前へ立った。

 

「フシギダネ」

 

「ダネ」

 

「オレ、お前が気に入った」

 

あまりにも真っ直ぐな言葉に、カスミが苦笑する。

 

「相変わらずね」

 

サトシは構わず続けた。

 

「みんなを守ってたの、すごかった。だから……オレと一緒に来ないか?」

 

フシギダネはサトシをじっと見る。

 

すぐには答えない。

 

やがて。

 

「ダネ」

 

前へ出た。

 

「え?」

 

サトシが首を傾げる。

 

フシギダネは少し離れた場所へ移動すると、身体を低くして構えた。

 

タケシが笑う。

 

「どうやら、条件があるみたいだな」

 

「条件?」

 

「バトルだ」

 

サトシの顔が輝く。

 

「よーし!」

 

ピカチュウが前へ出ようとした。

 

だが。

 

「ピカ?」

 

サトシは少し考える。

 

「ピカチュウ、頼む!」

 

「ピカ!」

 

フシギダネも構える。

 

レンは少し離れた場所から二匹を見る。

 

前世の記憶では知っている。

 

けれど。

 

今はただ。

 

サトシとフシギダネの勝負を見届ける。

 

「いくぞ、ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

「ダネ!」

 

フシギダネが先に動いた。

 

『つるのムチ』が左右から伸びる。

 

「ピカチュウ、避けろ!」

 

「ピカ!」

 

一本目を跳び越える。

 

二本目は身体を捻ってかわす。

 

「そのまま『でんこうせっか』!」

 

「ピカ!」

 

一気に距離を詰める。

 

だがフシギダネも簡単には許さない。

 

「ダネ!」

 

蔓を地面へ叩きつけ、その反動で身体を横へずらす。

 

ピカチュウの攻撃が外れた。

 

「速い!」

 

サトシが驚く。

 

レンも目を細めた。

 

守るだけではない。

 

ちゃんと戦い慣れている。

 

「ピカチュウ、もう一回!」

 

「ピカ!」

 

再び走る。

 

今度は真正面から行かない。

 

左右へ細かく進路を変えながら接近する。

 

フシギダネの蔓が伸びる。

 

一度。

 

二度。

 

ピカチュウはかわす。

 

三度目。

 

「そこだ!」

 

「ピカ!」

 

『でんこうせっか』が命中した。

 

「ダネッ!」

 

フシギダネが後退する。

 

それでも倒れない。

 

「まだだ!」

 

サトシも油断しない。

 

フシギダネが再び『つるのムチ』。

 

ピカチュウの足元。

 

跳ぶ。

 

その瞬間。

 

もう一本の蔓。

 

「ピカ!」

 

空中のピカチュウを捉えた。

 

「ピカチュウ!」

 

フシギダネがそのまま振る。

 

だが。

 

「尻尾で受けろ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが身体を捻り、尻尾を使って地面への直撃を避ける。

 

着地。

 

「今だ!」

 

ピカチュウが走った。

 

フシギダネも正面から迎える。

 

「『でんこうせっか』!」

 

「ピカァ!」

 

激突。

 

「ダネッ!」

 

フシギダネが地面を滑る。

 

今度は膝をついた。

 

それでも。

 

すぐに立ち上がろうとする。

 

「ダネ……!」

 

サトシはモンスターボールを握った。

 

「フシギダネ!」

 

ボールが飛ぶ。

 

フシギダネに触れ、赤い光へ変えて吸い込む。

 

地面へ落ちたボールが揺れる。

 

一回。

 

二回。

 

三回。

 

止まった。

 

「……」

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間。

 

「やったぁぁぁ!」

 

サトシが飛び上がった。

 

「フシギダネ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

サトシとピカチュウが喜ぶ。

 

カスミも笑い、タケシも満足そうに頷いた。

 

レンはその姿を見ながら、小さく笑った。

 

また一匹。

 

サトシに仲間が増えた。

 

◇

 

出発前。

 

サトシは捕まえたばかりのフシギダネをもう一度外へ出した。

 

「フシギダネ」

 

「ダネ」

 

フシギダネは隠れ里を見渡す。

 

これまで守ってきたポケモンたちが集まっていた。

 

ミドリもいる。

 

「大丈夫よ」

 

ミドリが優しく言った。

 

「ここは私が守るから」

 

「ダネ……」

 

「あなたも、自分の道を歩いていいのよ」

 

フシギダネはしばらくミドリを見つめたあと、仲間たちを見る。

 

そして。

 

サトシへ向き直った。

 

「ダネ!」

 

「行こうぜ!」

 

サトシが笑う。

 

「もっともっと強くなろう!」

 

「ダネ!」

 

レンはその様子を少し離れたところから見ていた。

 

ヒトカゲも隣にいる。

 

「カゲ」

 

「いい出会いだったね」

 

「カゲ!」

 

フシギダネがこちらへ来た。

 

ヒトカゲと向き合う。

 

「ダネ」

 

「カゲ!」

 

先ほど一緒に戦った二匹。

 

今度は。

 

仲間として。

 

互いに拳代わりの前脚を軽く合わせる。

 

その姿を見ていたリオルも近づいた。

 

「リオ」

 

「ダネ」

 

「カゲ」

 

三匹が顔を合わせる。

 

レンは笑った。

 

サトシの旅も。

 

少しずつ変わっている。

 

最初はピカチュウだけだった。

 

そこからキャタピーと出会い、ピジョンを捕まえ、キャタピーはトランセルを経てバタフリーへ進化した。

 

そして今。

 

フシギダネが加わった。

 

これから先も。

 

まだ多くの出会いが待っている。

 

レンはそれを知っている。

 

けれど。

 

知っているからこそ。

 

決めつけない。

 

前世で見た物語と。

 

今、自分が歩いている世界は。

 

もう完全に同じではないのだから。

 

「レン!」

 

少し先からサトシが呼ぶ。

 

「何してるんだよ! 行くぞ!」

 

「今行く!」

 

レンが駆け出す。

 

ヒトカゲとリオルも続いた。

 

「カゲ!」

 

「リオ!」

 

新しく仲間になったフシギダネがサトシの横を歩き、ピカチュウがその隣にいる。

 

次に待っているものが何なのか。

 

レンは知っている。

 

少なくとも、かつて見た物語では。

 

それでも今は、先の出来事よりも目の前の道を見る。

 

昨日、自分でノートに書いたばかりだ。

 

知識は答えではない。

 

答えを見つけるための武器。

 

ならば。

 

この先も。

 

知っている未来だけを見るのではなく。

 

ヒトカゲと。

 

リオルと。

 

仲間たちと。

 

自分の目で確かめていけばいい。

 

「カゲ?」

 

隣を歩くヒトカゲがレンを見上げた。

 

「何でもないよ」

 

レンは笑う。

 

「行こう」

 

「カゲ!」

 

「リオ!」

 

森を抜ける道は、まだ長い。

 

クチバシティへ辿り着くまでにも、きっと新しい出会いが待っている。

 

そしてレンたちは、それぞれの目標へ向かって再び歩き始めた。

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