宇宙空間、宇宙船内にて。
「ラビ…もういいから…。」
「よくねぇ!いいからじっとしてろ!」
「いや、ホントに、もう……。」
「しつけぇぞ、大地!何が不満なんだ?!」
「だって、だって、だって!!」
1度言葉を区切ってから、大地は声を大にして言う。
「だって恥ずかしいんだよ!!この体勢!!」
何が恥ずかしいのかというと、ラビが気を失った大地を横抱きにして船内の椅子に腰掛け、大地が意識を取り戻してからも離さずに横抱きを続けていることがだ。
何故こんなにも密着しているのかと言うと一応理由がある。
「回復を司る水の魔動戦士であるオレと密着してたほうが回復が早いから、こうしてやってるんじゃないか。」
「だったら隣に座ってるだけでもいいじゃないか!なんでこんな、俺を抱えてまで……!」
「……誰かさんが、オレを庇ってまともに電撃魔法を浴びちまうなんて無茶をしやがったからな。こうした方が全身に回復魔法を行き渡らせやすいんだよ。」
そう言うと、大地はうっと黙る。
実際のところ、傍にいた方が回復魔法の影響を受けやすいというのは本当だが何もこんな体勢になる必要性などなく。
この体勢は、攻撃魔法の前に無防備に飛び出すなんて無茶をした大地へのささやかな意趣返しが含まれている。
回復が終わるまで絶対に離すものかと、ラビは大地を抱える腕に力を込める。大地はため息をついて俯いた。
大地はラビを庇ったことに対しては一抹の後悔もなかった。だが、それをされた側の立場や思いを考えると何も言えなくなってしまう。もしも逆に自分を庇ったことで相手が傷ついたら……。考えただけで体が震えてくる。
(だけど、無茶ならラビの方がずっとしてるくせに…。)
第4エリアの鯨のお腹の中でお化けヒトデに襲われたときは真っ先にグリグリを助けに走っていたし、他にも、第3エリアの聖なる火の柱でサラマンドラに刻まれた闇の魔法陣によってV‐メイが火口に落とされそうになったときも、第2エリアの氷の柱で大地とグリグリがアイスバロンによって凍らされそうになったときも、宇宙海賊グレコノーマンの操るダークグランゾートの攻撃を大地とガスが受けそうになったときも、ラビはその身を呈して庇ってくれたのだ。
どっちが無茶だよ、と大地は思う。
大地はなんとなしにラビの方を見た。ラビは怒っているというよりは、何かを思案しているように眉を寄せている。何を考えているのだろうとラビの顔を見つめていると、徐々にラビの顔に赤みが差していくのが見て取れた。耳まで赤くなってきて熱でもあるのではないかと、大地はようやく動かすことが出来るようになった腕を伸ばして、ラビの顔に触れようとした。するとラビは大地を抱えている腕を片方外して、その手を掴み制止させた。
「……何をしようってんだよ、大地?」
「いや、だって、ラビの顔が赤いから、熱でもあるんじゃないかって……。」
「熱なんかねーよ……お前が、あんまり…オレの方ばかり見てくるから……少し、恥ずかしくなっただけで……。」
「えっ……あっ……!ご、ゴメン……。」
「……別にいーよ……。」
ラビに言われて、見すぎてしまったと大地も顔を赤く染める。密着しているせいで赤い顔を隠すことも出来ず、さらに頬に熱が集まる。互いに顔を赤くしながら黙っていると、オセロとドミノが食料庫から戻ってきた。
「おっ、目ぇ覚めたか!ほらよ、腹でも減ってるんじゃねぇかと思ってな!」
「簡単な保存食や非常食しかねえが、食ってくれ。あれ?どうしたんだ?2人とも顔を赤くして。」
『なっ、なんでもねぇよ!!』
ラビと大地の声がピッタリ合わさる。
「ふーん、まぁいいか、ほらよ。」
「あ、サンキュなドミノ。大地、もう立てるか?」
「あっあぁ、大丈夫だよ、立てるよ。」
「だいぶ回復したようだな。じゃあ、そろそろ詳しく聞こうじゃないか。オメーらがこうなったいきさつをな。」
「わっ、わかってるよオセロ、オレからちゃんと話すから。実はオレ、ラビルーナを家出してさ……。」
宇宙船を自動操縦に切り替えて船内のデッキで食事を取りながら、これまでのことを包み隠さず全て話した。
話終わった頃には、オセロもドミノも開いた口が塞がらなかった。
「おっ、オメーは…ホントに、何をやってるんだラビ??」
心底呆れ返っている様子のオセロにラビは返す言葉もない。
その横では、同じように呆れ返っているドミノが大地の肩をポンポン叩いている。
「オメーもよくそんなもん引き受けたなぁ…同情するぜ。」
「仕方ないさ。乗りかかった船だからね。」
大地の方は完全に開き直っている様で、涼し気な顔だ。
しかしよぉ、とオセロが2人に声を掛ける。
「オメーらの話聞いてると、なんかオメーら2人とも、相思相愛って感じになってるんだな。まぁ、今時男同士なんて珍しくもねーか。」
『は?』
オセロの言った言葉に理解が追いつかず間の抜けた声を出すラビと大地。その意味を理解した次の瞬間、2人とも顔から火が出た。
『ちっがうから!!!!』
顔を真っ赤にして、声まで揃えて。これは重症だとオセロもドミノも思った。が、そこは大人の対応。これ以上野暮なことは聞くまいと、2人に別の話題を出した。
「そういえばよ。勢いよく飛び出したはいいが、これからどこに行くつもりなんだ?月からもだいぶ離れたこの辺には小惑星くらいしかないぞ?」
「戻るつもりはねぇんだろ?食料や燃料はラビと一緒に大量に買い込んだからしばらくは大丈夫だろうが、いつまでも宇宙空間には漂ってられないぜ?なぁ、船長?」
「おうよ!目的地はきちんと決めとかねぇとな!」
ラビも大地も、なんかはぐらかされたような気がしたが、2人の言う通りなので先程のことについてそれ以上何かを言うのは止めた。
「そうだな、特に決めてはねーけど……どこでもいい、とにかく水と地面がありそうな惑星に行ってくれ。」
「水と地面がある惑星だと?」
「そんな惑星、この辺にあるんですかい船長?」
「俺もよくわからん。それに、あるとしても見つけられるのかどうかも怪しいもんだ。」
「それなら心配ない。忘れたのかよ、オレと大地は魔動戦士だぜ?自分たちの属性である水と大地のエネルギーを魔動力で感じとることが出来るんだ。だから、近くに水と地面がある惑星があれば感じられるはずさ。」
「そうかなぁ?俺自信ないよ。ラビはいつも魔法の勉強をしてるみたいだからいいけど、俺魔動力なんてこの1年使ったことないんだぜ?」
「ニンジン博士と一緒に石板の欠片を探したときのことを思い出してみろよ。あれと同じ要領だ。」
以前月面でグランゾートをパワーアップさせる、ゾーラクラウンの場所を示した石板の欠片を探した際に、確かに大地たちは、石板から流れてくる魔動力を感じることが出来、そのおかげで石板を見つけ完成させることが出来たのだった。
「あのときと同じなのか?」
「要領はな。とにかく、出来ると思えば出来る!自分の可能性を信じろ、大地!」
その言葉を聞いて大地は思わず笑ってしまった。
「アッハハハ!」
「なっ、なんで笑うんだよ!!」
「ゴメンゴメン。だってその言い方、まるでグランゾートみたいなんだもん。グランゾートもそんなふうに、いつも俺を戦いの中で元気づけてくれたんだ。だからなんか懐かしくなっちゃって。」
ふんっとラビはそっぽを向くが、大地は嬉しいと思う気持ちが抑えられず、笑みを深くする。ラビが自分を元気づけようとしてくれたことがわかるからだ。
そんな2人を交互に見てオセロはため息をついた。
「まぁいいか。じゃあ、そこはオメーらに任せるぜ。おい、ドミノ、操縦室に戻るぞ。いつまでも自動操縦にしておくわけにもいかないからな!」
「電気節約っすね!ガッテン、船長!」
「よし!じゃあ俺らは戻るからな、オメーらは展望台から周囲の様子を報告してくれ。」
「報告って何をだよ?」
「決まってるだろ、ラビ。これから水と地面がある惑星を探すんだから、オメーらは展望台から周囲の様子を見て、その無線で逐一俺らに報告するんだよ。魔動力とやらで探すにしても展望台の方が都合がいいだろーが。」
「そりゃまぁ、そうだけど…。」
「だったらツベコベ言ってねーで、さっさと行け!俺たちも行くぞドミノ!」
「ガッテン、船長!」
そう言うと、オセロとドミノは操縦室に行ってしまった。
ラビと大地は顔を見合わせてため息をついた。世話になってる手前断りにくい。仕方なく2人は展望台まで上がることにした。展望台はかなりの高さにある上に梯子しかないため、上るのはかなり大変そうではあったが。
「ハァ、やっと着いた〜〜。」
「ったく、なんだってこんな高いのに梯子しか上がる手段がねぇんだよ!」
テッペンに着く頃には完全に息が上がっていたものの、展望台からの景色は中々見事なもので、2人とも疲れが吹き飛んだかのように歓声を上げる。
「スゲェ!周り星だらけじゃねぇか!月面だってこんなに沢山は見えないぜ!」
「あぁ、それに見ろよラビ!真ん中の柱のところ、座れるようになってるぜ!」
周りはガラス張りのドームであるため、あちこちに星々が光輝いているのがよく見える。息を呑むほどの満天の星空で、さながら天然のプラネタリウムだった。
展望台の中央には半円状の木製のベンチが2つ、中心の柱を取り囲むように置いてあり、景色を眺めるには最高の場所だった。
「なるほどな。オセロはここであのオバサンと一緒にデートをしたかったわけか。」
「確かに、ここだったらムード満点だもんな。」
オセロがこの場所を作ったときの心境を考えると、ニヤニヤ笑いが止まらず、無線の向こうに聞こえないように2人は声を押し殺して笑い合う。
【おい、オメーら!どうだ、展望台の感想は?】
無線の向こうからオセロの声が聞こえてきた。
「最高だぜ!やるなオセロ!」
「俺たちも気に入ったぜ!」
【そいつぁ、よかったぜ!まっ、景色も楽しみつつ、気軽に見張りを頼むぞ!】
【船長は自分がお杏さんとデート出来なかったもんだから、オメーらに譲ったんだ。有り難く使うこったな!】
【ドミノ!!オメーは、まだ怒られたりねーのか!!】
【すっ、すいやせんです船長……。】
いつものやり取りに苦笑しつつ、ラビと大地は無線を脇に置いて中央のベンチに見張りをしやすいように背中合わせに座る。
「ホントにキレーだな、母さんたちにも見せたいや。」
「マザコン坊やは相変わらずだな。」
「煩いな!そういうラビだって、お母さんと一緒にこんなきれいな星空見れたらなって思っただろ?」
「んなことねーよ!!大体、ラビルーナでは夜にはいつだってきれいな星空が見えるんだ。今更一緒に見ようとか思わねぇよ。」
「じゃあ、ラビはこういう星空は見慣れてるのか?」
「いや、ここまで上も下もわからなくなるくらいの星に囲まれたことはねぇかな。さすがにスゲェって思ったし。」
「ふーん、そうか。」
なんとなく会話が途切れて沈黙が生まれる。気まずいわけではないが、何かを話したいと思った。せっかくゆっくり話せる時間が出来たというのに、何も言葉に出来ないというのは、とてももどかしかった。
『あのさ!!』
2人の声が揃う。
「なっ、なんだよ!」
「ラビこそ、なんだよ!」
「大地から言えよ!」
「ラビからでいいよ!」
「…………。」
「…………。」
このままでは埒が明かない。仕方がないと先に折れたのは大地の方だった。
「あのさ、ラビ。俺さ、どうしてもラビに聞きたかったことがあって…。」
「……何を聞きたいんだよ?」
「……前にさ、闇の魔法陣に飲み込まれて月面に飛ばされたことがあっただろ。それでラビルーナへの戻り方を考えていた俺とガスにお前、俺たちと一緒には行かないって、言ったよな。覚えてるか、ラビ?」
「…覚えてるよ。お前がオレを殴ったときのことだろ?」
「うん、そのときのことなんだけど……。なんでだったんだ?」
「…?なにが?」
「なんであのとき、一緒に行かないなんて、言ったんだ?」
「…………言っただろ、オレは一文にもならないことはしない主義だって。」
「そうだけど、でも、それは建前で本音じゃないんじゃないか?」
「……なんでそう思うんだよ?」
「だって、お前はいいやつだもん。ずっと一緒に旅をして、それがよくわかった。そんなお前が、お金にならないからって途中で投げ出すようなこと、するわけないって思ったからさ。」
「………買いかぶりすぎだ、大地。オレは、お前が思うような、いいやつじゃねぇよ…。」
「いいやつだよ、お前は。前に第5エリアでガブリエルの森を探してたときに会った、弱虫って言われてたタカに、ヨダメラタデなんてデタラメな呪文を教えたのも、おまじないなんかに頼らない本当の勇気をタカに出してほしかったからなんだろ?それに月面でのあのときだって、一緒に行かないなんて言いつつ、ちゃんと俺とガスをアクアビートで助けに来てくれたし、第2エリアのオレンダの村でも千日花を咲かせるために苦手な水に飛び込んだり、色々頑張ってたじゃないか。根が優しくなきゃそんなこと出来るわけないよ。」
「…………。」
「なぁ、ラビ。教えてくれ。何か理由があったんじゃないのか?あのとき、一緒に行かないって言った本当の理由が。」
「………ホントにそんなもんねぇよ、ただ……。」
「…ただ?」
「ただ、もううんざりだったんだよ。戦うのも危険な目に合うのも、お前が……死にそうな目に合うのを見るのも……。」
「えっ、俺が?!死にそうになんてなった覚えないぞ?」
「覚えてねぇのかよ!聖なる火の柱を探して第3エリアを旅していたとき、エヌマにグランゾートの魔動力を吸い取る呪いをかけられて、死にかけただろーが!!」
「……あっ!!」
そこまで言われて大地は思い出した。確かに、あのときはグランゾートが出す技の全てを吸い取られて、ヘルメタルにまでやられてしまうほど、力が出なくなってしまったのだ。
でも死にかけた、というのは少々大袈裟ではないだろうか。
「確かにヤバかったけど、結果的には助かったんだし、聖なる火の柱の方向もわかったんだからさ、よかったじゃん。」
「よくねぇよ、ちっとも!!」
ラビは忘れられなかった。あのときのことが今でも鮮明に思い出される。
ーーー見てごらん?グランゾートはもう死んでいるよ。
ーーーなんだと?!
エヌマに言われて振り返る。複数のヘルメタルに囲まれ、ボコボコにやられて力なく倒れるグランゾート……。その目に……光はない……。
ーーー大地ーー!!
大地!!しっかりしろ、大地!!
「何度呼びかけても、動きもしねぇし返事もしねぇ。もう、駄目かもしれねぇって思った……。あのあと、アクアビートもヒドラムに押さえつけられて身動き取れなくなっちまったしな……。」
「ラビ……。」
「もう、嫌だった…。戦うなんて……あんな辛い目に合うなんて……。暗黒大邪神なんてもんにだって勝てるなんて思えなかったし、大地やガスが傷つくのを見るのももう耐えられなかったんだ……。あのときだって、もしもグランゾートや太陽王が助けてくれなかったら、オレたちは…オレたちは…!」
ラビの言葉に、大地は胸が締め付けられる思いがした。自分たちがどれだけ危ない橋を渡っていたのかは、十分に理解していたはずだったのに…。大地だって怖かった。グランゾートも消えて、月面に戻ってしまって、どうすれば良いのかもわからなくて…。それでも前を向けたのは、きっと何とかなると思えたのは、1人じゃなかったから、ガスとラビがいてくれたからだった。仲間と一緒なら、どんな困難だって乗り越えていけると大地はずっと、本気でそう思っていた。
けれど、ラビは……。
ラビが月面で1人で生きてきた理由、それは大切な人が出来て、その人を失う悲しみや恐れを知りたくなかったからなのかもしれないと、大地は思った。いや、もしかしたら大地が知らないだけで、ラビはそういう経験をしたことがあるのかもしれない。
だからこそ、一匹狼を貫いて月面で生きてきたのかもしれない。オセロやドミノと出会うまで、いや出会ってからもずっと、誰にも心を開かずに…たった1人で……。
だからあのときも、大地やガスから離れようとしてあんなことを言ったのではないだろうか…。大切な人を大切と思う前に、その人たちを失う悲しみを味わう前に、自ら切り離してしまおうと……。
(…だけど……だけどラビは、助けに来てくれた…。だったら、俺は……俺は…!)
「ラビ!」
「?!」
大地は咄嗟にラビの方に向き直って、ラビの両手を掴んだ。
「だ、大地…?」
突然の大地の行動にラビは困惑する。
「ラビ、俺は、そんな簡単には死なない。ラビを、1人になんて、絶対にしないから!約束するよ、絶対!」
「………。」
「だから………俺を、信じてくれ!」
まっすぐにこちらを見つめる大地の目。その目を見てラビは…。
「…………ふっ、アッハハハ!!」
思いっきり笑った。
「なっ!なんでそんな笑うんだよ?!」
「だって、そんな必死な顔して、何言ってるんだよって、ふっ、思ってさ…!こちとら、とっくにお前のこと、ふっ、信じてるっていうのによ!」
肩も声も震わせて笑うラビに、なんだか恥ずかしくなってしまった大地は、もう知らないとばかりに掴んでいた両手を離そうとするが、逆にラビに掴み直されてしまった。
「っ、離せよ!もう知らねーよ!!こっちは真剣に言ってるのに!!」
「ハハ、ワリィワリィ!……あのな、大地。」
「……なんだよ?」
「…………アリガトな。」
「…えっ?」
「嬉しいぜ、ホントに。」
ラビに優しく微笑まれて、大地は言葉に詰まる。
辛そうな表情をするラビに、大丈夫、もう1人じゃないんだということを伝えたかったし、笑ってほしかったのも事実だが、まさか、こんなふうに微笑まれるとは思ってもみなかったのだ。大地は正直、そんな顔をして自分を見ないでほしいと思った。そんな愛しくてたまらない、というような表情で。さもないと、何かが変わってしまうような、そんな気がして…。
大地が顔を赤くしながら俯くのを見て、ラビは自分の中に何かが疼くのを感じた。大地から目をそらさなければ、手を離さなければ、そう思うのに体は全くいうことをきかなかった。大地の手を強く握り直す。
「大地……。」
「……っ!」
小さく呼ばれて、大地は肩を震わせる。ラビの方に目線を送ると、ラビはまっすぐに大地を見ていた。少しずつ、ラビが距離をつめてくる。
「ラビ……。」
「…大地……。」
互いに名を呼び合い、見つめ合い、少しずつ距離が近づく。頭では警笛が鳴るのに、このままじゃ駄目だと理性ではわかっているのに、体も心も、欲して仕方がないのだというように、止まることが出来ない。ドキドキと高鳴る心臓の音が煩いのに、それがとても心地良い。何を求めているのか未だ答えは出ないまま、互いの吐息が顔にかかる………。
2人は考えることを放棄した。苦しいくらいに高鳴る鼓動に、理由のわからない激情の渦に、ただただ身を委ねていたかった。
鼻先同士がぶつからないように顔を傾けて、瞳を伏せる。そして、唇同士が、静かに触れ合う…………。