ここは聖地ルナ。
月の裏側の世界、ラビルーナの中心部、第1エリアの上空に浮いている緑豊かな土地。
3年前までは邪動族によって支配され、荒れ果てた土地だったのだが、魔動戦士たちの活躍により、今ではすっかりもとの平和な世界を取り戻していた。
今日はこの聖地ルナで、1年に一度、太陽が出ている時間が最も長くなる夏至の日に、「光の門出」と呼ばれる祭典が行われるのだ。
邪動族が攻めてくる前までは、毎年必ず行われていた祭典であったが、その後も新たな邪動族が攻めてきたり、海賊が魔動石を盗んだりと、平和を取り戻した後も色々と大変なこと続きであったため、本来であれば2年前には開催できていたはずの祭典が、先延ばしとなっていたのだ。
そしてこの日、何日も前から行っていた事前準備を終えてようやく無事に開催することが出来る………筈だった。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、絶っ対に、イーヤーだー!!!!」
この叫び声が響くまでは。
「マリウス!いい加減にしなさい!!!」
ラビルーナの魔法使いで、マリウスことラビの母親でもあるサユリが、今まで見たこともないくらいの形相で声を荒げている。
それを傍からヤレヤレという表情で見ているのは、魔法使いの最高位Vの称号をもつ、V‐メイ。さらにその傍らで、何が起きているのか全くわかっていないという純粋無垢で無邪気な表情を浮かべているのはメイの孫のグリグリ。
「ラビ何を怒ってるグリ?」
「ちょっと込み入った話でね、グリグリは向こうで遊んでおいで。」
「ラビは遊べないグリ?僕一人で遊んでもつまらないグリ。だからハピと遊んでくるグリ〜!」
そう言って、ペットのハピを頭に乗せて無邪気に飛び跳ねていくグリグリを見送り、V‐メイはラビに向き直る。
「ラビ。この話は今年祭典を開催することになった時にはもうすでに決まってたことなんだ。決まったことをいつまでもグズグズと、みっともないことはおよし。」
「みっともないだとーー!!第一、オレはたった今!この話を知ったんだぞ!!なんで、なんで、よりにもよって…!」
一度深呼吸をして、ラビは次の言葉をルナ中に響き渡るくらい声を大にして、言い放ったーーーー。
「この祭典で、オレとグリグリが婚約なんかしなけりゃならないんだ!!!!!!!!」
事の始まりはほんの数分前に遡る。
祭典の準備で駆り出されていたラビは、はじめこそ面倒くさがっていたが、この祭典に、同じ魔動戦士で友だちでもある大地やガスを招待しても良いとサユリから聞かされ、大いに張り切った。ガスは月面にいるし、大地は今年、家族で月旅行に来ると言うので、2人を「光の門出」の祭典に招待すると手紙を出したのだ。
久しぶりに友だちに会えるのと、その友だちに今の平和なラビルーナを見せることが出来るという思いから、ラビの気分は最高潮だった。
「魔動器も持っていくか。大地たちもグランゾートやウインザートに会いたいだろうし、こんな時くらい持ち出してもいいよな♪」
と、持ち出しを固く禁じられてる魔動器を包みに入れてこっそり持ち出すくらいには、気分が良かったのだ。
鼻歌を歌いながら歩いていると、V‐メイとサユリが話しているのが聞こえてきた。
「それじゃあ、打ち合わせ通りにいくとするかね。」
「わかりました、メイ様。それでは、この度の祭典でマリウスとグリグリちゃんが婚約をすると発表致しましょう。そうすれば、きっと…。」
「は?」
あまりにも理由のわからない内容に、思わず間の抜けた声を出してしまったラビであった。
「だから、何度も言っているでしょう!もう決まったことなのだと。」
「いいかい、ラビ。これまでに邪動族はもちろん、悪しき心を持った人間たちまでもが、このラビルーナに攻め入ったり、魔動石を盗むというような事件があったんだ。いつまた、そんな事が起こるとも限らない。だから、このラビルーナを守るためには、次世代の有力な魔法使いたちの存在が必要不可欠なんだよ。あたしだって老骨に鞭打って、若い魔法使いたちの育成に力を入れてるんだ。」
実はV‐メイは、この1年の間に10歳から20歳までの魔法使いの弟子を20人ほど迎え入れ、育成に励んでいたのだ。
実力の差はあれど、伸びしろがあり教えがいのある子どもたちばかりとのことだ。
「それで、なんで、婚約なんて話になるんだよ!!」
「だから、有力な魔法使いの後継者が必要なんだよ。あんたはV‐ラーマスの孫。グリグリはこのあたし、V‐メイの孫。Vの称号を持つ大魔法使いの子どもたちの間の子ともなれば、それは素晴らしい魔法使いになるだろうからね。あんたたちに白羽の矢が立つのは当然だよ。」
平然と言ってのけるV‐メイの理屈にラビが納得など出来るわけもなく。
「んなもん、政略結婚じゃねーか!!!絶対に嫌だぞオレは!!!」
「んもう!いい加減におし!!あたしの可愛いグリグリと結婚させてやるって言ってるのに何が不満なんだい!大体、あんたはいつだって可愛い子を見つければナンパばっかりだったじゃないか。これを機に身を固めるのも悪くないだろ。観念してグリグリと婚約しな!!」
孫娘を可愛がるおばあちゃんよろしく、V‐メイまでヒートアップしてきて、声を荒げる。
「なっ、ナンパって、今それ言わなくてもいいだろ!!」
チラリとサユリの方を見ながらラビが言うと、案の定、サユリは額に手を当てて頭痛をこらえるかのような表情をしている。
「ホントのことじゃないか!大地にも聞いてるんだよ!去年、1年ぶりに再会したと言うのに、ラビ。アンタは心配と安堵で駆け寄った大地をスルーして、賞金稼ぎの女の子を口説いたそうじゃないか。全く、男同士の友情よりもその場で会ったばかりの女の子を優先するだなんて……アンタのその生粋の女の子好き、なんとかならないものかね…。」
一番サユリの前で言われたくないことを言われてしまい、それが更にラビを興奮させ、ラビのもともと短い堪忍袋の緒が完全に切れてしまった。
「……!!とにかく、嫌だと言ったら嫌だ!!!変な理屈ばっかりこねやがって!!!そんなに無理矢理にでも婚約させるっていうんならなぁ!!オレは、オレは……!!聖地ルナを家出して、大地と駆け落ちでもしてやらぁ!!!!!」
『はぁ?』
あまりにもあまりな内容に今度は、V‐メイとサユリの2人がそろって変な声を上げ、呆気にとられてしまった。
また、内容の支離滅裂さに理解が追いつかず、我に返ったのは、ラビが光の呪文を唱え終えて、ラビルーナを飛び出した後だった。
「どうしましょう、メイ様…。」
「ハァ〜~~。まったく仕方のない子だね……まぁ、時間もないしね。あたしの優秀な弟子たちに、迎えに行かせるとするよ。」
パンパン。
V‐メイが手を叩くと、背後に4つの人影が現れた。
「アンタたち、話は聞いていたね。手間をかけるけど、ラビを迎えに行ってやっておくれ。それから同じ魔動戦士の大地やガスもいるはずだから、一緒に連れてくるように。」
『かしこまりました。V‐メイ様。』
その途端、4つの人影は始めからいなかったように、サッと消えた。
その頃、月面では………。
「と、いうわけなんだ、大地。
このオレと、駆け落ちしてくれ!!」
「……なにが……なにが……
なにが!!!というわけだーーーー!!!」
「ラビくん、さすがにそれはないです………。」
一連のことを説明し終えて、プロポーズ紛いの台詞をはきながら淡々としているラビと、ようやく会えた友だちから聞かされた、あまりにも馬鹿げた話に叫び声をあげる大地と、支離滅裂を極めた内容と態度に、ついていけないと明後日の方向を見るガス。
ちょっとした地獄絵図と化していた。