「おっ、ラビじゃねーか!!元気そうだな、1ヶ月ぶりぐらいか!」
「よぉ、ラビ!」
「よっ、オセロにドミノ!久しぶり!そうだな、魔動石の様子を見に来たときだから、ちょうど1ヶ月だな。お前らも元気そうじゃん。」
「ハハハ、あったりまえよ!」
「ところで、どうしたんだよ?また魔動石の調査か?」
「あーまぁ、ちょっと込み入っててさ、話すと長くなるんだけど……。」
そう言いながらラビは、大地に目線を送る。そこで、オセロとドミノはラビの後ろから来た大地に気付く。
「おっ、オメーは……!」
「お久しぶりです、オセロ船長にドミノ。」
「堅苦しい挨拶はやめてくれや、俺も船長もそういうのは慣れてねーんだ。」
「そっか、じゃあそうさせてもらうよ、ドミノ。」
「こら、ドミノ!俺を差し置いて勝手なこと言ってんじゃねー!」
「へっ、へーい船長……。」
「まぁ、確かに、俺たち海賊は堅苦しいのは好かん。気軽に接してくれていーぞ!」
「なっ、なんだ、やっぱりいいんでねーか……。」
「何か言ったかドミノ?!」
「いっ、いや、なんでもありませんですぜ、船長!」
そんな2人のやり取りを見て、大地とラビは顔を見合わせて、クスクスと笑い合う。こんな状況下、知り合いに会えたのは素直に嬉しいし、V‐メイの弟子たちはこの2人のことを知らないはずなので、弟子たちが変身して近付いてきたのではないか、という心配もいらない。
「にしても、オセロもドミノもこんなところで何やってるんだよ?」
「あっ、そうだ、聞いてくれよラビ!俺たちはな、海賊家業として、金目の物を探しに街に繰り出そうと、そこの道端に宇宙船を停めたんだけどよ……。」
「駐車禁止の場所で切符切られちまって。これで5度目。」
「ドミノ!!余計なこと言ってんじゃねーー!!」
「はっ、はい!船長!!」
あいも変わらずな様子に大地は乾いた笑いをこぼし、ラビはまたか、と額を手で押さえる。
「それで、オメーらはどうしてここに?」
オセロに聞かれて、大地とラビは何から話すべきかと顔を見合わせる。大地が黙っていると、ラビが何かを思いついたかのように言った。
「そうだ!おい、さっき確か宇宙船を停めたって言ったな、それってここから近いのか?」
「あっ、ああ、歩いて4,5分といったところだぜ。」
オセロが答える。
「その宇宙船、今からすぐにでも宇宙に行けるか?」
「当たり前よ!更に改造を施して前よりもパワーアップしたからな、いつでもどこでも宇宙へと飛び出せるぜ!!」
オセロのその言葉を聞いて、ラビはよしっ、と握り拳を作る。大地はその様子を見てラビが何をしようとしているのかを理解する。
「ところで、なんでそんなことを聞くんだラビ?」
「ワリィんだけど、説明してる時間がねぇんだ。とにかく今オレたちは追われてるんだ。頼むよオセロ、オレたちを連れて宇宙に逃げてくれ!」
『なんだって?!』
オセロとドミノの声がピッタリ重なる。互いの顔を見合うのも同時だった。それからラビを見て、2人は笑って頷いた。
「よくわからねーが、まぁ事情は後々たっぷり聞かせてもらうとして、今は早いとこ船に来な!」
「船長の言う通りだぜ、ラビ。急いだほうがいいんだろ?」
「ありがとな!オセロ、ドミノ、恩に着るぜ!」
おおらかに快く承諾してくれたオセロとドミノには、感謝しかなかった。
「水くせぇことは言いっこなしだ!早いとこ行こうぜ!ドミノ、お前は食料と燃料の調達してこい!」
「ガッテン、船長!!」
「調達ならオレも行くぜ。金は持ってるんだ。大地はオセロと一緒に先に行ってな。」
「大丈夫か、ラビ?もし奴らが……。」
「来たとしても大丈夫さ。なんならアクアビートを呼び出して一網打尽にしてやってもいいからな。」
「そんなこと言ったって、アクアビートは水がなけりゃ呼び出せないじゃないか!」
「それも心配ご無用。いつでも水を好きな場所に出すことが出来るように、魔法の特訓はバッチリさ!広場さえあればそこを水浸しにして、アクアビートを呼び出せるぜ。」
そこまで聞いて、やっと大地は安心することが出来た。と同時にそこまでラビが、苦手な水の魔法を使いこなすことが出来るようになったことに、素直に感心した。
「すげーよ、ラビ!魔法の勉強ちゃんと頑張ってるんだな!」
大地の屈託のない笑顔に、思わずラビは一瞬見惚れてしまった。突然顔を赤くしたラビに、大地が首を傾げる。
「ラビ??」
「あっ、なっ、なんでもない!!じゃあ、オセロ、大地を頼むぜ!行くぞドミノ!!」
「あっ、おい、待てってんだよラビ!」
走り出すラビをドミノが必死に追いかける。2人が広場から見えなくなったのを確認して、オセロが大地に声を掛けた。
「よし、じゃあ俺たちも行くとするか!」
「あっ、うん、ありがとう!よろしく!」
歩き出すオセロに大地も続く。
「しっかし、お前らと会ってからかラビは変わったよな!」
「そうかなぁ?まぁ、前よりは突っかかってくることが少なくなったとは思うし、ちょっとは素直になったのかなとも思うけど。」
「いやぁ、それだけじゃねーさ。」
意味深に言うオセロに、じゃあ他に何があるのかと、大地はオセロを見た。
「ラビはな、俺たちと行動してるときも絶対にパーソナルスペースを崩さなかった。一定の距離感で、いつでも切り離せるように、一匹狼を貫いてな。そんな付き合い方しかしてこなかったアイツが、お前やガスには本当に心を許してる。友だちを大事に思うということを、失いたくない大切な仲間が出来たことで初めて学んだんだ。俺たちじゃ、その役目は務まらなかった。お前たちが変えたんだ、ラビを、ラビの人生をな。」
そこで1度言葉を切り、だからな、と言って続ける。
「こんなことを言う資格がねぇのはわかっちゃあいるが、ありがとよ。ラビの友だちに、仲間になってくれてな。」
まるで父親のように言うオセロに、あぁ、オセロもラビのことを本当に心配していたのだと、ラビに仲間が出来て本当に良かったと思ってくれているのだと、大地は悟る。
「俺も、ラビやガスと出会って大きく変わったんだ。2人とも俺にとっては、本当に大切な、かけがえのない仲間なんだ。お礼を言われるようなことは何もしてないよ。むしろ俺の方こそ、オセロたちにありがとうって言いたいよ。ラビが月面で生活していたときに支えになってくれていたのは、オセロとドミノだからね。」
大地がそう言うと、オセロは大きな鼻の下を擦って、少しはにかんだ表情になった。そうこう話しているうちに、オセロの宇宙船が見えてきた。
以前と比較すると、一回り大きくなっているようで、なおかつ一番の違いは、船の大部分がガラス張りのドームに覆われ、船体の中央にマストをつけるための主柱が出来ていることだった。
「へえー、なんていうか、前は船って感じが強かったけど、ガラスのドームになってる分、宇宙船って感じが出てるね。なんでこんな大きなドームを取り付けたの?」
「おう、それはな、展望台を作るためだ。」
「展望台??」
「上をよく見てみな。新しくつけた柱の先端だ。見晴らし台を作ったんだが、その部分が少し広くなってるだろ。あそこが展望台だ。船の中から望遠鏡で、外を見るのもいいが、ちゃんと上から周囲を見渡せる方が効率がいいと思ってな。ガラスのドームにすることで、宇宙服なしでもあそこまで登ることが出来るようにしたんだ。」
「へえー、カッコいい!!俺そういうの設計してみたいな!!」
大地が目を輝かせると、オセロはよけいに得意気になる。
「よし、なんなら船の中の装備も設備も全部見せてやる!着いてきな!」
しばらくして、ラビとドミノが買い出しを終えて船に戻ってきた。
「せっ、船長…これは一体……?」
「一体どういうことなんだ、オセロ……。」
「スマン……まさかここまでのめり込むとは思わなくてな……。」
そこには幾多の設計図に囲まれて、船の余った部品を使い、メカいじりをしている大地がいた。
「おい、大地!何やってるんだお前は!」
「あぁ、ラビ、戻ったのか。何って、設計だよ、設計!こんなにたくさんの設計図があって、いろんな部品が勢揃いで、こりゃ何か作らなきゃって、腕がなって仕方ないんだよ!」
大地がこういうことが得意なのはよく知っていたが、まさかここまでメカいじりに夢中になるとは。ラビでも想像が出来なかったのだから、オセロにわかるわけがない。
ため息をついて、ラビがメカの1つを指差し、大地に聞く。
「なぁ、大地、これは?」
「これは小型の無線だよ。宇宙に行くんなら別行動を取ることもあるかもしれないだろ?だから1人1つ持って歩くといいぜ。」
「じゃあ、これは?」
「ダイヤル式の双眼鏡さ。いくら展望台があるといっても、やっぱり遠くを見るときには、1つくらい持っておいた方がいいと思ったんだ。」
「……じゃあ、今作ってるのは?」
「これは自転車にモーターを取り付けて発電機に改造してるんだよ。宇宙で停電なんかしたら真っ暗じゃないか。対策はしとかないとね。」
ラビとドミノが帰ってくるまでの数十分で、ここまでのメカを作り上げた大地には、驚きを通り越して呆れてしまう。
だが、メカづくりに取り組んでいるときの大地の顔は、とても明るくて活き活きとしていて、ホントに機械やメカが好きなのだということがわかり、ラビはそれ以上何も言う気が起きなかった。そこでふと、1つだけ疑問に思ったことがあり、オセロに聞く。
「なぁ、オセロ。なんだってあんな高い所に展望台なんか作ったんだよ?こんなガラス張りじゃあ、大砲が発射出来ねーだろ?普通の見晴らし台で十分じゃないか、何もあんなにスペースを確保しなくったって…。」
「べっ、べ、別にいいだろーが!!展望台が海賊船にあっちゃいけねーとでも言うのかよ?!第一、大砲なら船の内部に取り付け直して発射するときに自動的に船の底から出るように改造したんだから何も問題ねーだろ!!」
ラビが全部言い終わる前に遮るようにして言うオセロに、ラビはなおのこと疑問符を浮かべる。そんなラビにドミノが答える。
「あの展望台は、船長が今度お杏さんを船に招待したときに見せようと思って無理して作ったんだ。それなりにスペースを確保するのに、スゲー苦労したんだぜ。何しろ展望台ってデートには最適……。」
「ドミノ!!!!!オメーは!!!!!!少しは黙ってたらどうなんだ!!!!!」
「ハッハイです船長!!」
「今度なんか言いやがったらタダじゃ置かないからな!!!!!」
「ガ、ガ、ガッテン、です……。」
お杏というのは、去年大地とラビが海賊に囚われたガスを助ける際に、力を貸してくれた賞金稼ぎの女性だ。オセロはどうやらこのお杏に一目惚れしたらしく、自称宇宙海賊なのに、お杏を助けるため宇宙軍にかけあうわ、敵の海賊船本体に船ごと突っ込むわと色々頑張ったのだ。お杏もそれなりにオセロのことを見直したようだったが、そういえば、あれからどうなったのかラビたちは知らない。
「ふーん、それで?あのオバサンにこの船見せられたのか?」
「ラビ!お杏さんのことをオバサン呼ばわりするな!!」
「だぁーもう、わあったよ!それで?見せられたのか?!」
「ほっといてくれ!!」
「あれからも何度か会ったんだけどな、特に進展はしてねぇんだ。普段お杏さんは地球を拠点にしてるし、月面に来たときにしか会えないから仕方ないけどな。だからこそ、船長は会えない寂しさを紛らわせるために色々と船の改造を頑張ったってわけなんだ!なぁ、船長?」
「ドーーミーーノォーー!!!!!」
「あっ、すいやせん船長……。」
「もう、怒ったぞ!!!!!」
「わぁ!!!!勘弁してください船長!!!!!」
「もう!煩いよ!!集中出来ないじゃないか!!今大事な所なんだから静かにしててよ!!!」
「……オレ知ーらね。」
船内はちょっとした地獄絵図になった。
わーわーギャーギャー騒がしい船内。だからこそ、そんな空気に割って入るように声がかかったとき、すぐに反応出来なかったのも無理はない。
「宇宙に逃げられたら、さすがに私たちでも追いつけませんからね。申し訳ないですが、ここまでですよ。マリウス様、大地様。」
「……!!」
真っ先にラビが振り返ると、自分たち4人だけしかいなかった船内に、新たに3人の人間が増えていた。大地も立ち上がり身構える。
「へっ、とうとう姿を現しやがったな!」
「ラビ、じゃあコイツらが!」
「あぁ、そうだ大地。コイツらがオレたちを追ってるばーさんの弟子たちだ!」
大地とラビはキッと3人を見据える。
「おっ、お前ら、一体どこから入ってきやがった?!」
「そーだ、そーだ!俺とラビが戻ってきたとき、入り口にはちゃんと鍵をかけておいたはずだぞ!!」
「オセロ!ドミノ!コイツらはオレたちを追ってるラビルーナの魔法使いだ!あぶねーから下がってろ!」
「ばーちゃんの弟子たちだから、2人に手荒な真似はしないと思うけどね。」
ラビと大地が説明してる間も、3人の魔法使いたちは静かにこちらに歩み寄ってくる。
「来るな!それ以上近づいたら、オレ様の魔法をたっぷりお見舞いしてやるぜ!!」
ラビの威嚇に、3人はようやく歩を止めた。
「マリウス様。どうかお戻りください。我々も手荒な真似はしたくないのです。」
「嫌なこった!」
「駆け落ちごっこなど終わりにしてください。大地様だって迷惑されてるはずです。」
『駆け落ち?!』
オセロとドミノの声がピッタリ重なり、2人同時にラビと大地を交互に見る。アチャーと大地は手を額に当てる。誤解のないようにゆっくり時間を掛けて説明するつもりだったのに、こんな形でバラされてしまうとは。
「うっ、うるせぇ!!オレは帰らねぇったら帰らねぇ!!」
ラビはラビで妙に顔を赤くしながら叫ぶ。3人の魔法使いたちは、痺れを切らしたように声を荒げた。
「もう時間がないのです!」
「急いで戻らないと!」
「お二人の力がどうしても必要なのです!」
「時間?」
「力?」
言っている内容がよくわからず、ラビと大地はどういうことかと一瞬構えを解く。
その隙を魔法使いたちは見逃さなかった。
「…………。」
1人が小声で口早に呪文を唱えると、光輝く長い紐が出現する。その紐はクルクルとしなやかに弧を描きながら、大地とラビの体に巻き付く。
「しまった!!」
「クソォ!離しやがれ!!」
「暴れるなラビ!余計に絡みついてくる!」
「チッ、妙な小細工しやがって!!」
「ラビ、大地!大丈夫か?!」
「来るな、オセロ!コイツらはオレたちに用があるんだ、お前らは手を出すんじゃねぇ!」
オセロたちがこちらに駆け寄ってこようとするのをラビが声を上げて制する。
「大丈夫だよ、俺たちも縛られてるだけだから!」
大地にまで言われて、仕方なくオセロとドミノは歩みを止めた。
その反対に拘束魔法を使っている弟子が歩み寄ってくる。
「一緒に来ていただきますよ。さすがのマリウス様でも印を結べなければ、魔法は使えないでしょう?」
「……フッ。」
「!!何がおかしいのです、マリウス様。」
「甘いな。ばーさんの優秀な弟子たちって言うから、どれほどのものかと思ったが、この程度の拘束を、このオレが破れないとでも?」
「なに?!」
ラビは口の中で小さく何かの呪文を唱える。と、2人を拘束していた光の紐が解け、すごい速さで魔法使いたちの方に伸びていく。
『?!』
あっという間に、3人の魔法使いたちは光の紐に拘束されてしまった。
「魔力返しさ。聞いたことくらいはあるだろ?」
「魔力返しって?」
状況に追いついていない大地がラビに聞くと、得意げにラビが答える。
「こちらにかけられた物理的な魔法をそっくりそのまま跳ね返すことが出来る魔法さ。」
「くっ、まさか、こんな高度な魔法を習得していたとは……!」
「我々でさえ、まだ習得出来ていないというのに……!」
「へっ、オレを誰だと思ってる?V‐ラーマスの孫で、アクアビートに認められた水の魔動戦士だぜ?」
生まれ持った才能と、邪動族との戦いで培われた実力の違いに魔法使いたちは歯を食いしばる。甘く見すぎてしまったと。
「ですが、来てもらいますよ、何が何でも!」
1人がそう言うと、その腕を紐の隙間から伸ばして、こちらに魔法の稲妻を飛ばしてきた。拘束魔法下にある中で攻撃魔法を仕掛けてくるとはさすがに思わず、避け切れないと判断したラビは腕を顔の前で交差し衝撃に備える。だが……。
「ラビ!!」
きた衝撃は正面からではなく真横からで、電撃ではなく何かがぶつかってきたような衝撃で。
大地がラビに体当たりをして、稲妻の魔法から庇ったのだとわかったのは、魔法が大地に直撃したのを見た後だった。
「うわぁーーー!!!」
「?!大地!!!」
悲鳴を上げて大地が倒れる。その体を小さな稲妻があちこち駆け抜けている。痺れているのだ。慌ててラビは大地に駆け寄り、その体を起こす。
「大地!しっかりしろ!大地!!」
「ぅ……ら、ビ……」
「これは身体を痺れさせる類の魔法か………あまり動くな!魔法の効果が切れるまでじっとしてろ!」
「……った……じ、で……。」
「?なんだ、大地?」
「…よか、った……ラビが、ぶじ、で……。」
「?!」
大地が微笑むとラビが目を丸くする。そして大地は、ゆっくりと目を閉じた。
「?!大地!おい!大地!!目を開けろ!開けてくれ!大地!!」
最後は悲鳴に近いような声でラビが叫ぶ。身体を揺さぶり、何度も名前を呼ぶ。目は、開かない。体は、ピクリとも動かない。
以前にもこんな事があった。嫌でも思い出してしまう。自分たちを助けるために、ラビの母、サユリが闇の魔法陣に入って、その生命を落としたときのことを。何度呼べども、目が開くことはなく、呼吸さえも感じられなかった冷たい体に抱きついて、声の限り泣いたことを。ラビの祖父、V‐ラーマスがその生命を犠牲にしなければ、永遠の別れになっていたであろう、あのときのことを。
ラビは頭を振る。何を考えているのだ。あのときと今とでは状況が違う。大地は死んでなんかいない。魔法に当てられて痺れているだけだ。このくらいの魔法なら、小一時間もすれば完全に解ける。大丈夫だ。
ラビはそう自分に言い聞かせ、大地を静かに横たえて立ち上がる。
「なんで、そんな攻撃魔法を使った?!傷つけないという約束だろ!!」
「仕方ないだろ!このままじゃ逃げられちまう!それに攻撃魔法とは言っても少し痺れさせるだけだ!」
「馬鹿やろう!あの魔法はシールドでも張って防御していないとさすがに危険だから、丸腰の相手には使うなと言われたのを忘れたのか?!」
「そんなこと言ったって、大地様がまさか魔動力も使わずに飛び出して来るなんて、思わないだろ!!それに拘束魔法に縛られている状況下では、大した威力も出せなかった!生命に別状はないはずだ!」
3人の魔法使いたちはどうやら言い争いをしているらしかったが、ラビにとってそんなことはどうでもよかった。
大地を傷つけた。ラビの逆鱗に触れるには、それで充分だった。
果たしてラビはどんな顔をしていたのだろうか。少なくとも、ラビルーナの優秀な魔法使いたちが言い争いを止めて、恐れ慄くほどの表情だったことだけは確かだ。
「よくも大地を……!覚悟は良いんだろうな!!!」
ラビは呪文を唱えながら印を結ぶ。すると、ラビの手から激しい光が溢れ、それはとてつもない衝撃波となって、3人の魔法使いたちを、声を上げる暇さえ与えずに船の外まで吹き飛ばしてしまった(窓は閉まっていたが、ラビの魔法に包まれた魔法使いたちの体が、ガラスをすり抜けていったため傷一つつかなかった)。
ラビは、船の外でぐったりと気を失っている魔法使いたちを見下ろして、未だビックリして口をパカッと開けたまま立ち尽くしているオセロとドミノに声を掛ける。
「ワリィな、面倒なことに巻き込んじまって。とにかくこれで邪魔者はいない。コイツらが目を覚ます前に、とっとと出発しようぜ!」
いつもの調子に戻った様子のラビを見て、オセロとドミノは少しばかりホッとして、頷く。
「よし、出航だ!ドミノ!!」
「ガッテン!船長!!」
しばらくして、魔法使いたちは目を覚ました。
そのときには既に、宇宙船もラビたちの姿もなく。拘束を取り外しながら、3人は立ち上がる。
1人目「どうするんだよ!宇宙に逃げられちまったら、厄介だから、ここでかたをつけるはずだったのに…。」
3人目「仕方ないだろ!まさか、あそこまでとは…。」
2人目「さすがは、ラビルーナを守った魔動戦士様ってところだな…。」
1人目「感心してる場合じゃないだろうが!このままだと、本当に間に合わないぞ!」
[アンタたち、何をもたもたしてるんだい?]
脳内に響いてきた声に、3人はすくみあがった。
『V‐メイ様!!!』
[帰りが遅いから、テレパスを送ってみたら…。その様子だと、ラビたちには逃げられちまったようだね。]
1人目「もっ、申し訳ありません、あと一歩というところで宇宙に逃げられてしまいました。」
2人目「私が悪いのです。お二人を捕まえようとして、電撃魔法を飛ばしたばかりに、大地様がマリウス様を庇って、怪我を…。怒ったマリウス様に魔法で弾き飛ばされてしまって…。」
3人目「止められなかった私たちも悪いのです、どうか、お許しください。これより宇宙空間に向かい、お二人を必ずや…。」
[仕方ないね。まぁ、怪我をさせちまったのはちょっとマズかったけど、アンタたちのことだからわざとじゃないんだろう?回復魔法が得意なラビが一緒なんだから大丈夫だろうさ。それよりも、アンタたち。今すぐラビルーナに戻っておいで。]
2人目「で、ですが、お二人は宇宙へ…。」
[わかってるよ。だけどね、2人を連れ戻してる時間がどうやらなさそうなんだ。ガスには既に説明して、今ウインザートを呼び出してもらってる。アンタたちも早く戻ってきて戦力に加わっておくれ。]
魔法使いたちは、顔を見合わせて頷き合う。その表情は、とても硬い。
『かしこまりました、V‐メイ様。』
3人の魔法使いたちは呪文を唱え、光に包まれながら月面から聖地ルナへと戻っていった。