ーーー遠い昔、ベリタスが神の使いとして力を授けられたときのことーーーーー。
〘ベリタス、私の力をそなたに授けよう。それで多くの人を私の代わりに救っておくれ。〙
「どのように救えばよいのでしょう。」
〘ふむ…。ベリタスよ、神の力とはなんだと考える?〙
「……わかりません。」
〘人の念だ。〙
「……念、ですか?」
〘人の願い、祈り、崇拝、そういった人の念から力を得るのだ。〙
「……人の念には正しきものもあれば悪しきものもあります。悪しきものからも力を得るのですか?」
〘ふむ……。それでは正しき念とは何かな?〙
「……それは……。」
〘悪しき念とは何かな?〙
「………わかりません。」
〘それで良い。正しいものもそうでないものも確かに存在する。しかしそれらの概念を明白にする手段を、人間はまだ持ち得ていない。考えてみると良い。例えば、ある人が薬屋から薬を盗んで捕まり法の元に裁かれた。だが、その人が盗みを働いたのは、病に伏している両親を救うためだった。結果として薬は手に入らずその人の両親は亡くなってしまった。この場合、どちらが正しいのだろうか?〙
「……盗みを働く方が、良くないかと…。」
〘ふむ…。では、その者はどうすれば良かったと思う?助けてくれるものもおらず、お金もない……稼いでいる間に両親は手遅れになってしまう。さて、どう考える?〙
「……そういう人が今後出ないよう、皆で対策を考えるべきかと……。」
〘ふむ…。では、そういう考えが出来るようになったのは、誰のおかげかな?〙
「……盗みを働いた人がいたから……。その人が自分本意ではなく、大切な人を守ろうとして行動したことだから…?」
〘おやおや、先程は盗みを働く方が良くないのではないかと言っていたのは誰かね?〙
「…………私です……。」
〘そなたは実に素直だ。話をしているこちらも気分が良くなる。よいかベリタス。そなたが先程言ったことは、合っているわけでも間違っているわけでもない。盗みは確かに良くないこと。人のものを盗ってはいけない、これは世間一般の人の常識だ。だがその常識はある人にとっては毒となり得るかもしれない。先程の話の、盗みをした者のように。〙
「それでは、どのようにして、私たちは正しいか間違いかを判断すれば良いのですか?」
〘正しいか正しくないかは個人の概念。そしてそれを確かめる手段として人が持っているものは、今のところは多数決のようだね。〙
「多数決……多ければ、それが正しくなる、ということですか…?」
〘人は1人では生きていない。必ず誰かしら自分以外の人と影響し合いながら生きている。多くの人が互いに支え合い、協力し合って生きてきた。国や人間社会といったものはそうしてつくられ、その中で道徳心というものが生まれた。正しさを数の多さで決めるようになったのは必然だろうね。〙
「…………。」
〘数が多いと正しくなるというのは、違う気がすると思っているのかな?〙
「……はい。納得がいきません。それでは、皆が戦争を正しいと考えれば、戦争が起きてしまいます。それによって多くの尊い命が失われてしまいます。そんなのって……。」
〘ふむ。そなたのその考えもまた1つの考え方。正しいかそうでないかを決めるのは、最終的には己自身ということだな。正義は人の数だけある。その中で自分にとっての正義が何であるのかを見つけていくと良い。〙
「……それだと、正しくない考えを持つ者は永遠に正しくない考えを持ち続けることになりますね。何しろ、それが自分自身の正義だと思い込んでいるのですから。」
〘ふむふむ。それもまた面白いものだ。誰もが同じような正しい考え方を持ってばかりいては、世の中つまらなくなってしまいそうだからな。〙
「……平和になると思います。」
〘ふむ。そうかもしれないな。〙
「…………。」
〘話を元に戻す。だからそのような顔をするでない。そなたに頼みたいのは仲介役だ。私が人の近くまでおりていけば、かえって私の力が人に害をなしてしまう。私は遠くにいて、遠くから見守り、遠くから力を貸すしかないのだ。だがそれも限界がある。全てが見えても全てを救えるわけではないのだ。そこで私の力を授けるから、そなたには私の代わりに人の近くで人と接し、人の声を聞き、念を受け止め、願いを叶えて、1人でも多くの人の心を救ってほしいのだ。〙
「…心を、ですか?」
〘願いを聞き届け叶えることにより、人は心が温かくなり、より優しくなれる。満たされることによって、より心が豊かになるのだ。私は、1人でも多くの人の心が救われることを望んでいる。〙
「……悪人の心も救うつもりですか?」
〘悪しかない者も善しかない者も存在しない。光と影が表裏一体であるように、悪人と思っていても実は良いところもある。悪の部分が多いか、善の部分が多いか、それだけだ。〙
「悪の部分が多い人間も救えと?」
〘それはそなたの判断次第だが、先程も言ったように、私は1人でも多くの人の心が救われることを望んでいる。それがどのような者でも変わりはしない。そなたが聞き届け、そなたの心で決めると良い。そなたになら出来るはずだ。そなたならば、物事や人の真理を、見極められるはずだからな。〙
「……はい。畏まりました。」
ーーー私の力……私が、出来ることは……ーーーーー
ベリタスの体が突然輝き始め、大地たちは思わずそちらを見る。そのとき、大地とラビは見ることが出来た。
無数の白い光の帯が、自分たちの方からベリタスに向かって流れていくのを。
光の帯がベリタスの黒いマントに吸い込まれていく。その光景はまるで、光を吸い込むブラックホールのようだった。
全ての光の帯が吸い込まれると、突然ベリタスの体全体が虹色の光を放ち始め、あまりの眩しさにその場にいた全員が目を閉じた。
しばらくすると光が段々と収まっていく気がして、大地とラビはそっと目を開けた。
「えっ、ベリタス?!」
「その格好は…?!」
ベリタスの服が漆黒の闇色から白銀の光色へと変わっていたのだ。驚く2人にベリタスは笑いかけた。
「この感じ、懐かしい……。これが私の本当の姿よ。やっと思い出せた…。私に出来ることを……!」
ベリタスはそう言うと胸の前で手を組み合わせた。
「あなたたちの祈り、しかと受け取ったわ!」
すると、ベリタスの両手が虹色に輝き始めた。やがて光は両手いっぱいに膨れ上がり、一筋の光線となって花火のように空へと打ち上がった。打ち上げられた光は天空で弾け、星の空全体を覆い尽くしていき、やがて虹色の雨となって降り注いできた。
「船長、何だか、この雨とっても……!」
「ああ!あったけぇなぁ、ドミノ!」
オセロとドミノが感嘆の声を上げ、大地とラビはゆっくりと立ち上がり空を見上げた。
「すっげぇ……それに何だか、力まで湧いてくるみたいだぜ…!」
「うん……?!見ろよ、ラビ!星を覆ってたガラスが…!」
「……!!消えてくぞ…!」
中途半端に溶けて歪な形になっていた青いガラスが白く光り始めたかと思ったら、光の粒となって空中へと昇りながら空に溶けるように消えていく。その様子はまるで、地面から空に向かって雪が降り注いでいるかのようだった。分厚いガラスで覆われてた山や街が、その本来の姿を取り戻しつつあり、人々は感嘆と喜びの声を上げた。
皆がしばしの間、降り注ぐ虹色の温かい雨と地面から空へと昇っていく雪のような光に見惚れていると、後方から声がした。
「ん……ここは…?」
「ぅん……あたしたち、助かったの…?」
幻聴だろうか。聞こえるはずのないその声に、大地とラビは驚きのあまり自分の耳を疑った。けれどそれも一瞬のこと。バッと勢いよく振り返る。
「っ、シャマン!!」
「エヌマ!!」
事切れてたはずのシャマンとエヌマが、起き上がって周囲を不思議そうに眺めていた。
「良かった、無事で!!!」
「心配かけさせやがって!!!」
「っ?!何をする!!」
「ちょっと?!離しなさいよ、この痴漢!!」
感激のあまり、大地とラビがシャマンとエヌマにそれぞれ飛びつくと、シャマンは珍しく頬を赤くしながら大地を力いっぱい引き剥がし、エヌマは奇声を上げながらラビの耳を思いっきり引っ張った。大地はそのまま仰向けにひっくり返り、ラビは激痛に顔をめいいっぱいしかめて怒鳴り返す。
「いってぇ!!何しやがんだよ!!」
「おだまり!!レディに気安く抱きつくんじゃないわよ!!」
「誰がレディだこのババァ!!」
「なんですって?!もう一度言ってごらん!!!」
ヒートアップするラビとエヌマの間に起き上がった大地が割って入る。
「もう!!ラビもエヌマも落ち着いてよ!!」
「お前たちの声は頭に響く。頼むから静かにしててくれ。」
額を押さえながらシャマンがぼやくように言うと、大地が半眼でシャマンを睨んだ。
「そういうシャマンもさ、あんなに強く引っ剥がすことなくない?!俺、腰打ったんだけど?!」
さすがに強く引き剥がし過ぎたかと反省しつつ、シャマンも言い返した。
「目が覚めたと思ったら、いきなり抱きつかれたんだぞ!!驚くに決まってるではないか!!」
「しょうがないだろ!!さっきまで、さっきまで、シャマンとエヌマは……!!」
途端に声をすぼめて俯く大地。ラビも先程までのことを思い出して涙が溢れてきた。その様子を見てシャマンとエヌマは、やはり自分たちは助かっていなかったのだと何を聞かずとも察する。
「……すまない…。約束、やはり守れていなかったのだな。」
シャマンの服の裾を握り締めて離さない大地に声を掛けるが、大地は顔を上げなかった。ラビも涙で濡れた顔を隠しもせずにシャマンとエヌマの方を睨みつけていた。
「あたしたちだって、守るつもりだったわよ。でもね、あのときは、ああするしかなかったのよ。光の魔法陣、その中心に邪動力を注ぎ込んだ剣を突き立てる、それしか……。」
エヌマが視線を彷徨わせながら言い訳するも、ラビは睨みつけるのを止めないし大地は俯いたまま一言も発しない。
取り付く島もないとシャマンとエヌマが顔を見合わせたとき、ことの様子を見ていたオセロが2人に近づいて、あのなと話し出した。
「そんな建前いくら言ったってな、アンタらを火山に行かせて死なせちまった事実は変わらねぇだろ。」
オセロの言葉に大地とラビがビクッと体を震わせる。
「アンタらのことを責めてるわけじゃあねぇ。アンタらはアンタらの正義を押し通した、それだけだ。そのおかげでこの星の連中は救われ、俺たちも今こうしてここにいる。けどよ…。」
一度言葉を区切ると、オセロは大地とラビの頭をそれぞれ優しく撫でた。2人とも抵抗せずに大人しく撫でられた。
「結果としてよ、コイツらはもう少しで、アンタらの死を一生涯背負っちまうことになるところだったんだぜ。要するにコイツらは怖かったんだよ、アンタらを失うことがな。」
シャマンとエヌマはその言葉に息を呑む。オセロが何を言いたいのか、大地とラビが何故何も言わず黙ったままなのかを潔く理解したからだった。
今度はシャマンとエヌマが黙りこくる番だった。言葉など見つからず、目も合わせられなかった。
大地とラビは、オセロが自分たちの想いを簡潔に代弁してくれたおかげで怒りと悲しみでいっぱいだった心が幾らか凪いでいた。シャマンたちの顔を盗み見る。視線を落とし唇を噛み締めていた。
けれど、ちゃんと頬には赤みがさしているし、ちゃんと呼吸もしている。生きているのだ、ちゃんと。それだけでもう十分だと大地とラビは思い納得することにした。
「もういいよ。」
「もういいぜ。」
ほとんど同時に大地とラビが言うと、シャマンとエヌマは顔を上げた。
「2人は今、こうしてちゃんと生きてる。それって一応約束は守れたってことだからね、それで良しとするよ。」
「ギリギリセーフってところだけど、まぁ、しょうがねーよな!」
さっきまでの重苦しい空気が嘘のようにあっけらかんとして言う大地とラビに、シャマンもエヌマもポカンとしてしまう。そして、ワッと突然沸き起こった拍手の音にビクッとする。が、それは大地もラビも同じだったようで。振り返ると、この星の大勢の人たちが一斉にこちらに向かって拍手をしていた。
「良かった、本当によかった!!」
「ありがとうございました、ありがとうございました!!」
たくさんの人々が笑い喜び、感激して涙を浮かべている。エメラとルビドが前に出てくる。2人とも目にいっぱい涙をためて、けれども本当に嬉しそうに微笑んだ。
「本当に、本当に良かった…!」
「ご無事で、本当に、良かったです!」
みんなの温かな想いが伝わってきて、擽ったい、けれど嬉しい気持ちになり、大地とラビは微笑んだ。
「…良かったわね……本当に……。」
『?!ベリタス!!』
大地とラビが同時にベリタスの方を見て叫んだ。
ベリタスの体が光に包まれ、フワフワと浮かび上がりながら薄くなっていたのだ。
「ありがとう。あなたたちのおかげで、私は自分の役割を果たすことが出来た…。これが私の贖罪だったんだわ…。神は私に、人を生き返らせることは許されないと言ったけれど、あのときは、あの人を救うためと言いながら、結局自分のために力を使ったから、私は罰を受けなければならなかったんだわ……けれど、あなたたちの祈りを受け取って、その願いを叶えるために力を使ったことで、ようやく私は、許されたのね…。」
「じゃあ、ベリタス…君は……!」
大地がその先を言う前に、ベリタスが頷く。
「えぇ、もう行かなくちゃ…。ありがとう、光の戦士さん、闇の戦士さん…。あなたたちに、会えて良かったわ…!」
ベリタスの手が大地の方に向かって伸ばされる。思わず大地がその手を掴むと、ベリタスは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「温かい手…。懐かしい、人の体温…。本当にありがとう…それじゃあ、サヨナラ…。みなさん、どうかお元気で…。」
それが最後だった。ベリタスの体を包んでいた光が明るさを増すと、空気に溶けるように、ベリタスは消えていった。
「ベリタス…。さようなら…。」
大地が空を見上げてから視線を落とすと、ベリタスが消えた辺りの地面にキラリと光るものが落ちていることに気が付いた。しゃがんで拾い上げる。
「何だ…これ?」
「ペンダントみたいだな。ベリタスが落としたのか?」
ラビが大地の手を覗き込んでくる。
「うん、そうだと思うけど…。あれ?これ……ほら、ここの部分、開くようになってないか?」
大地が指し示した部分が指を掛けられるようになっており、どうやらロケットのようだった。出っ張りに指をかけ横に力を入れると案の定、簡単にパカッと開いた。
『あっ!!』
大地とラビが同時に声を上げる。そこには1枚の小さな写真が貼り付けてあった。その写真には一組の男女が写っていた。1人はベリタスで、もう1人は優しそうな男の人だった。2人とも本当に幸せそうに微笑んでおり、お互いに好き合っているのが写真越しでも伝わってくる。
「この人が、ベリタスが愛した人なんだ…。」
「ふーん…。普通にお似合いのカップルじゃん。」
「…どうしよっか、このロケット…。」
「…大地が見つけて拾ったんだろ。だったら、お前が持ってろよ。その方がベリタスも喜ぶんじゃないか?」
「…そうかな……うん、じゃあ、そうするよ。」
そう言って大地はそのロケットを大事にポケットに仕舞った。そのとき手に当たった物があり、それを入れ違いに取り出す。そしてシャマンに向き直って差し出した。シャマンの目が驚きで見開かれる。
「…!!これを、どうして?!」
「シャマンの手からこぼれ落ちたんだよ。ベリタスに聞いたんだ。シャマン、ずっとこのオルゴール、大事に持っててくれてたんだね。とっくに壊されたか捨てられたかと思ってた。」
「……そう思っていた。だが、あのときはそんなことに構う余裕がなくてな。故郷に帰った後、返しそびれてしまったことに気付いたのだが…。もう二度と会うまいと思っていたから、餞別として貰っておいたのだ。」
「……そっか。」
大地はオルゴールのスイッチを入れた。
音楽が、流れる。神様の曲が。久しぶりに聞くその曲に懐かしさを覚えていると、街の人たちが急にぞろぞろと大地たちの周りに集まって来た。皆が一心にオルゴールを見つめている。
「なんて、きれいな曲…。」
「何だか、心が洗われるようです。」
エメラとルビドの言葉に、ラビルーナを旅していたときにも、こんなことがあったなと大地は思った。
大地が隣を見るとシャマンと目が合った。シャマンが大地に向かって微笑む。敵同士だった頃にはあり得ない距離、あり得ない表情だったが、今は嬉しくてたまらなかった。
大地が微笑み返そうとしたとき、急に空がピカッと光り何かが降って来た。地面スレスレで制止し、浮かんでいるそれを見て大地とラビは、あぁっ!!と声を上げた。
「へっ、ヘルメタル!!」
「何だってここに?!」
邪動族のロボットであるヘルメタルが突然3体も現れて、ビックリするのと同時に、久しぶり過ぎて若干懐かしくも感じた。
「心配はいらない。私たちの手下が乗っているのだ。」
「降りていらっしゃい。」
エヌマの掛け声でそれぞれのヘルメタルの中から邪動兵士たちが降りて来た。3人の邪動兵士がシャマンとエヌマの前に片膝をつく。
「シャマン様、エヌマ様。ご無事で何よりです。」
「ワイバーストやヒドラムと連絡が途絶えてしまい、何かあったのではないかと案じておりました。」
「最後の通信の発信源を頼りに、この星に辿り着いたのです。」
「そうだったのか…我らは大丈夫だ。」
「この通り何ともないわ。」
シャマンとエヌマの言葉にホッとした様子の邪動兵士たちを見て、意外に良い上下関係を保っているのだなと大地とラビは少しばかり感心した。
と、邪動兵士たちの目が大地とラビに向けられた途端、彼らは驚いたように声を上げた。
「まっ、魔動戦士!!」
「何故こんなところに?!」
「シャマン様とエヌマ様をお守りするのだ!!」
シャマンとエヌマを守るように両手を広げて前に出て来る邪動兵士たち。何を今更と大地とラビが思いつつ、黙っているとシャマンとエヌマが間に入る。
「やめないか。我らはもう戦う理由がない。無益な争いをいつまでも続けるな。」
「そうよ。それにあたしたちが助かったのは、この子たちのおかげでもあるのよ。」
その言葉に邪動兵士たちは、えっ、と驚いて固まる。大地とラビはその様子を見て少し意地悪をしたくなった。ニヤリと笑ってシャマンとエヌマに走り寄り、大地はシャマンの腕に抱き着き、ラビはエヌマの手を取った(抱き着いたらまた耳を引っ張られると思ったので)。
「うんうん、俺たちすっかり打ち解けたんだよね〜!」
「そうそう、昔のことにいつまでも拘ったりしないんだよな〜オレたちは!」
過去のことは過去のことだけど、散々酷い目にあわされたことに変わりはないんだから、これくらいの仕返し問題ないよね?と暗に秘めて言うと、シャマンもエヌマも呆れて怒る気にも振りほどく気にもなれず、ため息をついた。
それを見た邪動兵士たちは、顎が外れたのではないかと思うくらいに口をあんぐりと開けた。大地とラビはイタズラの成功にニシシと笑い合った。
「それよりもお前たち、私たちを追ってきたのは何か言うことがあったからではないのか。」
「ハッ!!そうでした!!」
シャマンに言われて、邪動兵士たちは伝えなければならない大事なことがあったことを思い出した。
「シャマン様、例の件ですが不味いことになりました。」
「奴らがラビルーナに向かったのは間違いありません。」
「ですが、その後の足取りが掴めず…。」
『何だって??!!』
大地とラビが同時に叫び、口々にシャマンとエヌマ、それに邪動兵士たちに詰め寄った。
「どういうことだよシャマン!!例の件って?!」
「ラビルーナがどうしたってんだよ!!お前ら一体何の話をしてやがる?!」
シャマンが手を挙げて落ち着けと制する。
「やはり、お前たち…V‐メイから何も聞いていないのか?」
「どういうことだよ?!」
ラビが言うと、シャマンとエヌマが交互に話し出した。
「我らの中に、まだラビルーナ征服を諦めていない者たちがいてな。そいつらがラビルーナへの侵攻を始めようとしていることに気付き止めたが、我らの言葉には一切耳を貸さずに月に向かってしまったのだ。」
「そこでこの兵士たちに、スパイとして潜り込みつつ、いつ頃ラビルーナに攻め入るのかをこちらに連絡してもらっていたのよ。」
「その情報を頼りにこちらから手下を通して、聖地ルナに使いをやったのだ。再びラビルーナを侵略しようとしている邪動族がいるから気を付けろと、警告の手紙を持たせてな。」
「邪動族といっても侵攻を開始した連中は、どいつもこいつも大した邪動力を持たない下っ端ばかりだから、あなたたちなら簡単に制圧出来ると思ったのだけれど、数が数だけに厄介かもしれないから……1人や2人じゃないのよね。下手すると3桁はいくかも…。」
「だが、それだけの人数がラビルーナに侵攻するにはリスクが高すぎるからな。きっと念には念を入れて、奴らは機会を伺っているはずだと手紙にも書いたんだ。」
「そしたら、V‐メイから手紙の返信が来たの。ほら、これがその手紙よ。」
ラビがその手紙を受け取り、大地が横から覗き込む。その手紙にはこう書かれていた。
『シャマン エヌマへ
お手紙どうも。警告感謝するね。
おかけで綿密に計画を立てることが出来たよ。
もうすぐここ聖地ルナで「光の門出」という
祭典が行われるんだ。その祭典に奴らを
おびき寄せて一網打尽にする。そのために
魔動戦士の大地とガスも招待するつもりさ。
けれど、それだけだとまだ不十分そうだね。
だから、Vの称号を持つ魔法使いの子供たちの
婚約式も、一緒に執り行うと大々的に発表する
ことにしたよ。
そうすれば、その友達の魔動戦士が祭典に
呼ばれることに何の不思議もないし、
それだけの大きな儀式ともなれば、
人もかなり集まるから潜り込みやすくなると
奴らも判断するだろうからね。
一応、奴らに勘付かれないように
細心の注意を払って、あたしとサユリさん、
それにあたしの弟子たちにだけ計画を
話しておくよ。
アンタたちもこのことは他言無用だからね。
V‐メイより』
手紙を読み終えた大地とラビは、目を見開いて顔を見合わせた。今までのことが電光石火の如く思い出される。
突然グリグリとの婚約話を持ち掛けてきたV‐メイ。
追いかけて来た弟子の魔法使いたちの「時間がない」「急がないと」「2人の力が必要」といったあの言葉。
そして何より、先程のガスの切羽詰まったような声。
全ての点と点が繋がった。
「たっ、たっ…!」
「た、たい、たいっ…!」
『たいへんだぁーーー!!!!!!』
大地とラビの叫び声が木霊した。