月虹の鎮魂曲と光の仲間たち   作:ÆM

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新たな仲間

 

 ルビドの話をまとめるとこうである。

 

①この星はもともと鉱山資源豊富な緑豊かな土地だった。だがある日、強い魔力を持つ魔女が遠い星からやって来て、魔法で鉱山をガラスで出来た山に、街をガラスの家に変えてしまったのだ。

②実はこの魔女は大変な遊び好きであり、ガラスに変えたのもゲームの一環で、この星を支配するつもりも征服するつもりもサラサラ無いのだそうだ(街の人から言わせれば、充分支配に値するのだが)。魔女いわく、もとの街や鉱山に戻してほしければ、自分が作り上げた魔法のガラスを打ち砕けば良いとのこと。

③だがそのガラスは、どんなに強靭なハンマーで壊そうとしても欠けることすらないのだと言う。

④魔女が言うには、ガラスを砕くのは力ではなく、他者同士がお互いを愛し信じ合う、強くて情熱に燃え盛る炎のように熱い心であるとのことだった。

⑤熱い心の持ち主がガラスに触れれば、ガラスはたちまち砕けて跡形もなく消えるのだという。もしガラスを打ち砕くことが出来たのならば、素直に負けを認めて山も街も元の姿に戻すのだと言う。

 

「今までに何人も挑戦した者がいたのですが、誰もガラスを砕くことは出来なかったのです。それどころか……。」

 悲しげでどこか諦めたように頭を振るルビドに、一同は何事かと目を見張る。

「挑戦した者全員が、その後破局したのです。」

『は????』

 4人の声がこれまた見事に合わさる。ルビドは説明を続けた。

 

「挑戦した全員がお互いに恋人同士でした。情熱の如く愛し合う心がガラスを砕くと聞いて、これ見よがしに自分たちがいかに愛し合っているのか、信じ合っているのか、まるで愛情を測る心理テストでもやるような浮ついた気持ちで挑んでいきました。ですが、あのガラスを打ち砕いた者はおらず、結果的には、あなたは私のことを愛してなんかいなかっただとか、私への気持ちはその程度のものだったのかだとかで、恋人同士だった全員が別れることになったのです。」

 

 ここまで説明されて、ようやく大地たちは合点がいった。つまり、そのガラスを砕くために挑戦した恋人たちは、それを成し遂げることが叶わず、お互いの気持ちが信じられなくなって関係が崩壊してしまったと。そして、親の反対を押し切って駆け落ちするほどの情熱を持って共にいる大地とラビであれば、難攻不落の城とも言える魔女の作った魔力ガラスを打ち砕けるのではないかと。

 

「つまり、その魔力ガラスを打ち砕く役をオレと大地に頼みたいと、こういうわけか?」

 ラビがルビドに聞くと、ルビドとエメラが頷いた。

 

「お願いします。もうこの街にはそれほどの情熱を持った熱い心の持ち主など、とうにいないのです。」

「みんな、まるでガラスのように壊れやすくて、今にも割れてしまいそうな弱い心になってしまったの。どうか、お願いです!この街を、この街の人たちを、助けてください!」

 ルビドはとても辛そうに目を伏せ、エメラは最後には言葉が丁寧語に戻るほど切羽詰まった様子で頭を下げる。

 

 こうも頼まれてしまっては非常に断りにくいのだが、そもそも大地とラビは恋人でもなんでもない。あくまで友だちで、同じ魔動戦士で、大切な仲間なのだ。だが、この状況で、しかも先程恋人の関係を否定しそびれてしまったというのに、そんな言い訳をしても信じてもらえるかどうか怪しいものだ。

 

「えっと、あの、そうお願いされると、言いにくいんですけど、僕とラビじゃ難しいんじゃないかなぁ…。」

「そうそう、今までにもそんなに挑戦者がいたのに、誰一人ガラスを砕くことが出来なかったんだろ?オレと大地だって出来るかどうか…。」

 

「いいえ!きっと出来るわ!」

 大地とラビがどう断ろうか言葉を探していると、エメラがずいっと身を乗り出してきた。

 

「あなたたちを見て、ピンときたのよ!言葉や態度は普通の友だちを装っているけれど、お互いに意識をし合っているのが丸見えだったもの。お互いを大切に想い合っているあなたたちなら、絶対にあのガラスを砕けるわ!」

 

 先程から、本当に色々と、恥ずかしいことを面と向かって言われてしまって、無意識に顔が赤くなってしまう大地とラビ。それをまた指摘されるのが嫌で2人が俯くと、横からオセロとドミノに突っ込まれた。

 

「いいじゃねぇか、オメーら。人助けと思ってやってやれよ。オメーらなら、もしかするともしかするかもしれねぇぞ?」

「船長の言うとおりだぜ、2人とも。上手いお茶もご馳走になったことだしよ、やってやりゃあいいでねーか。」

 

「あーーーもう!!ゴチャゴチャうるせぇ!!」

 急に頭をかきむしってラビが立ち上がる。

 

「何もガラスばかりに拘ることはねぇだろ?要するにその魔女を倒しちまえば、そいつが作ったガラスだって消えてなくなるんじゃねーの?」

「そうだ、きっとそうだよ!大丈夫、俺たちがそんな悪いことをする魔女を退治してやるよ!そうすれば、この街も星もガラスから解放されるよ!」

 

 ラビの言葉に大地も乗っかる。ようやく活路が開けたと、2人にいつもの勢いが戻るが、ルビドとエメラは複雑そうに顔を見合わせる。

 

「ですが、魔女と戦うだなんて……。」

「そうよ、あまりにも無謀すぎるわよ……。」

 心配そうに呟くルビドとエメラに、ラビと大地はニヤリと笑って言った。

 

「心配ご無用だぜ、お二人さん。オレたちは、月の危機を邪動族の魔の手から救った魔動戦士なんだ。」

「魔動力を使えるから、魔法を使う魔女とも渡り合えるよ。なんなら魔動王を呼び出してもいいしね。まぁ、俺たちに任せておいてよ。」

 

「魔動戦士?」

「魔動キング?」

 

 初めて聞くワードにルビドとエメラは首を傾げているが、大地とラビはもうやる気満々で。互いに感じている理屈では説明できない感情に対する戸惑いや、心の中に突然生まれた互いへの今までにない新たな感情に対するモヤモヤを吹っ切るため、臨戦態勢を取ることにした。

 

「そうと決まれば、早速出掛けようぜ!どこに行けばいいんだ?」

 ラビが言うと、エメラがため息をついて立ち上がる。

 

「わかったわ。ガラスの魔女の所までは私が案内するから、ついてきて。それと何度も言うようだけど、外に出たら、静かにお願いね。」

「それなんだけどさ、どうしてあんなに静かにしなくちゃいけないの?」

 

 大地はずっと疑問に感じていたことをエメラに聞く。ガラスの魔女を起こさないようにするためとは言っているが、あんなにコソコソとしなくてもいいのではないか、そもそも今魔女は寝ているのか、だとしたら行ったところで果たして出てくるのだろうか、と思考を巡らせているとエメラが答える。

 

「普段、魔女はガラスの中の自分の家で寝ているの。そして1日のうち一度、4時間だけ目を覚ましてガラスの中から出てくるの。そして魔法で新たなガラスを増やしたり、模様替えすると言って所々ガラスの色に青の明暗を付け足したり、ガラスの形を様々な形に変えたりするの。特に大きな被害は今のところないんだけれど、魔女は寝ているのを邪魔されるのが何よりも嫌いなんですって。一度、うるさくしちゃって魔女を怒らせた人が三日三晩ガラスの中に閉じ込められて…。解放はされたんだけど、精神的におかしなことになってしまって……。魔女が言うには、今回はこれくらいで許すけど、次同じことをしたらただじゃ置かないって……。」

 

 その時のことを思い出したのだろう。身震いするエメラの背中をルビドが優しく撫でる。

 

「ちなみに、このガラスの家は魔女が作ったものですから、防音効果があるらしく、大声を出しても外に聞こえることがないんです。ですから、声に関しては外にいるときのみ、気をつけていただければ大丈夫ですよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 大地は、怖いのを我慢して話してくれたエメラと優しく忠告してくれたルビドに丁寧にお礼を言った。

 

「じゃあ行くとするか。エメラ、道案内頼んだぜ。」

 ラビが言うと、エメラは頷いた。

 

「いい?外に出たら、くれぐれもっ、きゃあ!」

「あっ、あぶねぇ!!」

 

 エメラはテーブルに足を引っ掛けたようで転びそうになった。それをすんでのところで、ラビが抱える。その拍子に、エメラが被っていた帽子が取れてしまった。

 

「?!そっ、それは……!」

「えっ、まさか、君たちは……!」

『ウサギ人間??!!』

 

 ラビと大地が呆然とし、オセロとドミノが声を上げる。

エメラの帽子の下に隠れていたのは、長い長いウサギの耳だった。その色は、今まで出会った耳長族の中でも見たことがない青い空色だった。

 

「……お兄ちゃん、ごめんなさい!!」

 エメラがルビドに抱きつく。その背を優しく撫でながら、ルビドも帽子を片方の手で外した。その下からは、エメラと同じ青いウサギの耳が現れた。

 

「どうも、驚かせてしまいましたね。私たちは耳長族という種族で、青耳族といいます。遠い昔、私たちの祖先は遥か彼方の遠い星からこの星に移住してきたのです。何でも種族同士の抗争に巻き込まれて、自分たちの星を捨てて逃げなければならなかったとかで…。随分昔のことですので、私たちも詳しくは知らないのですけれど。」

 

 ラビと大地は唖然としてしまった。まさか、こんなところで、耳長族の血を引き継ぐ者たちと出会うなんて…。だが、大事な秘密を不本意とはいえ話してくれた兄妹を前に、いつまでも唖然としている理由にもいかず、ラビは自分の頭の布に手をかける。

 

「怯えなくてもいいぜ。耳長族のことについてはオレたちもよく知ってるんだ。まさか、こんな遠い星で仲間に会えるなんて思いもしなかったから驚いちまっただけだ。何もしやしない、安心してくれ。」

『仲間??』

 ルビドとエメラが声を揃える。一体どういうことなのかとこちらを見てくる2人に、ラビは微笑んだ。そして、頭の布を取り払う。

 

『あっ!!』

 布の下から現れた長い耳に、ルビドとエメラは目を見張った。

 

「ちなみにオレは高耳族っていうんだ。」

 

 ニカッと笑うラビにルビドとエメラは顔を見合わせ、ホッと息をつく。どんな反応を返されるか内心怖くて仕方がなかったので、自分たちの存在を受け入れてくれたことや自分たち以外の耳長族に出会えたことで、肩の力が抜けたのだ。

 

「私もお兄ちゃんも驚いたけれど、同じ耳長族に、仲間に会えてとっても嬉しいわ。」

 エメラはラビに向かってにっこりと笑う。

「え、あぁ、うん、オレもだよ。へへへっ。」

 

 帽子を取ったエメラは、思わず振り返って見てしまうほどに可愛らしかった。帽子の中に隠していたらしい長い髪はポニーテールになっており、明るいオレンジの髪色に瞳は空色の耳以上に真っ青だった。ちなみにルビドはエメラと同じ髪色、同じ瞳の色で、唯一の違いといえば、髪の長さと背丈くらいなもので、2人はまるで双子のようだった。

 

 エメラの透き通るような青い瞳に見つめられて、ラビは照れたように頬を掻きながら、いつものように口説き始める。大地はそれを見てコホンと咳払いをするが、ラビは気にした様子もなく、話に花を咲かせている。ラビの口説き文句をエメラは軽くあしらいながらも楽しげに会話する。本当に可愛い笑顔だった。

 大地はそれが、やっぱり気に食わず、ふい、とそっぽを向く。なんでまたもやこんな気持ちにならなければいけないのか。何が面白くないのか……。

 

 実のところ、大地の中でとうに答えは出ていた。宇宙船の中でラビとキスしそうになったあのときから。大体、大地は好きでもなんでもない相手に、ましてや男に口付けを許したりするほど、軽薄でも尻軽でもない。だが、それを認めるのが怖くもあり、癪なのだ。女好きのラビに男の自分が恋をするなんて、はなから叶わないとわかっているのに何故認めることなど出来ようか。

 

(あのときのラビは、きっと、流されたんだ……。もともと調子のいい奴だし、俺とのことなんて犬にでも噛まれたぐらいにしか、思わなかったんだろうな…。俺は、初めてだったのに……。)

 

 大地は自分の考えに自分で落ち込む。そして、やはり認めることなど出来ないと、認めないと強く思った。

 そんな思考の海に沈んでいた大地は、全く気付かなかった。ラビが、エメラと話しているように見えて実は、大地の方をチラチラと見ていたことを。嫉妬しているかのような表情を浮かべる大地を見て、その口元をだらしなく緩めていたことを。

 そんな2人を見てエメラは、クスクスと声を潜めて笑ってから言った。

 

「さてと、じゃあ出発しましょうか!魔女が住んでいるのは、ガラス山の中腹なの。途中まではちょっとした登山になるから、覚悟しててね!」

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