月虹の鎮魂曲と光の仲間たち   作:ÆM

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自覚した想い

 

「へぇー!じゃあ君たちの服って、1から手作りなんだ!」

「そうなの。この星は今はガラスで覆われてるけど、繊維を作るのに必要な畑や作物を育てるのに必要な土地は昔の緑豊かな星だった頃のまま残ってるの。」

「でも、なんでそこだけ残ってるの?」

「ガラスの魔女が、私たちの星の衣服や食べ物を気に入ったからガラスにしないでそのまま残しておきたいんですって。」

「ふぅん。なんだかガラスの魔女って悪いやつというよりは、ただ単純にワガママなだけのような気がしてきたよ。」

「ふふっ、そうとも言えるわね。私たちは、ちょっと迷惑してるけどね。あと、大地さん、声をもっと小さくよ。」

「えっ、あぁ、ゴメンね…。」

 

「チッ、大地のやつ……。」

 

 思いっきり顔をしかめてラビが呟く。外に出て、ガラス山に登り始めてから、大地がこの星の服や食べ物、生活や文化などに興味を示して、エメラに尋ねたところ、自分たちの生活や文化に興味を持ってくれたことが、とても嬉しかったらしく快く解説してくれているのだ。小さな声なのは変わりないけれど…。

 おかげで大地とエメラはすっかり意気投合しているのである。今度はラビが不貞腐れてそっぽを向いた。

だがそれは、せっかく仲良くなった可愛い女の子を大地にとられたことに対してイライラしているのではなかった。

 

(なんだよ、大地のやつ…!オレと話してるときだって、あんな楽しそうな顔をすることなんてないのに……。)

 

 そんなふうに考えてしまい、ラビは額を押さえる。何を考えてるんだ、大地は男だぞ。それなのに、なんだってこんな気持ちにならなきゃいけねぇんだよ……。

 

 そんなことは、ラビの中で既に答えは出ている。宇宙船の中で大地の唇に僅かに触れた、あのときから。確かに今までラビは何人もの女の子を口説いてはきたが、あんなふうに誰かと口付けをしようとしたことなど、ただの一度だってない。ラビだって好きでもなんでもない相手と、ましてや男とキスをするなんて冗談ではなかった。それを許したのは、きっと大地だから……。だけど、そんなふうに思っているのは自分だけなのだろう……。

 

(大地は過度にお人好しのところがあるからな…。あのときは、きっと、その場の雰囲気とやらに、乗ってくれただけなんだろうな…。アイツは、誰かを拒絶するようなやつじゃねぇから…。でもオレは、初めてだったんだぜ、大地……。)

 

 胸が締め付けられる。こんな痛みは初めてだった。叶うわけない、叶う望みすらない。だからこそ、こんな気持ちは、認めるわけにはいかないとラビは強く思った。これ以上、傷つくことがないように。普通の、友だちでいられるように。

 ラビは、大地の背中をじっと見つめて思う。

 

(友だちでいられれば、たとえアイツの隣に別の誰かがいても、きっと笑って、幸せになれよって、言ってやれる。そしたら、この馬鹿げた駆け落ちの話も、思い出の1つとして笑い話になる……。けど、オレは嬉しかったぜ…。嘘とはいえ、お前がオレとの駆け落ちを承諾してくれたこと……こんなふうに、お前と、過ごすことが出来たこと……。)

 

 涙が浮かんできて、慌てて袖で拭う。幸い、前の2人は気付いてないみたいでホッとする。こんなところを見られたら何を言われるかわかったものではない……。

 

 そんなラビを、後ろからついてきたオセロとドミノが見ていた。そして2人にしては珍しく、やたらと小さな声でコソコソと話す。

 

「なぁ、船長。ラビのやつ泣いてますぜ?行かなくていいんですかい?(小声)」

「馬鹿やろう、泣いてんのを知られたくねぇから、あんなふうに隠そうとしてるんだろうが!(小声)」

「ですけど、船長、俺たちに何か出来ることないですかねぇ、見てるこっちが辛くなっちまいやす。(小声)」

「だったら黙って見守ってろ!本当に俺たちに相談したいとラビが思ったら、向こうから言ってくる。それまで待ってろ、いいな!(小声)」

「ガッテンです、船長!(小声)」

 

 そうこうやり取りをしているうちに目的地に着いたらしい。エメラがこっちよ、と指差す方を見ると、そこだけが今までの山道と違い、広場のように開けた場所に出た。そしてその中央に直径が10メートル以上ありそうな巨大な穴が空いていた。

 

「この下に魔女の住処があるの。今はそこで寝てるけど、起きたらこの穴から箒に乗って空を飛んで出てくるの。」

「へぇ、箒に乗るんだ!本物の魔女って感じ満載だね!」

「大地さん!声を小さく!」

「あっ、ゴメン…。」

 

「おい、なんだよあれ。」

 ラビが穴の中央に見える巨大なガラスの塊を指差す。

 

「あれが魔力ガラスよ。」

 エメラが声をさらに潜めて答える。

 

「デケェな……3〜4メートルくらいあるんじゃねーか?」

 ラビが聞くと、エメラが頷く。

 

「ええ、この穴の深さが8メートルといったところだから、大きさはその半分といった具合ね。」

「やけに詳しいじゃねぇか。長さなんて、そんな正確にわかるもんなのか?」

 

 オセロが穴を覗き込みながら聞くとエメラは、わかるわよと、さも当然のように言う。そして何故か穴の横に大量に積んである、かなり丈夫そうな長いロープを指差した。

 

「この穴に降りるために用意されたものよ。このロープは20メートルくらいの長さがあるんだけど、このロープを穴から少し離れたところにある、あのガラスの岩にしっかり結んで、投げ入れるの。」

 

 エメラは説明しながら、その手順通りに進めていく。そして、ロープを穴の中に投げ入れると、ガラスから岩までの長さを、指で10センチずつ幅をとって数えていく。

 

「後で岩に巻いた部分のロープの長さを測れば、この岩から穴までに使うロープの長さがわかるでしょ?そうすれば、穴に入れたロープの長さをもとの長さから引いて算出するってわけ。もちろんピッタリとはいかないから多少の誤差はあるでしょうけど。」

 

 淡々と答えるエメラに一同は目を丸くする。簡単に言ってのけるが、そんな容易いことではないはずだ。物差しのような物も、メジャーのような物もないというのに、今のように指の長さを目安にするだけで、物の寸法が測れるのだとしたら、とんでもない計測能力である。驚いて声も出なくなっている4人に向かってエメラはちなみに、と付け加える。

 

「私たち青耳族は、とっても頭の回転が速い種族で、中でも計算といった数字を用いる事柄に関しては特に長けていたそうよ。」

 あぁそれでかと、皆が妙に納得したところで話が戻る。

 

「さぁ、このロープで穴の中に入れるわ。大地さん、ラビさん、お願いします!」

 エメラが頭を下げてくるので、大地とラビは頭に?を浮かべる。

 

「このロープを使って下に降りて、魔力ガラスに手を繋いだまま2人同時に触れるの。そうすれば、ガラスにヒビが入って、跡形もなく粉々に砕けて消えるんですって。」

「いや、俺たちは魔女と戦いに来たんだよ?ガラスは別に関係ないんじゃ……?」

「いいえ、関係あるわ。」

 大地が言うと、それを遮るようにエメラが話し出す。

 

「魔力ガラスは、魔女の力の源でもあるんですって。だから、魔力ガラスを打ち砕かないと魔女の力も弱まらないのよ。魔女の力はとても強いから、弱まらせないと倒せないわ。戦うにしても、あの魔力ガラスは砕いておかないと。」

 

『……なんで、それを先に言わないんだよ!!(小声)』

 

「だって、言ったらあなたたち、ここへは来なかったでしょ?あのガラスに触れること、嫌がっていたみたいだし。」

 

 青耳族は頭が切れるというのは、どうやら本当のようだ。

こちらの意図をわかっていた上で、肝心なことはギリギリまで言わず、断れない状況を完璧に作り出してから言うなんて、とんだやま師である。

 

「じゃあ、お願いしますね。」

 

 手を振ってニコニコしている、というよりはこれから起こることを楽しみにしているといった様子のエメラを苦々しく見つめてから、大地とラビは顔を見合わせてため息をつく。

 

 ここまで来てしまってはやるしかない。取り敢えず穴の下に降りることにした。大地がロープを掴もうとすると、ラビがそれを制止する。振り返ると、ラビが親指を立てて自分の方に向けていた。自分が先に降りるということらしい。大地は別にどちらが先に降りても良かったため、素直に譲る。

 

 ラビがロープを掴んで穴の中に入る。穴の側面もガラスで出来ているため、足を滑らせないように気をつけていく必要があり、下に降りるまでにラビでも5分は時間がかかった。最後はトンッとガラスの壁を蹴って、地面に着地する。上に向かって手を振り、降りてきても良いと合図を送る。

 

 穴の外からハラハラ見守っていた大地たちは、それを見てふぅーと安堵の息を吐いた。そして今度は大地が、ロープをしっかり掴んで、ゆっくりと穴に入っていく。ツルツルしているガラスの壁を足裏で押し付けるようにして、ほとんど腕の力に頼って降りていく。

 かなりキツかったが、なんとかあと残り半分といった所まで来た。もう少し下に降りれば、あとはラビがしたみたいに壁を蹴って降りれば良いと、大地は少しばかり気を緩めてしまった。半分を切ったところで、ガラスの壁に押し付けていた足が滑ってしまったのだ。一気に腕に体重がかかり、腕は身体を支えきれず、大地の手はロープから離れてしまった。

 

『?!』

 

 全員が息を呑む。オセロとドミノが声を上げそうになってお互いの口を掌で塞いで遮っているのを、エメラが両手で口を押さえて顔を耳以上に青くしているのを大地は目の端に捉える。ラビの方は、見ることが出来ずどんな顔をしていたのかはわからなかった。

 

 そんな状況下、大地は悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えたが、この高さから固いガラスの床に落ちれば流石に軽い怪我では済まされない。せめて少しでも衝撃を減らそうと、身体を大きく捻って下向きになり、足を下にして身体を前屈させ、両腕を広げる。そして目を瞑って衝撃を覚悟するが、いざ来た衝撃は、ガラスの床に激突したものではなくてもっと柔らかい、何かに包まれたかのようなもので……。

 慌てて目を開けると、真っ先に目に飛び込んできたのは、ガラスの床とラビの髪だった。ラビが落ちてきた大地の身体を正面から抱きとめ、そのまま支えきれずに床に倒れてしまったのだ。

 

「?!ごめん、ラビ!大丈夫か……!」

「っ、いってぇ……それは、こっちの、セリフだぜ……!」

 

 おかげで大地は、あの高さから落ちたというのに掠り傷1つしなかった。ラビの方も尻もちはついたが、目立った怪我はないようで大地はホッとする。

 

「……いい加減にどけよ、大地!重いんだよ!」

「ごっ、ごめん…。今どくよ……うわっ!」

「はっ?!」

 

 急に足を滑らせて落ちたためか、腰が抜けてしまったようで大地は足に力が入らず、おまけにツルツルとしたガラスの床だったために足が滑り、さらにラビに体重をかけることになってしまった。

 身体同士が密着して、抱きしめ合うような格好になる。

互いの息使いから、鼓動まで、何もかもが密着した身体を通して伝わってくる。ドクン、ドクンと高鳴る心臓の音までもが伝わってしまうようだった。

 

「………!」

「………!」

 

 もう、駄目だと思った。

 

 大地もラビも、叶わない想いなら目を背けて、認めなければいいと思っていたが、こんなにも近くにいて、抱きしめ合って、互いを感じて。認めない方が無理だった。

 鼓動が速くて、胸が苦しいのに、もっと近くにいたい……もっと近くで感じたい……もっと自分のことを見てほしい……。そんなふうに思ってしまう相手を、勘違いだとか、気の迷いだとかで片付けてしまえるはずがなかった。

 

(なんで、俺、こんなにもラビのことを……。)

(オレ、いつの間に、こんなに大地のことを……。)

 

 知らず知らずのうちに、お互いを抱きしめる腕に力が入る。こんなふうに抱きしめていられるのも今だけかもしれないと、そう思うと、どうしても離れがたくなってしまった。

 

「……ごめんラビ…。俺、足に力が、入んなくて……。」

「……ったく、しょうがねぇな…。立てるようになるまで、待っててやるよ……。」

 

 なんとかそれだけ言った。大地は、納得してもらえる良い言い訳が出来て良かったとホッとして、ラビは、大地をもう少しの間、抱きしめていてもいい理由が出来たので、これ幸いとそれに乗じる。

 

「…………。」

「…………。」

 

 互いの体温と息使いと速まる鼓動だけを感じる。それがこんなにも心地良いだなんて知らなかった。抱きしめ合うのは何も初めてではないのに、こんな気持ちになってしまってからは、近くにいるだけで、見つめ合うだけでもう、気持ちが溢れて止まらなかった。

 

(…好きだよラビ……こんなにも、お前のことが……。)

(…好きだ大地……。誰よりも、お前のことが……。)

 

 

 〘……大好きだ。〙

 

 言葉には出来ない、伝えることの出来ない想いを心の中で反響させる。互いのその想いがピッタリ重なっていることなど、当の本人たちは知る由もないのだ。

 

「……もう大丈夫、立てるよ。ありがとう、ラビ…。」

「…フッ、いいってことよ。気をつけて立てよ、大地…。」

 

 互いに離れることを名残惜しく思いつつ、なるべく自然に振る舞うように努めた。たった今自覚したその想いを、決して悟られることのないよう、細心の注意を払って。

 

「おい、大丈夫かー?(小声)」

 

 上から聞こえたオセロの声に2人はハッと我に返り、今の今まで見られていたことにようやく気付く。急に恥ずかしくなってきて、慌てて立ち上がる。

 

「大丈夫、俺は掠り傷1つしてないから。」

「オレもちょっと転んだだけでなんともねぇよ。」

 

 比較的明るく、けれど小さな声で、2人は上に向かって応える。オセロとドミノ、エメラはそれを聞いてホッと胸を撫で下ろす。特にエメラは、自分がロープを使ってこの穴に降りるよう指示したため、もし2人に万が一のことがあったらどうしようとずっとビクビクしていたのだ。だからこそ、2人の無事を確認することが出来て、本当に安堵したのだ。

 

「ごめんなさい、私がこんなことを頼んでしまったばっかりに…もっと注意を促すべきだった……ううん、他にもっと安全な方法を考えるべきだったわ……本当にごめんなさい……。」

 

 さっきまでのニコニコと楽しげなエメラの様子からは、想像ができないほどの落ち込みように、大地とラビは再度大丈夫だからと声をかける。

 

「本当に大丈夫だから。俺が不注意だったんだよ。まだ途中までしか降りてないのに、気を緩めたから…。俺の方こそごめんね、心配かけて。」

「大地もこう言ってるんだから、そんな落ち込むなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」

 

 最後のラビの台詞に大地はムッとするが、エメラを元気づけようと思ってのことだと思い直すことにした。

 

「それで、俺たちはこれからどうすればいいんだっけ?」

 大地が本題を切り出したことで、エメラはようやく顔を上げた。

「その魔力ガラスに2人で同時に触れるの。このとき、空いている片方の手は繋いでおくのよ。ちなみに繋ぐ手は、指同士を絡める繋ぎ方にするのよ。」

 

 言われたとおりに、大地とラビは手を繋ぐ。先程芽生えた想いを、内心の動揺を、ポーカーフェイスで必死に隠して。

そして、魔力ガラスに2人で同時に触れた。

 

 何も起きる様子がない…………と思った瞬間。

 

「うわぁぁぁぁあ!!」

 

『????!!!!』

 

 ラビが突然悲鳴を上げた。全員がビックリ仰天してラビを見る。なるべく小さな声で、レベルの話ではない。大地は落ちたときの悲鳴さえ飲み込んだというのに、一体何事なのか。だが、ラビはそれどころではない様子で、震える手でガラスを指さしている。

 

「どうしたんだよ、ラビ!」

「…………ヌルっとした……!」

「………………お前なぁ!!!」

「オレがヌルヌルしたものが大の苦手なの知ってるだろ!」

「だからって、何もそんな大声出すことないだろ!何事かと思ったじゃねーか、騒々しい!!」

「しかたねーだろ!!ヌルヌルしたものを見ると身体中に蕁麻疹が出来んだよ!!あぁっ、気持ちが悪い!!」

「静かにしろよ!ガラスの魔女が起きちまうだろ!!」

 

 

「もうとっくに起きてるわよ。」

 

 

 後方から聞こえてきた凛とした声にビクッとする。上ではオセロとドミノが腰を抜かしており、エメラは大地が落ちたとき以上に顔を青ざめさせていた。大地とラビは、冷や汗を流しながら、顔を見合わせて、後ろを振り返った。

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