リリカルマジカル、アーカイブ! 作:なのはEXCEEDS面白かった
EXCEEDSからなのは履修を始めた、おそらく二番煎じの初投稿。EXCEEDS世界線のため、なのはStSとの齟齬は目を瞑りながら読んでいただけると幸いです。
大人とは、責任を負う者である。
学園都市キヴォトスの「先生」として、子供である生徒を導く立場にある者として、先生はその信条に基いて行動してきた。
彼はキヴォトスの運営を一手に担っていた連邦生徒会長のような超人ではなく、また死者も含めた全てを救済する絶対者でもない。
良い大人であれかしと自らを定義づけ、生徒たちからも概ねそのような評価を得られてはいるものの、結局のところ彼もまた人間だ。
キヴォトスに着任してから今日までに取りこぼしたものは数多く、自分が下した判断とそれが齎した結果について後悔することは日常茶飯事と言って良いだろう。
それでも彼は、大人として先生として生徒を守るため、生徒たちの悩みやトラブルを解決しながらキヴォトス中を東奔西走。
休みらしい休みはほとんど無く、心身ともに擦り減らす毎日を送っていた。
そんな先生の下へ、現連邦生徒会長代理である七神リンから資料が手渡されたのは、色彩の嚮導者が齎した数々の試練を乗り越え、ひとつの世界の終着点をあまねく奇跡の始発点へと書き換えた一連の事件の後始末がようやく一段落するだろうという頃合いだった。
“……新しく設立される、連邦
「はい。こちらの資料に記載されているのが、再編成を行った場合の組織概要となります」
D.U.の街並みが朝日に照らされて白み始めた朝早くの時分。
始業時間までは数時間ほどあるはずの連邦
既に関係各所への根回しは終わっているのか、資料を持ってきた当人である連邦生徒会長代理の印はもちろんのこと、各室長からの決済印まで確認できる。つまり、連邦調査部なる組織が新たに設立される事は確定事項。色々と超法規的な権限を与えられているとはいえ、立場上は連邦生徒会の下部組織であるシャーレには、その事後報告が行われているということだ。
ひょっとして、自分はもう「お役御免」なのか。
そんな不安を胸にリンの方へと視線を向けると、彼女は捨てられた子犬のような表情を浮かべた先生の様子から彼の不安を察して、呆れ混じりのため息をひとつ。そうではないと言いたげな様子で頭を横に振ってから口を開いた。
「連邦調査部とはこの度設立する運びとなった、連邦生徒会が『キヴォトスの外』から新たに招集した組織の名称です。外では『管理局外局特例調査機関EXCEEDS』と呼ばれている彼らの中からこちらへ出向してきた職員たちで構成された組織を『連邦調査部エクシーズ』としてシャーレの直轄組織に配置。主に先生の業務における負担軽減と戦力増強を目的として活動していただく手筈となっています」
“負担だなんてそんな、私は全然大丈夫だよ。戦力だって生徒の皆が協力してくれて──”
「……傍からはそう見えないから、設立の運びとなったのですが?」
言い訳をぴしゃりと一蹴して視線をずらせば、そこにはリンがオフィスに足を踏み入れた時から目についていた書類の山が。
デスクの過半を占有しているそれは減る気配を見せず、どころか以前よりも明らかに体積を増している。そもそも始業前から働いていること自体が異常だというのに明らかな過労状態を笑って誤魔化そうとする先生の様子を見て、すっと目を細めるリン。
連邦生徒会長が失踪したことによって出来た穴を埋めるため、彼女もまた他人の事を言えない程度には多忙な毎日を送っているのだが、先生のそれは日夜デスマーチ状態の連邦生徒会から見ても異常だった。
色彩の襲来によって空が赤く染まった際の混乱に続き、キヴォトス各地で発生した虚妄のサンクトゥム攻略とその守護者たちとの戦闘指揮。そこから『ウトナピシュティムの本船』の発見や色彩の嚮導者との決戦、そして崩壊したD.U.シラトリ区の復興作業。
それに加えて、暇を見つけては生徒から持ち込まれた騒動に一切の休みなく首を突っ込んでいるというのだから、そんな男の口から出る「大丈夫」なんて言葉の説得力は紙切れ1枚よりも頼りないものであった。
このままでは、先生は遠からず過労で倒れてしまう。
そうなると、連邦生徒会長が失踪しただけでもほとんど"詰み"の状態だったキヴォトスは、あの時以上の騒動と混乱が起きることは想像に難くない。直近で
そんな訳で、七神リンを筆頭とした連邦生徒会の有志たちが先生の負担を少しでも軽くしようとあれこれ手を尽くした結果、協力の申し出があった『エクシーズ』なる組織を新たにキヴォトスへと招集する事になったのだ。
“……ごめんね、頼りなくて”
「いえ、そんな事は……。むしろ、本来であれば私たち連邦生徒会が対処すべき事案まで先生任せにしてしまっていた私たちの甘えが原因ですから。申し訳ありません」
そう言ってリンは申し訳なさそうに頭を下げるが、謝るべきは自分の方だと先生は考えていた。
彼にとって多くの生徒から頼りにされている現状は、自分が生徒たちの力になれているのだと実感出来る喜ばしいもの。
確かに疲れが溜まってきている感覚はあるが、先生が持つオーパーツのひとつ『シッテムの箱』の管理AI、アロナとプラナの助力もあるため、まだ無視しても大丈夫な範囲だと思っていた。
その結果、当の生徒たちから
無力感とそれに伴う自己嫌悪で、ずくりと胃が痛む。不快感に思わず眉を顰めながら、先生はそこで自省を打ち切って、新たな同僚となる者たちについての情報を求めた。
“……リンちゃんから見たエクシーズの人達はどうだった? ”
「誰がリンちゃんですか。……あくまでも通話越しでのやり取りでしたが、『総督』と呼ばれていた代表者の方は物腰の柔らかい女性だったと思います」
"総督かあ……年頃は? ”
「先生と同じくらいか、少し年上辺りかと」
"私と同年代でいち機関の総督にまで上り詰めたのなら、とても優秀な人だね"
とはいえ、能力の優劣が生徒との関係にイコールで結びつく訳では無い。
仕事の出来る同僚が増えるのは先生としても心強いが、それ以上に生徒たちの事を考えて行動出来る人たちであってほしい、というのが先生の切実な願いであった。
"エクシーズの到着はいつ頃の予定なのかな? "
「こちらでの受け入れ態勢が整い次第いつでもとの事だったので、遅くても1週間後には着任されるはずです。引き継ぎの資料作成や業務分担のスケジューリングなど、他にもお手伝い出来ることがあれば連邦生徒会の方でも可能な限りの支援を約束します」
“皆の手を煩わせないように私が頑張って……いや、そうだね。どうにもならなくなったら頼らせてもらうよ”
言葉の途中でリンの気配に剣呑なものが混じったことに気が付いた先生は、困ったような笑顔を浮かべながら発言を軌道修正。
どうにかこれで留飲を下げてくれないかと彼女の顔を伺うが──残念ながら、リンには言葉の裏に秘められた意図が全部見透かされていたらしく。
彼女はぴくりと眉を顰めた後に剣呑な気配を纏い、しかし淡々とした口調のまま、先生に最後通牒を突きつけた。
「……言い方を間違えましたね。これよりシャーレの通常業務に関して連邦調査部の正式稼働が始まるまでの間、連邦生徒会の方で処理出来る業務は『全て』こちらで受け持ちます。その間に先生は引き継ぎ資料の作成をはじめとした調査部受け入れの準備『のみ』を行うように」
“えっ、いや、流石にそこまで仕事を持っていかれると私が暇になっちゃうというか……”
「なにか、異論でも?」
“ないです、はい”
反論など出来るはずが無かった。
恐怖のあまり、リンの頭頂部にあるはずの無い角を幻視した先生は、ディスプレイの隣に置かれた『シッテムの箱』の中、液晶に映る教室で抱き合いながら震えるアロナとプラナの姿を視界の隅で捉え、心の中で首が捥げそうなほどに頷いていた。
般若だ、般若がいる。
生徒に手を上げる気は更々なく、また戦闘指揮以外の戦闘力はからっきしである先生に出来る抵抗は──もはや存在しなかった。
と、そんな一幕があった数日後。
せめて生徒に仕事を任せきりにする時間を減らすくらいはしたいという意気込みの下、通常の3倍の速度で引き継ぎの準備を終わらせた先生は、連邦生徒会のレセプションルームへと足を運んでいた。
学園都市キヴォトスに着任する新たな同僚たち──連邦調査部エクシーズの面々を出迎えるためである。
ちなみに、彼らの着任後からシャーレが連邦調査部を含めた新体制で稼働することは、既に公式のSNSアカウントや連邦生徒会の広報を通じて告知されていた。
学園を跨いで活動する超法規的機関であるシャーレが組織改革を行うというビッグニュースは生徒たちの間に大きな波紋を呼んだが、シャーレの日直や当番を通じて先生の異常な労働環境を知っている彼女らの大半からは歓迎の声を以て受け入れられた。
中には『キヴォトスの外』からやって来るエクシーズへの猜疑心を捨てきれない者がいるものの、それを払拭出来るかどうかはエクシーズの今後の活動次第だろう。
『いったいどんな方々が来てくれるのでしょうか! ワクワクです!』
『アロナ先輩、相手はあのゲマトリア達と同じキヴォトスの外から来た存在です。少しは警戒心を持ってください』
“プラナ、いちおう私も外から来た人間なんだけど……”
『先生は特別です。なんといっても私達がシステム管理者兼メインOSを務める「シッテムの箱」の主なのですから』
“あはは……”
したり顔でダブルスタンダードを表明するプラナに、思わず苦笑いを見せる先生。
いつの間に用意したのか「キヴォトスへようこそ!」と書かれたプラカードを掲げ、エクシーズの到着を心待ちにしているアロナとは対照的に、プラナは何やら気合の入った様子で彼らを見定める構えだ。
彼女が『シッテムの箱』にやって来た経緯を考えればキヴォトスの外から来る存在を警戒する気持ちも分からなくないが、あまり気負いすぎて空回りするのも良くない。
“そこまで警戒しなくても大丈夫。きっと良い人たちだから”
『……アロナ先輩も先生も、楽観的すぎです』
『先生の言う通り、まだ会ってもいない人を疑っても仕方がありません! ほらほらプラナちゃんも! 横断幕の反対側、持ってください!』
『あっ、ちょっと、アロナ先輩……!?』
だが、空回りを心配する必要はなさそうだ。
今のプラナには、彼女の神経質さとバランスを取るかの如く能天気なアロナが隣にいる。
横断幕まで取り出したアロナに引き摺られるようにして連れ去られたプラナの後ろ姿を微笑みと共に見送った先生は、レセプションルームに入室してきた連絡役の生徒──連邦生徒会調停室長、
「先生、エクシーズの方々がお見えになりました。会議室へご案内します」
"うん、行こうか"
とうとう目の前まで迫ってきた、同僚との顔合わせ。
シャーレの先生として「大人同士」のやり取り自体は経験豊富な先生だが、その特殊な立ち位置故に同僚として大人と関係を築く経験は皆無に等しい。
エンジェル24シャーレ店の書棚に置いてあった手頃なビジネス書を購読してひと通り頭に叩き込んで来たものの、一夜漬けのマナーがどこまで通用するのだろうか。
アユムに先導されながら会議室に向かう道中、ついつい自分の恰好や立ち振る舞いに変な所が無いかを確認してしまう先生。
傍目からでも緊張が伝わってくる彼の様子に、普段の仕事ぶりを良く知るアユムは意外に思いながら、小さく笑みを零した。
エレベーターに乗って上の階へと上がり、連邦生徒会の委員たちが慌ただしく廊下を行き来する中を進むことしばらく。虚妄のサンクトゥムに関連する事件の際にも使用した応接会議室に、アユムと先生は到着した。
会議室には既に連邦生徒会の各室長、そして秘書役となる生徒達が勢揃いしており、先生は彼女たちと一言二言、挨拶を交わしながら用意された席に座る。
リンが事前に渡してくれたものと同じ資料がテーブルに用意されていたため流し読み、情報の再確認を済ませたところで、その時はやって来た。
会議室の外が一瞬ざわめき、そして静まる。ゲマトリアを始めとして「キヴォトスの外」から来た存在に良い思い出があまりない先生にとっては、緊張の瞬間だ。
そして、七神リンと共に会議室へと入って来たのは──これまでとはまた別の意味で、先生の予想を大きく裏切る存在だった。
「こちらが『管理局外局特例調査機関EXCEEDS』の代表としてお越しいただいた、八神はやて総督様です」
「ご紹介に与りました、八神はやてと申します。これから皆さんと協力して良い関係を築けていけたらと思っています、よろしくお願いします」
“……え? ”
そう言って頭を下げるのは先生よりも年下の──否、この場にいる誰よりも年下であろう、まだ少女と呼ぶべき見た目の子供だった。
大勢を前にしても堂々とした立ち居振る舞いこそ大人顔負けのそれだが、まだ幼さの抜けきっていない顔立ちや小柄な体格は百歩譲っても先生の同年代とは思えない。
驚きの声が口をついて出かけた先生は、慌てて言葉を噛み殺すと、連邦生徒会の代表として八神はやて総督とやり取りをしていたはずのリンへとアイコンタクトを送る。
だが、対するリンの反応も芳しくない。どうやら彼女にとっても予想外の事態らしい。この事について聞くべきかどうか悩んでいると、はやての側から同行者たちの紹介が始まった。
「こちらは、私の騎士『ヴォルケンリッター』──順に八神シグナム、八神シャマル、八神ヴィータ、八神ザフィーラ。こっちのちっこい子は八神リイン」
“……騎士!? ”
今度こそ、驚きの声を我慢することは出来なかった。
男心を擽る肩書きに反応してしまった先生へと全員の注目が集まり、彼はバツが悪そうに頬を搔いて謝りながら続きを促した。
その反応にも慣れているのか、はやてやヴォルケンリッターの面々は特に気にした様子もなく(リインと呼ばれた小さな少女だけは不服そうだったが)、紹介を続ける。
「──高町なのはとフェイト・
「よろしくお願いします!」
紹介の締め括りに元気よく挨拶をしてくれたのは、高町なのはと呼ばれていたサイドテールの少女。
そう、少女である。
管理局外局特例調査機関EXCEEDS、総勢9名。うち6名が、大人と言うよりも生徒に近い外見をしていたのだ。騎士という単語のインパクトに持っていかれたが、遅れて事態を把握した先生に冷や汗が流れる。
相手は自分と同じ「キヴォトスの外」から来た存在のため、見た目が子供だからといって侮る事は出来ない……出来ないのだが、今日から同僚ですと言われて年端もない子供たちを連れてこられた事に納得出来るかは別問題。
これから仕事を分担する?
こんな幼気な子供たちに?
自分でさえストップが掛けられるほどの激務を?
御冗談を、というのが先生の正直な感想であった。シグナム、シャマル、ザフィーラと呼ばれていた年長者組であれば先生も安心して仕事を任せることが出来るが、それ以外の子供達はシャーレの業務を手伝うよりも学校に通うことの方が仕事に思えて仕方がない。
絵面が完全に児童労働になる事は連邦生徒会的にはどうなのかと隣に座る彼女たちの方へ視線を向けるが、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしく〜」
元々
リン、アユム、そして交通室所属の由良木モモカといった先生とも関わりの深い面々でさえ、相手が子供であることに疑問を抱いた様子はない。
元々ここは学園都市。生徒が統治し生徒が運営する土地柄のため、当然といえば当然なのだが。
“よ、よろしくお願いします……”
周囲の視線に促され、なんとか挨拶を済ませた先生は、リンやはやてが打ち合わせを進める声をBGMにこれから始まるであろう受難の日々に戦々恐々とするのであった。