ラビがそんな大地を見てクスクス笑っていると、サユリがやって来た。
「マリウス、メイ様からあなたにお話があるそうですよ。」
「ばーさんがオレに?」
「ええ。母さんは祭典の支度に戻りますからね。マリウスもお話が済んだら、今日分の勉強の残りをやっておきなさい。明日は1年に一度の祭典、お勉強はお休みしますからね。」
その分頑張るんですよ、と言ってサユリは行ってしまった。
「チェッ、帰って来て早々また勉強かよ、ツイてねーな。」
「いいじゃん、明日は1日遊べるんだからさ。家出してた分しっかりやんないとな!」
「オレはいっつも勉強しっかりやってるっての!せっかく大地やガスが来てるってーのに!全然遊べやしねぇ!」
ブツブツと文句を垂れるラビを見て、大地は思わず笑ってしまう。一緒に遊びたいのにと思ってくれているラビの気持ちが素直に嬉しいのだ。
そんなとき、V‐メイが痺れを切らしたのか大地たちの方にやって来た。
「それにしてもアンタたち、よく戻る気になったもんだね。ラビもあんなにグリグリとの婚約を嫌がってたっていうのに、どういう風の吹き回しだい?」
「そりゃあ、シャマンとエヌマからラビルーナが危険だって話を聞かされたからだよ。それで俺たち慌てて戻って来たんだよ、なぁラビ?」
「あぁ、ばーさんが2人に宛てた手紙を読ませてもらったからな。グリグリとの婚約話も邪動族の連中をいっぺんに取っ捕まえるための作戦で、本気だったわけじゃないんだろ?」
大地とラビが答えると、ナルホドねとV‐メイは納得する。
「あの手紙を読んだのなら話は早いね。そう、全ては邪動族を捕らえ、祭典を無事に成功させるためだったのさ。それなのに、ラビはわけの分からないことを言って家出するわ、大地は何故かその茶番に付き合うわ、挙句の果てに宇宙に飛び出して行っちまうわ、本当に参ったよ…。」
やれやれと首を横に振るV‐メイに、大地とラビは顔を見合わせてハハハ、と乾いた笑いをこぼした。
「ばーちゃん、連れてきたグリ!」
そのとき、グリグリがピョンピョン跳ねながらこちらにやって来た。
「おや、ちょうど良い時だったよ。ご苦労さん。」
「ばーちゃん、何がちょうど良かったのさ?」
「グリグリが誰を連れてきたって?それに母さんから聞いたけど、ばーさん、オレに何か話したいことがあったんじゃねーのかよ?」
大地とラビが尋ねると、V‐メイは質問に答えず、ニコニコと笑いながら誰もいない方向に向かって声を掛けた。
「よく来てくれたね、そろそろ姿を現しとくれ。」
V‐メイが言い終わるのと同時に一陣の風が吹き抜けた。その直後、10人ほどの耳長族の女の子たちが姿を現した。
「ラビに話したかったのはこの子たちのことさ。この子たちはね、みんなラビ、アンタのお嫁さん候補だよ。」
『ええっ?!』
大地とラビの声が揃う。女の子たちはとっても可愛らしく美しい子たちで、V‐メイが激選したのがよくわかる。
「アンタ好みの子たちばかりだろ?それにみんな、それなりに力を持つ将来有望な魔法使いたちばかりなのさ。グリグリとの婚約話は嘘だけど、アンタにラビルーナの平和を担っていくという重要な役割があるのは事実だし、そのために次世代の後継者が必要というのも本当のことだからね。この子たちはみんな、アンタのお嫁さんになりたくて集まってきた子たちなんだ。だから好きな子を選んで婚約するといいよ。」
V‐メイがそう言うと、女の子たちがラビの周りに集まって来た。
「マリウス様!よろしくお願いします!」
「是非、私を選んでください!」
「ああっ、抜け駆けはダメよ!まずは私たちのこと知ってもらわないと!」
「この後お時間あります?」
「もし良ければ、お食事でもご一緒に!」
「えっ、えと、参ったなぁ…。みんなカワイイし、選ぶだなんてそんな…アハハハ…。」
可愛い子たちに囲まれて鼻の下を伸ばさずにはいられないラビ。
「ラビ、モテモテグリ〜!」
「ホントですね。あの様子では1人を選びきれず、全員をお嫁さんに迎えそうですね。」
「それならそれでもいいさ。ラビルーナでは一夫多妻でも特に問題はないからね。」
「なるほど。それなら後継者問題も解決ですね!さすがおばば様。ねぇ、大地くん…………大地くん?!どうしたのですか?!」
「顔色が変グリ〜。」
「えっ?どっ、どうしたんだい大地?!アンタ、顔が真っ青じゃないか!!」
大地の顔は、傍から見てもわかるほどに青褪めていた。ガスやグリグリ、それにV‐メイも大地の顔を見て只事ではないと悟る。
「……ごっ、ごめん、ガス、ばーちゃん…。グリグリも、大丈夫だから…。ホントに、ごめん…。」
今にも泣き出しそうな大地の表情に、全員言葉が見つからなかった。
「……ばーちゃん、俺一度月面に戻るよ。母さんたちの様子を見てくる。」
「あっ、あぁ、そうかい?それは、別に構わないけどね…。本当に大丈夫かい?」
「うん…。遅くても明日の朝には戻るからさ…。」
じゃあ、と力なく手を振る大地。レーヴェの道に入りラビルーナを出て行く直前、大地はラビの方を振り返った。女の子たちと楽しそうに話しており、こちらに気付く様子もない。
「…………ラビのバカ…。」
それ以上見ていたくなくて、大地は目を閉じた。
その数十分後。
「やぁ~おまたせおまたせ!ついつい、話し込んじゃってさ〜、ってあれ?大地は?どこいったんだよ?」
女の子たちと別れたラビが、V‐メイたちのところに戻ると大地の姿がなく、V‐メイやガスの様子もおかしいので尋ねるとガスが答える。
「……それがですね、実は……。」
先程のことを一部始終話して聞かせると、ラビの顔色もだんだん青褪めたものになってきた。握りしめた拳の震えが全身に行き渡る。
「…………あんのバカッ!!真に受けやがって!!」
そう叫んだラビが走ってレーヴェの道に入ろうとするので、慌ててガスが腕を掴んで止める。
「待ってください、ラビくん!何が一体どうしたというのですか?!」
「離せ、ガス!!オレはあの勘違いの大バカ野郎を連れ戻しに行かなきゃなんねーんだよ!!」
「お待ち!ラビ、アンタ大地の様子がおかしい理由を知ってるんだね?説明してからお行き!一体どういうことなんだい?!」
V‐メイもラビのもう片方の腕を掴み、離すものかと力を入れる。ラビも我慢の限界だったが、言わなくてはならないこともあったので深呼吸をしてからV‐メイに向き直った。
「ばーさん、婚約のことだけどオレ全員断ったからな。」
「なんだって?!ラビ、一体あの子たちの何が気に入らなかったっていうんだい?」
「気に入らなかったわけじゃねぇよ。みんな可愛いし、以前のオレならきっと大喜びしてたと思うぜ。ばーさんが激選してくれたのもよくわかるしよ。けどさ…。」
そこで一度言葉を区切り、目を閉じた。
「けどさ、心が壊れるくらい好きになったやつって、この世界に1人しかいねぇんだよ…。そいつが笑っててくれなきゃ、傍にいてくれなきゃオレは、幸せになんかなれねぇんだよ…。」
ラビが今まで見たこともないくらい苦しげで切なげで、見ているこっちまで辛くなってしまうような表情をするものだから、ガスもV‐メイも思わず掴んでいた手の力を緩めてしまった。
その機をラビは逃さず、スルリと2人の手から抜け出てレーヴェの道へと入る。
「ラビ!」
「ラビくん!」
ラビはV‐メイとガスを振り返り微笑んだ。
「だから、オレは大地を連れ戻して来る!じゃあな!」
そう言うと、ラビは聖地ルナを出て月面へと向かって行ってしまった。
「……つまり、どういうことなんでしょう?おばば様…。」
ガスが、ラビの言葉の意図がわからずに首を傾げる。
「あたしにもさっぱりわからないよ…。だけど、さっきのあの子の顔…。只事じゃないね…。」
「あの……V‐メイ様、少しよろしいでしょうか…?」
声を掛けて来たのは、ラビを追って月面に向かった4人の魔法使いたちだった。
「マリウス様と大地様のことなのですが…。」
「少々、心当たりが…。」
「本当かいアンタたち?!あの2人のこと、何か知ってるのかい?!」
「一体、大地くんとラビくんに何があったというのですか?!」
V‐メイが驚いて聞き返し、ガスも迫るように聞く。
「私はその場に居合わせなかったので、後から聞いたのですが…………おい、本当に本当なのか?!」
「間違いない!さっきの大地様やマリウス様の表情見ただろ?!あれは絶対そうだって!!」
「信じられないのも無理はないさ…俺たちだってこの目であの2人の様子を見るまで考えつきもしなかったんだから。」
「けれど、こんなこと本当にV‐メイ様に言って大丈夫なのか?信じてもらえるかもらえないか以前の問題のような気もするが……。」
「あぁ、もう!!ブツブツ話し込んでないで、さっさと言っとくれ!!」
V‐メイが我慢しきれずに叫ぶと、4人の弟子たちはビクッと体を震わせる。まぁまぁとガスが仲介に入った。
「どんなことでも良いのです。あなた方が見たまま、感じたままを話してください。後のことはこちらで判断いたしますから。」
ガスの言葉に少し緊張がほぐれたらしく、4人は1つ深呼吸をして話し始めた。
「我々が見たところ、あの2人は………。」
5分後
「…………というわけです…。」
4人の魔法使いたちはV‐メイとガスの様子を盗み見た。
2人とも言葉を失ってるというか、固まってるというか、何とも言えない表情をしており、やっぱり話さないほうが良かったのでは、と4人は思った。
「大地とラビ、恋人になったグリ?」
こんな空気でも変わらずに無邪気に聞いてくるのは、V‐メイの横で珍しく大人しくしながら話を聞いていたグリグリだった。
「ちょっ、ちょっと待っとくれ!話はわかったよ!でもねぇ、ホントにホントなのかい?あの2人がそんな…。」
「……単純に親友として仲が良いだけ、ということでは…?」
V‐メイとガスの言葉に、4人は顔を見合わせる。そりゃあ信じられないのも無理はないよな、と思っているのが表情から読み取れる。
V‐メイだって、この優秀で真面目な弟子たちが嘘を言っているだなんて微塵も思っていない。けれど、4人の話だけでそうと決めつけるのはまだ早いと、もっと事情をよく知っているであろう人物に聞くことにした。
「ヤロレパパ!」
V‐メイが呪文を唱えると、ボンッと公衆電話が出現した。
「ちょっと電話してくるよ。」
「えっ、おばば様?!電話って…誰にですか?どこにかけるのですか??」
「今回の件で、大地やラビと多く行動を共にしていたであろう、あの2人にだよ。」
V‐メイが受話器を取るとプルルルルと電話がかかる音がした。お金も入れてないしプッシュホンも押していないのに何故電話が出来るのか、という疑問はあるものの、ガスは口に出すのを止めた。
プルルルル、プルルルル、プルルルル、プツッ。
「ああ、アンタかい?あたしだよ。へっ?どうやって電話をかけてきたのかって?良いじゃないかそんなこと……ふんふん、へぇ、そっちの電話は修理中のワイバーストの中に出現したのかい?手下たちが慌てふためいている?そんなもんはそっちでどうにかしとくれ。実は、アンタとエヌマに聞きたいことがあってね、エヌマは近くにいるのかい?……今回の件の後始末で忙しい?そこをなんとか頼むよ……何があったって、ちょっと込み入っててね……とにかく大地とラビのことについてなんだよ。アンタたち、あの2人と行動を共にしていたんだろう?……どんなことでも構わない。あの2人について、アンタとエヌマが知っていることを全部話しとくれ……………えっ?!………ふんふん…………そのあたりのことをもっと詳しく………あぁエヌマ、シャマンに変わってもらったのかい?…………そうなんだよ、大地とラビのことでね………帰って来てからあの2人の様子がどうもおかしくて……………………えっ?………いや、それだけだと、どうだろうねぇ…。ただ単に仲が深まったってだけじゃあ………………………………はっ??………ええっ?!それ、ホントなのかい?!……あぁ、それはまぁ、疑いようもないね…。うんうん……いや、色々ありがとさん……よくわかったよ。じゃあ、また明日。待ってるからね。あっ、そうそう、それとシャマンに言っておいておくれよ。
“人使いの荒いクソババアで悪かったね!!!!!”
ってね。それじゃ。」
そう言うと、V‐メイは電話をガチャリと切った。
最後の怒声にガスも弟子たちもドン引きながら(グリグリはハピと遊んでおり気にも留めていない)、V‐メイの言葉を待つ。
「……うん。アンタたちの言う通りだったよ。間違いない、大地とラビは恋仲になっているよ。」
やっぱりと顔を見合わせる4人の弟子たちと、複雑そうな表情を浮かべるガス。
「今の電話って…。」
「そうだよ、シャマンとエヌマ。あの2人ならきっと知ってるだろうと思ってね。」
「ですが、よくそんな遠くの星まで電話を繋げることが出来ましたね。」
「そこは突っ込みなしで頼むよ。」
「あぁ、はい。ご都合主義的なものですね。では、話をもとに戻しますが、本当に本当なんですか?大地くんとラビくんが恋仲だなんて…。その2人も勘違いしているとかでは?」
「告白の上にキスまでしていたそうだから、疑いようがないだろ?」
「こっ……キ……?!」
あまりのパワーワードにガスは真っ赤になって固まる。V‐メイが額に手を当てて、はぁ~とため息をつく。
「それにしても、大地にもラビにも悪いことをしちまったね…。特に大地……あの子のあんな顔見たことないよ。思い詰めてなけりゃいいけど…。」
心配そうにレーヴェの道の方を見るV‐メイに、硬直状態がとけたガスが咳払いを1つして言う。
「大丈夫ですよ、おばば様。ラビくんがきっと大地くんを連れて帰って来ます。私たちは信じて待ちましょう。」
「そうだね…。まぁ、あの子たちなら自力でなんとかやってくれるだろうね。あたしらは祭典の準備をしながら待つとしようか。」
「はい!」
V‐メイとガスのやり取りを見守っていた4人の弟子たちも、話がまとまったことにホッとする。
そのとき、サユリが広場に戻って来た。
「メイ様、マリウスへのお話は済みましたでしょうか……あら?メイ様、マリウスは?」
「サユリさん……すまないねぇ、実は…。」
今度はV‐メイが、ことのあらましをサユリに説明することになり、ラビの家出で頭を悩ませていたサユリは、再び頭を悩ませることになってしまった。
電話の向こう側にて。
V‐メイの怒鳴り声で、受話器を直接耳に当てていたエヌマと、自分の名前が聞こえたために受話器に耳を近付けていたシャマンが、キィーーンと痛む耳を押さえて悶絶していた。
「………ったく、なんて声…!それにとんでもない地獄耳ね…。シャマンがボソッと言った言葉を電話越しで拾うんだから…。シャマンも、あんまり余計なこと言うんじゃないわよ!こっちまでとばっちりを食ったじゃない!」
「………人使いの荒いばあさんだ、とは言ったが、クソババアとは一言も言っていないぞ!そんな下品極まりない幼稚な発言を、この私がするわけがないだろう?!」
「………今言ったじゃないの…。」
「……ハッ!」
「どうやら一本取られたようね、シャマン?」
「……クソッ、これだから耳長族の者は好かんのだ!!」
冷徹極まりなく滅多に表情を崩すことのないシャマンが、ここ最近はよく笑い、怒りを顕にする。今まででは知り得なかったシャマンの色々な面を見ることが出来て、エヌマは驚きを感じつつも、なんだか可笑しくて思わず笑みが溢れた。
「…何が可笑しいのだ、エヌマ。」
「いいえ、別に何でも…フフッ。」