ポケットモンスター ―頂への軌跡― 作:あああああ
ゼニガメ団との出会いから数日。
レンたちはクチバシティを目指し、森の中を歩き続けていた。
木々の隙間から差し込む日差しは明るく、天気も悪くない。それでも目的地へ到着する気配はなく、先頭を歩いていたサトシも、さすがに何度目か分からない地図との睨み合いを始めていた。
「おかしいな……クチバシティって、こんなに遠かったっけ?」
「その台詞、昨日も聞いたわよ」
カスミが呆れたように答える。
「道が間違ってるんじゃないの?」
「間違ってない!」
「じゃあ今どこにいるの?」
「……森!」
「それは見れば分かるわよ!」
二人のやり取りを聞きながら、レンは隣を歩いているリザードへ目を向けた。
「リザ」
進化直後と比べれば、新しい身体で歩く姿もかなり自然になっている。長くなった脚にも慣れ、以前のように無意識のうちに歩幅を間違えることも少なくなった。
その隣ではリオルも歩いている。
「リオ」
二匹とも体調に問題はない。
前回の戦いでは、覚えたばかりの『ほのおのうず』『ほのおのキバ』『しんくうは』『みきり』を実戦でも使うことができた。
ただし、それで完成したわけではない。
レンとしては旅を続けながら少しずつ精度を上げていくつもりだった。
「それにしても、サトシってポケモン増えたわよね」
不意にカスミが言った。
「当然だろ! オレはポケモンマスターになるんだからな!」
「でも、ちゃんと自分で捕まえたって感じのポケモンは少ないんじゃない?」
「何だと!?」
サトシが勢いよく振り返る。
「ピカチュウはオーキド博士からもらったでしょ。フシギダネもヒトカゲもゼニガメも、向こうからサトシを選んだようなものだし」
「ちゃんとオレの仲間だ!」
「仲間じゃないなんて言ってないわよ」
カスミは肩をすくめる。
「ただ、野生のポケモンを見つけて、自分で捕まえるっていう普通の捕獲はあんまりしてないって話」
「バタフリーとピジョンは捕まえた!」
「はいはい」
「その言い方やめろよ!」
サトシがむきになる横で、レンは苦笑した。
するとサトシは突然足を止める。
「よし、決めた!」
「何を?」
「次に野生のポケモンを見つけたら、オレが自分でゲットする!」
「急だな」
レンが笑う。
「誰も手伝うなよ!」
「別にいいけど」
「ピカ?」
ピカチュウまで首を傾げている。
そのまま再び歩き始めて間もなく、木々の向こうから明るい光が差し込んできた。
さらに、微かに波の音も聞こえる。
「海だ!」
サトシが一気に駆け出す。
「ちょっと待ちなさいよ!」
レンたちも後を追って森を抜けると、目の前に広い砂浜と青い海が広がった。
「おお……」
レンも思わず足を止める。
潮の匂いを含んだ風が吹き抜け、リザードの尻尾の炎を揺らす。
「リザ……」
リオルも初めて見る広大な海を興味深そうに眺めていた。
「リオ」
そんな中、サトシだけは別のものを見つけたらしい。
「ん?」
足元を小さな影が横切る。
赤い身体。
大きな鋏。
「ポケモンだ!」
サトシが図鑑を向ける。
「クラブか!」
野生のクラブは鋏を持ち上げ、こちらを警戒していた。
サトシの顔が一気に輝く。
「ちょうどいい! こいつをゲットする!」
「ピカ!」
ピカチュウが前へ出ようとした。
しかしサトシは手を伸ばして止める。
「待ってくれ、ピカチュウ。今度はオレ一人でやる!」
「ピカ?」
レンはその言葉に眉を上げた。
「一人って……ポケモンも使わないの?」
「そうだ!」
「そこまでしなくてもいいと思うけど」
「見てろって!」
サトシは近くに落ちていた棒を拾い、クラブへ向かって構える。
「いや、それはどうなんだ……?」
レンが呟く。
クラブも鋏を構えた。
「行くぞ!」
サトシが棒を差し出した瞬間。
バチン!
クラブの鋏が閉じ、棒があっさり切断された。
「ええっ!?」
「言わんこっちゃない」
それでもサトシは諦めず、今度はモンスターボールを取り出した。
「だったらこれだ! モンスターボール!」
投げる。
クラブが赤い光に包まれ、ボールへ吸い込まれる。
一度。
二度。
三度。
音が鳴った。
「やった!」
サトシが駆け寄る。
「クラブ、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
「本当に捕まえた……」
カスミが少し意外そうに呟く。
「どうだ!」
得意げなサトシだったが、次の瞬間。
手にしていたモンスターボールが光に包まれた。
「え?」
ボールが消える。
「ええええええっ!?」
サトシの叫び声が砂浜に響き渡った。
◇
「オレのクラブが消えた!」
「落ち着け」
タケシが慌てるサトシを宥める。
「トレーナーが携帯できるポケモンは六匹までだ。七匹目以降を捕まえた場合、サトシならポケモン図鑑を受け取ったオーキド博士のところへ転送される」
「オーキド博士のところ?」
サトシは指を折りながら数え始める。
ピカチュウ。
バタフリー。
ピジョン。
フシギダネ。
ヒトカゲ。
ゼニガメ。
「……六匹だ」
「だからクラブが七匹目ね」
カスミが言う。
「じゃあ、本当に研究所に行ったのか?」
「仕組み上はそうなるはずだ」
タケシが答えても、サトシの表情から不安は消えない。
「でも確認したい!」
「電話があればな」
周囲を見ても、あるのは海と森だけだった。
そのとき。
「ピカ!」
ピカチュウが崖の上を指差した。
全員が視線を向ける。
遠く。
高い崖の上に、一つの巨大な灯台が建っていた。
「灯台!」
サトシの顔が輝く。
「あそこなら電話があるかもしれない!」
「行ってみよう」
レンたちは海岸沿いを進み、灯台へ向かった。
◇
近くまで来ると、その灯台は想像していた以上に巨大だった。
古びているようにも見えるが、放置されているわけではない。建物の周囲はきちんと管理されており、誰かが暮らしていることが分かる。
サトシが扉の前に立つ。
「すみませーん!」
返事はない。
もう一度呼ぶ。
やがて中から声が聞こえ、何度かやり取りした末に扉が開いた。
中へ入ったレンたちは、灯台内部を見回す。
壁にはポケモンに関する資料や写真が並び、さまざまな研究器具が置かれていた。
「研究施設みたいだな」
レンが呟く。
そのとき。
奥から奇妙な姿が現れた。
「うわっ!」
サトシが飛び退く。
巨大な殻のようなものを背負った、見慣れない姿。
カスミも驚いたが、レンはすぐに気づいた。
(カブト……の着ぐるみか)
やがて装置が外れ、中から一人の青年が姿を現す。
「僕はマサキ。ポケモンの研究をしてるんや」
「マサキ……」
レンは静かにその名前を反芻した。
前世の知識にもある人物。
優秀なポケモン研究家。
ただ、実際に会うのは当然初めてだった。
◇
灯台の電話を借り、サトシはすぐにオーキド研究所へ連絡を取った。
画面にオーキド博士が映る。
『おお、サトシか』
「博士! クラブ届いてる!?」
『クラブ? ああ、ちゃんと届いておるぞ』
「よかったぁ……!」
サトシが大きく息を吐く。
画面の向こうでは、捕まえたばかりのクラブも元気にしているらしい。
それを確認してようやく安心したサトシだったが、オーキド博士との話はそこで終わらなかった。
旅立ったシゲルがすでに数多くのポケモンを捕まえていると聞かされ、サトシは大きな衝撃を受ける。
「そんなに!?」
『捕まえた数だけがトレーナーの価値ではないが、さまざまなポケモンを見ることも経験じゃ』
「くぅ……シゲルめ!」
サトシが悔しそうに拳を握る。
レンはその横で苦笑する。
自分はサトシともシゲルとも違う。
数を競うつもりはない。
現在はリザードとリオルの二匹を徹底して育てる。それがレン自身の選んだ道だった。
通信を終える前、オーキド博士が灯台の主についても教えてくれた。
マサキ。
ポケモン研究において高い評価を受けている人物。
電話を終えたあと、サトシはさっそくマサキへ詰め寄った。
「マサキさん! ポケモンのこと、いっぱい知ってるんだよな!」
「まあ、それを調べるのが僕の仕事やからな」
「だったらいろいろ教えてくれよ!」
「いきなりやなあ」
マサキが笑う。
そのままポケモンについての話が始まった。
現在確認されている種類。
生息地域。
食性。
進化。
人間との関係。
それでも、まだ分かっていないことは無数にある。
レンも最初は黙って聞いていたが、やがて一つ尋ねた。
「進化した直後のポケモンについて聞いてもいいですか?」
マサキがレンを見る。
「もちろん」
レンは隣のリザードを示した。
「このリザード、少し前までヒトカゲだったんです」
「リザ」
「進化して身体が大きくなって、筋力も歩幅も腕の長さも変わりました。今は一度基本動作から調整し直してるんですけど、進化前の身体で身につけた動きって、どのくらいそのまま残るものなんですか?」
マサキの表情が変わった。
「面白いところを見るなあ」
レンは続きを待つ。
「進化しても、それまで身につけた経験が全部消えるわけやない。むしろ蓄積された経験は大きな財産になる。ただし、身体そのものが変われば、同じ動作でも最適な形は変わる」
「やっぱり」
「たとえば腕が伸びれば間合いが変わる。筋力が上がれば、同じ力加減でも結果が変わる。重心の位置が変わるポケモンもいる。せやから、進化前の経験を捨てるんやなくて、新しい身体へ合わせ直すことが大事なんやろな」
レンはリザードを見る。
自分たちがやってきたことは間違っていない。
それを研究者の視点から確認できたのは大きかった。
「ありがとうございます」
「君、育成についてかなり考えてるみたいやな」
「世界で一番強いトレーナーになりたいので」
迷いなく答える。
マサキは少し驚いたあと、笑った。
「大きく出たな」
「本気です」
「リザ!」
「リオ!」
リザードとリオルまで同時に答えた。
マサキは二匹を見てから、レンへ視線を戻す。
「なるほど。トレーナーだけが言ってる夢でもなさそうや」
レンは小さく笑った。
◇
日が沈み始めたころ。
マサキはレンたちを灯台の上へ案内した。
眼下には広大な海が広がり、その先には少しずつ霧が立ち込め始めている。
「僕がここにいる一番大きな理由は、研究だけやない」
「他にも何かあるのか?」
サトシが尋ねる。
マサキは海を見る。
「待ってるんや。一匹のポケモンを」
「ポケモン?」
「正確には、僕にも何なのか分からん」
その言葉に、レンが反応した。
マサキほどの研究者にも分からないポケモン。
「とてつもなく大きな影をしてる。霧の向こうから、ときどき声だけが聞こえてくるんや」
「捕まえたいの?」
カスミが尋ねる。
マサキは首を横に振った。
「まず会いたい。何者なのか知りたい。それだけや」
レンはその横顔を見つめた。
やがてマサキが装置を操作する。
灯台から低く、不思議な音が海へ向かって流れ始めた。
どこか寂しげな声。
仲間を探しているようにも聞こえる。
しばらく。
何も起こらない。
ところが。
――オオォォォォ……。
海の彼方から。
同じ声が返ってきた。
「!」
全員が海を見る。
「今の……!」
サトシが身を乗り出す。
マサキの目が大きく開かれた。
「来た……!」
霧が揺れる。
巨大な波紋が海面に広がる。
その奥から。
何かが近づいてくる。
レンは言葉を失った。
霧の中。
まず見えたのは、巨大な影。
あまりにも大きい。
灯台に迫るほどの巨体が、ゆっくりと海の中を進んでくる。
「何だよ……あれ……」
サトシの声が震える。
カスミもタケシも何も言えない。
リザードがレンの隣で立ち上がった。
「リザ……!」
リオルも目を細める。
「リオ……」
レンだけは。
その姿に見覚えがあった。
頭部の形。
背中。
翼。
長い尾。
(カイリュー……)
前世で何度も見たポケモン。
知っている。
本来なら。
そう言えるはずだった。
しかし。
レンの知るカイリューは。
こんな大きさではない。
目の前にいる存在は、レンが知識として知っているカイリューという種族の常識から大きく外れている。
なぜ巨大なのか。
どれほど生きているのか。
どこから来たのか。
なぜマサキの呼びかけに応えたのか。
何一つ分からない。
「……すごい」
自然と声が漏れた。
怖くないわけではない。
圧倒的だった。
それでも。
胸の奥から湧いてきた感情は恐怖だけではない。
知りたい。
そして。
いつか。
あれほどの存在を前にしても、真正面から立てるトレーナーになりたい。
横を見る。
リザードが巨大な影を見上げている。
尻尾の炎が強く揺れていた。
怯えていない。
「……戦ってみたい?」
「リザ」
静かな返事だった。
いつもの勢い任せではない。
自分とは比較にもならない巨大な存在を理解したうえで、それでも目を逸らしていない。
リオルも拳を握っていた。
「リオ」
レンは二匹を見て、笑う。
「俺も同じだよ」
世界は。
広い。
自分たちの知らない強さが。
まだいくらでもある。
◇
巨大な影が少しずつ灯台へ近づいてくる。
マサキは震えるような声で呼びかけていた。
「もう少しや……!」
その瞬間。
夜空を何かが横切った。
爆発。
「ッ!」
巨大なポケモンの身体へ攻撃が当たる。
「何するんだ!」
サトシが叫ぶ。
崖の上。
そこにいたのは。
「何だかんだと聞かれたら!」
「やっぱり……」
レンが額を押さえる。
ロケット団だった。
ムサシたちは巨大なポケモンを見て、捕まえれば大手柄だと騒いでいる。
「やめろ!」
マサキが叫ぶ。
「そのポケモンは戦いに来たんやない!」
だが。
攻撃は止まらない。
さらに一発。
巨大な影が身を震わせる。
低い声が海と空を震わせた。
「オオォォォォォォォッ!」
灯台まで振動する。
「危ない!」
タケシが叫ぶ。
建物の一部が崩れる。
レンはすぐに周囲を見る。
巨大なポケモンへ攻撃する必要はない。
原因はロケット団だ。
「リザード、『げんしのちから』! 崩れてくる瓦礫を止めて!」
「リザ!」
複数の岩が浮かび上がり、落下してくる瓦礫へぶつかる。
軌道が逸れ、サトシたちのいない場所へ落ちていった。
「リオル、ロケット団の装置を狙って! 『しんくうは』!」
「リオ!」
リオルが拳を振り抜く。
空気の刃が飛び、ロケット団の発射装置へ命中した。
「うわっ!」
「装置が!」
「ピカチュウ、オレたちも行くぞ!」
「ピカ!」
サトシも動く。
「『10まんボルト』!」
電撃が走る。
ロケット団の装置が大きく揺れた。
それでも。
すでに遅かった。
巨大なポケモンは。
歩みを止めていた。
マサキが手を伸ばす。
「待ってくれ!」
霧の向こう。
巨大な影がゆっくりと背を向ける。
「また……来てくれ!」
声は届いたのか。
分からない。
巨大なポケモンは低く鳴くと、そのまま霧の奥へ消えていった。
しばらく。
誰も話さなかった。
波の音だけが聞こえていた。
◇
ロケット団を追い払い、灯台の安全を確認したころには、夜もかなり深くなっていた。
レンは灯台の外で海を眺めていた。
隣にはリザードとリオルがいる。
霧は。
もう薄くなっている。
巨大な影は。
どこにも見えない。
「残念やったな」
後ろから声がする。
マサキだった。
「……はい」
レンは答える。
「もう少しで近くまで来てたのに」
「せやな」
それでも。
マサキの表情は絶望していなかった。
レンは気になった。
「マサキさん」
「ん?」
「もし……ずっと分からなかったら、どうするんですか?」
「何が?」
「あのポケモンのことです。調べても、待っても、答えが出なかったら」
マサキは少し考えた。
それから海を見る。
「また調べるな」
「それでも分からなかったら?」
「また見る」
「それでも?」
「誰かに繋ぐ」
レンが目を瞬かせる。
マサキは笑った。
「一人の研究者が世界の全部を知るなんて無理や。僕が分からなかったことを、次の誰かが調べるかもしれん。その次かもしれん。それでもええんや」
「……」
「分からんことがあるから、知りたいと思えるんやろ?」
レンは。
海を見る。
前世の知識がある。
ポケモンの種類も。
進化も。
技も。
これから起こる大きな出来事も。
普通の人間より。
遥かに多くを知っている。
それでも。
今日。
目の前にいた巨大なカイリューについて。
レンは何も知らなかった。
知っているのは。
あれがカイリューに似ているということだけ。
なぜ巨大なのか。
どこから来たのか。
何を求めているのか。
答えはない。
けれど。
不思議と。
それが嫌ではなかった。
「……面白いですね」
「何が?」
「知らないことがあるって」
マサキが笑う。
「研究者向きかもしれんな」
「俺はトレーナーになります」
即答した。
「世界で一番強いトレーナーに」
「そうやったな」
マサキが笑う。
レンも笑った。
「でも、強くなるためにも、知らないことはちゃんと見たいです」
「それでええんちゃうか」
リザードが海を見る。
「リザ」
リオルも隣に立つ。
「リオ」
レンは二匹の頭へ手を置いた。
まだ。
知らないことだらけだ。
だから。
もっと強くなれる。
もっと学べる。
世界の広さを。
今日。
少しだけ知った。
◇
翌朝。
レンたちはマサキの灯台を出発した。
「ありがとうございました!」
サトシが大きく手を振る。
「また来いよー!」
マサキも手を振り返す。
一行は海沿いの道を進む。
サトシは昨日捕まえたクラブが無事に研究所へ届いていたことで機嫌がよく、ゼニガメやピカチュウと話しながら先を歩いている。
カスミとタケシも続く。
レンは少しだけ立ち止まった。
海を見る。
昨日。
あそこに。
巨大な存在がいた。
レンはノートを取り出した。
少し考えてから、一行だけ書き込む。
「知っている世界より、知らない世界の方がずっと広い。」
閉じる。
「リザ?」
「リオ?」
二匹がレンを見る。
「行こうか」
「リザ!」
「リオ!」
歩き出す。
少し進んだところで。
リザードが海を振り返った。
レンは気づく。
「まだ気になる?」
「リザ」
「いつか、あれくらい強そうな相手とも戦いたい?」
「リザ!」
今度は力強い返事だった。
リオルも負けじと拳を握る。
「リオ!」
「俺もだよ」
レンは前を見る。
「もっと強くなろう。いつか、どんな相手を前にしても胸を張って立てるくらいに」
「リザ!」
「リオ!」
その声に気づいたサトシが振り返る。
「何してんだよ、レン! 早く来いよ!」
「今行く!」
レンが走り出す。
リザードとリオルも続く。
やがて。
海岸線の向こうに。
大きな街の影が見えてきた。
船。
港。
立ち並ぶ建物。
「おい!」
サトシが立ち止まる。
「もしかして……!」
タケシが地図を見る。
そして。
頷いた。
「間違いない」
サトシの顔が輝く。
「クチバシティだ!」
「ピカ!」
ついに。
次の街へ辿り着く。
そこに待っているのは。
新しい出会い。
新しい戦い。
そして。
レンにとって三つ目となる。
正式なジム戦。
レンは遠くに見える街を見つめた。
隣には。
リザード。
リオル。
二匹も。
同じ場所を見ている。
「次のジムか」
レンが小さく呟く。
胸の奥に。
戦いを前にした熱が灯る。
「勝とう」
「リザ!」
「リオ!」
世界の広さを知った翌日。
レンたちは。
その世界の頂へ近づくためクチバシティへ向かって歩き出した。