ポケットモンスター ―頂への軌跡―   作:あああああ

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第38話 メノクラゲドククラゲ

アオプルコで束の間の休日を過ごした翌日。

 

レンたちは次の町へ向かうため、船が出る港へと足を運んでいた。

 

潮風が吹き抜ける港には何隻もの船が停泊し、水ポケモンを連れたトレーナーや大きな荷物を抱えた旅行客が行き交っている。

 

「急げー!」

 

先頭を走るサトシが叫ぶ。

 

「船が出ちゃうぞ!」

 

「だから朝もう少し早く起きなさいって言ったでしょ!」

 

「俺だけのせいじゃないだろ!」

 

「誰が最後まで寝てたのよ!」

 

「ピカ……」

 

サトシの肩でピカチュウが呆れたように鳴く。

 

その少し後ろを歩きながら、レンはリザードとリオルを見る。

 

「俺たちは走らなくていいよ」

 

「リザ」

 

「リオ」

 

タケシも隣で苦笑する。

 

「まあ、間に合えばいいんだが……」

 

直後。

 

港から汽笛が響いた。

 

全員の動きが止まる。

 

目の前で船がゆっくりと岸を離れていく。

 

「待ってくれぇぇぇぇ!」

 

サトシが全力で走る。

 

しかし、当然ながら船は戻ってこない。

 

「……行っちゃった」

 

「だから言ったでしょ!」

 

「次の船は!?」

 

タケシが時刻表を見る。

 

少しの沈黙。

 

「しばらくないな」

 

「えええええっ!?」

 

サトシの声が港へ響いた。

 

レンは小さく息を吐く。

 

(確か、この辺りだったな)

 

前世の記憶が浮かぶ。

 

メノクラゲやドククラゲそして、一匹のタッツー。

 

「レン?」

 

「何でもない」

 

今の段階では、まだ何も起きていない。

 

記憶だけで先走る必要はない。

 

「次の船まで時間あるんでしょ?」

 

カスミが海を見る。

 

「だったら少し港を見て回らない?」

 

「賛成!」

 

さっきまで落ち込んでいたサトシがすぐに復活する。

 

「切り替え早いわね……」

 

一行は荷物を持ち直し、港を歩き始めた。

 

◇

 

穏やかな海面。

 

その上をキャモメたちが飛んでいる。

 

カスミは楽しそうに海を覗き込みながら歩いていた。

 

「やっぱり海っていいわよね」

 

「カスミは水ポケモンが好きだもんな」

 

「当たり前でしょ!」

 

サトシの言葉に胸を張る。

 

「水ポケモンは綺麗で可愛くて、それに――」

 

「リオ?」

 

リオルが海へ顔を向けた。

 

レンも立ち止まる。

 

「どうした?」

 

「リオ」

 

リオルが海面を指す。

 

何かが浮かんでいる。

 

「ポケモン?」

 

レンが目を凝らした。

 

青い身体。

 

丸まった尻尾。

 

「……タッツー」

 

「え!?」

 

カスミが真っ先に反応した。

 

次の瞬間には荷物を放り出している。

 

「ちょっとカスミ!」

 

「タッツー!」

 

海へ飛び込む。

 

「本当に速いな……」

 

レンが呟く。

 

「水ポケモンのことになると一直線だからな」

 

タケシが苦笑する。

 

カスミは泳いでタッツーへ近づく。

 

「大丈夫!?」

 

「タツ……」

 

弱々しい声。

 

身体には傷がある。

 

カスミは慎重に抱き上げ、岸へ戻ってきた。

 

「怪我してる」

 

タケシが状態を見る。

 

「かなり疲れてるみたいだな」

 

「どうしてこんな……」

 

カスミが心配そうにタッツーを抱く。

 

その時。

 

「タツ……!」

 

タッツーが身体を起こした。

 

海面へ向けて墨を吐く。

 

「わっ!」

 

空中へ広がった墨が海へ落ちる。

 

「何してるんだ?」

 

サトシが首を傾げる。

 

「何か描こうとしてない?」

 

レンが言った。

 

「描く?」

 

「うん」

 

タッツーはもう一度墨を吐く。

 

「タツ!」

 

先ほどとは違う形。

 

「……何だろう」

 

カスミが見つめる。

 

タッツーは必死だ。

 

ただ墨を吐いて遊んでいるようには見えない。

 

「何か伝えたいんじゃないかな」

 

レンは海を見る。

 

「それも、かなり急いで」

 

「タツ!」

 

タッツーが強く反応する。

 

「やっぱり」

 

何を伝えようとしているのか。

 

そこまでは分からない。

 

だが前世の記憶を抜きにしても、タッツーが何かを警告していることだけは感じ取れる。

 

その直後だった。

 

――ドォォォン!

 

沖から爆発音が響いた。

 

「何!?」

 

全員が振り返る。

 

海上、一隻の船から黒煙が上がっている。

 

「船が!」

 

「助けないと!」

 

カスミが立ち上がる。

 

「タッツーをお願い!」

 

レンへタッツーを預けようとするが。

 

「タツ!」

 

タッツーはカスミから離れようとしなかった。

 

レンはそれを見る。

 

「連れていってあげて」

 

「でも!」

 

「俺たちは岸から手伝う。海の中はカスミの方が得意でしょ?」

 

一瞬。

 

カスミがレンを見る。

 

すぐに頷いた。

 

「任せて!」

 

モンスターボールを取り出す。

 

「ヒトデマン! スターミー!」

 

光が海へ飛ぶ。

 

「ヘアッ!」

 

「ヘアッ!」

 

「救助するわよ!」

 

カスミが水ポケモンたちと海へ向かう。

 

「俺たちも行こう!」

 

タケシが走り出す。

 

「サトシ!」

 

「分かってる!」

 

「リザード、リオル!」

 

「リザ!」

 

「リオ!」

 

レンたちも。

 

すぐに救助へ向かった。

 

◇

 

事故に遭った船が岸へ運ばれる。

 

救助された人たちは次々と港へ引き上げられていた。

 

「こっち!」

 

レンが一人の男性へ手を伸ばす。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……」

 

「リオル!」

 

「リオ!」

 

リオルが男性の身体を支える。

 

サトシとピカチュウも別の乗客を助けていた。

 

「ゆっくりでいいから!」

 

「ピカ!」

 

リザードは濡れた場所から少し離れ、運ばれてきた人たちのために毛布や荷物を運んでいる。

 

「リザード、それをこっちへ!」

 

「リザ!」

 

レンは海を見る。

 

カスミ。

 

ヒトデマン。

 

スターミー。

 

海上を動き続けている。

 

自分が海へ飛び込むより。

 

任せる。

 

その方が多くの人を助けられる。

 

やがて。

 

最後の乗客が救助された。

 

「これで全員だ!」

 

タケシの声。

 

レンはようやく息を吐く。

 

「よかった……」

 

「リオ……」

 

リオルも額の汗を拭った。

 

「タツ!」

 

海から戻ってきたタッツーが声を上げる。

 

カスミはその身体を抱きしめた。

 

「あなた、これを知らせようとしてたの?」

 

「タツ……」

 

まだそれだけではない。

 

レンにはそんなふうに聞こえた。

 

◇

 

事故について話を聞いていると。

 

港が突然騒がしくなった。

 

「何だ?」

 

巨大なスクリーン。

 

そして派手な格好をした女性。

 

レンはその顔を見て僅かに目を細めた。

 

「……似てる」

 

「何が?」

 

サトシが尋ねる。

 

「いや」

 

アオプルコで会ったあのオババに驚くほど似ている。

 

女性は大勢の人々へ向けて声を張り上げる。

 

海上に建設中の巨大リゾートホテル。

 

しかし工事が進まない、原因は。

 

「メノクラゲ?」

 

サトシが海を見る。

 

大量のメノクラゲが建設予定地の周囲へ集まっているらしい。

 

そして女性は宣言する。

 

メノクラゲを追い払った者には高額の賞金。

 

「賞金!?」

 

サトシの目が輝く。

 

「それだけあったら旅が楽になるぞ!」

 

「確かに……」

 

タケシも少し考える。

 

直後。

 

「何言ってるのよ!」

 

カスミの怒声。

 

「メノクラゲだってポケモンなのよ!」

 

「でも追い払うだけだろ?」

 

「何で集まってるのかも分からないじゃない!」

 

サトシが黙る。

 

レンは建設中のホテルを見る。

 

その下、海や珊瑚礁。

 

そして、腕の中のタッツー。

 

「俺もやめた方がいいと思う」

 

「レン?」

 

「メノクラゲが何の理由もなく工事を邪魔してるとは思えない」

 

レンはしゃがみ。

 

タッツーを見る。

 

「君が伝えようとしてるのも、そのこと?」

 

「タツ!」

 

強く鳴いた。

 

「やっぱり」

 

カスミもタッツーを見る。

 

「何かあるのね」

 

理由を調べる前にポケモンだけを悪者にする、それは違うとレンはそう思った。

 

◇

 

一方。

 

「賞金よ!」

 

ムサシの目が輝いていた。

 

「大金だ!」

 

コジロウも興奮する。

 

「これだけあれば新しいメカも買えるニャ!」

 

「それだけじゃないわ!」

 

ムサシが笑う。

 

「大量のメノクラゲもまとめて捕まえれば!」

 

「賞金とポケモン!」

 

「一石二鳥ニャ!」

 

三人の笑い声が港の隅で響いた。

 

◇

 

夕方、タッツーは再び墨を吐いた。

 

「タツ!」

 

今度は何度も必死に形を作る。

 

「これ……」

 

カスミが目を凝らす。

 

レンも隣で見る。

 

海、何か大きなものそして迫ってくる影。

 

「襲ってくる……?」

 

サトシが呟く。

 

「タツ!」

 

タッツーが強く頷く。

 

「何が?」

 

その答えはすぐに現れた。

 

海面が黒く染まる。

 

「何……あれ……」

 

カスミの顔色が変わる。

 

一匹。

 

十匹。

 

百匹。

 

数え切れない。

 

「メノクラゲ……!」

 

海を埋め尽くすほどの群れに港の人々が悲鳴を上げる。

 

「こんなに!?」

 

サトシも息を呑む。

 

レンは海を見る。

 

(来た)

 

知っていた、だが実際に目の前で見る光景は記憶より遥かに圧倒的だった。

 

その時海上に見覚えのある気球が現れた。

 

「ロケット団!」

 

「ジャリボーイたち!」

 

ムサシが笑う。

 

「今日はあんたたちに用はないわ!」

 

「僕たちの狙いは!」

 

「賞金ニャ!」

 

用意された薬品を大量のメノクラゲへばら撒こうとする。

 

「やめろ!」

 

レンが叫ぶ。

 

「それが何なのか分かって使ってるの!?」

 

「うるさいわね!」

 

「まとめて追い払えばこっちの勝ちよ!」

 

薬品が落ちていく、メノクラゲたちへ。

 

「まずい!」

 

だがもう遅い一匹のメノクラゲが薬品を浴びた。

 

「クラ……!」

 

光?いや違う、身体が膨れ上がっていく。

 

「な……」

 

サトシが見上げる。

 

どんどん大きくなっていく。

 

海から現れたのはビルを超えるほどの巨大なドククラゲ。

 

「ドククラゲェェェェ!」

 

咆哮で海面が大きく揺れた。

 

「でかすぎるだろ……」

 

サトシが呆然とする。

 

「リザ……」

 

リザードも見上げる。

 

あの島で見た巨大ポケモンあれは機械だった。

 

だが今回は違う。

 

呼吸。

 

視線。

 

怒り。

 

全てが生きている。

 

「……今度は本物だ」

 

レンの声にリオルが身構える。

 

「リオ……!」

 

次の瞬間、巨大ドククラゲが触手を振るった。

 

海が爆発した。

 

◇

 

海水が港へ流れ込む。

 

「逃げろー!」

 

「きゃあああ!」

 

街が一瞬で混乱に包まれる。

 

「サトシ!」

 

「分かってる!」

 

サトシがピカチュウたちと走る。

 

レンは巨大ドククラゲではなく街を見る。

 

逃げ遅れた人、倒れた建物や水に押し流される荷物。

 

「リザード!」

 

「リザ!」

 

「人を助ける!」

 

「リザ!」

 

「リオル、俺と来て!」

 

「リオ!」

 

レンたちは逃げる人々とは逆方向へ走った。

 

「助けて!」

 

声。

 

倒れた木材のその下に人がいる。

 

「リザード!」

 

「リザ!」

 

「『きりさく』!」

 

鋭い爪が木材へ走る。

 

一撃。

 

二撃。

 

太い木材が切れる。

 

「リオル!」

 

「リオ!」

 

リオルが切断された木材へ手をかける。

 

レンも一緒に押す。

 

「せーの!」

 

持ち上がる。

 

「今です!」

 

閉じ込められていた人が這い出す。

 

「ありがとう!」

 

「早く高いところへ!」

 

次。

 

子供の泣き声。

 

「お母さん!」

 

「リオル!」

 

「リオ!」

 

リオルが走る、倒れかけた看板。

 

「危ない!」

 

リオルが子供へ飛び込む、抱えて転がる。

 

直後、看板が地面へ落ちた。

 

「リオ!」

 

「大丈夫!?」

 

「う、うん……」

 

レンが駆け寄る。

 

リオルも立ち上がる。

 

怪我はない。

 

「よかった」

 

母親が走ってくる。

 

「ありがとうございます!」

 

リオルは何も言わずに次を見る。

 

まだ助けを求める声がある。

 

「リオ!」

 

走ろうとする。

 

「リオル!」

 

レンも追う。

 

◇

 

街の至るところで救助が続く、リオルは走った。

 

何度も。

 

何度も。

 

瓦礫を動かす。

 

人を支える。

 

危険な場所から連れ出す。

 

だが。

 

「くっ……!」

 

大きな柱。

 

「リオ!」

 

リオルが押すが動かない。

 

その向こうから声がする。

 

「誰か!」

 

「リオ!」

 

もう一度全力で押すが動かない。

 

「リザード!」

 

「リザ!」

 

リザードも加わる。

 

三人で。

 

押す。

 

少しずつ。

 

柱が動く。

 

「今!」

 

閉じ込められていた人たちが。

 

抜け出す。

 

「リオ……」

 

リオルが膝へ手をついた、息が荒い。

 

レンも肩で息をする。

 

「大丈夫?」

 

「リオ……!」

 

頷く、だがその目は動かした柱を見ていた。

 

自分一匹では動かせなかった。

 

もっと力があればもっと早ければ。

 

「リオ……」

 

拳を握る。

 

レンはその表情に気づいた。

 

「リオル」

 

「リオ?」

 

「一匹で全部やる必要はないよ」

 

「……リオ」

 

「俺がいる。リザードもいる」

 

「リザ!」

 

「それでも」

 

レンは、まだ避難を続ける人々を見る。

 

「もっと強くなりたいなら、俺も付き合う」

 

リオルの目がレンを見る。

 

「リオ」

 

静かに鳴き、強く頷いた。

 

今はまだそれでいい。

 

「行こう。まだ終わってない」

 

「リオ!」

 

◇

 

巨大ドククラゲは街を破壊し続けていた。

 

大量のメノクラゲもその周囲を進む。

 

そして。

 

「ニャァァァ!?」

 

ニャースが。

 

巨大な触手に捕まった。

 

「ニャース!」

 

ムサシたちが叫ぶ。

 

巨大ドククラゲの目が光る、次の瞬間。

 

ニャースの口が勝手に動いた。

 

「人間ども……!」

 

「ニャ?」

 

ニャース自身が驚く。

 

「ニャーが喋ってるけどニャーじゃないニャ!」

 

巨大ドククラゲの意思。

 

人間たちが自分たちの住処である珊瑚礁を壊した。

 

海を、自分たちの場所を勝手に奪おうとした。

 

だから人間の街を壊す。

 

「そんな……」

 

サトシが言葉を失う。

 

レンは建設中のホテルを見る。

 

やはり原因は人間側にもあった。

 

「倒して終わりじゃない……」

 

「レン?」

 

タケシが見る。

 

「ここでドククラゲを追い払っても、珊瑚礁を壊し続けたら同じことが起きる」

 

「……ああ」

 

「だったら」

 

その時カスミの声。

 

「待って!」

 

「カスミ!?」

 

カスミが前へ出る腕の中にはタッツー。

 

「もうやめて!」

 

巨大ドククラゲがカスミを見る。

 

「あなたたちが怒ってる理由は分かった!」

 

「タツ!」

 

「人間があなたたちの場所を壊した。だから怒ってるんでしょ!」

 

巨大ドククラゲが動きを止める。

 

「でも!」

 

カスミは退かない。

 

「だからって、街のみんなを傷つけたら駄目!」

 

「カスミ……」

 

サトシが見つめる。

 

「あなたたちの海をこれ以上壊させない! だから、もうやめて!」

 

「タツ!」

 

タッツーも必死に訴える。

 

巨大ドククラゲの触手が動き、サトシが身構える。

 

「カスミ!」

 

レンとリザードやリオルも、いつでも動けるように構える。

 

だが攻撃は来なかった。

 

長い沈黙、巨大ドククラゲがカスミを見る。

 

タッツーを見る。

 

そして街を見る。

 

「ドククラゲ……」

 

低い声。

 

ニャースを通して最後の警告を残す、再び海を壊せば次は許さない。

 

その意思を人間たちへ伝える。

 

そして巨大ドククラゲは海へ向きを変えた。

 

「メノ……」

 

「メノ……」

 

大量のメノクラゲも続きゆっくりと海へ帰っていく。

 

レンはその姿を見送った。

 

勝ったわけではない倒したわけでもない。

 

でも、終わった。

 

「……こういう終わり方もあるんだ」

 

「リオ」

 

「リザ」

 

二匹も海を見ていた。

 

◇

 

騒動が収まり、夕方。

 

傷だらけになった港へ穏やかな波の音が戻っていた。

 

「タツ!」

 

「もう大丈夫?」

 

「タツ!」

 

元気そうだ。

 

「よかった」

 

カスミが笑う、そのままタッツーは離れない。

 

「……タッツー?」

 

カスミが歩けばついてくる。

 

止まればタッツーも止まる。

 

サトシが笑った。

 

「カスミのこと気に入ったんじゃないか?」

 

「え?」

 

レンも頷く。

 

「一緒にいたいんじゃない?」

 

「タツ!」

 

タッツーが嬉しそうに鳴きカスミの顔が明るくなる。

 

「本当に?」

 

「タツ!」

 

カスミはモンスターボールを取り出した。

 

「じゃあ……」

 

タッツーへ向ける。

 

「これから一緒に行く?」

 

「タツ!」

 

タッツーが自分からボールへ触れた。

 

赤い光。

 

収まる。

 

ボールが揺れ、止まった。

 

カスミがボールを掲げる。

 

「タッツー、ゲットよ!」

 

「やったな!」

 

「ピカピカ!」

 

「おめでとう」

 

レンも笑う。

 

「いいなー!」

 

サトシが羨ましそうに見る。

 

「カスミばっかり新しいポケモン!」

 

「何よ! あんただっていっぱい捕まえてるでしょ!」

 

「それとこれとは別だ!」

 

「何が別なのよ!」

 

いつもの言い争い。

 

タケシが苦笑しレンも笑った。

 

「リオ」

 

隣でリオルが自分の手を見る。

 

一匹では動かせなかった柱だが仲間と一緒なら助けられた。

 

それでももっと強くなりたい。

 

その目には今までとは少し違う静かな意志が宿っていた。

 

レンは何も言わずリオルの頭へ手を置く。

 

「リオ?」

 

「今日、頑張ったね」

 

「リオ」

 

「リザ!」

 

リザードも当然だと言うように胸を張る。

 

「リザードもね」

 

「リザ!」

 

レンは二匹を見る、強さは相手を倒すためだけにあるものではない。

 

誰かを守る、誰かを助ける、そのためにも力は大切だ。

 

「もっと強くなろう」

 

「リオ!」

 

「リザ!」

 

「こういう時に、一人でも多く守れるように」

 

二匹が力強く頷く。

 

レンも拳を握った。

 

◇

 

翌朝、ようやく次の船が港へ入ってきた。

 

「今度こそ乗り遅れないぞ!」

 

サトシが真っ先に走る。

 

「だから荷物を忘れないで!」

 

「分かってる!」

 

「ピカ!」

 

カスミの腰には新しいモンスターボール、その中にはタッツー。

 

レンの隣にはリザードやリオル。

 

リオルは船へ向かいながら自分の拳を見つめた。

 

昨日より強く、もっと強くその横顔を見てレンは僅かに笑う。

 

急ぐ必要はない、一歩ずつでいい。

 

リザードも。

 

リオルも。

 

そして自分自身も。

 

「レンー! 置いてくぞ!」

 

「今行く!」

 

レンは走り出す。

 

「リザ!」

 

「リオ!」

 

二匹も続く、海を巡る大騒動を越えて。

 

レンたちの旅はまた一歩先へ進んでいった。

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