リリカルマジカル、アーカイブ!   作:なのはEXCEEDS面白かった

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氷海目指して出発なの

 

 

 

 私、高町なのはにとって、学校とは日常の象徴みたいな場所です。

 

 管理局やEXCEEDSのお仕事で色んな世界を巡って色んな戦いや事件を解決して。どんなに大変な事があっても、最後にはすずかちゃんやアリサちゃんが私たちを待ってくれている──そんな場所。

 

 

 その日常の象徴が今、目の前で大爆発しました。

 

 

 それは、調査機関EXCEEDSがキヴォトスに着任してから少しの時間が経って、世間も「連邦調査部エクシーズ」の存在を認めてくれるようになったある日のこと。

 

 エクシーズの力を貸してほしいという先生からの頼みを引き受けた私は、待ち合わせ場所であるモノレールステーション前の広場へと向かっていた最中でした。

 

 私が現在一(・)時(・)編(・)入(・)という形で通学しているミレニアムサイエンススクールは、工業系の学校ということもあって、校内に設置されている自販機からオブジェに至るまで、ありとあらゆる物が近未来的。

 

 魔法の力に出会う前から機械が好きで、ここ最近は飛行機にも興味を持ち始めた私にとって、キヴォトスの最先端技術が集まるミレニアムで過ごす日々は毎日が新鮮です。

 

 例えば、そう。

 

 今、私の眼の前で黒煙と瓦礫の破片を撒き散らしている校舎のような非日常(だいじけん)が、ここでは日常茶飯時なのです。

 

 どれくらい日常的なのかというと、キヴォトスに来た当初は街中に響く発砲音を聞いただけでも周囲を警戒してしまっていた私が、数日過ごしただけで少しの爆発程度なら目の当たりにしても足を止めなくなったほど。

 

 自分でも危険な兆候だとは自覚しているのですが、だからといって毎日どこかしらで銃弾が飛び交い、手榴弾が爆発しているような世界で常に警戒しながら暮らすのは、それだけで疲れきってしまいます。

 

「ちょっと! 瓦礫がこっちに飛んできたんだけど!」

「どーせまたエンジニア部でしょ? 消火ロボに巻き込まれないように急ごう!」

 

 私の隣を駆けていった生徒さん達の反応からも、校舎の一角が爆発で吹き飛んだ程(・)度(・)の出来事なのが見て取れます。

 

 私もレイジングハートとの魔導の訓練中にうっかり結界を壊した事がありましたが、その時はリンディ提督達からここまで軽く流されずにきちんとお説教をされました。

 

 怖いとか声が大きいとかではなく、淡々と理詰めで自分のしでかした事の重大さを説かれるあの叱り方は、クロノくんのお母さんだなあと思います。

 

 当時のことを思い出して、ついぶるりと体を震わせていると、ネックレスとして懐にしまい込んでいたレイジングハートがチカチカと光りました。

 

『No changes in nearby life signs detected.(周囲の生体反応に変化無し) The possibility of an enemy attack is low.(敵からの攻撃である可能性は低いでしょう)』

「うん。いつもありがとう、レイジングハート」

『Of course』

 

 どうやら、あの爆発で周囲に影響が無いかを調べてくれたみたいです。抜かりのないしっかり者の相棒にお礼を言って、私も爆心地である校舎へと視線を向けました。

 

 学園のイメージカラーなのか、親近感を覚える白と青を基調にデザインされた近未来的でお洒落な校舎が、あっという間に既視感溢れる戦場チックな外見へと姿を変えています。

 

 ディバインバスターで壊した後の建物がこんな感じだったな〜、なんて他愛もない事を考えながら、今回の下手人 (今回も、とも言える)らしきエンジニア部の方々を思い浮かべた私は、レイジングハートに以前から考えていた事を話してみました。

 

「ねえ、レイジングハート。もしもの話なんだけど、エンジニア部の人達に現地協力者としてEXTMフレームの改修を手伝ってもらうのは……」

『Surely, you jest.(御冗談を)』

「にゃはは、だよね〜」

 

 まあ、当然ながら。

 

 ばっさりと切り捨てられちゃいました。

 

 キヴォトスでも指折りの技術者集団として名を馳せるエンジニア部ですが、エクシーズの独自調査や先生からの聞き取りの結果、真っ当な技術者とは呼べない活動内容が判明したのです。

 

 曰く、宇宙戦艦を建造しようとして下半期の予算を7割使い込み、主砲となるレールガンをひとつ作った所で力尽きた。

 

 曰く、晄輪大祭(こちらでいう所の体育祭らしい)で応援用のロボットを注文したはずなのに、どう見ても戦車にしか見えない代物をお出しした挙句、案の定暴走した。

 

 曰く、ミレニアムで発生するトラブルの大体はエンジニア部のせい──などなど、調べれば調べるほど過去の所業が出てくる有様でした。

 

 もちろん、彼女たちの技術力は本物で、キヴォトスで使われるハードウェアの多くがエンジニア部謹製のものであり、優れた性能で重宝されています。

 

 でも、エンジニア部にレイジングハートを預けてもいいかと聞かれると……帰ってきた時には謎の機能や自爆装置が付いてたりしそうで怖い、というのが正直な感想です。

 

 レイジングハート本人もそう思っているのか、浮遊しながらくるりと宙に輪を描く姿は、少し憮然とした雰囲気を感じました。

 

 そんな訳で、まだ構想段階だったEXTMフレーム改修案は塩漬けに。これ以上は先生やはやてちゃんと相談しながら決めるべきだと結論づけました。

 

 折角なのでEXTMフレームに機能を付け足すならどんなものが良いか、レイジングハートと話し合いながら歩いていると、目的地の駅前広場に到着。

 

 待ち合わせの時間までは余裕があったはずですが、モノレールをモチーフにしたらしい銅像の近く、先生がなにやら端末を操作しながら待っているのが見えました。

 

 慌てて先生の下へ駆け寄ると、私の足音に気付いたらしい先生は、端末から視線を上げてこちらを向いて、笑顔を浮かべながら手を振りました。

 

 "や、なのは。早かったね"

「お待たせしてすみません!」

 "大丈夫だよ、私もさっき来たばかりなんだ"

 

 気にしないでね、と言葉を続けて端末をジャケットへ仕舞う先生。ユーノ君やヴォルケンリッターの皆が頑張ってくれているのか、以前に比べて随分と顔色が良くなったと思います。

 

 これが大人の余裕というものなのか、とても自然体のままこちらを気遣ってくれる先生は、少しわざとらしく顎に手を当てると、私の恰好──ミレニアムの制服の上からEXCEEDSの簡易バリアジャケットを羽織っている姿──を少し眺めて満足気に頷きました。

 

 "……うん。前よりも「生徒」が板に付いたかな? "

「はい、おかげさまで」

 

 抽象的な言葉。けれど、先生が何を言いたいのかは私も理解出来ます。

 

 先生の指示によってキヴォトスの学園に一時編入する事となった私ですが、中学校に進学してからはEXCEEDSとしての仕事にかかりきりで、アリサちゃんに怒られるまで中々登校しない生活を続けていたのです。

 

 これはフェイトちゃんやはやてちゃんも同じで、特にEXCEEDSの総督であるはやてちゃんは組織の立ち上げから今日まで、地球よりも時空管理局や他の世界にいる時間の方が長くなっていると嘆いていました。

 

 これまでの管理外世界を手助けする時はそれでも良かったのですが、ここキヴォトスは、生徒の・生徒による・生徒のための自治が為される世界。

 

 青春を謳歌する生徒さん達が沢山いる中で、元の世界でも不登校状態な私たちを見かねた先生から下された最初の指令が「それぞれ気になった学園への一時編入」だったのです。

 

 元々調査員としてキヴォトス各地を巡る予定だった私はあまり影響が無かったものの、当初事務方として動く予定だったフェイトちゃんやEXCEEDS総督であるはやてちゃんが猛反対。

 

 母校の聖祥大付属中が単位制で、卒業に必要な単位はきちんと取っているからと、現状で問題ないことを訴えていました。

 

 けれど「はやてちゃん命」なヴォルケンリッターの皆をはじめ、いったいどうやって繋がりを持ったのか、リンディ提督やアリサちゃん達まで味方につけていた先生には抗えず、2人も私と同じく、キヴォトスにいる間は学生として通学することになりました。

 

 そんな訳で、私は先述の通り、ミレニアムサイエンススクールへ編入し、フェイトちゃんはトリニティ総合学園、はやてちゃんはゲヘナ学園と、それぞれ別の学校へと通うことになったのですが……そこで3人仲良くぶつかった大きな壁がひとつ。

 

 生徒さん達との会話があまり噛み合わなかったのです。

 

 もちろん、私たちだって花も恥じらう女子中学生。思春期真っ盛りの女の子として、どこに出ても恥ずかしくないよう身嗜みやオシャレには気を遣っています。……最近は髪型も大人っぽいものに変えましたし。

 

 けれど相手は私たちよりもオシャレの最前線で経験を積んだ、精鋭揃いの女子高生たち。

 

 校則違反にならないギリギリを狙って制服を着崩し、これまた校則違反にならないようにナチュラルメイクで顔を整え、放課後には友達と一緒に流行りのスイーツを食べてSNSにアップ──そんなキラキラした青春の過ごし方を、私たちはあまり知らないのでした。

 

 そんな訳で、編入当初は周りの子たちが持つ若者エネルギーに振り回されっぱなしで、同時にキヴォトス特有の銃撃戦や爆発に慣れていなかった事もあり、ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)し(・)た(・)トラブルを起こしちゃったりもして……。

 

 その時の惨状を知っているからこそ、今の私がキヴォトスの生徒らしく馴染めて来たことを、先生は喜んでいる様子でした。

 

「あの時は本当にご迷惑を……」

『Sorry』

 "あはは、この世界に来たばかりだったんだからしょうがないよ。毎日賑やかだよね、この世界"

「にゃはは……そう、ですね?」

 

 のほほんとした先生の意見に苦笑いを浮かべて同意しようとして──どこかで喧嘩でもしているのか、ライフルの発砲音が聞こえたので、思わず言葉尻が疑問形になりました。

 

 セミの鳴き声より銃声が聞こえる。これを賑やかの一言で済ますにはちょっと治安が悪すぎないかな、この世界。

 

 そんな事を考えつつも、挨拶代わりの世間話はこれで一区切り。本日の目的地へと向かって先生が歩き始めたのに倣い、私もそれについていきます。

 

 "今日なのはを呼んだ理由は、もう知っているかな? "

「はい、資料を確認させていただきました。最新AI搭載型の自販機から派生して生まれた対・絶対者自律型分析システム。神名十文字(デカグラマトン)を自称し、キヴォトスの各地に存在した人工知能たちを預言者と呼ばれる配下に置いていたそのシステムが再び現れた、と」

 "うん。よく読み込んでるね、その通り。正確には他の預言者がデカグラマトンの信号を真似たもので、本体の可能性は低いらしいんだけど……一連の事件がまだ終わっていなかったって事実は変わらないからね。相手の狙いや戦力が分からないから、エクシーズにも協力して欲しいんだ"

「はい! 是非お手伝いさせてください!」

 "世界を救ってきた力、頼りにしてるよ"

「全力全開で頑張りますっ!」

 

 先生からの期待に応えるべく、私はぐっとファイティングポーズをとって漲るやる気を表しました。

 

 なんといっても今回は、連邦捜査部シャーレと連邦調査部エクシーズが共同で取り掛かる初の大型事件。デカグラマトンの勢力は未だ不明な点も多いとの事で、下手な失敗は許されません。

 

 "あはは、無茶だけはしないようにね"

 

 そう言いながら自分でも思う所があったのか、少しだけバツの悪そうな表情を浮かべる先生。

 

 小学生の私なら、その言葉にただ頷くだけで、先生の目が届かない場所では当たり前のように無茶をしていたかもしれません。

 けれど、13歳になった高町なのはは一味違います。

 

 大怪我をして入院した時に、無茶し過ぎだとフェイトちゃんに怒られ、アリサちゃんにも怒られ、はやてちゃんやすずかちゃんからは枕元で淡々とお説教を聞かされて。

 

 沢山の人に「無茶をするな」と言われ続けて今の私はここに立っています。

 

 もう二度と無茶はしない──かどうかは、いざその時になってみないと分からないけれど。少なくとも、自分の命を喜んで差し出すような真似はしないと、成層圏から帰ったあの日に誓いました。

 

 だからこそ、胸を張って。

 

「……鋭意努力中です!」

 "そこは断言して欲しかったかも! "

 

 

 

 

 

 なんてやり取りを交わしながら、迷路のように入り組んだ路地を抜けて、いくつかのエレベーターを乗り換えて。

 

 先生が先導してくれなければ、レイジングハートのナビがあっても辿ることすら出来ないだろう複雑怪奇なルートを通った果てに、その部屋はありました。

 

 ぼんやりと光る青白い蛍光灯が備え付けられた屋根は配管が剥き出しのまま。壁の至る所にある薄型モニターが、私には理解出来ない何かのデータやグラフの変化をリアルタイムで表示し続けています。

 

 机の上には、乱雑に置かれた分厚いファイルとむつかしい題名の分厚い本が山脈を作り出していて、タブレット型端末の置いてある場所だけが空白地帯となっていました。

 

 薄暗く雑多で、それでいて利用者の利便性は確保されていそうな雰囲気。管理局のデバイス工房とはまた違ったそれは、まるで幼い頃に憧れたスパイ映画の秘密基地のようです。

 

 "ここが特異現象捜査部の部室。デカグラマトンの調査は基本的にここを拠点にして進めてたんだ"

 

 勝手知ったるといった様子で部室の奥へと進んでいく先生の言葉に生返事をしながら部屋の中を見渡していると、突然レイジングハートがいくつものウィンドウを空中に表示して、何かしらの作業を始めました。

 

 ウィンドウを流れていく文字列から何をしているのかを読み取ると……通信障害? 

 

『Communications down.(通信途絶)』

「えっと、先生。これはいったい……?」

 "ああ、心配しないで。それは"

 

 チカチカと点滅して私に注意を呼びかけるレイジングハートをそっと手に握りしめて、もしもの場合に備えながら先生に問いかけます。

 

 私たちの警戒心を悟ったのか、先生がわたわたと手を振って説明を始めようとしたその時。柱で死角となっていた場所から、車椅子に乗った1人の女の子が現れて。

 

「──ミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカーであり、『全知』の学位を持つ眉目秀麗な乙女であり、そしてミレニアムに咲く一輪の高嶺の花である『特異現象捜査部』部長。与えられた才能に満足せず、日々の努力を怠らない日進月歩の鑑ことこの私、明星ヒマリが作り上げた最強のファイアウォールですよ? 例え貴方たちが『キヴォトスの外』から来た者といえど、備えも無く足を踏み入れればこの通りです」

「……。えっと……ええっとぉ……?」

 

 いきなり、わっと情報の洪水を浴びせられました。

 

 日頃から練習しているのかな、と思ってしまうくらいつらつらと口から言葉が流れ出る様は、まさに立て板に水。

 

 混乱しながらも、渡された言葉の山を少しずつ咀嚼していく私の姿に満足気な頷きを見せた彼女──明星ヒマリさんは、資料の通りならばデカグラマトン事件の調査を主導している特異現象捜査部の部長さんだったはず。

 

 昔のはやてちゃんを思い出す、白いフレームが特徴的な機械式の車椅子に乗ったヒマリさんに、先生は少し呆れた表情で話しかけました。

 

 "ヒマリ。エクシーズの人たちは味方だから仲良くしてねって伝えたはずだけど? "

「ええ、確かにそのように言われていましたね。なのでこれは、そう。天才美少女ハッカーによる新たな仲間へのお茶目な悪戯ということで」

 "……はあ。驚かせちゃってごめんね、なのは。この子は明星ヒマリ。ミレニアムサイエンススクールの3年生で、特異現象捜査部の部長。少し──いやかなり悪戯好きな困った子なんだけど、根は良い子だから仲良くしてあげてね"

「先生? その言い方ですと、私がまるで問題児のような扱いではありませんか。ミレニアムに咲く可憐で清楚な高嶺の花を捕まえてそのような物言い、デリカシーが欠けていますよ?」

 "自分のやってきた事を思い出してから抗議しようね"

 

 先生からの注意に、はて、と小首を傾げてとぼけるヒマリさん。処置無しとばかりに呆れ顔の先生を見るに、もしかして本気で困惑しているのでしょうか。

 

 私がこれまで出会ってきた人の中でもひときわ癖の強そうな彼女に内心少し身構えながら、私はこれから一緒に仕事を共にする仲間として自己紹介を始めます。

 

「連邦調査部エクシーズ所属、高町なのはです。先生からの要請で、今回からデカグラマトン事件の調査に加わることになりました、よろしくお願いします!」

「はい。よろしくお願いします。……ところで、そちらの宝石のような端末は? 先ほど自己診断していたのを見るに、かなり高性能な人工知能を搭載しているようですが」

 

 学生証の代わりとして使っているEXCEEDSの身分証を提示してくれていたレイジングハートを見て、ヒマリさんが問いかけました。

 

 所々でミッドチルダの魔導とあまり変わらない高い科学技術を持つキヴォトスでも、やっぱりインテリジェントデバイスは珍しいみたいです。

 

 ちらりとレイジングハートへ視線を送ると、阿吽の呼吸で前に出た彼女が自己紹介。

 

『This is Raising Heart, the intelligent device assigned to Nanoha Takamachi. Communications are down. Requesting permission to record』

「あら。これはご丁寧にどうも。この場所はデカグラマトン対策として極秘裏に用意しているので、本来であれば記録の類は一切を許可しないのですが……先生のお連れ様ですからね。特別に許可しましょう」

『Thanks』

 

 キヴォトスの世界としての特質のせいか、レイジングハートの言語パッチが初期化されているのですが、ヒマリさんは問題無く彼女の言いたいことを理解してくれた様子。

 

 ヒマリさんから許可を貰ったレイジングハートが記録用の魔導を展開する中、私たちが部室に入って来たものとはまた別の出入り口からふたつの人影が現れました。

 

「部長。準備出来たよ」

「先日ぶりですね先生。そちらが今回の協力者ですか」

 "エイミ、トキ。今日もよろしくね"

「高町なのはです! よろしくお願いしま……す……?」

 

 薄暗い室内の中なのでよく見えませんでしたが、資料にあった特異現象捜査部の部員の方と、現在協力者としてデカグラマトンの調査に同行しているという方だろうと当たりをつけて、挨拶をしようと近付いて。

 

 思わず大きく口を空けたまま固まって、しばらく唖然としてしまいました。

 

「……ん? よろしく。和泉元エイミ。名字が長くて非効率的だから、私のことは名前で呼んで」

「C&C所属、コールサイン04。飛鳥馬トキです。ピースピース」

「……あ、あわ、あわわわわわ……」

 

 ちゃんとした制服がある学校でメイド服を着ているトキさんもかなり不思議な装いですが、それ以上にトンデモない恰好をしていたのが和泉元エイミさんです。

 

 いやその、トンデモない以外の語彙でなんと言えば良いのか分からないというか、制服の着崩し方の頂点と言いますか、むしろここまで着崩すと裸よりも恥ずかしい恰好なのではというか、そのファスナーは何なんですかというかこの場にいる全員がエイミさんに何も言わないという事は彼女にとってはこれが普段着でまさか先生は生徒がこの恰好で出歩いているのを黙認して──!?

 

 今なら私、顔どころか耳まで真っ赤になっている自信があります。わたわたと取り乱しながら先生の方へ向き直ると、私の反応から何を考えているのか察した先生は、凄い勢いでぶんぶんと首を横に振っていました。

 

 "こ、これには色々と事情があって──! "

 

 かくかくしかじか。

 

 エイミさんの特殊な体質と、キヴォトスの生徒には時々そういう人がいること。先生はむしろその格好を止めようとしている側であることなど。青褪めた表情で必死に捲し立てる先生の勢いに押された私は、真っ赤な顔で何度も頷きました。

 

 エクシーズの独自調査で時折上がっていた「先生、実はアブない人説」が最悪の形で確定しかけていましたが、先生必死の言い訳……弁明……説明にひとまず納得します。

 

 正直に言えば、まだちょっと……いや、とても怪しいと思わなくもないのですが、肝心の本題が進まなくなるのでぐっと堪えて、アブない格好のエイミさんからは極力視線を外すことにしました。

 

 "せ、説明の経験があって助かった……! 私の社会人生命、また世界を超えて終わるところだった……!! "

「流石の釈明でしたね、先生。以前私からメイド服を借りようといらっしゃった時に勝るとも劣らない必死さを感じました」

 "更なる誤解を招くからその言い方はやめてほしいな……! "

「なんか大変そうだね、先生」

「主に貴女のせいですよ、エイミ」

 

 トキさんの爆弾発言にノックアウトされ、とうとう膝をついた先生の肩をぽんぽんと励ますように叩いているエイミさんに呆れた視線を向けるヒマリさん。

 

 対するエイミさんはよく分かっていない様子なので、もしかしたら特異現象捜査部の皆さんは似た者同士の集まりなのかもしれません。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ちょっとした事件(?)を乗り越えたお陰で初対面ながら距離を縮めることに成功した私たちは、モニターに表示された地図と資料を基に、今回の作戦について詰めていきます。

 

「今回の目的地は、デカグラマトンに似た信号が発せられた座標──氷海地域です。移動手段は確保済み、物資も積み終わった後ですので、後は乗り込むだけ。なのはさん、防寒着の用意は出来ていますか?」

「なのはって呼んでもらって大丈夫ですよ。防寒着なら、今私が着ているこのジャケットに空調機能が付いているので大丈夫だと思います」

「……そのジャケットの空調機能ってどのくらい効く? 氷点下くらい涼しくなるなら、個人的に購入したいかも」

「氷点下に出来るかは……ちょっと分かりませんけど。寒冷地から熱帯までこれひとつでけっこう快適だったので、効果の程は実証済みです。ジャケットの購入は、私の方から上に掛け合ってみますね」

「うん、ありがとう。なのは」

「いえいえ!」

 

 第一印象こそ過激な格好のせいで変な人だと思ってしまったエイミさんですが、事情を理解してしばらく話してみれば、とても仕事の出来る人だと感じました。

 

 それでもふとした時にエイミさんが視界の端にいるとまどぎょっとしてしまうので、ジャケットである程度緩和されると良いな〜とは思います。

 

『If necessary, I will set up the Barrier Jacket as needed. No problem』

「そんな便利なものが。ふむ……なのは、よろしければそちらのレイジングハートやバリアジャケットについて、後で原理や構造などを教えていただいても?」

「あ〜、はい。私も詳しい事は分からないのでレイジングハートに聞きながら、ざっくりとした説明にはなると思いますけど」

「ええ、構いません。それでは、各自到着後の行動について詳細を決めましょう」

 

 ヒマリさん達も話していて気付いたのは、先生は私たちの会話にあまり入って来ないということ。時折、暇を持て余したらしいトキさんがちょっかいをかけに行ってはエイミさんに首根っこを引っ張られて連れ戻されていました。

 

 もちろん、私たちが話しかけたらきちんと言葉を返してくれて、案を求めれば丁寧に考えられたものを提示してくれる。話の方向が逸れかけた時は声をかけて軌道修正もしてくれるけど、私たちが主体となって話し合っている時はそっと輪の外に出て見守っているのです。

 

 その一歩引いた姿勢に、私は覚えがありました。

 

 先生のそれは、他ならない私たちEXCEEDSの理念に近い振る舞いなのです。思慮なき救いは恒久的な平和につながらない──外部から訪れた者たちが危機を救っておしまいではいけないという、私たちが辿り着いた結論。

 

 連邦捜査部シャーレと先生は、それぞれの学園を管理外世界と見た場合のEXCEEDS的な役割を果たしているのかもしれない、と私は実感しました。

 

 そうすると、各学園の生徒たちの力を借りながらいくつもの事件を解決し続けていたという先生は、私達EXCEEDSにとっても「先生」となる可能性があります。

 

 今回のお手伝いで得るものは、想像以上に大きいのかもしれない。まだ何の事件も解決していませんでしたが、そんな予感がしました。

 

「それでは出発しましょう。トキ、ヘリの操縦は任せましたよ」

「お任せください。せっかく先生もいるのですから、ローターをいつもより多く回して行きましょう。出血大サービスです」

「……あの、安全運転第一ですからね? フリとかではなく、普通に操縦してくださいね?」

 

 トキさんとヒマリさんのちょっと不安になる会話を聞きながら、私達デカグラマトン対策チームは氷海地域を目指して出発です。

 

 ……デカグラマトン。世界を超えて、色々な人やモノと対峙してきた私たちですが、神を自称する存在と相対するのは今回が初めて。

 

 いったいどんな相手が待ち受けているのか。少しの不安を感じつつも──リリカルマジカル、頑張ります! 

 

 

 

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