「なによ、あなたたち知り合いなの?」
ベリタスはシャマンとエヌマを睨みつけたまま、大地とラビに聞いた。戸惑っている大地たちの代わりにシャマンが答える。
「この者たちとは浅からぬ因縁があってな。二度と会うことはないと思っていたのだが、こうして再び巡り会ったのも何かの縁。悪いがガラスの魔女よ、この子どもらは私たちが貰っていく。」
「ふん、何を生意気な……!この子たちは私に用があるのよ?部外者は引っ込んで……!」
「あらあら。そんなこと言って、もしここであたしたちと一戦交えたりしたら、あなたご自慢の魔力ガラスが可哀想なことになってしまうわよ。それでもいいのかしら?」
エヌマが言うと、ベリタスは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「っ!!……わかったわ、少しだけ時間をあげる。次に私が目覚めたときが勝負よ、覚悟してなさい!!」
捨て台詞を吐きながら、ベリタスが小さく呪文を唱えるとその身体が白い霧で包まれて、霧が晴れるとベリタスの姿はそこにはなかった。
「大丈夫か、光の戦士たちよ。」
今だ尻もちをついて呆然としている大地とラビに、シャマンが振り返り声をかけた。ハッとして、大地とラビはゆっくりと立ち上がる。
「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう、助けてくれて。」
「にしても、なんでオマエらがこの星にいるんだよ?故郷に帰ったんじゃないのか?」
「帰ったわよ。でもその後しばらくして、あたしとシャマンは旅に出たのよ。」
ラビの疑問にエヌマが答えた。
「詳しいことは後で話そう。今は、ここを出るんだ。」
シャマンの言葉にエヌマが頷く。大地とラビもそうしたかったが、大地は転んだときに、ラビは尻もちをついたときに足を捻ってしまっていた。ロープではもう、とても登れそうにない。ロープを身体に巻き付けて、上にいるオセロたちに引っ張ってもらおうか、と考えたところで、シャマンが大地を、エヌマがラビを、ヒョイと横抱きにして抱え上げた。
「なっ、何するんだよ、シャマン!!」
「はっ、離せよ、エヌマ!!」
「おまえたち、怪我をしているではないか。そんな足でこのガラスの壁は登れまい。」
「上でアンタたちの仲間が心配しているでしょう?早いとここんなところ出て、元気な姿見せて安心させておやりよ。」
恥ずかしさのあまりジタバタする大地とラビを至極真っ当な台詞で黙らせる。連れて行ってくれるというのに、仲間に引っ張り上げてもらうからいい、などとはとても言えない。
だが、大地はもと敵対していたシャマンに、ラビは女性であるエヌマに、いとも容易く抱え上げられてしまったことに少なからずプライドが傷ついてしまい、2人の厚意を素直に受け取れずに俯く。
しかし、そんな大地とラビの態度をシャマンとエヌマは特に気にした様子もなく、人一人抱えているとは思えない身軽さで飛び上がり、穴の上に着地する。そして、2人の足に負担がかからないようにゆっくりと地面に下ろした。
「ラビ!大地!オメーら、無事だったか!!」
シャマンとエヌマに抱えられて戻ってきた大地とラビをオセロが2人一緒に抱きしめる。横ではドミノが目に涙をいっぱいに溜めて、良かった良かったと頷いている。エメラも堪えきれずに溢れた涙を拭って微笑んでいる。
途端に大地とラビは、仲間に心配をかけさせてしまったことに今更ながら罪悪感を覚え、頭を垂れる。
「ごめんなさい。心配かけて…。もう大丈夫だから…。」
「オレも、ごめん……なさい。だから、もう泣くなよ…。」
「いいんだ、いいんだ、オメーらが無事なら、それで…!」
なおも泣くオセロに、なんと言っていいか分からず大地とラビは困ったように顔を見合わせる。そこにドミノが助け舟を出す。
「船長。泣いてねーで、2人の足の手当て、した方が良いんでねーですか?」
そこでようやくハッとして、オセロはラビと大地を離す。
「あっ、あぁ、そうだったな!よし、こっからは俺がオメーら2人をおぶっていくぞ!!」
「?!いや、いいって、オレたちもう大丈夫だから、なぁ、大地?」
「そっ、そうだよ!歩くくらいホント問題ないから!」
「そんな腫れた足して何言ってやがる!やっぱり俺がおぶって、船に連れてくぞ!」
「いいんだってばオセロ!だったらオレが大地を、大地がオレを互いに肩を貸し合いながら船に戻る!それなら文句ねぇだろ!」
「………そうか?なら別にいいけどよ…。まぁ、ゆっくり来いや。」
「??」
やけにアッサリ引き下がるオセロにラビは首を傾げる。大地を見ると、大地もオセロが引き下がったことにホッとしつつも、急に態度を変えたことに意味がわからないといった様子で同じように首を傾げている。
「あぁ、そうだ。オメーらも来いよ。コイツらの知り合いなんだろ?積もる話もあんだろうし、コイツらを助けてくれた礼もしてぇからな。」
オセロがシャマンとエヌマに声をかける。
「かたじけない。」
「有り難くそうさせてもらうわ。あの子たちに聞きたいこともあるし。」
シャマンとエヌマが頷くと、エメラが声をかけた。
「ねぇ、だったら、私の家に来ない?シャマンさんとエヌマさんが来てくれたらお兄ちゃんも喜ぶわ。あれ以来、会えてなかったんですもの。」
「なんだ、オメーら知り合いだったのか?」
オセロが頓狂な声を上げる。エメラが頷いた。
「そうなの。お二人がうちにいらっしゃったのは、7日ほど前のことよ。他の星からのお客様なんて、本当に久しぶりだったから、私たち嬉しくて。でも、うちに来てガラスの魔女の話を聞いて、すぐに行ってしまわれたの。それから会えていなかったものだから、心配で心配で。」
「その節はすまなかった。私たちの知っている魔法使いとはどうも違うようで、気になってしまってな。」
「心配させてしまっていたのね。ありがとう、是非寄らせてもらうとするわ。」
シャマンとエヌマが微笑むと、エメラは嬉しそうに笑い返した。
「それじゃあ、行きましょう!」
「よし、じゃあ、エメラのうちに行くとするか!大地とラビも早く来いよ!あっ、だけど足を怪我してるんだからな、無理はするなよ!」
「船長、難しい注文じゃねぇですか?それ。」
「いいから、ドミノ、テメェも早く来い!!」
「ガッテンです、ハイ…。というか、船長!あんまり大声出すとマズイんじゃ……。」
ドミノが最後の方の声を小さくしながら言うと、エメラが大丈夫、と頷いた。
「魔女は今寝たところだから、当分目を覚まさないわ。寝た直後は眠りが深くて、少し騒いだくらいじゃ起きないの。」
「あぁ、そうか…良かったですねぇ、船長!」
「ったく、面倒くせぇ魔女だな…。」
そんな話をしながら、オセロたちはさっさと行ってしまった。なんだか大地とラビだけ取り残されたような気もしないでもないが、気にしても仕方ないと思い直す。
「しょうがねーな。ほら、大地。オレの肩に掴まれよ。」
「あぁ。じゃあほら、ラビも俺の肩に腕を回せよ。」
互いの足を気遣いながら、よいしょと互いの肩と背中にそれぞれ腕を回して支え合う。そして歩き出そうとして、大地とラビは、何故オセロが素直に引き下がったのか、その理由がやっとわかった。
「……。」
「……。」
ただ単に支え合っているだけなのだが、こうまで密着してしまうと嫌でもさっきしたことを、重なり合った唇の感触を思い出してしまい、身体に、顔に熱が集まってくる。
さすがにあれは勘違いとか雰囲気に流されて、とかいう理由ではないことくらい、2人にだってわかる。恥ずかしくて顔が見られないのに、密着しているせいで互いの呼吸も体温も全て伝わってしまって、いたたまれない。
オセロのあの態度は大地とラビを2人きりにしてやろうと気を利かせてのことで、要するに馬に蹴られたくないから、といったところだろう。
オセロのやろう、とラビが苦々しく呟いたのが聞こえて、大地は苦笑した。こんなにも近くにいて身体を支え合っているというのに、ラビの態度がいつもと大して変わらないことに少しばかりホッとしたのだ。あんな触れ合いをしてしまった以上、こちらの気持ちはモロバレだろうし、そして、ラビも冗談であんなことを仕掛けてきたのではないのだろう。かといってこれから先、自分たちの関係が変わるかもしれないなんて、想像がつかなかった。
それにラビは、態度で大地への好意を示してくれたものの、直接好意の言葉を口にしたわけではない。大地のラビへの想いは決して変わらないが、ラビが自分のことをどう思っているのか、大地は今ひとつ自信が持てなかった。だが、改めて聞く勇気もない。大地は自分がこと恋愛に関して、ここまで臆病だとは思ってもみなかった。おそらく、その相手が同性でずっと友だちだったラビだから、なのだろうけれど。
大地とラビはゆっくり歩きながら一言も交わさなかった。気まずさもあるが、ガラスの道であるために注意して歩かなければまた転んでしまうかもしれなかったからだ。
互いに足を滑らせないよう、痛む足を庇い合いながら歩く。だか、いくら気をつけて進まなければならないとはいえ、ずっと黙っているのも正直辛いもので。先に痺れを切らしたのはラビだった。
「なぁ、大地。」
「なんだよ、ラビ?」
歩くのに集中していないとまた転ぶぞ、と含みを持たせて言うと、ラビが口を尖らせる。
「黙ったままってのはオレたちには合わねぇよ。退屈だからなんか話せ。」
「退屈って、お前なぁ……!」
ラビらしいが、ちょっと傍若無人ではないか。文句を言おうと口を開きかけたとき、大地はふと思い出したことがあり、ラビの顔を見て言った。
「ラビ。お前が話せよ。」
「はぁ?なんで、オレが……!話題がないからお前に話せって言ってるんじゃねーか!」
「あるだろ。話題。」
「何言ってやがる。ねーよ、んなもん……。」
「宇宙船でさ、俺に言おうとしたこと。」
「……!」
「あのときは俺が先に言っちゃったけど、俺まだラビの口から聞いてねぇよ。ラビが、何を言おうとしていたのかを。」
「…………。」
「聞かせてくれ、ラビ。あのとき、俺に何を言いたかったんだ?」
足を怪我していなければ、ラビはすぐにでも大地から離れてこの場を去り、話題をはぐらかしたかった。が、それも出来ないし、大地は逃さないと言わんばかりにラビを支える腕に力を込める。ラビはため息を一つついて心を決めた。
「オレがお前に聞きたかったのは……どうして、あのとき、オレを殴ったんだってことだよ。」
「……あのときって、ラビルーナから月面に戻ってしまったときのことだよな?」
「あぁそうだ。オレたち喧嘩しても言い合いをしても、殴り合いになったことなんかただの一度だってなかっただろ?なのになんで、お前はあのとき、あんな感情的になって殴ってきたんだよ?」
「…………ラビが、自分の他にも魔動戦士はいるかもしれないだろなんて言ったから……それで頭に血が上って…。何言ってるんだよって思って……凄く、悲しくなったんだ…。」
「?悲しくなった…?」
「……ラビは知らないだろうけど、俺一度、お前と同じようなことをガスに言ったことがあるんだよ。お前の言葉を聞くまですっかり忘れてたけどさ……。」
あれは、まだラビが魔動戦士かどうかわからず、それを確かめようと大地が独楽の勝負をラビに挑んだ際、邪動族が攻めてきて大地たちが戦っているそのドサクサに紛れて、ラビがオセロたちと魔動石を盗んだときのことだ。
ーーー彼は、3人目の魔動戦士なのでしょうか。
ーーーぅん?
ーーーあのラビくんのことですよ。
ーーーアイツが?アイツは魔動石を盗んだんだぜ?泥棒が魔動戦士のはずないだろ。
ーーー私もそう思います。ですが、彼の独楽の扱い方は見事でした。この魔動独楽を操れるとしたら、やはり彼しかいないのではないでしょうか。
ーーーそんなことないって。3人目の魔動戦士は他にいるんだよ。
「あのとき、俺はラビが魔動戦士だなんて思わなかったし思えなかった。だけど、お前は見事に魔動独楽を回してアクアビートに認められた。そして一緒に旅をするようになって、一緒に戦って、助け合って……。俺、ようやくラビと仲間になれたって思ったんだ。友だちになれたって……。それなのに、お前は一緒に行かないとか言い出すし、魔動戦士は他にもいるかもしれないだろ、なんて言うし………。仲間になれたって思ってたのも、友だちだって思ってたのも、全部全部、俺だけだったのかよって……。ラビの中では初めて会ったときのままで、俺たちとの旅の間には何もなかったのか、なかったことにしたいのかよって……そう思ったら、凄く悲しくなって、殴らずにはいられなかった……。」
大地の目が本当に悲しげに揺れて、ラビの胸が締め付けられる。
「大地…………。大地、オレは……!」
「でも、違ってた…。」
「………。」
大地はラビをまっすぐにみつめた。瞳に宿っていた悲しみの色はそのときにはもう、優しい、慈しみの色に変わっていた。
「ラビが、俺たちのことをなんとも思っていないから、一緒に行かないって言ったんじゃなくて、俺たちが傷つくのを傍で見ているのが嫌だったから離れようと思ったんだって、わかった。それってちゃんとラビも俺たちのことを仲間だと思ってくれてたってことなんだよな。だから俺たちのこと、見捨てないで助けに来てくれたんだよな。それなのに、ごめんラビ……殴ったりして。」
「大地、謝らないでくれ!オレはあのとき、自分が傷つきたくなくて、お前らから逃げようとしたんだ。一緒に行かねぇって言ったのは結局、自分のことしか考えてなかったってことなんだ。殴られて当然だ。だから、謝るな。」
「ラビ……。」
「……それにな、大地。オレは、お前に殴られて良かったって思ってるんだぜ?お前の気持ち、ここに伝わってきたからな!」
最後の言葉を、ラビが自分の頬に拳を当てながら、あまりにもあっけらかんとして言うので、大地はクスッと笑う。そして、大地も自分の頬に拳を当てた。
「それ言ったら、俺もお前に殴られたけどな!」
「オレの方が効いただろ?」
「いーや、全然?」
「コイツ、強がり言いやがって!」
「強がりなんかじゃないよ、ホント。一緒に行かないって言われたときの方が、ずっと堪えた。」
「それは、ホントに悪かったな……。」
「いいって。あのことがあったおかげで、ラビとも本当の仲間になることが出来たんだから。俺、ラビがまた俺たちと一緒に行ってくれるって、俺の手を握ってくれたときスッゲー嬉しかった!ラビが戻ってきてくれるなら、また一緒に行ってくれるなら、一発や二発殴られるくらいなんてことないって思ってたから、本当に嬉しかったんだ。ありがとうな、ラビ。最後まで一緒に来てくれて。」
「……大地…全く、お前ってヤツは……。」
いつの間にか、2人の足取りは止まっていた。支え合いながら、向かい合う。至近距離で見つめ合う瞳同士が、言葉よりも雄弁に互いの想いを語っている。
けれど、2人はどうしても言葉が欲しかった。互いの想いを確認するための大事な言葉が。
「大地……。」
「ラビ……。」
「……大地。もう一度、確認したい。お前がオレのことを、どう思っているのか…。言ってくれ大地、お前の言葉で。」
「……仕方ないな。言うから、その代わりにお前もちゃんと言えよ。俺だけってのはナシだぜ?」
「あぁ、わかってる。」
大地は一度深呼吸をした。緊張のしすぎで、言葉を間違えたりしないように。心を、落ち着かせて。
「……俺は、ラビのこと、かけがえのない仲間で大事な友だちだと思ってるよ。それから……すごく、大好きだって。」
「…その大好きは、仲間や友だちとしてってことか……?」
「…それもあるよ。だけど、それだけじゃない。それ以上に、好きなんだよ、ラビのことが……。」
「っ!」
「大好きだよ、ラビ…!」
「…オレも……オレも、大地のことが好きだ…!大地はオレにとって、失いたくない大切な仲間で、友だちで、それから、それ以上にお前のこと、スッゲー大好きなんだよ!」
「っ!ラビ……!」
「好きだ、大好きだ大地、お前のことが!」
「俺も、俺もお前が好きだよラビ!大好きなんだ!」
心が歓喜で震える。支え合うだけでは、もう足りなかった。少しだけ開いていた距離をゼロにしてきつく抱きしめ合う。互いの体温が、ドキドキと脈打つ鼓動が、愛おしくて心地よい。2人は顔だけを少し離し、再度至近距離で見つめ合った。
どちらともなく顔を寄せ合い、唇を重ねる。好きという気持ちを伝え合ってからする口付けは、何よりも幸福感で満たされて、どんなことよりも幸せだと感じた。
大地もラビも、今まで離れていた時間を埋めるかのように、互いの想いを確かめ合うかのように、唇を啄み、角度を変えて何度も何度も押し付け合う。けれど、さすがに呼吸が続かなくなってきて、2人はゆっくりと名残惜しむように唇を離した。
「…大地……。」
「…ラビ……。」
互いの名前を呼んで、額をコツンと合わせて、戯れのように鼻先同士を触れ合わせて、蕩けそうな笑みを浮かべて……と次の瞬間。
「いつまで待っても来ないから様子を見に来てみれば…。」
「微笑ましいのは確かだが、さっさと話を先に進めたいのでな。悪いが、私たちがお前たちをおぶっていくぞ。」
『?!いつからそこに!!』
振り返るとエヌマとシャマンが、2人のことを若干呆れながら見ていた。大地とラビがあまりのことに硬直してしまうとため息をついて、エヌマがラビを、シャマンが大地をおぶさる。これまたかなりの早業で、抵抗する暇もなかった。
「なにしやがんだよ!!離せったら離せ!!」
「うるさい坊やねぇ!さっきのことを村人全員に言いふらされたくなかったら、大人しくしてなさい!」
「?!卑怯だぞそれ!!」
「それが嫌なら、うるさくしないことよ。」
「……ちぇっ!」
エヌマとラビのやり取りが、まるで仲の悪い姉と弟みたいで、大地は少しばかり笑ってしまった。
「お前は騒がないのだな。その方が確かに有り難いが。」
「騒いだって、どうせ下ろしてくれないんだろ?」
大地だって、こんな形でシャマンに背負われるなど、恥ずかしくて正直ごめんだったが、シャマンとエヌマが自分たちのことを心配してくれていることや、おそらく様子を見に行ってほしいとオセロに頼まれたのであろうことは想像がつくため、あまり無碍にも出来ないと思ったのだ。
「それにさ、俺もいっぱいあるんだよ。聞きたいことが。シャマンとエヌマがラビルーナを去って、故郷に帰ったあとのこととか、どういう経緯でこの星にいるのかとかね。」
「…フッ。かつてはラビルーナを支配した憎き敵である我ら邪動族のことを、そんなにも気にかけてくれていたとは…。グランゾートのパイロットは優しいのだな。」
「っ、その呼び方止めてよ!光の戦士とか、グランゾートのパイロットとかさ!まぁ、その通りなんだけど……やっぱり名前で呼んでよ名前で!僕らはシャマンとエヌマのこと、ちゃんと名前で呼んでるじゃん!」
「あぁ、すまない。特に意識して呼んでいたわけではないのだが。」
何かとシャマンは大地たちのことを固有名詞ではなく、普通名詞や代名詞で呼ぶ傾向にあり、それが大地には面白くない。まるで、自分たちが相容れない関係にある者同士だと暗に言われているようで…。せっかくこうしてまた会えたというのに、何だか寂しい気持ちになってしまうのだ。
だからこそ、シャマンたちには自分たちのことを名前で呼んで欲しいと大地は思った。もう、あの頃とは違うのだと、もう自分たちは、戦わなくて良いのだと、互いに名前を呼ぶことでそれを再認識したいと思ったのだ。
「名前で呼んでよ、シャマン。」
「…………………………………。」
大地がいくら待っても、シャマンが答える様子はない。背負われているせいで、シャマンの顔色もわからない。
「…………あのさ、もしかしてだけど、俺の名前、わかんない、とか?」
「違う、そうではない!ちゃんと知っている!ただ……。」
「ただ?」
「……どうにも、気恥ずかしくてな…。改めて名前を呼べなどと言われるとは、思っていなかったからな…。」
「そっ、そんなに照れないでよ!こっちまで恥ずかしくなるじゃん!!」
「言い出したのはお前だろう!こちらだって、あのとき以来の再会なんだぞ!故郷に帰ってからも色々あったというのに、お前たちとどう接すればいいのかなんて、わからないに決まっているではないか!」
「変に開き直んないでよ!俺はただ名前を呼んでほしいだけなのに!」
「それが難しいのだと言っているではないか!」
今度は大地とシャマンが言い合いを始めるが、その内容は敵として対峙していたとは思えないほど、なんだかとても微笑ましいもので…。大地は言い合いながら、もし自分に兄貴がいたらこんな感じなのだろうかと、ふと思った。だが流石に恥ずかしいので、言葉にはせず胸の内に秘めておくことにした。
それにしても、と思う。
「そんなに嫌かなぁ、名前で呼び合うの…。」
なんだか地味にショックだ、という含みを持たせて大地が言うと、違うとシャマンは首を横に振る。
「そうではない。ただ気まずいのだ。いくらもう敵同士ではないとはいえ、私たちは何度もお前たちの命を狙い、罠に嵌め、葬り去ろうとした。そんな私たちが、お前たちとこうして会話を楽しむなど、本当に良いのだろうかと……そもそも、もう二度と会うつもりもなかったというのに…。」
「シャマン……。」
邪動族に何度も命を狙われた。邪動族のせいで何度も死にそうな目にあった。邪動族がしてきたことを全て許したわけでも、なかったことにしたわけでもない。けれど、と大地は思う。それら全てのことがあったからこそ、今があるのではないのかと。過去にやってしまったことは、起こってしまったことは決して元には戻らない。だけど、未来は変えられるし、変えていけるのだと。
だから、もうシャマンにもエヌマにも自分たちがしてきたことをいつまでも悔いるより、これから先のことに目を向けて欲しいと、過去に囚われるのではなく、過去を糧にして未来に続く道を歩んで欲しいと、大地は素直にそう思った。
「だからこそだよ、シャマン。」
大地は、シャマンの肩に乗せていた手を首に回す。
「過去をなかったことには出来ないけど、もう、いいから。前に、進もう?僕たちの名前を呼ぶのはさ、その初めの一歩だと思ってよ。」
「…………………すまない。」
シャマンはそれ以上、何も言わなくなってしまった。おそらく、今のシャマンには謝罪の言葉を述べるだけで精一杯なのだろう。すぐに切り替えられないのは大地にもわかる。シャマンたちとの関係は、あの最終決戦を終えて以降、ずっと止まってしまったままなのだから。
いいよ、焦らなくて。大地はシャマンの背中にもたれかかりながら小さく言った。シャマンが大地を抱える腕に僅かに力を込めるのがわかった。