ポケットモンスター ―頂への軌跡― 作:あああああ
最初に聞こえたのは、金属が軋む低い音だった。
ギィィ……ギギ……。
遠くでは水の流れる音もする。
身体のあちこちが痛む中、レンはゆっくりと目を開いた。
「……っ」
暗い。
非常灯らしき赤い光だけが、傾いた船室を薄く照らしている。
いや。
傾いているだけではない。
椅子やテーブル、照明など、本来なら床にあるはずの物と天井にあるはずの物の位置が完全に逆転していた。
(そうか……)
レンは意識を失う直前の光景を思い出す。
サントアンヌ号は転覆した。
そして。
海へ沈んだ。
「リザ……」
すぐ近くから弱い声がした。
「リザード!」
痛む身体を起こす。
リザードが倒れていた。
尻尾の炎。
消えていない。
それを確認した瞬間、レンは僅かに息を吐いた。
「大丈夫?」
「リザ……!」
リザードが身体を起こす。
怪我はある。
だが、動けないほどではない。
「よかった……」
レンが頭へ手を置くと、リザードは安心させるように小さく鳴いた。
「リオ……」
「リオル!」
反対側ではリオルも目を覚ました。
「どこか痛い?」
「リオ」
リオルは立ち上がり、腕や脚を動かして確認する。
大きな異常はなさそうだ。
レンはようやく周囲へ目を向けた。
「サトシ!」
少し離れた場所。
「う……」
サトシが動いた。
「いてて……」
「ピカ……」
その隣でピカチュウも目を覚ます。
「大丈夫?」
「ああ……たぶん」
「ピカ……」
さらに。
「痛ったぁ……」
「うぅ……」
カスミとタケシも生きている。
全員。
いる。
レンは胸を撫で下ろした。
「まず怪我を確認しよう。無理に動かないで」
「レン?」
「船がどうなってるか分からない。動くのは身体を確認してから」
サトシは何か言いかけたものの、すぐに頷いた。
それぞれ身体を確認する。
幸い。
全員、打撲や擦り傷程度だった。
「それにしても……」
カスミが周囲を見る。
「何で天井に立ってるの?」
「船がひっくり返ったからだ」
タケシが答える。
サトシが固まる。
「ってことは……」
レンは近くの窓へ向かった。
「確認しよう」
窓の外。
そこにあったのは。
暗い。
青黒い世界。
小さな気泡が上へ向かっていく。
遠くを魚影が横切った。
「……海の中」
カスミの顔から血の気が引く。
「じゃあ、この船……」
「ああ」
タケシも表情を強張らせる。
「海底に沈んでる」
「ええええええっ!?」
サトシの声が響いた。
「ピカァ!?」
「大声出さない!」
カスミが怒鳴る。
「カスミの方が大声だよ!」
「誰のせいよ!」
いつものやり取り。
だが。
状況は笑えない。
レンは周囲を見る。
(ここからだ)
この先も知っている。
逆さまになった船。
ロケット団との一時休戦。
船底を破って脱出。
そして。
海上で待っているギャラドス。
知識はある。
しかし。
未来を知っているからといって、何もかもその通りに動くとは限らない。
レンは天井――今は足元になっている場所へ手を触れた。
「レン?」
サトシが見る。
「船の状態を確認しよう」
「脱出するんじゃないのか?」
「するよ。でも、どこから水が入ってるのかも分からないのに壁を壊したら危ない」
レンは窓を見る。
「ここは海底だ。外側を壊した瞬間、海水が一気に入ってくる」
「……そっか」
サトシも理解した。
「それに」
レンはリザードを見る。
「リザードを海水の中へ出すわけにはいかない」
「リザ」
尻尾で炎が揺れている。
レンにとって。
絶対に無視できない問題だった。
「脱出するときはボールへ戻す。それまでは一緒に動こう」
「リザ!」
リザードは力強く頷いた。
◇
一方。
同じサントアンヌ号の別の区画。
「うーん……」
ムサシが目を覚ました。
「何よ……ここ……」
「頭が痛い……」
コジロウも身体を起こす。
「ニャ……」
ニャースが顔を上げる。
三人は周囲を見た。
逆さま。
暗い。
静か。
「……何か変じゃない?」
ムサシが呟く。
「天井が床になってる」
コジロウが答える。
「つまり船がひっくり返ったってことニャ」
ニャースが窓を見る。
そして。
固まった。
「……海ニャ」
「え?」
「外、海ニャ」
三人が窓へ駆け寄る。
数秒。
沈黙。
「「「沈んでるぅぅぅぅ!?」」」
◇
レンたちは船内を慎重に進んでいた。
逆さまになった船は、想像以上に歩きにくかった。本来なら頭上にある照明を避けながら進み、固定が外れかけた机や椅子の下を潜っていく。
船体が軋むたび、全員の足が止まった。
「リオ」
先頭近くを歩いていたリオルが足を止める。
「何かある?」
「リオ」
リオルが頷いた。
レンも耳を澄ませた。
声がする。
誰かがいる。
「気をつけて」
曲がり角を進む。
そして。
「あっ!」
「あっ!」
両者が同時に止まった。
サトシが指を差す。
「ロケット団!」
ムサシも指を差した。
「ジャリボーイたち!」
「こんなところまで!」
コジロウが身構える。
「ピカ!」
ピカチュウの頬から電気が弾け、リザードとリオルもレンの前へ出た。
「ちょうどいいわ!」
ムサシがモンスターボールへ手を伸ばす。
「ここで昨日の仕返しを――」
「やめて」
レンの声にムサシの手が止まった。
「は?」
「ここ、海底だよ」
「……知ってるわよ!」
「船体がどこまで持つか分からない。ここで暴れて船を壊したら、俺たちもあなたたちも死ぬ」
ムサシが黙る。
コジロウも顔を引きつらせた。
ニャースが腕を組む。
「確かに一理あるニャ……」
「一理どころじゃないでしょ」
カスミが呆れる。
レンはサトシを見る。
「外へ出るまでは休戦しよう」
「ロケット団と!?」
「今は敵味方で争ってる場合じゃないよ」
「でも!」
「サトシ」
レンは真っ直ぐサトシを見る。
「全員で生きて出る。それが先」
サトシは少し黙った。
やがて。
「……分かった」
「ピカ」
ピカチュウも頬の電気を収める。
ムサシたちも顔を見合わせた。
「仕方ないわね」
「命あってのロケット団だ」
「そういうことニャ」
こうして、奇妙な共同戦線が成立した。
◇
全員で船内を進みながら、レンは頭の中で現在位置を整理していた。
船は逆さま。
普通の出口から外へ出れば、そこは海中。
そして、今いる場所から海面までどれほどあるのかも分からない。
「どうやって出るの?」
カスミが尋ねる。
タケシが頭上を見た。
本来なら船底がある方向。
「船が逆さまなら……」
「ああ」
レンも頷く。
「上にあるのが船底だ」
サトシも気づく。
「そこに穴を開ければ!」
「外には出られる」
レンは続ける。
「でも、開けた瞬間に海水が入ってくる」
「じゃあどうするんだ?」
「先に準備する」
レンはカスミを見る。
「カスミ」
「何?」
「水の中で俺たちを運べるポケモンは?」
カスミの表情が変わった。
「そういうことね。任せて」
水中脱出では、レンのポケモンよりカスミのポケモンたちの方が圧倒的に適している。
なら。
任せればいい。
「それと、全員できるだけ荷物を軽くしよう。水に入ったら重い物は邪魔になる」
「分かった」
タケシが頷く。
レンはリザードを見る。
「リザード」
「リザ?」
「穴を開けるところまでは力を貸して。でも、水が入る直前に戻す」
「……リザ」
少し不満そうだった。
「弱いから戻すんじゃないよ」
レンはリザードの目を見る。
「水の中は君が戦う場所じゃない。得意な仲間がいるなら、その仲間に任せる。俺も同じだよ」
リザードは少し考えたあと。
「リザ」
頷いた。
「ありがとう」
レンが頭を撫でる。
すると、リオルが自分を指差した。
「リオ?」
「リオルも戻すよ」
「リオ!?」
「君も水中で自由に動けるわけじゃないでしょ」
「……リオ」
納得したような、少し悔しいような顔。
レンは笑った。
「海から出たら、また頼るから」
「リオ!」
それならいい。
そんな返事だった。
◇
船底へ辿り着く。
正確には、逆さまになった船の最上部。
分厚い鋼板が頭上にある。
「これを破るのか……?」
サトシが見上げる。
「一匹じゃ無理だ」
タケシが答える。
「一ヶ所へ攻撃を集中させよう」
レンの指示でポケモンたちが集まる。
ピカチュウ。
フシギダネ。
ヒトカゲ。
ゼニガメ。
ピジョン。
リザード。
リオル。
さらにロケット団のポケモンたち。
「ロケット団と一緒に戦うなんて変な感じだな」
「こっちの台詞よ!」
「喧嘩は後!」
カスミが怒鳴る。
レンは頭上を見る。
「一気に壊すんじゃなくて、まず同じ場所を削る」
穴を開けた瞬間。
海水が来る。
だから最後の一撃までは、リザードも戦える。
「リザード、『きりさく』!」
「リザ!」
爪が鋼板へ走る。
ガギィン!
浅い傷が刻まれた。
「もう一回!」
「リザ!」
同じ場所。
さらに傷が深くなる。
「リオル、『メタルクロー』!」
「リオ!」
ガンッ!
サトシたちのポケモンも続く。
何度も。
同じ一点へ。
鋼板が少しずつ歪んでいく。
「あと少し!」
レンが叫ぶ。
そして。
「リザード!」
「リザ!」
「戻って!」
リザードは一瞬だけ鋼板を見る。
まだ戦える。
そんな顔をしていたが、レンを見ると素直に頷いた。
「リザ!」
赤い光に包まれ、モンスターボールへ戻る。
レンはボールをしっかりと握った。
「リオルも!」
「リオ!」
リオルも戻る。
これで二匹を海水へ晒す心配はない。
「カスミ!」
「準備できてる!」
水ポケモンたちが待機する。
全員が息を整えた。
「ここを破ったら、一気に水が来る! 絶対に離れないで!」
「分かった!」
「ピカ!」
サトシが腕を振る。
「行くぞ! みんな、一斉攻撃!」
最後の攻撃が一点へ集中する。
鋼板が大きく歪み。
一瞬の静寂のあと。
――バキィィン!
穴が開いた。
「来る!」
レンが叫ぶ。
海水が凄まじい勢いで船内へ流れ込んだ。
「うわああああっ!」
全員の身体が押し流される。
レンは息を止めた。
カスミの水ポケモンたちが動く。
水中では彼らの動きがまるで違う。
一匹がサトシを支え、別の一匹がタケシを助ける。カスミ自身も周囲を確認しながら、全員が脱出できているかを見る。
レンにも助けが来た。
(任せる)
今は自分が指示する場面ではない。
水の中なら。
カスミの方が遥かに頼れる。
レンは水ポケモンへ掴まり、海面を目指した。
暗い水中。
苦しくなる息。
上がどちらか分からなくなりそうになるが、昇っていく気泡と水ポケモンの動きを信じる。
やがて光が近づき。
――ザバァッ!
「ぷはっ!」
レンが海面へ顔を出した。
「はぁ……はぁ……!」
周囲を見る。
「サトシ!」
「ここだ!」
「カスミ!」
「いるわ!」
「タケシ!」
「大丈夫だ!」
ロケット団も浮上してくる。
「死ぬかと思ったぁ!」
「ニャーは泳ぐの嫌いニャ!」
全員いる。
生きている。
「……よかった」
レンは胸元のモンスターボールへ触れる。
リザード。
リオル。
二匹も無事だ。
しかし。
周囲には何もない。
どこまで見ても海。
サントアンヌ号は、もう水面から完全に姿を消していた。
「これからどうするんだ?」
サトシが呟く。
誰も答えられない。
その時。
「あっ!」
コジロウが何かを思い出した。
「そうだ!」
取り出したのは、一つのモンスターボール。
「何よ?」
「僕にはコイキングがいる!」
レンの表情が固まった。
(来た)
「コイキングなら魚だ! 僕たちを陸まで引っ張れるかもしれない!」
「おお!」
ニャースの目が輝く。
「出てこい、コイキング!」
「コイ……」
海面へコイキングが現れた。
「よし! 陸まで頼むぞ!」
「コイ」
動かない。
「……頼むぞ?」
「コイ」
跳ねる。
それだけ。
「何でだ!?」
コジロウが叫ぶ。
レンは知っている。
この先、何が起こるか。
「コジロウ」
「何だ!?」
「そのコイキングを刺激しない方が――」
「こんな役立たず!」
コジロウが怒り。
「いらないよ!」
蹴った。
「待って!」
遅い。
「コイッ!」
コイキングが海面へ落ちる。
一瞬。
静かになった。
レンは息を呑む。
「みんな、離れて」
「え?」
「早く!」
コイキングの身体が光り始めた。
「何!?」
光が大きくなり、身体が伸びる。
巨大になる。
そして。
「ギャアアアアアアアアアアッ!」
海面を突き破り、巨大な青い身体が現れた。
ギャラドス。
「進化した!?」
サトシが叫ぶ。
「ギャラドス!?」
カスミの表情も変わる。
コジロウが青ざめた。
「僕の……コイキング……?」
「ギャアアアア!」
怒っている。
完全に怒っている。
「逃げるよ!」
レンが叫ぶ。
しかし。
ギャラドスの咆哮が海へ響き渡った。
遠くから。
返事があった。
「ギャアアア!」
一匹。
「ギャアアア!」
二匹。
さらに。
「ギャアアアア!」
海面から次々と巨大な影が現れる。
「ちょ、ちょっと……」
カスミの顔が引きつる。
「増えてるんだけど……」
レンは周囲を見る。
ギャラドス。
ギャラドス。
ギャラドス。
完全に囲まれた。
(やっぱり来る)
「全員、何かに掴まって!」
「何で!?」
「来るから!」
複数のギャラドスが同時に身体を動かした。
海面が渦を巻き始める。
「『りゅうのいかり』……!」
巨大な水柱が立ち上がった。
いや。
もはや水柱などという規模ではない。
海そのものが巻き上がり、巨大な竜巻となってレンたちを呑み込む。
「うわああああああああ!」
「きゃああああ!」
「ピカァァァ!」
身体が水ごと空へ巻き上げられた。
空。
海。
雲。
上下の区別さえ消えていく。
レンは胸元の二つのモンスターボールを両腕で抱え込んだ。
(リザード……!)
絶対に。
落とさない。
(リオル……!)
二匹とも守る。
その一方。
「ピカチュウ!」
サトシの叫びが聞こえた。
「ピカピィィィ!」
竜巻の中でピカチュウの小さな身体がサトシから離れていく。
「ピカチュウ!」
サトシが必死に腕を伸ばす。
届かない。
さらに、サトシの腰につけられていたモンスターボールが激しく揺れた。
「えっ――」
一つ。
二つ。
三つ。
留め具から外れる。
「待て!」
サトシが手を伸ばす。
だが、猛烈な水流の中ではどうすることもできない。
三つのモンスターボールが、それぞれ違う方向へ飛ばされていく。
「みんなぁぁぁ!」
レンにもその光景が見えた。
助けたい。
だが。
自分も竜巻の中。
胸元のリザードとリオルのボールを守るだけで精一杯だった。
(サトシ……!)
次の瞬間。
さらに強烈な力が全員を襲った。
「――っ!」
レンたちは。
それぞれ別々の方向へ。
遥か彼方まで吹き飛ばされた。
◇
波の音。
ザァ……。
ザァ……。
頬に冷たいものが触れる。
「……ん……」
レンがゆっくり目を開いた。
青空。
雲。
太陽。
「……ここは……」
身体を起こす。
砂浜。
海岸だ。
頭がまだ少し揺れている。
「サトシ!」
周囲を見る。
「うぅ……」
少し離れたところでサトシが倒れていた。
そのさらに向こうには。
「痛ったぁ……」
カスミ。
「う……」
タケシもいる。
「よかった……」
レンはすぐに胸元へ手を伸ばす。
二つ。
ある。
リザード。
リオル。
二匹のモンスターボールは、ちゃんと残っている。
レンは強く息を吐いた。
「出ておいで」
二つの白い光が砂浜へ広がった。
「リザ!」
「リオ!」
リザードとリオルが現れる。
二匹ともレンを見るなり駆け寄ってきた。
「リオ!」
「うわっ」
リオルが飛びつく。
「心配した?」
「リオ!」
「ごめん」
レンが頭を撫でる。
リザードもすぐ近くまで来た。
「リザ……」
「大丈夫」
レンはリザードの腕へ触れる。
「ちゃんと守ったよ」
「リザ!」
リザードが嬉しそうに鳴いた。
しかし。
その時。
「ピカチュウ!」
サトシの声が響いた。
レンが振り返る。
サトシは完全に目を覚まし、周囲を必死に見回していた。
「ピカチュウ! どこだ!」
返事はない。
「ピカチュウ!」
サトシが立ち上がる。
「サトシ、落ち着いて!」
カスミも起き上がった。
「いないんだ!」
「え?」
「ピカチュウがいない!」
レンは表情を引き締めた。
やはり。
竜巻の中で見た通りだ。
「それだけじゃない」
レンが言う。
「サトシ。モンスターボールを確認して」
「え?」
サトシが腰を見る。
そして。
顔色が変わった。
「ない……」
「何が?」
タケシが尋ねる。
「ヒトカゲと……フシギダネとゼニガメのボールがない!」
サトシが必死に探す。
しかし。
ない。
「そんな……!」
「『りゅうのいかり』に巻き込まれた時だ」
レンが言う。
「俺も飛んでいくのを見た」
「じゃあ!」
サトシがレンを見る。
「みんなもこの島にいるかもしれない!」
「可能性は高い」
それを聞いた瞬間。
サトシは走り出そうとした。
「探しに行く!」
「待って」
レンが腕を掴む。
「何でだよ!」
「探すよ。でも、何も考えずに走っても見つからない」
「でもピカチュウたちが!」
「だからこそだよ」
レンは真っ直ぐサトシを見る。
「俺たちまで迷ったら、もっと見つけにくくなる」
サトシは歯を食いしばった。
焦っている。
当然だ。
だが。
数秒後。
「……分かった」
拳を握ったまま頷く。
レンは周囲を確認する。
砂浜。
海。
森。
自分たちがどこから飛ばされてきたのかは分からない。
そして。
ロケット団の姿もない。
「まず海岸沿いを少し確認して、それから森に入ろう。ピカチュウたちもサトシを探して動いてるかもしれない」
「うん」
サトシは森を見る。
「待ってろよ。絶対見つけるからな」
◇
そのころ。
島の別の場所。
「ピカ……」
草むらから。
一匹のピカチュウが顔を出した。
周囲を見る。
知らない場所。
サトシはいない。
「ピカピ……」
その時。
近くに落ちていたモンスターボールが開いた。
白い光。
「ダネ?」
フシギダネが現れる。
さらに。
別の場所。
「カゲ?」
ヒトカゲ。
そして。
「ゼニ?」
ゼニガメ。
四匹が顔を合わせた。
「ピカ!」
ピカチュウが嬉しそうに駆け寄る。
しかし。
サトシは。
いない。
四匹は周囲を見る。
森。
知らない匂い。
知らない景色。
それでも。
ピカチュウは迷わなかった。
サトシを探す。
フシギダネも。
ヒトカゲも。
ゼニガメも。
それぞれの思いを抱えながら。
歩き始める。
互いのトレーナーを探すために。
◇
レンたちは砂浜から森へ入ろうとしていた。
「リザード、リオル。周りをよく見て」
「リザ」
「リオ!」
サトシも何度も名前を呼ぶ。
「ピカチュウー!」
返事はない。
「フシギダネー!」
森の奥。
静かだった。
「ヒトカゲー!」
その時。
――ズシン。
地面が揺れた。
全員の足が止まる。
「……え?」
サトシが森を見る。
――ズシン。
もう一度。
鳥ポケモンたちが一斉に木々から飛び立った。
「何かいる」
タケシが身構える。
リザードがレンの前へ出た。
「リザ……」
リオルも低く構える。
「リオ……」
――ズシン。
木々の向こう。
巨大な影がゆっくりと横切った。
「な……」
サトシが口を開ける。
「何だよ……あれ……?」
木々よりも遥かに大きい。
普通のポケモンではあり得ないほどの巨体。
レンはその影を見つめた。
前世の記憶が。
答えを告げている。
この島。
巨大な影。
そして。
離れ離れになったサトシとポケモンたち。
(ここか……)
レンは目を細める。
サントアンヌ号からは脱出した。
だが。
彼らの漂流は、まだ終わっていなかった。