「あれが、魔動王…。」
ベリタスが宙に浮きながら、グランゾートとアクアビートを見つめていた。初めて見るその姿に少しばかり見惚れ、胸をときめかせていた。
「……この世に生を受けてから、幾千年。久しぶりね、こんな気持ちになるのは…。」
そして、彼等なら、成し遂げてくれるのではとベリタスは密かに思う。望みすぎて、けれど叶わず、とうに諦めてしまった自分の、心からの願いを、叶えてくれるのではないかと。
「グランゾート!!」
〈大地よ、久しぶりだな。〉
「うん、ホントに…!会いたかったよ、グランゾート!」
〈私もお前に会えて嬉しい。だが、今は再会を喜んでいる場合ではないのだろう。また邪動族が現れたのではないのか。〉
「ううん、今回の敵は邪動族じゃないんだ。あれを見て!」
〈ガラスの巨人……私もこんなものを見るのは初めてだ。どうやらここは月ではなさそうだな。〉
「うん、ここは月からずっとずっと遠く離れた場所にある星なんだ。でもあのガラスの巨人を操ってる魔法使いのせいで、困ってる人が大勢いるんだよ。だから、放っておけないんだ!」
〈大地。お前のその揺らがぬ正義の心に魔動力が反応しているのを感じる。今一度、共に戦おう。〉
「うん、ありがとう、スーパーグランゾート!」
「おい、大地!いつまでも呑気に話してる場合か!!あのクソデカがこっちに来るぞ!!」
「わかってるって!!」
ラビの言う通り、ガラスの巨人がこちらに向かって猛烈な勢いで突進してくる。すんでのところで体当たりを躱すと、今度はこちらからとラビが攻撃を仕掛けた。
「ドーマ・キサ・ラムーン、魔動力、ハイパーチェーンブレーカー!」
水の鎖が勢いよく巨人に向かって飛んでいく。そして、その巨体の中心を攻撃が貫くと、ガラスの体が粉々に砕かれた。だが…。
「…えっ、なんでだよ…?!」
砕けたガラスが一瞬にして元の通りに再生したのだ。
「これならどうだ!ドーマ・キサ・ラムーン、魔動力、ハイパーエネルギーボルト!」
大地が声を張り上げると、地面から幾つもの光の鎖が飛び出し、巨人の体を四方から貫いた。だが…。
「駄目だ、すぐに再生してしまう!」
砕いても砕いても再生してしまっては意味がないし、むやみに攻撃を仕掛けようものなら、こちらの体力が先に尽きてしまうだろう。
「だったら、大地!アイツの体、サラマンダーで溶かしちまえ!ガラスの体なら熱に弱いはずだろ!」
「そうか、よおし!ドーマ・キサ・ラムーン、出よ、サラマンダー!」
大地の詠唱で火の竜が現れ、巨人の体を、その真っ赤な炎の体が駆け抜けて行く。だが…。
「なんだよ、全然溶けてる感じがしないぜ!」
「おい、どーすんだよ、大地!これじゃあ打つ手ねぇじゃねーか!」
「そんなこと言ったって…!どうしよう、グランゾート!」
〈落ち着け、大地。どんなものにも必ず弱点はある。全てはお前の魔動力の導くままだ。考えて、見極めるのだ。〉
「弱点……アイツの、弱点は…?」
大地がガラスの巨人を見つめる。どこだ、どこを狙えば…?
そのとき、ガラスの巨人の赤い目玉がこちらを捉え、光ったかのように見えた。その瞬間、巨人が大きく腕を振り上げ、その腕から沢山のガラスの破片が出現し、こちらに降りかかって来たのだ。
「あぶねぇ!!」
「うわっ!!」
ラビと大地はそれぞれ魔動力で、水の壁と岩の壁を作り出し、咄嗟にその破片を防いだ。もろに当たっていれば魔動王とはいえ、傷だらけになっていただろう。それほどに鋭く、細かな破片だったのだ。
「ちっくしょー!図体ばっかデケェくせに姑息な攻撃してきやがって!!」
「……そうか、わかったぞ!!ラビ、目だよ、アイツの目玉!!あの巨人が何かしらの動きや攻撃をしてくる前に顔の中央にある赤い目玉が光ったんだ!!きっと、あの目玉がアイツのエネルギーの源なんだよ!!」
「目玉か…!なるほどな!ただの飾りじゃなかったってわけだ!だったらあの気色悪い目ん玉を集中攻撃してやろうじゃねーか!!」
「よし、まずはアイツの動きを封じるんだ!ドーマ・キサ・ラムーン、魔動力、ディザルブスパイア!」
「ったく、リーダーだからっていちいち命令すんなよ!ドーマ・キサ・ラムーン、魔動力、フリーズクラッシュ!」
大地の詠唱で光の四面体が巨人の体を取り囲むと、すかさずラビが巨人の足を凍結させて粉砕しバランスを崩させる。
その一瞬の隙を2人は逃さない。
「ドーマ・キサ・ラムーン、魔動力、ハイパーフレイムボマー!」
「ドーマ・キサ・ラムーン、魔動力、サーペントクラスプ!」
出現した炎球に水のヒドラが合わさって勢いを増す。そして、その攻撃は巨人の赤い目玉を見事に直撃した。
グオオオオオオオオ!!!!!
凄まじい雄叫びを上げて、ガラスの巨人の体は木っ端微塵に砕け散った。
「やったー!!」
「へっ、どんなもんだ!!」
だが、2人がガッツポーズを決めたのも束の間。砕け散ったガラスの欠片が、瞬く間に巨人の体を作り上げていく。
そして、傷一つ残さず、巨人は再生した。
「っ、マジかよ…!」
「そんな、目玉を攻撃しても駄目なのか…!」
ラビも大地も完全に打つ手を失ってしまったと落胆する。と、ガラスの巨人の目玉が再度不気味な赤い光を放った。その瞬間、ガラスの地面から巨大なガラスのつららが出現し、こちらに向かって迫ってきた。
間一髪でそれを躱すと、またしても目玉が赤く光り、今度は無数のガラスの刃を作り上げてカッターナイフのようにこちらに飛んでくる。そのあまりの数の多さと速さに、避けきることも防御壁を張ることも出来ない。
『うわぁぁぁあ!!!!』
絶体絶命と思われたその瞬間。
ガラスの地面に闇の魔法陣が出現し、フェイスモードのワイバーストとヒドラムがグランゾートとアクアビートを庇うように姿を現した。無数の刃を受けるが、こちらもすぐに再生する。
「無事か、2人とも。」
「全く、世話の焼ける坊やたちなんだから!」
シャマンとエヌマの声が聞こえ、ワイバーストとヒドラムがバトルモードへと切り替わった。
「ありがとう、シャマン、エヌマ!」
「フン、余計なことしやがって!」
「ラビ、ありがとうぐらい言いなよ、助けてもらったんだからさ。」
「うるせぇよ!…………サンキュな…。」
悪態をつきつつも大地の言うことを聞いて素直に礼を言うラビに、シャマンとエヌマは少なからず驚いていた。これが大地への愛情故なのかと思うと恐れ入る。
〈大地。何故、邪動族のあの2人がここにいるのだ。〉
「うん、色々あってね……。でも安心してよスーパーグランゾート。今の2人は味方だよ!」
〈そのようだな。邪動族とはいえど、敵でなければ戦う必要はない。力を貸してくれるというのであれば尚更だ。共に戦おう。〉
「よし!みんなで力を合わせて、ガラスの巨人をやっつけるぞ!」
「つってもどーすんだよ、大地。目玉を攻撃してもすぐに再生しやがるんじゃ、打つ手ねぇじゃねーかよ!」
「それをこれから考えるんだよ!」
「だったら速く考えろよ!お前オレたちのリーダーだろうが!!」
「だから、勝手なときばっかリーダーにするなっての!!」
こんなときでも言い争う大地とラビに、シャマンは頭が痛くなってきたと額に手を当てた。するとエヌマが、堪忍袋の緒が切れたのかヒドラムの中から怒鳴り声を上げた。
「いい加減にしなさい!!!こんなときにまで喧嘩するなんて、バカにも程があるってもんよ!!!喧嘩することに脳みそ使ってないで、2人でいい知恵を考えなさい!!!」
『ハイ!!!!』
思わず声を揃える大地とラビ。どうにも年上の女性に怒鳴られると反射的にすくみあがってしまう。喧嘩はやめましょうよ、と優しく仲裁してくれたガスが懐かしく思える。
「でも、ホントどうすればいいんだ…何度壊したってすぐもとに戻るのに…。」
「おい、大地。そういえば、ベリタスのやつどこいったんだ?さっきから姿が見えねぇぜ。」
「どっかでこっちのこと見てるんじゃないか?近くにはいるはずだよ。ガラスの巨人を操ってる張本人なんだからさ。」
ガラスの巨人と魔動王の戦いを高みの見物しているのではないかと大地は考えるが、姿が全く見えないというのも気にかかる。すると、シャマンが口を開いた。
「ならば、奴の魔力を使い切らせてしまえば、ガラスの巨人はもう再生することは出来ないのではないか?」
『?!それだ!!!!』
大地もラビも失念していたとばかりに大声を上げる。あのガラスの巨人がベリタスの魔力によって作られたもので、再生するのも、どこかからこちらの様子を見ているベリタスが魔力を送っているからなのだとしたら、ベリタスの魔力を弱めることが出来れば、ガラスの巨人は再生せず、倒すことが出来るのではないか。
シャマンに言われるまで全く気付かなかったことが悔やまれる。そこで2人が思い出したのは…。
「…………アレしかないな。」
「…………アレしかねぇよな。」
『ハァ〜〜〜〜〜〜〜。』
長いため息をついて大地とラビは肩を落とす。
ベリタスの魔力を弱める唯一の方法。それは魔力ガラスを砕くこと。いくら両思いになったからとはいっても、今更あんな方法で恋愛の心理テストなど到底やる気が起きない。
第一、本当に心から愛し合ってる者同士にしか砕けない、というのもやはり胡散臭い。だが今のところ他に方法はない。
「迷ってる場合?!いいから速く魔力ガラスのとこに行きなさい!!」
エヌマにこちらの心情を読み取られた上にまたしても怒鳴られてビクッとなるも、やはりやる気が出ず。2人してモジモジしていると、シャマンが1ついいか、と言った。
「あの魔力ガラスだが、お前たちが触れた途端に溶けたと言っていたな?」
「えっ、うん、そうだけど…?」
シャマンの質問の意図がわからなかったが、大地が取り敢えず肯定する。
「ならば、お前たちの魔動力があのガラスに何らかの作用を及ぼしたのではないか?我らの邪動力がガラスを黒く変色させたのと同じように。」
それは、そうかもしれないと、大地とラビは魔動王の中から顔を見合わせる。
何をしても何の変化もなかった魔力ガラスが溶けたというのも、恋情とかが原因ではなく、自分たちの魔動力が影響していたのだとしたら。
「なぁんだ、やっぱり愛とか恋とか関係なかったんだ!」
「そりゃあ他の奴らがいくら試したって意味ねぇよな!」
「じゃあ、ラビ、行くか!俺たちの魔動力ならきっと完全に溶かせるよ!」
「溶けてヌルヌルしてんのは気持ち悪いけど、まぁ仕方ねぇよな!行くぜ、大地!」
途端に元気と覇気を取り戻した大地とラビは、シャマンとエヌマにここは任せた、と言ってスーパーグランゾートとスーパーアクアビートに乗ったまま、ガラス山に向かって飛び出して行ってしまった。
エヌマがシャマンに向き直る。
「…………ねぇ、シャマン、あの子たちに言ったことだけど、本当なのかしら?」
「さぁな。そういう可能性も、あるかもしれないんじゃないか?」
要するに、あの坊やたちをさっさと魔力ガラスの所に行かせるために口からでまかせを言ったのね、とは敢えて言わないでおいた。それにしても、とエヌマは思う。
「敵対していたときは厄介極まりなくて、目障りで仕方がなかったけど、こうして接していると、わかる気がするわ。あんな年端もいかない子どもたちを、あたしたち全員が束になってかかっても倒すことが出来なかった、その理由が。」
「仲間を思いやる心。相手の立場になって考えることが出来る優しさ。自らの命と引き換えにしても守りたいと思う強い気持ち。我ら邪動族には、到底理解出来ない感情の数々。それら全てが、彼らを勝利へと導いたのだろう。」
「そうね……。ねぇ、シャマン。」
「何だ?」
「あたしたちにも、持てるかしら?そういう感情を。」
「それは……。それは、この戦いが終わってから、2人でゆっくり考えるとしよう。」
「フッ、それもそうね。さっきからこちらを怖い顔して見てる魔法使いさんを、いつまでも待たせるわけにはいかないものね。」
エヌマとシャマンが見上げるその先。ガラスの巨人の向こうから姿を現したベリタスが、2体の邪動王を物凄い形相で睨みつけていた。
「気に食わないのよ…あなたたち…!」
ベリタスがガラスの巨人に向かって手を伸ばすと、そこから青白い光のエネルギーが放出され、巨人の全身を包み込んだ。そして、光が消える頃には巨人の体は、まるで薔薇のように鋭いガラスの棘で全身が覆われていた。
「串刺しになってしまいなさい!!」
ベリタスが声を張り上げると、ガラスの巨人はとてつもないスピードでグルグルと回り始め、2人に迫ってきた。飛んで躱すも、回転する巨人の体から幾つものガラスの棘が弾道ミサイルのように飛んできて、息をつく間もない。
「チッ、空中戦は不利か…!」
「どうするの、シャマン!このまま躱し続ければ、いずれは街にもガラスが…!」
「フン、何よ!今更他人の心配して、善人ぶるつもり?!」
ベリタスが突然邪動王の前に立ちはだかり、言い放った。
「善人ぶるって何よ!あたしたちは、この星の人たちに迷惑をかけたくないだけで…!」
「それが善人ぶってるって言うのよ!!そんなことで、あんたたちが過去にしてきたことを、なかったことに出来るとでも思ってるの?!」
『!!』
シャマンとエヌマが息を呑む。その言葉が何を意味しているのかなんて考えるまでもなかったが、何故、ベリタスがそのことを、自分たちが過去にラビルーナで何をしてきたのかを、知っているというのだろうか。
「私が使える魔法はね、何もガラスを作り出すだけじゃないのよ。私の目は、人や物の記憶から過去の出来事を断片的に読み取ることが出来るの。あなたたちの記憶、そしてあの魔動戦士の子どもたちの記憶を少しばかり読み取らせてもらったのよ。シンクロしている記憶もあったおかげで断片的にしか読み取れない記憶から、だいぶ理解することが出来たわ。」
「なるほど。私たちとあの者たちの間に何があったのか、言葉にするまでもないというわけか。」
「その通りよ。あなたたちはラビルーナを支配した挙句、この宇宙までをも我が物にしようとした諸悪の根源で、あの子たちはそれを命懸けで守った魔動戦士。敵同士の関係も、あなたたちが負けを認めたことで終わった…違くて?」
「……概ねその通りよ。あたしたちは、負けた…。邪動力を駆使しても、あの子たちには敵わなかった…。だから、故郷に帰ったのよ。」
「……………そ……、…るせ………よ。」
「ん…?」
「何て、言ったのよ…?」
ベリタスが急に俯いて何かを呟いた。小さく発せられたその言葉を聞き取ることが出来ず、シャマンとエヌマは聞き返した。すると、ベリタスは顔を上げた。その顔は、怒り一色に染まっていた。
「それが、許せないのよ!!!!」
ベリタスが叫ぶのと同時に、巨人も雄叫びを上げ、再びガラスの破片を飛ばして攻撃を仕掛けてきた。
咄嗟に邪動王をフェイスモードに変形させて防御するも、防御するための邪動力はかなり体力を持っていかれるため、何度もは使えない。
「くっ、仕方ない…!ここは一度引き上げるぞ、エヌマ!」
「全く、あの魔女なんなのよ、ガラスを汚された恨みにしてもやりすぎよ!!」
急いで闇の魔法陣を張り、シャマンとエヌマはその中に飛び込んだ。さすがにベリタスも、闇の魔法陣の中に逃げた2人を追うことは出来ず、舌打ちをした。
「あいつら…今度あったら叩きのめしてやる…!」
そこまで言うと、ベリタスはさてと、と肩を伸ばした。それまでの怒りの表情が嘘のように消え、顔には静かな笑みをたたえていた。その目線の先には、大地とラビが向かったガラス山がそびえていた。